東方三混和   作:語り部梔子

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前回のあらすじ

何者かの手引きによって外の世界にいる小傘。
その捜索任務を霊夢から依頼された和徒。
安静にしておかなくてはならないが、どうやら文が手を貸してくれるようで。


封印と支度と外の世界 その2

「なるほど、しばらく留守にするから会いにくるなんて殊勝な心がけだわ」

 

紅魔館にて吸血鬼の末裔は優雅に紅茶を啜る。

 

「ああ、まだ全快じゃないから血は吸わないでくれよ?」

 

「ふふ、流石の私もそこまで悪魔ではないわ」

 

永琳から安静にしているよう言われていたため、道中は文が護衛をしてくれたのだ。

カナンや椛の話を聞きたかったという下心があったものの、安全に移動できたのは彼女のおかげである。

 

「それなら、これを持って行きなさい」

 

差し出されたのは一本の銀のナイフ。

 

「これって咲夜さんのナイフじゃ?」

 

「ええ、咲夜のものだわ。ただ、あなたの運命を見たところ、きっとこのナイフが鍵になるはずよ」

 

運命を変える、所謂ラッキーアイテム。

 

「ありがとう。一段落したら、前言ってた夕食を一緒にとろう」

 

「その時は泊まって行きなさい。最高のおもてなしをするわ」

 

 

 

要件も伝えたことで、俺は守矢神社へ向けて飛ぶ。

 

「そういえば文に聞きたいことがあるのだけれど」

 

「なんですか和徒さん?」

 

病み上がりということもあり、低速飛行だが文はそれにピッタリ合わせてくれている。

 

「この前文のカードを使って新しい姿になったんだが、高速移動に思いの外疲労が蓄積してしまってな。何かコツとかないか」

 

「コツ?ちなみにどれくらい早く飛んだんです?」

 

「椛を上回る程度には」

 

「かなり速いですね。ぶっつけ本番でその速度は確かにきついかも」

 

「だから途中から旋回やブレーキが上手くできなくなったんだよ」

 

文はしばらく考え、口を開いた。

 

「我々天狗は風を読みます。私のカードを使っているなら、和徒さんにもそれができるはずです」

 

「風を読む?」

 

「はい。目で見るというのは限界があり、その分疲れます。しかし、風を読むと言うのは周囲を肌で感じることであり、反応速度を上げることにもつながります」

 

生き物には視野が決められており、高速移動中は瞬きさえ命取りとなる。

しかし、周囲に自動で動作するレーダーがあればその負担は大きく減るだろう。

 

「ありがとう。今度実践してみるよ」

 

「それにしても、和徒さんも隅におけませんねえー」

 

「なんのことだ?」

 

「私に隠し事はできませんよ?レミリアさんと輝夜さんの二人に迫られているでしょう」

 

「な、どうしてそれを」

 

「あ、本当だったんですね。今のは鎌をかけたのですが」

 

ニヤニヤして俺の顔を覗き込む文。

 

「で、どっちにするんですか?やっぱり両方ですか?」

 

「り、両方?!」

 

「早苗さんを本妻にして、後の二人を妾にするって言うのが私の予想ですが」

 

「ちょっと待て。なんで一夫多妻制なんだよ」

 

「いやいや、別に珍しいことでもないですよ。優秀な個体に複数の異性が惹かれるのは当然じゃないですか」

 

現代社会の倫理観としては間違っているが、生物学的には正しいので否定しづらい。

 

「外の世界ではあり得ないんだよ。早苗だって外で育ったんだから」

 

「早苗さんは外の世界出身ですけど、案外飲み込んでくれそうですけどね。レミリアさんや輝夜さんに浮気されるならまとめて家族になった方が良い、みたいな」

 

一瞬、早苗がそう言う姿を想像してしまい、自己嫌悪に陥る。

 

「でも、どうして二人との距離を縮めないのですか?レミリアさんは見た目こそ幼女ですが醸し出す妖艶さは本物ですし、輝夜さんは古文にさえ残る美女じゃないですか」

 

「それは...」

 

俺が彼女たちとどこか距離を置いてしまう理由。

その答えは、

 

「さては寿命とか言うんじゃないでしょうね」

 

図星であった。

 

「そりゃあ俺が生きている間幸せに過ごすことができれば良いけど、俺が死んだ後引きずって欲しくないんだよ」

 

「居るんですよねー、そういう人間。好きな相手に悲しんで欲しくないから結ばれない。そんなのは恋愛小説だけにしてくださいよ」

 

「な、こっちが真剣に考えているのに」

 

「あのですね、彼女たちがそんなか弱いタイプだと思いますか?」

 

かつて幻想郷を紅い霧で覆ったカリスマ吸血鬼。

不老不死の薬を飲んで大罪を背負い、何千何万年と生きてきた月の姫。

 

「...見えないです」

 

「でしょう?!そんなこと心配しているなら自分が知らない間に吸血鬼や蓬莱人に変えられないかどうか心配した方がよっぽど建設的ですよ」

 

「いや、それは冗談でも笑えない」

 

目が覚めたら不老不死になってましたとか怖すぎるだろ。

 

 

 


 

 

 

「それじゃあ覚悟はできたわね」

 

「ああ」

 

翌日の逢魔が時、博麗神社にて。

 

「今から必需品を渡していくわ。まずは食料」

 

「結構あるな」

 

「ざっと5日分よ」

 

霊夢に手渡された保存食を持参したリュックに詰める。

 

「次にコンパス」

 

「コンパス?!」

 

お札が貼られた禍々しいコンパスだった。

 

「以前小傘を封印した時、誰かが封印を解いた時の保険として探知用のお札を貼っておいたのよ。解除されたり剥がされた様子もないから、このコンパスの方角に進みなさい」

 

保険ってどれだけ先を見据えているんだよ。

 

「そして、帰還用のお札」

 

薄気味悪い目玉の紋様がいくつも刻まれているので、できれば触りたくない。

 

「この札には八雲紫の能力の一部が込められているわ。目的を達成した時、または捜索が困難だと考えた時に使いなさい。霊力を込めながらこの神社を思い浮かべると、出入り口が作られるわよ。ただし、効果は一度きりだから」

 

「こんな便利なものあるのかよ」

 

正直、俺じゃなくて霊夢が外の世界に行っても問題ないのではないかと思い始めている。

むしろ、これらの道具を適切に扱える霊夢の方が適任なのではないだろうか。

 

「あのねえ、私がいない間に異変が起きたら誰が対処するのよ」

 

全くもってその通りであった。

 

「この帰還用のお札、以前外の世界に行ったっきり自力で戻るのが困難になってしまった巫女がいたから紫が作ったものらしいの。つまり何が言いたいかと言うと、それくらい綱渡りだってことよ」

 

その巫女というのは、先代博麗の巫女の姉のことだろう。

霊夢の記憶、いわゆる歴史からも消されてしまったのかは分からない。

だが、必ず帰ることを肝に命じた。

 

「最後に現金。紫が非常時用に渡してた外のお金」

 

幻想入りした時に持ち込んだ財布にしまう。

 

「それじゃあ、改めて計画を確認するわよ。

 

「まず、外の世界に出たら夜間のうちにコンパスが示す方向へ飛ぶ。

 

「夜が明けたら日が沈むまでどこかで休息を取る。移動は夜間の飛行を徹底すること。

 

「対象との距離が100m以内になった時、コンパスが振動するから付近を捜索しなさい。

 

「食料が尽き、見つけることができなければお札を使って帰還すること。

 

「何か質問はあるかしら」

 

一つ疑問が生じていた。

 

「もし、外の人間に戦闘を見られたらどうすればいいんだ」

 

「外の世界では、よっぽど霊力が多かったり能力がなければ『認識できない』または『すぐ忘れる』。だから気にすることはないわ」

 

そんなご都合処理があんのかよ。

 

「他に聞きたいことがなければ門を開くわ」

 

「分かった。よろしく頼む」

 

霊夢が呪文だか祝詞だか分からないものを唱え始める。

 

「和徒...」

 

「安心しろって、早苗」

 

お見送りをしたいと言うことで、早苗もここまで来ていたのだ。

 

「どうか無事に帰ってきてください」

 

「約束するよ。だから、俺がいない間任せたぞ」

 

懐から取り出したユナイトカードを一枚早苗に手渡す。

 

「これは神奈子様のカード?!」

 

「これはお守りだ。ただし、幻想郷に帰ってくるまで預けておく」

 

「わかりました。絶対取りに帰って来るのですよ」

 

「おう」

 

「門が開いたわ、和徒」

 

早苗との別れを済ませ、霊夢の元へ行く。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

幻想の世界から現実の世界へ、境界を跨いだ。




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いよいよ外の世界へ出発
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