従姉妹の真島遥と別れた一向だったが、小傘が再び襲撃を仕掛けてくる。
満月という妖怪の力が最も発言するフィールドで、小傘は姫海棠はたての持つ天狗の速度を引き出す。
メリーと蓮子を守りながら戦うことに苦戦する和徒の元へ、世界の境界を跨いで宇佐見菫子が駆けつけた。
秘封倶楽部。宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが所属しているオカルトサークル。部員数、二名。
そこに宇佐見菫子という名前は含まれていないし、高校のサークルでもない。
「む、そこの私に似た帽子を被ったお姉さん。名前を聞いても?」
「えっと、宇佐見蓮子。近所の大学の秘封倶楽部のメンバーなんだけど」
「なるほど。そういうことか。どうやら私は並行世界へ来てしまったという訳か」
「「「並行世界?!」」」
昨今のSFでは常識のように語られる単語。並行世界。
この世界は選択の度に世界戦は枝分かれしていき、似ているようで異なる世界が隣合っているというもの。
「私は現実と幻想の境界を跨いだつもりだったが、知らず知らずのうちに世界そのものの境界を超えてしまったらしい。そして、蓮子さん。あなたは私の平行同位体だ。だから、私はこの場所に強く引き寄せられたのだろう。」
押し寄せる情報の濁流に俺たちの脳みそがパニックに陥る。
「ちょっと待って。一旦整理させて欲しい」
「お、俺も...」
「私はもう理解したわ。私がこのユナイトカードで世界の境界に隙間を開けてしまったから、並行世界の蓮子がここに来たってことよね?」
「正解!」
「「おおー」」
メリーさんが噛み砕いて説明してくれたおかげでようやく分かりかけてきた。
俺がかつて博麗大結界を超えて幻想郷へ来たみたいに、菫子さんは別の世界から俺たちがいるこの世界へ来てしまったらしい。
原因は、メリーさんが持っていた八雲紫のユナイトカード。
詳しい原理は分からないが、メリーさんの境界に干渉する力と八雲紫の境界操作が組み合わさって世界を超えるスキマが生まれたと考えるべきか。
そして、そのスキマを通ってきたのは、平行世界の蓮子さんである菫子さん。
蓮子さんと菫子さんは顔があまり似ているとは言えないが、苗字と帽子の類似性から平行同位体であるという説は妥当だろう。
「ちなみに、そちらのお嬢さん方の名前は?」
「マエリベリー・ハーン。メリーって呼んで頂戴」
「真島和徒だ。訳あって今はこの姿だが、本当は女だ」
「性転換かい?!これは興味深い」
「私のことを忘れるなああああ」
自動車をひっくり返し、黒い翼を生やした傘お化けが起き上がる。
並行世界云々の話を整理した時、完全に存在を忘れていた。
「それで、あの少女との関係は?」
「あいつは傘お化けの妖怪で、完全に本来の自我を失っている。再起不能にして幻想郷へ返さないといけないんだ」
「なるほど、違う世界とはいえ私も幻想郷へは何度もお邪魔させてもらっていてね。だから協力させてもらうよ」
「しねえええええええ!!」
再び小傘が妖力弾の雨霰を繰り出す。
「彼女らの身は私に任せろ!和徒くん」
「助かるぜっ」
ベルトに、文、妹紅、お空のカードをセットする。
『PHOENIX』
背中に蒼く燃え盛る翼を生やし、小傘の懐へ迫る。
炸裂するアッパーカット。
「オラぁ」
「うげええええ」
一瞬白目を剥いたがすぐに姿勢を立て直し、夜空へ羽ばたく小傘。
天狗の速度を持ってすれば、どの動作は一瞬の出来事。
しかし、天狗の力を持っているのは小傘だけじゃない。
「逃さねえぜ」
「こいつ、私より速い?!」
「オラオラオラオラッッッッ」
「どぎゃああああああああああああ」
肉薄して叩き込まれる突きのラッシュ。
その拳は蒼炎を纏っており、速さは破壊力へと変換される。
「フェニックスバーンッ」
トドメの回し蹴りを土手っ腹に喰らった小傘は地面へ叩きつけられる。
蹴りが着弾する瞬間に足裏から放たれた爆炎のダメージで、立ち上がるので精一杯だろう。
メリーさんたちへ撒いていた弾幕の勢いも弱まっている。
「くそッ これでもくらえいいいい!!!」
巨大な妖力弾が流星群の如く降り注ぐ。
普通に生成すれば、あの規模の弾幕だとすぐにガス欠するはずだ。
それを可能にしているのは、大きさを操る小人の能力。
極小の妖力弾を先に作って、後から能力で大きくしているに違いない。
「はあああ!!」
菫子さんが念力で防御するが、流石に量と大きさが度を越している。
持って1分程度か?
「菫子さんが押し負ける前にてめえをブチのめすっ」
すぐに駆け出して拳を振り抜くが、小傘の妖力壁に阻まれる。
「キヒヒ、私にもう攻撃はあたらないよ」
小傘は体を球状の妖力壁で覆って飛び立つ。
「待ちやがれッ 『フェニックスプロミネンス』」
右手から熱線を放つも、やはり妖力壁に防がれる。
あの妖力壁も大きさを変えることで低燃費に抑えているのだろう。
オーガフォームのパワーなら叩き壊せるだろうが、天狗の速度に追いつくことができない。
何か手を考えろ。考えるんだ。
これはまだ、和徒が幻想入りしたばかりで霊夢の元で修行していた時のこと。
「なあ、霊夢。霊力の防御ってわざわざ攻撃を受ける場所だけ霊力を集中させず、常に全身を強い霊力で覆っておいた方が強くない?」
「あのねえ、戦いにおいて勝敗のパターンは二つしかないの。『力の押し切り』の勝利か『スタミナ切れ』の敗北よ。和徒の言う通り、全身を強い霊力で覆うのは短期的に見れば強いわ。しかし、その分霊力の消費が激しい。だからスタミナ切れに直結して負ける確率が高まるのよ」
「だから必要最低限の部位を霊力で防御した方が良いのか」
「ちなみ私は『力の押し切り』特化だぜ。なんせ弾幕はパワーだからな」
「魔理沙はガス欠起こしてばかりじゃないの...」
そうか。この方法なら奴の妖力壁を突破できる。
「『ホロウエッジ』!」
手元に出現した黒い刀にカードをかざす。
俺はチルノと戦った時、分厚い氷の壁に苦しめられた。
何度砕いても生成される氷の壁を、俺はゼロ距離で二重に攻撃したことで突破した。
これはその応用編。
「なあ小傘、知ってるか?」
「はあ?」
「弾幕はパワー、らしいぞ」
ホロウエッジが一等星の如く煌めく。
「『ホロウ・スターエッジ』、そして、フェニックスノック戦法ッッ」
空中に投げたホロウエッジに後ろ回し蹴りを打ち込み、発射される。
アイスラ◯ガーにハンディショットを当てた技をモチーフとしたこの技は、マスタースパークを凌ぐ威力を持つ。
バギイィィン
「な、妖力壁が...?!」
満月の元、蒼炎を纏って煌めく流星は妖力壁を打ち壊す。
しかし、小傘も壊されたのなら即座に2枚目を作るのみ。
「この距離なら、バリアは張れないな」
小傘が妖力壁を作るよりも早く、砕けた妖力壁の穴に右腕を差し込んでおいたのだ。
右手の腕輪に蒼い炎が灯る。
「『フェニックスバースト』」
STAR 霧雨魔理沙
次回は3章エピローグです。