家出した輝夜との日常を経て、和徒は彼女と永琳の仲直りを成功させ、輝夜から好意を持たれた。
その最中、モザイクの男ドゥーやカナン、ハート、椛といった刺客に襲われ、和徒はフェニックスフォームを会得するも鈴仙と共に何枚かカードを奪われてしまう。
さらに、封印されていた紛い者の小傘は外の世界でマエリベリー・ハーンの命を狙っていた。
和徒は小傘よりも早く彼女とその友人、蓮子と接触して撃退に成功する。
世界の境界を超えて助けに来た菫子が話す二重存在の謎を頭に止め、幻想郷に帰ってきた和徒が見た光景は、半壊した博麗神社であった。
その犯人は早苗で、幻想郷が滅亡の危機に瀕しているとは一体?!
約束と神話と救世主 その1
和徒が外の世界へ旅立って十日過ぎたのだろうか。
最近、日付感覚が曖昧で十日という数字に自信が持てない。
見上げれば、曇天の空が広がっている。
この空の向こうにきっと和徒はいる。
だって、約束したから。
必ず幻想郷に、守矢神社に、私の元に帰ってくるって。
だから私も和徒に報いなければならない。
和徒がいないこの幻想郷を、私が守ってみせる。
「ぐはっ...」
吐血する金髪の少女。
確か、名前はアリスさんだっけ。
日付感覚のみならず、記憶さえ朧げだ。
でも、特に問題はない。
先に攻撃をしてきたのはあっちだから、これは正当防衛だ。
腹部にもう一度正拳突きを喰らわせると、御柱に叩きつけられて気絶した。
「アリスッッ 早苗、もう許さねえぜ!」
あっちの魔女っぽい子は魔理沙さんだったはず。
二人とも金髪だから見分けづらいな。
数十にも及ぶ鉄輪を創造し、彼女へ目掛けて射撃する。
魔理沙さんも応戦して何かスペルカードを使ったみたいだが、無意味だ。
鉄輪はスパスパと弾幕を切断して襲いかかる。
「殺す気かよオイッ だったらこっちも全力だ」
魔理沙さんが右手に持つ道具に魔力がチャージされていく。
この攻撃は覚えている。
弾幕はパワーとは良くぞ言ったものだ。
「恋符『マスタースパーク』ッッ」
極太のレーザーが解き放たれる。
いくら神になった私といえども、あの一撃を喰らえばタダでは済まないだろう。
「な、どうして無傷なんだぜ。確かに狙ったはずなのに」
「魔理沙さん、暖かい空気と冷たい空気。この両方が存在するとどうなるか知っていますか?私は小学生の時に本で読んで、自分で起こせたらカッコいいな、とか考えてたんですけど」
「...何を言っているんだ?」
乾を操る能力により、すでに周りの空気が局所的に集まっている。
その空気の塊はレンズとなり、光線を屈折させる。
「こういうのは口説き文句として使うのが最適なのですが、自分が思っているよりもお互いの距離はずっと近いみたいですよ」
魔理沙さんが撃ったのは虚像の私。本当の私はもっと手前にいたから当然当たらない。
肉薄した私は至近距離で弾幕を命中させる。
防御できなかった魔理沙さんが地面へ落下する。
その気になれば殺せるが、その必要はない。
救世主はそんな野蛮なことはしないからだ。
この幻想郷の不穏分子は全て叩きのめす。
それが私が実現する平和な世界。
「よお、久しぶりだな」
背後からかけられる男性の低い声。
振り返れば、幼馴染の姿。
彼は約束を守って帰ってきてくれた。
これで私の努力も報われる。
「早苗、俺はお前を止めに来た」
「...はい?」
止めに来た?私をなぜ?
周囲を見渡す。
住み慣れた守矢神社の本殿、鳥居、蔵。
白黒の魔法使い、人形使い、半人半霊の庭師、完璧で瀟洒な従者、ブン屋、etc。
様々な人妖が地に伏している。
何かおかしなところがあっただろうか。
全て神として、この世界に現れた救世主としての責務を全うしただけだが。
「お前は紛い者となって、超えてはならない一線を超えてしまった。だから俺はお前を倒す」
どうして私は彼の対面にいるのだろう。どうして敵対しているのだろう。
私は隣に立っていたかっただけなのに。支え合って生きていたかったのに。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうして私は愛する彼を殺そうとしているのでしょうか。
神様、教えてください。
あ、神様は私だった。
ならば神として、ここに至るまでの過去、現人神が唯一神となるまでの神話を振り返ってみよう。
和徒が外の世界へ旅立って5日経過した。
私は人里上空を全力で飛んでいた。
信仰の布教の最中、逃げ惑う人が続々と横切っており、理由を聞けば慧音さんが突然暴れて出したという話だった。
もしかしたら、慧音さんも紛い者になったのだろうか。
和徒がいなくとも、鈴仙さんならカードを分離できる。
何も心配はいらない。
だけど、もしかしたら逃げ遅れた人がいるかもしれない。
「な、あのベルトは...?!」
土煙から現れたのは、慧音さんと鈴仙さん。
すでに戦いは始まっていたようだ。
そして両者、共に奇妙なベルトを腰に巻いている。
鈴仙さんがベルトで変身できるのはすでに聞いている。
だが、慧音さんが変身できるなんて聞いたことがなかった。
だから、あれはきっと人の心を乗っ取るベルト、ハートレスドライバーだろう。
よく見れば、慧音さんの背中にレミリアさんによく似た翼が生えている。
「相変わらずレミリアのカードで変身なんて、芸がないわね」
「すでに手の内がバレてる兎がよく言うナ」
「鈴仙さん、助太刀に参りました!」
「助かるわっ」
私は慧音さんを狙って弾幕を展開し、鈴仙さんがその間を縫って射撃を繰り出す。
吸血鬼のタフネスに有効打を与えるのは難しいが、持久戦ならこちらが有利だ。
「面倒だナ。ならばコレを使うとするカ、『サイコアックス』ッ」
ハートレスドライバーが一瞬輝いたと思いきや、慧音さんの手元に片手斧が出現した。
慧音さんはどこからかキスメさんが描かれたカードをとりだして斧にかざすと、刃に沿って鬼火が灯る。
「『サイコ・エンバークラッシュ』」
怪しく燃える、煉獄の一閃が振り下ろされる。
EMBER 残火 キスメ
数話だけ主人公が一切登場しません。