和徒が外の世界へ旅立って10日経過した幻想郷は、既に暴走した早苗によって多くの猛者が返り討ちにあっていた。
そこに和徒も駆けつけ、殺意を胸に相対した。
和徒が外の世界へ旅立って5日経過した幻想郷では、人里でハートに取り憑かれた慧音と鈴仙が激突していた。
早苗は鈴仙の援護をして追い詰めるも、ハートは新たな武器『サイコアックス』で迎撃を行った。
「だ、大丈夫ですか?鈴仙さん」
「う、うん...なんとか」
ハートが繰り出した一閃は、瞬く間に周囲を妖しい炎で包んだ。
直前で私が結界を張らなければ、炎が直撃して再起不能になっていたはずだ。
それでも斬撃が結界を突き破って私たちにダメージを与えたのだから、あのサイコアックスという斧に触れるのは相当マズイ。
「あの程度の振りかぶりでこの威力、もっと試させてくレ」
ハートは斧を片手にこちらへ駆け出した。
「早苗、絶対にあの斧から目を離さないでよ!」
「もちろんですっ」
今まで鈴仙さんは指から放つエネルギー弾で相手を牽制しつつ、懐に潜り込んで拳や蹴りの打撃を行うスタイルを好んで使っていたが、リーチは相手に分があるため、完全にハートのペースに飲まれている。
「ホラっホラっホラっっ」
「く、この...」
対するハートは細かく妖力の弾幕を撃ちながら距離を詰めて来る。
見え見えの大振りで鈴仙さんの動きをコントロールして妖力弾でじわじわ削る戦い方。
このままでは鈴仙さんが潰れるのも時間の問題だ。
「『奇跡「神の風」』ッ」
でも、こちらは二人だ。
個の力では負けていても、二人ならなんとかなるはず。
「チィッッ」
スペルカードをノーガードで喰らうわけにはいかないようで、斧を私に向かって投擲してきた。
残像が見えるほど高速回転するサイコアックス。
ハートに命中するはずだった霊力弾を全て打ち消して私に迫る。
「ッ、痛...」
私は避けきれず、脇腹が僅かに抉れてしまう。
そのままブーメランよろしくハートの元へ飛んでいくサイコアックス。
だけど、これで隙を作ることができた。
「私が押されてたのは面倒な斧があったからだってこと、忘れてないかしら?」
「今です!鈴仙さんっ」
「クソったレッ」
「『マッドネス・ストライク』」
ゼロ距離で放たれる、鈴仙さんの必殺技。
堪らず背後に吹っ飛ばされたハート。だが、まだ分離はできていない。もう一押しだ。
追撃のために鈴仙さんはさらにベルトへカードをセットする。
差し込まれたのは、永琳さんのカード。
「『メディカル・ストライ......」
「お前こそ僕が吸血鬼の女王の力を使っているこト、忘れてるだロ?」
ハートの手元に緋色の槍が生成される。
鈴仙さんはすぐさま距離を取ろうとするも、ハートの方が一手速かった。
ハートはそのまま槍を握り、アンダースローで撃ち出す。
「『神槍「スピア・ザ・グングニル』」
「ぐはっ」
鈴仙さんの左肩を神槍が貫いた。
一つ幸運だったのは、ハートが不意を打つために槍の生成の工程を大幅に短縮したことだろう。
鈴仙さんを襲った槍はレミリアさんが使うものより細く、短かった。
だから突き刺さったとて、左肩をちぎり飛ばすほどの威力を発揮しなかった。
それでも、槍で左肩ごと背後にあった家屋の塀へ鈴仙さんは機動力という強みが殺されている。
このままでは、敗北は必至だ。
「鈴仙、お前の持っているカードを全て僕に渡すなら命はとらないガ?」
「ハッ、もしかして人殺しは初めてなのかしら?」
「舐めてんじゃあないゾ!」
ハートは槍の柄を垂直に踏みつけて揺らし、肩口の傷を抉る。
「ああああああああっっ!!!」
鈴仙さんの絶叫が木霊する。
その痛みはきっと、私の脇腹の痛みなんて比にならないはずだ。
今、私に何ができる?
「こ、この光は...?!」
ふと足元を見れば、輝くカードが2枚。
神奈子様と諏訪子様のユナイトカード。
おそらく、脇腹を負傷した時に落としたのだろう。
「幻想郷を守るためには、これしかないッ」
2枚のカードを拾い上げ、胸元へ突き刺した。
ドクンッ
力強い神力が身体に流れ込む。
熱い。なんて熱さだ。これが本物の神の力。
だけど、徐々に馴染んできている。
これなら、鈴仙さんを助けることができるかもしれない。
「はぁっ」
「うぐアっ」
なりふり構わずハートに体当たりをしたら、思いの外吹っ飛んでいった。
少し踏み込んだだけなのにこの速度、明らかに強くなっている。
「おまえまさカ、その力ハ...」
乾や坤の創造の仕方は全くわからない。
諏訪子様が使っていた鉄輪をイメージすると、両手に出現した。
知っている道具なら具現化できるのか。
地面や大気の操作はイメージできないから、このまま力技で押し込む。
「はあああああああああっっっ」
「クっ」
がむしゃらに鉄輪を振り回す。
ハートはサイコアックスでいなしてくるが、じわじわとダメージが入っている。
断言できる。今、私はコイツより強い。
「二重結合だト?!出鱈目なことしやがっテ」
ハートがベルト上部のボタンを叩くと、右手に赤いオーラが満ちる。
「『シングルスマッシュ』ッ」
そのまま私の顔を目掛けて振り抜かれる拳。
だが、その拳が届くことはない。
「神奈子様の力も使えるのよ?」
足元から御柱がニョキニョキと飛びでる。
その先端はハートの顎に命中し、擬似的なアッパーカットとなった。
「ぐハっ」
「トドメよ、『大奇跡「八坂の神風」』」
スペルカードを全弾喰らったハートは爆発に飲まれ、ベルトと慧音さんが引き剥がされた。
「クソ餓鬼ガ、覚えてろヨ」
ハートはキスメさんが描かれたカードを落としながら、モザイク柄の空間を作って逃げていった。
「待ちなさい!!」
ドクンッ
後を追うとするも、再度体が熱くなってうずくまってしまう。
これ以上結合するのは危険なのか。
念じると、胸元からカードが2枚弾き出された。
「なんとか、戻ることができましたね」
「ちょっと早苗、今の力って紛い者の力よね?」
ハートの変身が解除されたことで槍が消え、鈴仙さんが歩いてくる。
「はい、すみません鈴仙さん。もうこれしかないと思って」
「命を助けてもらったことはお礼を言うわ。ありがとう。でも、もう二度としないで。次は戻れなくなってもおかしくないわ」
「分かりました」
この時、脳裏にとある神話がよぎった。
蝋で固めた翼で空を飛んだ少年が、太陽に近づきすぎて翼が溶け、命を落とすという有名な神話を。
MEDICAL 永琳
SBRがとうとうアニメ化されましたね。
前回、早苗が用いた空気のレンズはジャイロVSディ・ス・コのオマージュだったりします。