二重結合の紛い者となった早苗だったが、ハートレスドライバーを使う青娥に追い詰められる。
とうとう早苗は結合度を上げて決死の反撃に出るが、ドゥーに時間を止められてしまった。
「ドゥーが貴方を負かしたと伺っていたのですが、想定以上の強さですね」
「こっちも常日頃鍛えているのよ!」
魔法の森の中、狂気の弾丸と稲妻の鉄棒が幾度となく交差する。
どちらもスピードを活かしたバトルスタイルを駆使し、互いにつかず離れず立ち回る。
「これじゃあ埒が開かないわね」
勝負に出たのは鈴仙。
ミスティアのカードをベルトに差し込む。
「『ソング・ストライク』」
「...っ!?」
ミスティアのカードの効果によって、カナンの視界は暗闇に支配される。
如何に速く動けても、何も見ずに森の中を移動できる術はない。
当然、カナンはその場に留まった。
高速移動する相手ならともかく、止まった相手を狙うことは容易だ。
四方八方から凶弾が襲いかかる。
「鈴仙さん、貴方もしかして永江衣玖の能力を『雷を操る程度の能力』だと誤解してないかしら」
「嘘でしょ?!」
カナンは全ての弾丸を大雑把とはいえ防ぎ切った。
永江衣玖の能力は『空気を読む程度の能力』。カードの力を使って弾丸に込められた狂気を読み取れば、ある程度攻撃の方向が分かる。
「だったら、「遅いわよ、『サンダー・シャイン』」 ッ!!、『ダウジング・ストライク』」
シャフトを地面に突き立て、帯電した電気を一気に周囲へ放出するカナン。
スピードタイプに対する最も確実な対処法は面攻撃。鳥目になるカードの効果は永続ではないため、時間切れとなるまで寄せ付けないことで粘る。
一方、鈴仙は変幻自在の弾丸で決定的な攻撃を与えようという算段だったが、一手遅れてしまい。弾丸は電撃でかき消されてしまう。
「手応えが...ない?」
飛び散った稲妻は鈴仙に当たらなかった。
なぜならそう、
「上にいたのねッッ」
持ち前の跳躍力を活かし、鈴仙はすでにカナンの頭上で片手を構えていた。
電撃はカナンと中心とした同心円状に広がっていた。だから上空は手薄となっていたのだ。
偶然か必然か、ここでミスティアのカードの効果が切れ、カナンは鈴仙をとらえた。
両者、必殺の一撃に備える。
「『マッドネス・ストライク』」 「『サンダー・ファング』」
弾丸と鎌。
二つの高エネルギーがぶつかり合い、爆ぜた。
すぐさま互いに追撃を行おうとしたその時、
「「ッッ!!」」
すぐ近くでとてつもない神力が湧き上がった。
鈴仙とカナン、どちらも一瞬二の手が止まる。
ここで先に行動を再開したのは鈴仙。やはり戦闘経験がカナンとは違った。
「『エンバー・ストライク』」
鬼火を纏った弾丸がカナンを捉える。
「『ランド・サイコクラッシュ』」
しかし、巨大な石斧が何処からともなく振り下ろされ、かき消されてしまった。
「目的は達成されたから私と芳香は先に帰るわよ?カナン」
「かーえーるー」
「『呆気ない最後だったナ』」
早苗と戦っていたはずの青娥と芳香が現れた。
先ほどの石斧もサイコアックスに天子のカードを使ったのだ。
鈴仙は当然困惑した。青娥達の相手をしていたのは早苗だ。
安否はどうなっているのか。
鈴仙の思考にはそれらが過ぎるも、すぐに答えは得られた。
本人が目の前に現れたから。
「早苗、紛い者になってしまったのね」
「ふふ、なんて無様なのでしょう。あれだけ人々の幸せを願った現人神が凄惨な邪神になってしまうとは」
「......」
早苗は何も語らない。
「鈴仙さん、これから貴方が取れる行動は二つです」
「ドゥー?! あなたまでここにいるの」
ニルの眷属が二体、邪仙とキョンシー、人工付喪神が宿るベルト、紛い者。
鈴仙から見れば四面楚歌となってしまった。
「彼女を殺すか。彼女に屈するか。どちらを選びますか?」
「何を馬鹿なことをっ」
「おっと、私にばかり意識を向けて大丈夫なのですか?」
気がつけば、早苗が御柱を力一杯に振り回していた。
鈴仙は避けきれず、左腕を盾に受けとめた。
しかし、相手は邪神と祟り神の力を持つ現人神。
骨にヒビが入り、先日の左肩の傷が開いてしまう。
「私としては、このまま成長すれば彼女は『陽の魔王』になれるので、是非とも屈して欲しいですが」
「『陽の魔王』?」
「それでは、また今度お会いする日まで」
「ま、待ちなさい!」
叫びも虚しく、一向はモザイクの面を作り出し、透過するように消えていった。
残された早苗と鈴仙。
「このコンディションで二重結合を相手にするのは分が悪いわね、『ディスタンス・ストライク』」
鈴仙も撤退を余儀なくされた。
おそらく、このまま戦っていても勝ち目はなかっただろう。
擬似ワープで跳んだ先は永遠亭。
永琳が彼女を出迎える。
「どうやら、マズイことになったみたいね」
「はい、師匠。東風谷早苗が二重結合の紛い者になりました」
「そう、とりあえず怪我の手当をするから部屋に入りなさい」
遠くの神社の方角を眺め、鈴仙はつぶやいた。
「和徒、速く帰ってこないと取り返しのつかないことになるわよ」
「ああ、早苗。あの邪仙の言ってたカードはどうだったんだい? ッ!ちょっと待ちな。その姿と神力、説明知ってもらおうか」
「悪いけど今日の参拝は終わりだよ!とっとと帰りなさい」
守矢神社に帰ってきた。
だけど、どうして神奈子様も諏訪子様もそんな目で私を見るのだろう。
『あなた、私はバケモノを産んでしまったのよ...! もう耐えられないッ』
『大丈夫だ、母さん。東風谷の家の他の者に面倒を見てもらおう』
そう、あの目だ。
戸籍上は私の両親に当たる存在。
彼ら彼女らが私を扱う視線。
神奈子様と諏訪子様も今、同じ目を私に向けている。
「さて、信者の皆さんも帰ったことだし、話し合いと行こうか」
「話し合いって。神奈子、絶対会話をするつもりないでしょ」
「暴言って言葉の暴力という意味らしいから、拳のぶつけ合いも同じようなものだろう?」
「それは違うと思う」
今の私は二柱の力を手に入れ、現人神を超えた。
となれば、これから始まるのは神同士の信仰を賭けた戦いと言えるのだろう。
確か、諏訪子様は大昔にこう言ってたんだったっけ。
『私は私を信じる人間のために、ここに来た』
ならば、私も私の信者のために神を撃ち倒すまでだ。
「来るよ、神奈子」
「ああ、鈍ってないよな?諏訪子」
今日から守矢神社に祀られるのは、この
「どうしたんだ早苗、その姿まさかっ」
「人里へ布教へ参りました」
里の外にいた慧音さんにそう伝える。
二柱は守矢神社で封印することにした。
殺すこともできたが、彼女らの神力を用いてお札やお守りを作った方が有意義だからだ。
そして、神奈子様は言った。人は自分を救う存在を神と崇めると。
だったら、ここにいる人間全てに奇跡を、平和を、幸福をもたらそう。
そうすれば、信仰はすべて私の総取り。
「そうか、紛い者になったのか。先日助けてもらったのだから、今度は私が君を救おう」
どうやら慧音さんも私と戦う気らしい。
確か人里には彼女を慕っている人も多かったはずだ。
きっとその人望を取られるのが恐ろしいのだろう。
「早苗、来ると思ってたわよ」
当然ライバルは放って置けない。
かつて幻想入りして間もない時のように、博麗神社を訪ねた。
「全く、和徒にどう説明すれば良いのよ」
和徒。ああ、私の幼馴染。彼は私を見てなんと言ってくれるだろうか。何を思うのだろうか。
期待に胸が躍る。
「もう立て直すのは懲り懲りだから。コンパクトに戦うわよ!」
今度こそ博麗神社を叩き潰す。
「事の顛末は霊夢から聞いたぜ、早苗」
目の前に立つ幼馴染がそんなことを言う。
あの紅白巫女、死んでなかったのね。
振り返ってみたけれど、私の何処に間違いがあったのかしら。
いや、もしかしたら最初からすべて間違っていたのかもしれない。
だけど、どうでも良い。救世主にとってそれは些細なことだ。
「変身ッ」
曇天だったのも束の間、雨が降り始めた。
LAND 大地 天子
次回からようやく主人公視点に戻ります。