とうとう紛い者として、本来の人格を失うほどユナイトカードと結合してしまった早苗。
その力は二柱である神奈子と諏訪子を上回り、幻想郷を自身の信者で埋め尽くすことで平和な世界を実現しようとしていた。
快進撃は霊夢や魔理沙でさえ止めることができなかった。
しかし、我々は一人、彼女に対抗しうる者を知っている。
外の世界から帰還した我らが主人公、真島和徒は決意を新たに変身したのだった。
『PHOENIX』
不死鳥の炎は小雨程度では消えない。
「初めて見ますね、その姿は」
会話ができる、ということからも早苗の結合度は5で間違いないな。
結合度5の紛い者は、すでに精神を蝕まれている。
とは言っても、本人の深層心理とカードの影響で生まれた人格が肉体の操縦権を握っているわけだから、この惨状が早苗の願望と無関係とはならない。
俺が聞いたのはあくまで霊夢の視点の話。
早苗や守矢神社で何があったかまで正確には知らない。
だからまず、初手に取るべき選択肢は、
「早苗、俺がいない間に何があったか、聞いてもいいか?」
対話だ。
「そうですね。何から話しましょうか」
聞いていた話だと、聞く耳を持ってくれないようだったけれども、落ち着いたのか?
だったら大人しく分離させてくれるとありがたいんだけど。
「私、頑張ったんですよ?和徒との約束を守るために
「この幻想郷の平和を守るために
「紛い者になって戦い
「信者を導いて救済し
「邪教徒を伸して唯一神となり
「みんな私を神として恐れ、敬い、接する
「全てが私の元で調和される完璧な世界を生み出すことができました」
『調和』される完璧な世界、か。
今の早苗にはそう見えるのだろう。
「悪いが、これは完璧な世界とは言えないぞ」
「はい?」
「だって、お前が、東風谷早苗が泣いているじゃないか」
雨が強くなってきた。
涙が流れているかどうかは分からない。
だけども、あの顔は、あの表情は、あの目は、俺が初めて早苗と会ったときと同じだ。
肉親に人間扱いされず、同年齢の子供にも除け者にされ、世界に取り残されたあの幼女と変わらない。
「そうか、お前も置いて行かれた側だったんだな」
早苗の心は大昔、すでに周囲から隔絶されてしまっていたのだ。
だったら、俺はもう一度、お前の手を取ってやるだけだ。
「もうお前は十分頑張ったんだ。終わりにしよう。お前は現人神で守矢神社の巫女だけれど、年相応に見栄を張り、責任を背負い込むただの女の子なんだよ。やりすぎたり間違えたりすることは誰だってある。俺も一緒に謝るし、壊したところは直しに行こう。だから、戻ってこい!」
「う、ううううう......」
早苗が頭を抱えてうずくまる。
いくら新たな人格が生まれると言えども、その根幹にあるのは早苗の深層心理に他ならない。
元の人格が抗うことだってできるはずだ。
早苗から戦意が消えたので駆け寄ろうとしたが、実現できなかった。
その行手を阻む者がいたのだ。
「始末するでも屈服するでも無い第三の選択肢に挑戦するとは、やはり君の調和の能力は侮れませんね」
早苗の背後から現れたモザイク顔のスーツ男。
地球外生命体ニルの眷属、ドゥー。
「ドゥー、今回もてめえの仕業か?」
目があるであろう位置をを睨みつけるが、気にも止めずドゥーは淡々と語り始めた。
「私はただ、手助けをしただけですよ」
「手助け、だと?」
「はい。彼女は君の力になれないことを以前から悔やんでいました。そして、偶然にも力を手にいれる手段を知り、叶えてしまった。たとえそれが悪き行いだったとしても、彼女は誰かのためにその力を行使することに躊躇を持たない善人です。だから、踏ん切りがつくように手助けをしたのですよ」
不甲斐なく感じて何が悪い。力を求めて何が悪い。
無力な自分を嘆いて何が悪い。
「ふざけるな」
「はい?」
「人間だろうと妖怪だろうと神だろうと、みんな誰しも望みを実現できるような力を求めているんだ。だけどな、それはてめえみたいに誰かを害したり痛めつけたりするためじゃねえ。誰かを幸せにするために求めているんだ。そのために足掻いて挑み、生きているんだ」
そのために、時に近道をしてしまう者もいる。
間違った行いに手を掛ける者もいる。
だが、そこには理性というブレーキがある。
「ドゥー、てめえは自分の目的のために人の善意につけ込むドス黒い悪だ」
「なるほど、的確な表現ですね」
ケラケラと笑い、嘲笑を浴びせるドゥー。
もう我慢の限界だ。俺はお前を許さない。
「覚悟しやがれ」
「残念ですが、あなたの相手はこの神様です」
ドゥーが早苗の頭に触れると黒い閃光がバチバチと弾けた。
その途端、彼女の絶叫が雨にも負けない声量で響き渡る。
「その手を離せ!」
「ええ、どうぞ」
和徒に言われるがまま、すんなりと手を離したドゥー。
しかし、それはもう手続きが終わったことを意味していた。
和徒を目掛けて御柱が振り回される。
早苗の戻りかけていた本来の人格は再度、深い闇に沈んでしまった。
そこにいるのはただの邪神。
「霊夢から聞いてはいたけれど、なんつー怪力だよ」
勢いよく飛び上がり、御柱のレンジから離脱したが、そこに鉄輪の嵐が降り注ぐ。
天狗のスピードだからこそ避けられるその攻撃は、マシンガンのようだった。
おまけに天候は雨。和徒は文から天狗の速度を生かすには風を読む必要があると言われ、その技術をものにしていたが、雨の中ではそのレーダーの有効距離も短くなっている。
この戦い、早苗を止めるのは無理かもしれない。
「さあ真島和徒、彼女を殺すか彼女に殺されるか。選びなさい」
ドゥーはそう言い残すと高笑いをし、雨の中溶けるように消えていった。
その姿を追おうにも、早苗を放っておくことはできない。
そして、俺は奴が残した言葉に反論できなかった。
早苗を殺すつもりで戦わなければ勝てないことに、無意識のうちに気がついていたからだ。
PASSIVE 坤 諏訪子
次回、主人公vsメインヒロイン