早苗のスペルカードを喰らい、満身創痍となった和徒だが、神奈子と諏訪子の封印を解き、早苗の力を弱めて拘束することに成功する。
最後の力を振り絞った『オリジンブラスト』でとうとうユナイトカードの分離に成功したのであった。
雨は止み、守矢神社に一筋の光が差す。
巫女服の少女は両脇を二柱に支えられながらも、地面に寝そべる。
その足元には2枚のユナイトカード。
「うっ」
霊力を出し切り、和徒の変身が自動的に解かれる。
全身は血と泥に濡れ、痛々しくも彼女らの元へ歩み寄った。
「和徒、お前もそれ以上動くな。限界だろう」
「はい、あとは頼みまし...た」
言い切る前に力尽き、和徒の体を神奈子が受け止める。
「ありがとう、和徒。私たちの娘を。守矢神社を助けてくれて」
諏訪子はそう呟いた。
目を開ければ、もはや懐かしいとさえ感じる天井。
至る所に包帯が巻かれているが、それほど痛みはなく、自由に体を動かせる。
外を見れば太陽が照り付け、地面がとっくに乾いていた。
記憶はないが、少なくともあの戦いから1日以上は経過しているのだろう。
自室から廊下に出れば、トントンと小気味の良い包丁の音と味噌の香りが漂ってくる。
厨房を覗けば、緑髪の少女が料理中。
俺と同様に包帯をぐるぐるに巻いているが、異常はなさそうだ。
今までは当たり前のようだったこの日常も、もしかしたら二度と叶わなかったかもしれない。
そう思うと、たまらなく嬉しい気持ちが込み上げる。
「...あ」
少女が振り向き、俺と目が合った。
間違いない。俺の幼馴染、東風谷早苗だ。
「よ、よぉ、久しぶりー」
一言目に困った俺はそう言った。
デジャブかな?
互いに沈黙の時間が流れる。
そんなことも束の間。お互いに吹き出した。
そういえば、久しぶりに会った時も早苗はこんな笑い方をしてたっけ。
「はい、和徒。おかえりさない」
「ただいま、早苗」
これはきっと待ち侘びた言葉だった。
この言葉でようやく幻想郷へ、守矢神社へ、自分の居場所へ帰ってきた実感が湧いてきた。
背後から視線を感じて振り向けば、そこにいたのは諏訪子様。
トコトコと俺のそばにきて耳打ちしてくる。
「早苗との式はいつにするんだい?」
「は、ちょ、それはまだ、え」
「まだ、ってことは予定があるってことで良いんだね」
「...」
俺の答えは沈黙。肯定すれば揶揄われ、否定すれば強引に結ばされるだろう。
いい加減弄られるのも慣れてきたぞ。どうだ。
「私はいつでも構わんぞ」
いつの間にか至近距離にいた神奈子様がそんなことを言ってきた。
あなたってどちらかと言うと止める側じゃないの?守矢家の父親ポジションじゃないの?
「外堀は埋まってるから、あとは和徒の頑張り次第だね。なんなら今度こっそり早苗の飲み物に薬を盛ってやっても...」
「それはやめてください...」
諏訪子様は本気でやりかねない恐ろしさがあるからな。さすが祟り神。
「皆様集まったことですし、朝ごはんにしましょうか」
後日談というか今回のオチ。
早苗は特に後遺症もなく、守矢神社の巫女に舞い戻った。
今回の騒動の原因を考えると、直接的な要素は早苗が背負いすぎてしまったことだと考えられる。
しかし、間接的な要因は「不足」が招いた事態だった。
紛い者と戦う「力不足」、事態収束の「人手不足」、人間関係の「言葉不足」。
これは、おいそれと解決できる問題ではない。
だけど、それでも俺たちは進み続けなければならない。
だってそれは、神様でも、救世主でも叶えることはできない望みだったから。
「それでは、生徒へ自己紹介をお願いする」
「はい、本日から臨時の教師となりました。真島和徒です」
寺子屋の教壇に立った俺は、生徒へ向けて自己紹介を始めた。
早苗によって引き起こされた被害は、局所的ながらも大きな爪痕となった。
まだ傷の癒えていない者、壊れたままの建物。
だから、俺と早苗は手分けして復興にあたることにした。
俺の担当業務の一つは、寺子屋にて慧音先生の補佐。
彼女は半妖という種族らしく、傷はすでに治ったらしいのだが、しばらく授業を止めていた遅れを取り戻さなけばいけないらしい。
生真面目な彼女らしい理由である。
なので、俺は先生が授業をしている傍ら、生徒の指導を行うことになっている。
「あ、オマエ! このまえチルノのお腹に穴開けた奴ッ」
声のした方向を見れば、いつぞやの氷の妖精。
あいつ、ここの生徒だったのか。
「チルノちゃん、臨時でも先生なんだからそんな言い方良くないよ...」
隣にいる黄緑の幼女がそう言ってチルノを宥める。
その幼女の背中には、鳥というより虫に近い羽が生えていた。
きっとこの子も妖精なのだろう。
「あたいともう一回勝負しろ!!絶対勝つっ」
「そーなのかー」
そして、隣にアホっぽく語尾を伸ばす金髪の幼女。
この寺子屋の幼女ズッコケ3人組というやつか。
チルノの態度を見かねた慧音先生が口をだす。
「チルノ、勝負の前に確認だが、宿題は当然やってきているのだろうな?」
「え、しゅ、しゅく...だ...い......」
「まさか、やってきていないのか?」
「う、うわあああああああ」
いきなり立ち上がったかと思えば、廊下へ向けて走り出したチルノ。
しかし、それより早く慧音先生が頭を両手で捉え、頭突きを喰らわせた。
「あがっ」
すげえ。幻想郷は体罰が許されるのか。
そのままチルノは慧音先生に連れられて元の席に座らされた。
ふと、ここで違和感を覚えた。
教室で頭突きをされたチルノのことを見ていない生徒が一人いた。
このちょっとした騒動の最中、視線を俺に固定していた生徒がたった一人。
顔に変面をつけた幼女がずっとこちらを見ていた。
「ん?和徒。あの子のことが気になるのか?」
「ええ、まあ」
俺のぎこちなさから察した慧音先生が教えてくれる。
「彼女の名前はシン。のっぺらぼうだ」
MIRACLE 早苗
4章後編へ続きます