東方三混和   作:語り部梔子

71 / 72
前回のあらすじ

紛い者となった空亡に立ち向かう和徒。
しかし、その濃密な闇の前に力尽きてしまう。
チルノと大妖精の助けもあって闇から脱出した和徒だったが...


暗雲と常闇と防衛ライン その2

博麗大結界。幻想と現実を隔てるボーダーラインであり、地続きになっている現実世界と幻想郷を隔てる境界線。

博麗の巫女が代々管理を担い、時折幻想入りしてしまった人間を博麗神社の鳥居を媒介して帰すこともある。

その博麗大結界には、幻想郷でもごく一部の人妖しか知らない秘密がある。

それは、その博麗大結界の溝。其処の底。現実と幻想という相反する概念がせめぎ合う不安定な場に、生息している者がいること。

その名は宇宙生命体、ニル。

先代博麗の巫女の姉がかつて、自身が外の世界へ弾かれる代わりに封印したのだ。

僻地で厳重に封印されたニルは、自身ではどうすることもできなくなってしまった。

そこでニルは、自分以外の者の手を借りることにした。

眷属を生み出し、能力で現実世界と幻想郷へ混乱を巻き起こすことで、自身の封印を解く。

そして、今。幻想郷では大妖怪空亡が復活し、その身にレミリア、幽々子、輝夜の力を宿したことで『陰の魔王』が誕生した。

 

「始まったか......!」

 

誰にも聞かれることもなく、狭間で呟く。

今まで何一つ変化の起きなかった結界に、『陰の刻印』が刻まれた。

このまま刻印が刻まれ続ければ、いずれは...

 

 

 


 

 

 

「...しましたとさ、めでたしめでたし」

 

お世辞にも綺麗とはいえないアパートの一室。読み聞かせをする母と息子。俺はこの二人を知っている。

女性は民俗学の研究者を夫に持ち、他の学者では持ち得ない知識で主人を内外共に支えてきた女史。

男子は幼い頃から両親から妖怪、神話、民族伝承、都市伝説、街談巷説、道聴塗説といったものに触れてきたことで、そういった存在への嫌悪感がないということ以外普通の男の子。

 

読んでいた絵本も、表紙は擦り切れて中身も古い、何かの伝承譚。

ストーリーは悪い妖怪を封じ込めるために、その身を犠牲に人々を救った英雄の話だった。

 

「お母さん、どうして主人公は死んじゃったの?」

 

あまり子供ウケするような内容でもなく、母親に息子は問いかける。

なぜ英雄は死んでしまったのか。なぜ英雄は自分の命を犠牲にしたのか。なぜ死んでまで守ろうとしたのか。

幼い少年にとっては何もかも不思議でならなかった。

 

「そうねえ。確かにこの主人公はどうして必死に守ろうとしたのかしら」

 

「えー、教えてよお」

 

とぼける母親、せがむ息子。

 

「答えを一言で言うなら......」

 

最後の答えを聞く前に、徐々に意識が覚醒していく。

ああ。俺がこの親子を知っている理由を思い出した。

俺と母さんだ。

 

 

 


 

 

 

「懐かしい夢だったな」

 

感慨に耽りながら目を開けると、俺はどこか家屋の布団に寝かされていた。

俺は確か寺子屋の授業が終わってからチルノと大妖精に連れられて、えーと...

 

「目が覚めたか?」

 

「っ?! 慧音先生」

 

そうだ。ルーミアに敵わず力尽きた俺は、八雲紫のカードでスキマを作って寺子屋まで戻ってきたんだ。

起き上がって周囲を見渡すが、チルノと大妖精の姿はどこにも見えない。

二人が妖精という概念系の存在であるが故に死ぬことはないにせよ、心配と言えば心配だ。

あの後、無謀にもルーミアの元へ突っ込まないとも限らない。

 

「案ずるな。あの子たちは無事だ。むしろ自分の心配をした方が良い」

 

「そ、そうですか」

 

そんな俺の心情を察したのか、慧音先生が俺に回答を提示する。

窓の外から差し込む月明かり。どうやら結構な時間寝てしまったらしい。

確かに慧音先生の言うとおり、俺の身の方が妖精たちと比べて重体だったのだろう。

早苗のやつ、心配してるだろうな。早く帰って安心させないと。

 

「和徒、二人から話は聞いたがいまいち要領を得なくてな。お前の口から、何があったのか聞きたいんだ」

 

何寝ぼけているんだ、俺は。呑気に早く帰らないとなんて、そんな気の抜けた状況じゃないだろう。

ルーミアが、俺の生徒が紛い者になっちまった上に、封印まで解かれて別人になっちまったんだ。

それもただの妖怪じゃなく、かつて先代博麗の巫女が命を賭して封印した大妖怪。

放っておけば何が起こるか想像すらできない。

 

「慧音先生、俺は幻想郷の歴史を知りません。だから、これからする話は俺の主観に基づいた話なのですが...」

 

 

 


 

 

 

シンがニルの眷属だったこと。ルーミアが紛い者となったこと。3枚のユナイトカードで封印が解かれ、比類なき大妖怪『空亡』へと変貌したこと。全て話した。

 

慧音先生はシンの正体を知ると、うっすらと悲しそうな表情をした。俺は彼女を強い人だと思っていたので、この反応にはとても驚いた。いや、強い人というより厳しい人、厳格な人だと思っていた。だけども、本当は優しい人なのだった。

生徒を大切に思っているからこそ厳しく接し、裏切られれば心を痛める。俺は慧音先生の生徒になりたかったな、なんて思ってしまうほどに尊敬できる方だ。

 

しかし、ルーミアの話を聞くや否や血相を変えるほどに動揺していた。俺は封印される前に何があったかは知らないけれども、やはりそれほどの非常事態なのだろう。

慧音先生はお札を懐から出すと、術で火をつけた。その火がじんわりと広がって全てが灰になる頃、誰かがノックもないしに戸を開けて侵入してくる。

 

「非常用のお札を使うとは、何事だ? 上白沢慧音」

 

その人。違う、妖怪だ。そう、どこからどう見ても妖怪。これで妖怪でなければコスプレイヤーか何かだろう。

何せ頭部に生えたケモ耳にフサフサの尻尾が9本。現代暮らしの俺でさえ知ってる有名所の妖怪。

九尾。

 

「紫が来ると思っていたがまあいいか、マズイことになったぞ。空亡の封印が解かれて紛い者になったらしい」

 

「......そうか」

 

「ん? やけにあっさりした反応だな、藍」

 

藍と呼ばれた狐のお姉さんは、慧音先生の話を聞いても顔を顰めただけだった。

むしろ部屋に入ってきた瞬間の方が鬼気迫る表情をしていたと感じるほど。

 

「確信は無かったが、予想はしていた。できれば見当違いであってほしかった予想だがな」

 

よく見れば、藍の着ている中華風の衣装は高級そうな代物だが、どこか土埃で汚れている。

袖にはところどころ血痕が付着し、汗ばんでいるのが分かる。

それもどうやら、急いできたから汚れた、なんて理由じゃなさそうだ。

特に異質なのは、その手に握られている煤けた物体。

先端が短く5本に枝分かれした、細長い棒。もう一方の端は黒く焦げている。

俺はそれに見覚えがある。

 

「まさかその手に握られているのは...?!」

 

「む、君は噂に聞く外来人か。私は八雲藍。八雲紫の式神だ」

 

思わず二人の会話に口を挟んでしまい、気を使わせてしまった。

腕のことも気になるが、それにしても八雲紫の式神だと?

その名前の主には、俺のルーツやベルトのことなど聞きたいことは山ほどある。しかし、今はそれどころではなさそうだ。

 

「知っていると思うけれど、俺は真島和徒。紛い者を分離する外来人って噂なら俺のことだ」

 

「改めてよろしく、和徒。君の働きには紫様も評価しているよ」

 

「そりゃどうも。その紫様とやらについて色々質問したいところだけれど、それは後だ。あんたが持ってるその腕、どこで手に入れた?」

 

藍が持っている物。腕。

肩と繋がってた部分が焦げているのは、俺が焼き切ったからに違いない。

つまりこれはあの時切り飛ばしたルーミアの腕だ。

 

「この腕は人里で奪取したんだ」

 

「奪取?」

 

「ああ、この腕を中心に闇が蠢いていてな」

 

月明かりが雲に遮られたのか、部屋が一層暗くなる。照らすのは灯のみ。

脳裏によぎる闇。悪感情に塗れた瘴気。

瘴気の中に見えた少女の影。もしやすると、

 

「その闇ってのはルーミア、いわゆる空亡じゃないのか?」

 

「違う。あれは具現化された闇そのものと言った方が正しいだろう。空亡は闇を操る。この腕に宿る力が闇から作り出した妖怪、と私たちは考えている」

 

「くっ あの時と同じか」

 

「私たちってことは...」

 

私たちという含みのある言葉に、慧音先生のあの時というセリフ。

なるほど。空亡は封印されるほどの強大な妖怪だ。かつて暴れた時も同じようなことがあってもおかしくはない。

 

「便宜上私たちは『闇妖怪』と呼んでいる。ここに来る前、人里で妙な妖力を感じて見れば奴らがそこにいた。できればルーミアのユナイトカードと結合した紛い者であって欲しかったが、本家の仕業となっては非常事態だ」

 

座っていたのも束の間、藍は来て早々に立ち去るようだ。

俺の直感が告げている。このまま彼女を行かせてはいけないと。

力になりたい。蚊帳の外なんてまっぴらごめんだ。

 

「俺も行かせてくれ」

 

「おい和徒、お前はさっき起きたばかりだろう?」

 

慧音先生が静止するよう説得してくるが、了承できない。

幸いにも先の戦いで大きな外傷を負ったわけではなさそうだし、もう動ける。

 

「その目、覚悟はできているのだろうな」

 

「ああ、とっくにな」

 

「やめろ。藍」

 

俺を説得できないと踏んだ慧音先生は藍へシフトする。

俺を彼女の鋭い眼光が射抜く。八雲紫の代理人だけあってすごい希薄だ。だが負けるものか。

 

「いいだろう。奴は博麗の人間に強い恨みを持っている。博麗神社へ行くぞ」

 

「ありがとう! すぐに用意する」

 

「全くお前らは...」

 

慧音先生の呆れ声をスルーして、ベルトを腰に巻き付けながら外へ出る。

早く行くならフェニックスフォームになっておくべきかだろう。

そう考えながらカードをセットしてベルトを閉じる。

 

「変身ッ」

 

しーん......

 

「あれ? 変身ッッ」

 

蒼炎は吹き荒れず、翼が生えなければ、女性の体にすら変化しない。

何も起こらない。どういうことだ?

ベルトを開いて中のカードを取り出すと、そこにあったのは黒く塗りつぶされた3枚のカード。

目を凝らせば、そこに妹紅や文の絵があることは分かるし、文字も見える。

だがその表面には闇が蠢き、悪寒すら覚えてしまう。

一体いつの間にこんな細工されてたんだ。

 

「なあ、ちょっとみてくれよ。このカードなんだ..け...ど......」

 

この異常事態を知らせるために慧音先生と藍に話しかけるが、二人は空を眺めている。

つられて俺も視線をカードから上空へ移してみれば、そこには真っ黒な夜空が広がっていた。

幻想郷は近代化の進んだ外の世界と違い、普段は綺麗な夜空が広がっているはず。

しかし今、空は暗雲で覆われつつあった。

ある場所から吐き出された黒い雲が徐々に侵攻するように、星々が隠されていく。

部屋に差し込んでいた月光すらすでに見えなくなっていた。

 

「な、何が起こってやがる?!」

 

説明を求めて二人の方を見れば、どちらも驚愕の表情を浮かべている。

知識と歴史の半獣。策士の九尾。この幻想郷内で賢人とすら称される彼女らであっても、未知の現象。

強いて言うならば、黒い霧に覆われ、光が吸収され、夜が明けない異変だろうか。

 

「藍、懐かしさすら覚えるあの瘴気。ようやく私も空亡が復活したことを実感し始めたよ」

 

「そうか。だが、紛い者となったことで能力の規模も比較にならないほど成長しているようだな」

 

少しずつ状況を飲み込んできた両者はすぐに行動へ移る。

慧音先生は人里の住民の避難。

藍は瘴気の発生源へ向かおうとする、が......

 

「妙だな。空亡は博麗への怨嗟で動くと思っていたが、発生源は博麗神社の方角ではないぞ」

 

「いいや、博麗の人間の元へ向かっているのは間違いないと思うぞ」

 

発生源の方角は博麗神社ではなく永遠亭。

そこには療養中の人間が一人いる。それも現役の霊夢なんかより準備運動として戦う相手には適役の人間が。

 

「空亡の狙いは先代博麗の巫女の姉だ」

 

 




N◼️CLE◼️R ◼️空

しばらく多忙ですが頑張ります
誤字が増えるかも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。