空亡に敗れた和徒は慧音先生に、シンが眷属であったこと、ルーミアが紛い者となって空亡として復活したことを伝えた。
この非常事態に八雲藍も収束にあたる。
しかし、和徒の持っていた文、お空、妹紅のカードは黒く塗りつぶされて使えなくなってしまっていた。
空は徐々に闇に包まれ、空亡がいる永遠亭へ急ぐ。
これはまだ空が闇に覆われる少し前の出来事。
永遠亭にある決して多くない部屋の中でも、来客用の部屋に正座する一人の女性。
先代博麗の巫女。
ニルとの戦い、無理な転移、戦闘のブランク、加齢。理由は数あれど全盛期とは見る影もないほど弱りきった彼女。
しかし、力に目覚めた博麗の者は必ず身につける才能がある。
「何か、とんでもない厄災が来るわね」
直感。
程度の能力とは全く由来の異なる力。
この力だけは今も昔と変わらない。
彼女は部屋の押し入れから一本のベルトを取り出す。
バックルには筆箱くらいの大きさの箱とレバーが取り付けられていた。
空を闇が覆い始める最中、迷いの竹林から永遠亭にかけて、すでに三者三様の戦いを繰り広げられていた。
竹林の小道にて、白狼と不死鳥の激突。 椛vs妹紅
竹林の出口にて、常闇と狂気の激昂。 空亡vs鈴仙&輝夜
永遠亭内部にて、稲妻と医学薬学の激動。 カナンvs永琳
「はあああああっ」
「っ......」
大地から噴き出す火柱を掻き分け、天狗が蓬莱人へ迫る。
天狗という、神出鬼没の鬼族さえ除けば妖怪の山で実質的にナンバーワンの実力を持つ種族。
さらに今の椛の肉体には、パチュリー・ノーレッジと聖白蓮という大魔法使いのカードが繋がれているのだ。
その恵まれた身体能力に、かつて魔界へ封印された僧侶の魔法が加われば、膂力は比にならない。
「うがああっっ」
切り上げられた刃が妹紅の腹部から胸元まで大きな裂傷を作る。
白髪に白い服装の両者だが、度重なる妹紅の血飛沫で真っ赤に染まっていた。
妹紅も負けじと至近距離で霊力弾を撒き散らすが、正確に避けられてしまう。
早くも傷の塞がった妹紅に再び刃が迫る。
「だったらこれはどう避ける?」
椛の刀が皮膚に食い込む瞬間、妹紅の足元が紅蓮に光った。
込められる霊力は今までの攻撃の倍以上。
蓬莱人だから実行できる自爆技。
天高く燃え上がる烈火に二つの影が飲まれていった。
普段は物静かな永遠亭も、久方ぶりに騒がしい。
突如として始まった戦闘。当たり前のような日常が、いつものように過ぎていくはずだった。
しかし、それぞれがそれぞれ出会った敵と戦うことを余儀なくされる。
例え準備不足だろうが、敵わない相手だろうが、そこに貴賤はない。
紫電が部屋中を駆け巡り、後を追うように光の矢が放たれる。
「永琳さん? そんなあくびが出るようなノロい射撃じゃ、この私は捕まりませんことよ?」
「フン......」
床を、柱を、天井を。ありとあらゆる場所を足場にして、カナンは自由に翔ける。
そんな一挙手一投足を、極限まで高めた反射神経で察知する永琳。
眼球は忙しなく上下左右へ動き、片時も見逃さない。
ピシャンっ
構えられた矢がまた一本放たれる。
それはまさにカナンが永琳の元へ飛んできたタイミング。
カナンの飛ぶ方向と、永琳の矢の軌道がピタリと重なった。
天才的な頭脳で計算され尽くした絶好のチャンスだった。
「私も無策でなくってよ」
矢が目前へ迫るも、稲妻がスパークして軌道がズレる。
肉体へ纏った静電気による、自動防御システムをすでにカナンは用意していたのだ。
矢は仮面を僅かに掠め、柱に突き刺さるのみ。
「はああああっ」
「うっ...」
すれ違いざまに振り抜かれるシャフト。
永琳も両腕を組んで防御するも、骨が軋むのを痛感していた。
すぐに二撃目が飛んでくる。後頭部を狙った棒の打撃。
咄嗟に片手で受け止め、空いた手で弾幕を張る。
「だから当たらないと」
ベキッッ
ポールダンスよろしく床に突き立てたシャフトで頭上に退避し、回転の勢いを利用して蹴りが叩き込まれる。
何度も攻撃を受けていた片手の骨が限界を迎え、とうとう折れてしまう。
「そろそろ終わりにしようかしら」
カナンはシャフトのダイヤルを回すとボタンを押して、必殺技の構えを取る。
棒に紫電の刃が形成され、鎌へと変化していく。
一方永琳はようやく折れた腕が治りきったところ。
カナンはぎゅっと身を屈め、ついに走り出した。
「『サンダー・ファング』」
永琳の回避は間に合わず、右手は切断され、腹が裂けて背骨だけで繋がっているようだった。
そのままもう一振り。左太ももと右膝が体から分離する。
両足を失えば自由落下するのみ。しかし、カナンは最後に上段から振り下ろし、左胸に深く刃が突き刺さる。
雷の刃だ。内臓は焼き焦げ、内側から激痛が襲う。早く刃が抜けて宙吊りの状態から解放されれば、どれだけ楽だろうか。
「蓬莱人ってこれでも生きてるのかしら?」
「ぐはああっ」
カナンが体を傾け、紫に光る右足で蹴り込んだ。
骨を突き破って顕になる紫電の刃。
凄まじい蹴りの衝撃は、永琳を二つ隣の部屋まで吹っ飛ばした。
「あなたって月の頭脳と言われるくらい頭が良いのでしょう? だったら私に通用する武器でも作っておくことね」
襖を鎌で切り開け、飛ばされた永琳の元へ歩いて行く。
カナンはかつて和徒や鈴仙と戦ったが、最も得意なのは屋内の狭いフィールドだった。
そのスピードの速さとリーチの長さ。この二つの長所を最も活かせる自分は無敵だという自負すらあった。
とうとう永琳が吹っ飛ばされた部屋にたどり着いた。蓬莱人である彼女を殺すことはできないが、研究成果をめちゃくちゃにすることはできる。
たどり着いた先は何かの研究室のようで、あちこちに機械の道具が置いてある。
そして、その土煙の中、一人の少女が弓矢を構えて佇んでいた。
すでに四肢が完治した月の頭脳。八意永琳。
弓矢は永琳が愛用しているものと異なり、無骨ながらも赤と青に黒が差し込まれたもの。
初めからカナンに一方的に攻撃されていたのは演技であった。奇襲を受けた永琳には、カナン達のような眷属への特攻武器が手元になかったのだ。だからそれを回収しなければならず、あえてやられたフリをして反撃の機会を伺っていた。
術中にはまっているとも知らずカナンは罠に見事に罠へとかかっていた。
「これがあなたのお望みの武器よ」
「しまっt」
すでに矢は解き放たれ、カナンの元へと突き進む。
場所は屋内。当然逃げ場は無し。
光が爆ぜる。
「神宝『蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-』」「『エンバー・ストライク』」
空亡の元へ降り注がれる弾幕。
深い闇が展開されたかと思いきや、弾幕ごと飲み込んで無に帰する。この繰り返し。
「全く埒が開かないわね」
「うっ、運動不足で流石に疲れたわ」
疲れを見せ始める鈴仙と輝夜。
永遠亭へと至る竹林の出口にて、この二人が偶然相手したのは幸運だったと言えるだろう。
今の空亡を相手に1対1で善戦できる者など、今の幻想郷ではごく一握りだろう。
しかし、この二人には欠点もあった。
接近戦を好む空亡にアウトレンジで戦えるのは利点だが、問題は決定打が無いこと。
現に今までの攻撃は全て闇の防御で去なされている。
最初こそ夜が明けて闇の力が弱まるまで耐えようと考えていた二人だが、空亡が空を瘴気で覆い始めてしまった。これでは、闇の力は弱まるどころか強くなるばかり。
だから二人は待つことにした。彼の登場を。
「どらあああああ」
闇夜の竹林に轟く怒声。真紅のオーラを纏う人影が飛び出してきたかと思えば、闇の中心にドロップキックをぶちかました。
この奇襲をモロに喰らった空亡は大きく吹っ飛ぶ。
頭部に生えた2対の角。両手首に装着された腕輪と鎖。矢印のマーク。
「待たせたな、鈴仙、輝夜」
鬼の姿となった主人公が駆けつける。
◼️TO◼️M ◼️命◼️ 文