遠距離恋愛中の元担当トレーナーが妹を担当することになって情緒がやばい誘導ウマ娘の話   作:CK/旧七式敢行

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また会う日まで

ゲートが開き、11人のウマ娘がややばらけたスタートを切った。

『スタートしました! あっとヤマニンマリーンは後方から』

もう一息のスタートでゲートを出た妹の姿にヤマニンアピールは表情を曇らせる。

「うっ、出が悪い」

「二千だし大丈夫だって」

「私の悪いところが似ちゃった……」

ラッキーブレンがフォローを入れるが、ゲート再試験を受けたことのあるヤマニンアピールは自身の苦い経験を思い出してしまう。

『3コーナーの坂を下っていきます。先頭は変わらずチョウカイマンナ、二番手にタニノクリスタル』

勝負所に入り、実況の声にも熱がこもる。

「動いたっ!」

後方にいたヤマニンマリーンは3コーナーで一気にポジションをあげていく。

「早い……いや今かっ!」

マリーンは一人、二人とウマ娘達を追い越しながら先行勢を射程に捉えた。

『直線に出ました! 先頭は変わってタニノクリスタル。ここでヤマニンマリーンが来た!』

『ヤマニンが並んで一気にかわしたーっ!』

レース前半でしっかり脚をためていたヤマニンマリーンはタニノクリスタルを楽々かわす。

『ヤマニンマリーン強いっ! 2バ身、3バ身引き離す!』

粘り強く脚を伸ばしたヤマニンマリーンは後続を引き離してゴール板を駆け抜けた。

『ヤマニンマリーン、見事デビュー戦を勝利で飾りました! 2着タニノクリスタル、3着はイブキファイブワンです』

「やったっ!」

「おおぉーっ! おめでとうアピちゃん!」

『ヤマニンマリーンは5月3日生まれ、姉は大障害ウマ娘のヤマニンアピールです』

「呼ばれちゃったねぇ『お姉ちゃん』」

ヤマニンアピールは予想外のタイミングで自分の名前を呼ばれて縮こまる。

「な、なんかむずがゆいです」

「かわいい……」

『確定までしばらくお待ちください』

お約束の言葉で締めくくられ、モニターが他場の中継に切り替わると控え室に備え付けの内線が鳴った。

「ヤマニンアピールですか? はい、居ますけど」

内線をとったラッキーブレンはヤマニンアピールの方に目を向ける。

「私ですか?」

「課長がウィナサ行っておいでって。あとでお礼言ってね」

「っ! はい!」

気を利かせた上司の計らいに感謝しながらヤマニンアピールは立ち上がる。

地下通路に蹄鉄の音を響かせながらヤマニンアピールはウィナーズサークルに急いだ。

 

 

点滅していた着順掲示板の表示が「確定」に変わる。勝ちウマのヤマニンマリーンに続いて、トレーナーの富岡が姿を現す。

「今来たウマ娘って誰?」

「誘導ウマ娘だけど……さすがに名前が見えないな」

さらに小走りでウィナーズサークルにやってきた真っ赤なジャケットの芦毛のウマ娘にファン達は顔を見合わせる。

「何かあったのかな」

「どけ、望遠レンズはこういう時に使うんだよ」

巨大エビフライめいた白い望遠レンズを向けたファンが胸元のネームプレートを読み上げる。「ヤマニン……ヤマニンアピール?」

「マリーンのお姉ちゃんじゃん!」

「マジ!?」

「姉妹でウィナサとか一生の思い出になりそう」

広がるざわめきをよそに、ヤマニンアピールは妹とトレーナーに並んで記念撮影に臨んだ。

レース終了後のウイニングライブが始まると、ステージの中央に立ったヤマニンマリーンに合わせて水色のペンライトが波打つ。

関係者席から応援するヤマニンアピールとトレーナーも水色の海原の一部に混じっている。

「I believe、夢の先まで」

ポーズを決めたマリーンに拍手の波が押し寄せる。

デビュー戦のウイニングライブでセンターに立つーーアピールも含めた多くのウマ娘が憧れる夢をマリーンは見事に叶えた。

 

 

「では、マリーンのデビューと初勝利を祝ってーー」

口上ともに富岡がビールジョッキを掲げる。アピールはカシスオレンジ、マリーンはにんじんジュースのグラスを掲げる。

「「「乾杯!」」」

グラスとジョッキの音を響かせ、三人の祝勝会が始まった。

「本当におめでとう、マリーンもトレーナーも」

「マリーンにはもう言ったけど、やっぱり仕掛けどころが良かったな。アピールが障害勝った時を思い出したよ」

遠い目をするトレーナーにアピールも二人でトゥインクルシリーズを駆け抜けた日々を思い出す。

前任のトレーナーの言葉通り、富岡は彼女の輝ける場所を見つけて導いた。

「わたしも早く飲めるようになりたーい! お姉ちゃんの一口ちょうだい!」

一人だけにんじんジュースを飲んでいたマリーンが二人の世界に割って入る。

「だーめ、未成年飲酒なんてさせたら私とトレーナーがクビになっちゃうでしょ」

マリーンが手を伸ばすよりも早くアピールがカシスオレンジの入ったグラスを取り上げてこれ見よがしに飲む。

「むーっ! お姉ちゃんの意地悪!」

口をとがらせるマリーンの隣に座るトレーナーが苦笑する。

「それで、マリーンの次のレースはいつですか?」

アピールの質問でトレーナーの顔つきが真剣になる。

「まずはトレセン学園に戻って状態を見てからだが、次に西へ来るときは阪神開催の時期だな」

マリーンはデビューが遅くなった分、ここからクラシックロードに乗るにはハードなスケジュールになる。

「じゃあ桜花賞!?」

ティアラ路線の最初のタイトルを挙げたマリーンは目を輝かせる。

「デビューからいきなり桜花賞はちょっと厳しいな……もう一勝してファンを増やして挑戦だな」

「ほんとに? じゃあ次のレースも頑張る!」

鼻息荒く闘志を燃やすマリーンにアピールが釘を刺した。

「でもマリーン、千六で出遅れは致命的だからね」

「うぐっ……それは……ゲート練習する……キライだけど」

さっきまでの勢いから一転して尻すぼみでごちる。

「スタートで言ったら大障害のアピールは完璧だったな」

「あーまた始まった! トレーナーさんすぐ大障害の話するんだから。お姉ちゃんからもなんとか言ってよ~! 耳にタコができちゃう!」

「お待たせしました、枝豆とポテトフライにタコの唐揚げです!」

大げさに耳を手で隠すマリーンの前にタコの唐揚げが置かれ、あまりのタイミングの良さに思わず三人とも吹き出した。

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、ヤマニンアピールは東京に帰る二人を見送るため入場券を買って京都駅まで二人を見送りに来た。

ヤマニンマリーンはルームメイトのためにお土産を買いに行くと言って売店に駈けていった。じっと自分を見つめる視線に気づいた富岡が「おいで」と言うと迷わずアピールはその胸に飛び込んだ。

「トレーナーさん、お待たせ! あれ~、お邪魔だったかな?」

「ぴゃっ!?」

豚まんの紙袋を持ったヤマニンマリーンに声をかけられ、トレーナーに抱きついていたヤマニンアピールは慌てて飛び退いた。

「お姉ちゃん、そんな声出るんだ……初めて聞いた」

マリーンは驚きと呆れの混じった視線で気まずそうなトレーナーと姉を見比べる。

「それじゃ、またな」

「はい」

真っ赤になって目をそらすヤマニンアピールの頭を撫でてトレーナーはスーツケースのハンドルを握った。

『まもなく12番線にのぞみ東京行きが参ります』

スマートなシルエットの新幹線がホームに滑り込んでくると、大荷物を抱えた乗客が慌ただしく荷物をまとめる。

「いつまでメロドラマやってんの二人とも! じゃお姉ちゃん、次も絶対誘導してね!」

「うん、マリーンもがんばって」

ヤマニンアピールは発車ベルが鳴り、二人を乗せた列車が見えなくなるまでホームで見送っていた。

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