Pokémon Serreal   作:桃野

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11.火の用心-⑤

 結局、家に着いたのはは19時前。夜もすっかり更けた頃。

 最後まで残った航大も18時前に迎えが来て、妹の真央と一緒に帰宅した。

 そこからさらに一時間弱経ってから、やっと俺は下校できた。

 

「悟、手洗った?」

「洗った」

 

 現在時刻は夜の20時過ぎ。とにかくお腹が空いたということですぐに夕食になった。

 真正面には、スーツを脱いで茶色の部屋着に着替えた母さんが座る。

 学校では校長。家出は母。鍋田薫。俺の、鍋田悟の母親。

 食卓に並ぶのは白米と、冷凍の鶏肉を照り焼きにしたものと、作り置きのひじき煮に、味噌汁。味噌汁には油揚げと、小松菜が入っている。

 

「いただきまーす」

「いただきます」

 

 手を合わせて、箸を取る。食事中はテレビをつけないのがルールで、母さんは食事中喋るのをそこまで好まないから必然的に静かな食卓になる。けど珍しく、母さんから口を開いた。

 

「今日は遅くまで待たせちゃって、悪かったわね」

「別に、わかってたし。暇つぶしもあったから」

 

 校長、つまり柿坂中学の責任者である母さんは生徒教職員全員が帰るまで学校に残らなればいけなかった。そして、俺の保護者は当然母さん、校長である鍋田薫。必然的に帰りは遅くならざるを得ない。

 ただ別に、終盤まで航大が居たし、言った通り暇つぶしもあった。鞄を手繰り寄せ、中から一冊の本を取り出す。タイトルは『ポケモンショックから15年 共生する社会』。小論文の課題と合わせて、母さんから手渡された学術書。

 

「これ読んでたら思った以上に時間潰れた。かかったともいうけど」

「どう? 内容、わかる?」

「全然わからん。辞書引きながら頑張ってる」

「そう。勉強になっていいじゃない」

「……もっと簡単なやつないの?」

 

 訊かれた母さんは、味噌汁を一口含んでから答える。

 

「その本はね。貴方達のような年代の子に向けて書かれたものなの。内容の難しさどうこうではなく。冒頭にもそう書いてあったでしょう」

「ふーん」

 

 確かに、『ポケモンショック以降に生まれた子供が~』みたいなこと書いてあった。内容的にとても信じられなかったが、本当に中学生向けの本だったらしい。正直、内容は俺にかなり難しい。難しくて理解できず、現実逃避をしているところを九重に怒られた苦い思い出が蘇る。

 そういえば、それは九重に怒られたのは藤次に待たされていた時のことだった。その藤次は今何をしているのか。

 

「ところで、今日は藤次来ないの?」

 

 普段、家が近いこともあって藤次がよく飯をたかりに来ることがある。よく上司の家に上がり込めるなと思うけど、多分その辺の常識はあいつには通じない。

 今日は色々あったし、聞きたいことも言いたいことも山ほどある。

 

「今日は来ないわよ。今頃、御殿場に着いた頃かしらね」

「ご、御殿場? 何でそんな遠くに」

 

 御殿場は県内ではあるけど、ここから行くなら『関所』を通ることも考えればどんなに飛ばしても3時間はかかる。16時頃リザードンを捕まえて、そこから直ぐに向かうと、確かに今頃やっと着くかどうかだ。そんなところにまで行く理由が分からない。

 

「リザードン位大型のポケモンを検査したり収容できる施設がこの辺りにはないの。一番近くて御殿場の基地らしいわ」

 

 航大はJPアラートについて割と詳しく教えてくれたが、事後処理までは聞いていなかった。そういう手続きがあるんだということは、とりあえず覚えておくことにする。

 

「そうなんだ。あれでも、水研は? あそこならそういう設備ぐらいありそうだけど」

「知らないけれど、今は埋まっているんじゃない。例のヒトカゲが保護されているんでしょう」

「あー、確かに」

 

 確かにとは言ったものの、それでもただの民間人の藤次がそこまでしなければいけない理由が分からない。航大が言っていたように、そこまでしても藤次にお金を受け取る権利は発生しない。他の誰かに、せめて御殿場行きぐらいは任せることはできなかったのだろうか。

 それとも、何か隠し事か、企んでることでもあるのだろうか。

 ……わからないことがあるなら、人に聞いてみるのは効果的な方法の一つだ。

 丁度目の前に、藤次の上司が座っている。

 

「ねえ」

「うん?」

「母さんはヒトカゲとかリザードンとかの話を藤次から聞いたりしてないの?」

「ディベートを実施するという話だけは聞いたけど、それだけね」

「……そっか」

 

 空振りか。まあ、仕方ない。

 気を取り直して大きめの鶏肉を頬張る。旨いような、味気ないような。

 

「悟」

 

 何か落ち込んでいるとでも思われたのか、母さんに呼び掛けられる。

 

「うん?」

「今日のリザードンに、ヒトカゲ。何か無関係とも思えないし、爪木君には考えがあるんでしょうね。考えなしに動く人じゃない。というより、思惑無しに動ける人じゃないもの」

「まあ、俺もそう思うけど」

「でしょう。なら、あれこれ考えるよりも思いついたことをやってみなさい。……大丈夫。あなたの敵は、あの教室にはいないからね」

「……うん」

 

 それで会話は一区切りした。

 あれこれ考えているうちに、ご飯を食べ終わる。

 

「御馳走様でした」

 

 今日は長い一日だった。それでも、まだ終わっていない。落ちこぼれには、こなさなければいけないノルマがある。食器を重ねて、水面台に持っていってから、ひらっきぱなしの鞄に手を突っ込んで、参考書を引っ張り出す。

 タイトルは、『ポケットモンスター飼育者免許 レベル3』。

 

「……今日ぐらいは休んでいいわよ」

 

 広げた参考書を見て、同じく食べ終わって食器を片付けようとしている母さんが穏やかに言う。

 確かに、今日は色々あって疲れた。ディベート、JPアラート。何時間も体育館で待ちぼうけだったことも含め、長い一日だったと思う。少し考えて、首を横に振った。

 

「いい、やる。藤次がいないのにさぼったら、後で馬鹿にされる」

 

 それを聞いて、母さんは小さく笑った。

 今、藤次は御殿場にいるらしい。柿坂からは遠い。それでも明日、藤次は明日何でもない顔をして学校に来るだろう。航大みたいにはっきりとは言えないけど、そう確信があった。

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