女の子のすすり泣いている声が聞こえる。その声に導かれるように目を開く。目の前は黒一色でどこまでも続いているかのような果てのない闇だった。ルシファーがつぶやいていたことを思い出す。「心象風景投影式展開」あまりにも現実離れしているが話の流れ的には今この場はメグミちゃんの心の中らしい。急に他の人の心の中にブチ込まれたことがある人なんてメンタリスト位なモノだろうが。
それはともかくとして泣き声に向かって歩を進める。歩を進めるとは言ったものの自身の足の感覚はなくなぜか前に進んでいるという感覚のみが存在するという不思議体験であった。1分程かはたまた1時間だろうか、時間の感覚も無くなった世界で足のないタイプの幽霊はこんな感じで動いているのかと謎の感慨に耽りながら歩き続けると、どうやら目的地として設定した声の元に辿り着いたらしい。
その子は小さな女の子だった。まるで自分のせいでとんでもない事をしてしまった事を悔いることでしか許されないと思い込んでいる様な小さな女の子だった。というか普通にロリメグミちゃんじゃん。何故退行してんだ?
「どうしたんだ?何がそんなに悲しいんだ?」
なんか喋り出しがハチャメチャに不審者になってしまったが致し方がない、俺はあまりこういう事案に対処したことが無いのだ。アヤは勝手に泣き止んで自分を泣かせた相手を絶許対象として認定してボコボコにするタイプだったし。
「私ね、私を大事にしてくれた人達に…酷いことしちゃったんだ…。」
「その酷い事ってのは一体どんな事なんだ?ものを盗ったりしたのか?はたまた喧嘩でもしたのか?」
「言いたくない…。」
ほぉーう、中々に強情なお嬢さんだ。とはいえこのまま話さないってんならこっちにも考えってもんが有るんだが?
「もし君が君の大切な人を傷つけてしまったって言うならそれは大きな間違いだ。君は今回どこまで行っても被害者でしかない。悪いのは全部あの単細胞のアホなんだから。」
「でも!私がミカエルを信用しちゃったから!こんな事になってるんだもん!」
ずいぶんとまぁ自責思考が強いことで。でもこっちも私は悪くないって開き直ってもらわないととんでもない事になるもんでね。いやでも私は絶対に悪くないって言ってもらうぞ。
「そういうが君が抵抗できる要素ってあったか?君は何も知らなかった。こんな事態になるなんて夢にも思っていなかっただろう?そしてこんな事になる様に仕組んだのは全部アホだ、だから君は悪くない。」
「疑わしい所なんて一杯あった!急に来て「君は世界を救える魔法少女なんだよ。」とか!夜中に魔物を捕まえたからここに来て欲しいとか!全部が全部あんまりにも急で所々設定が矛盾してたりとかさっきと言ってた事が急に真逆になったりしてたから!私に疑う気持ちがちょっとでもあって、アヤちゃんから来た「最近悪魔とか天使とか気になる?」っていう連絡にも正直に答えてたらこんな事にはならなかった!」
「ちょっと擁護出来なくなってきたな…。というかアヤあんまりにもド直球すぎだろ、他の言い方なかったのかよ。」
うーん確かにこうなると0:10は厳しくなってくるかもしれないですねェ…。とはいうものの事の真偽なんざどうでもいいのだ。今ここで大切なのはどうにかして彼女に立ち直ってもらう事。だから執着していた事を会話に織り交ぜろ、思考を回せ、どんな手を使おうが今は絶望に沈んだ女の子を掬い上げてミカエルの手元から逃がさなければならないのだから。
「まぁまず聞いておきたい点としてはどうしてアレを信じようと思ったのかを聞いておこうか。なんでなん?」
「な、なんでって…ミカエル様が偽りの姿を使ってでも顕現なされたのが一番大きいかもです…。あとはその、テンションが上がってしまって…。正常な判断が出来ていなかったかもしれません…。」
「ふー…(溜息)。言動でこいつやばいな…とはならなかった形でよろしいでしょうか?」
「え、えーと…よ、よろしいと思います…。」
「あー、なるほどね。まぁ人生そういう事もありますよ。えぇはい。それでは次の質問なのですがあなたが今現在抱いている罪悪感のうち一番比重が大きいのは何なのかお伺いしてよろしいでしょうか。」
「あの…なんで面接みたいになっているんでしょうか…。」
「何か疑問点がありますでしょうか?」
「いえ、その、何でもないです…。ひ、比重ですか…。一番大きいのはやはり両親の絆を自分で砕いてしまった事かと思います…。アヤちゃんには申し訳ないんですけど…。」
「いえいえ、大事なものは人それぞれですからね。むしろ順位付けをさせてしまったこちらが申し訳ないことをしました。つきましてはその理由についてもお伺いしてよろしいでしょうか?」
いつの間にか何も無かったはずの空間に面接机とパイプ椅子、そして横に座っていたはずのメグミちゃんは対面に移動してリクルートスーツを着ていて年も幼女から初対面の時の様なJKの姿になっている。なるほど、これが心の中特有の印象が全てという事だろうか、当人のイメージが全ての世界と形容するのが一番いいだろうか。ともかく今俺は面接官として心の問題を解決する役目を背負っていると考えればいい。どういうこったよ。
「理由…理由ですか…。少し考えさせてください…。」
「ええ、もちろん時間はたっぷりありますから。ご自身が納得する答えをお聞かせください。」
そう言い切ると一面の闇だった周囲に映像が投影され始める。まるでプロジェクションマッピングだぁ…。全ての映像が音声付でいっぺんに再生されてもなぜか理解できるという再現不可能な代物だが。
『メグミは将来すごい女の子になるぞ!末は博士か大臣だな!』
『アナタったら、メグミはこんなに可愛いんだもの。きっと大女優か超売れっ子アイドルになるわよ。』
『そうかもしれんな!…だが何でもいいな!この子がなりたいものになってくれれば!』
『フフッ…そうね。メグミ、何でもいいから幸せになってね。』
何も知らないから幸せだった。
『お母さん、お父さんごめんなさい。コンクール…2位だった…1位になりたかったのに…。』
『メェちゃん…どうして泣くの?貴方はとっても素晴らしい事をしたのよ?2位なんてって、とってもすごいじゃない!お母さんは今とっても嬉しいのよ!貴方の出来る事が増えているのが。だからどうか泣かないで?お母さんまで悲しくなっちゃうわ?』
『そうだぞメグミ!お父さんはメグミの演奏でとんでもなく感動したんだぞ!とっても凄くて心に響く演奏だった!だから泣かないで良いんだ。メグミは今日凄い事をしたんだ!お父さんはいま、メグミの事が誇らしくって堪らないんだよ。』
『ごめんなさい…。ごめんなさい…。』
あの時はどうしても金色のトロフィーが欲しかったの。だってこんなに大好きなお父さんとお母さんには一番キラキラできれいなのをあげたかったから。
『どうしたんだメグミ最近元気がないじゃないか。父さんに話しにくい事なら母さんに…。』
『うるさい!話しかけないで!』
このころから学校に行くのがしんどくなった。クラスでうまくいかなくなって楽しい事が無くなっていった。
『メグミ?貴方の教科書が無くなっているって皆瀬さんから連絡があったの…。学校に行きたくないなら行かなくても…。』
『うるさい!!』
とうとう物が無くなり始めて、学校に行っても笑われているような気がして絶対に味方の筈の二人すら信じられなくなって。
『てめえらなにクソ陰湿な事してんだよ!どんだけ性根腐りきってんだカスどもが、ムカつくんだよ!ぶちまわすぞォ!!』
『ちょ、御影さヘグゥ!!』
どうしようもなくなる寸前で、許せないって拳を振り上げてくれる人がいた。
『御影さん…その、ありがとうございました!』
『え、あぁ、うん。…ごめん誰だっけ。』
『お、音無 恵です。助けていただいてありがとうございました!!』
『あーそうなの、うん。』
『あと、不躾なお願いなのですが…その…私と友達になってください!』
『ん?…まぁいいよ。メグミちゃんね、じゃあこれからよろしく。』
そしてその人は友達になってくれた、例の事件の影響か話しかけてくる人は減ったけど。
『お父さん、お母さん、私学校でいじめられてたんだ。』
勇気を出して発したその一言で滝のように涙を流しながら悲しんでくれた。
『でももう大丈夫。私ねすっごく言い友達が出来たんだよ。』
そして私はようやく前に進み始めた。恵まれていた。両親から貰った名前の通りに私は恵まれすぎていた。だから私はこの恵まれた環境がずっと続くと思い込んでいた。だから罰が当たったのだ。私がこんなに恵まれたのはその分だけ私が成長していつか誰かにそれを返すためだと信じていたのに。
どうして、私は今こうなっているのだろう。
という風なモノを脳内に流し込まれて発狂するかと思ったが何とか平静を取り繕う。というかアヤなんかキャラ違うくない?あんな真正面から不良少女って感じじゃなかったじゃん。キャラ変しすぎでしょ。
「私が罪悪感を抱いている理由、それは与えてもらったものを私が台無しにしてしまったから。全部私が駄目な子だったから。私があそこにいなければ、私じゃない誰かが私だったらもっと全部うまくいっていたからです。」
…あまりにも重い…!