用務員と七大罪   作:三水 京

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第6話

コンビニで下着を買い公衆トイレで履き替えて人のいない喫茶店に入る。受けた精神的なダメージは甚大だが確かに収穫はあった、あったのだ。そう思わなければやってられない。落ち着くためにコーヒーを一口すする、美味い。この苦みとほのかな酸味が心についてしまった傷を優しく撫でる。…ああ、俺はまた一つ途方もなく得難い経験をしたのだな…。

 

「その…なんだ…すまない…。事前に安全性の面でテストしなかった私が悪かった…。まさか…っぷwまさかwこんな事になるとは…w」

 

お前も「敵」ゆんか!?「敵」ゆんねぇ!分かった今すぐ出てこい輪ゴム括り付けて夏祭りの露店で売ってる翌日には空気抜けて悲しい事になるヨーヨー風船みたいにしてやるゆんねえ!?

 

「いや、あまりにも滑稽じゃないかw精神的、肉体的に昂れば出てしまうとは知らなかった私が悪いといえば悪いがそれにしても成体の雄があんなに情けない声で鳴くとはwちょっと…w思わなくって…w」

「人の性の事を嗤うのは許されざる悪徳なんだぞ!それに出ちゃったもんは仕方ないだろ!出ちゃったんだから!!」

 

とんでもないことを思考しているのは重々承知ではあるがこれは俺の尊厳と名誉に掛けてこの舌戦だけは勝たなければならない皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ(尊厳の回復)

 

「とんでもなく面白いものが見れてしまったがそれはそれとしてこれからの話をするとしよう。あまり引っ張るのも協力者である君に悪いからね。」

 

刃を収めるというのか…ならば致し方あるまい…。(武人)現実逃避がてらろくでもない事ばかり考えてしまっていたがこれからの話が肝要なのだ。情けをかけられた形ではあるがこれはもう仕方がない可及的速やかに忘れるように努力することしか俺に出来る事はないのだ。

 

「さて、君の犠牲もあってつつがなく君が催眠と呼んでいる術式の行使は成功した。その結果、あの学校には少なくとも5人は依り代に成りうる存在がいると断定して良いだろう。ここまでいるのであればもう連中もあの学校なる施設を狩場として認識してもおかしくはない。私が君と巡り合えたのだって確率的には天文学的な話なのだから。あいつらとて時間は無駄にはしたくないだろう、そこまでには向こうも切羽詰まっているのだから。」

「時間的な制限っていうけどそれは何?そんなにお前のいた世界って滅びかけてんの?」

「任期的な話だよ。政治的な成果を得られなければ今期で退任が示唆されているしね。」

 

言っただろう?君たちはエネルギー問題解決の糸口なんだと、とファンシーなマスコットの口からあまりにも生臭い事実が出てくるのはいい気分がしない。やはりどこも世知辛いのだ、俺の尊厳を傷つけた罪はその身で償って貰う事にするが。

 

「さて、これであの学校に潜り込めればいくらか成果は見込めそうだ。そして福音を使ったことにより私の生存が連中に察知されたというのもな。」

「え、あれって自分から居場所ばらすのに等しかったの?ってことは昨日みたいに襲撃される可能性がやっぱりあるって事?」

「致し方ないだろう。何度も言うがありとあらゆる面でこちらは向こうに負けているんだ。これくらい大胆な手を打たなければ勝つ可能性なんか微塵もない。今だけなんだ、あいつらが自分の手駒を持っていないだろうと言える時期は。あっちに手駒がいれば単純な物量で押し負ける。君の身柄も公的機関に拘束されてしまえばこちらの打つ手は無くなってしまう。そうするためにまずは一人こちら側に引き入れなければならない。」

「とはいうが一人依り代が味方についてくれるだけでそんなに話が変わるのか?いや、三流呼ばわりの俺ですらあんな大それたことが出来たんだからもっとすごい依り代様なら何とか出来るかもしれないけどさ。」

 

そう疑問を脳内で提起するがため息が聞こえてくる。そんなにわかってないような事質問したのかよ。

 

「依り代が一人こちらについてもらえるだけで先日襲撃してきた目覚めを待つ者…卵の天使といったほうが君には通りがいいかな?ああいった雑魚が湧くのをシャットアウトできる。結界を張ることによりあちらの進行の手を遅らせることが出来る。その間にこちらは残り五人を探す。先手さえ打ち切れれば価値は大きく近づくというわけさ。その代わりに先手を取られたらほぼ間違いなく打つ手が無くなるのがこの作戦とも言えない作戦の欠点だね。」

 

長々と御高説頂いたが要は単純明快、依り代をどちらが先に引き入れるかというレースな訳だ。だがそれには重大な問題がある。

 

「で、俺はどうやって学校に潜入すればいいんだ?」

「そこなんだよねぇ…。」

 

そう、あまりにも単純な問題、どうやって学校に堂々と入れる身分になるのかという作戦の大前提の部分で俺たちはどうしようもないくらいに詰まっている。ここをどうにかしなければ依り代の子と接触する機会がない。

俺の頭で考えてもこの手の問題には外部からの情報がなければ光明もなにも見えないためスマホでつついと精華院の採用ページを見る。教師の募集はしているがもちろん教員免許なんてもんはないのでこちら側からはいる手段はない。

となればと、求人サイトにページを変え思い浮かんだ単語に精華院の文字を付け加え検索ボタンをタップする。

 

「当たり」

 

そう、声が漏れてしまうのも致し方がないだろう。年中募集しているとは限らないのだから。しかも色々と条件がいい、給料はほとんど今と据え置きで残業ほぼなしでしょ?こっちのほうがいいじゃんマジで。各種保険も取り揃えてるし福利厚生の一環で家賃補助までついてる、マジでいい求人じゃん。

 

「中に入れる目途が付いたのかい?だとしたらどんなのか私に説明してくれたまえよ。」

 

そうるしふぁーが急かしてくる。確かにこればかりは普段無神論者なのではないかとかっこつけている俺も神様を信じたくなるほどの都合のよさだ。精華院の名前で検索をかけてみるとどうやら前任者が下着を盗んで首になったらしい。申し訳ないが感謝させてもらうぜ。

 

「ルシファー…俺用務員さんになるわ。」

 

高らかに俺は学校の用務員さんになる事を告げた。そう、用務員さんである。学校に常駐している、生徒に話しかけてもある程度は不思議ではない、学校内を歩き回っても不審ではないという三つの点であまりにも今回の騒動を解決する立場としては適しているのだ。これはもう決まった。これ以外の回答は俺の頭では考えつかない。

 

「さて、あとは面接だが…今日が木曜日だから出来るのは最短が月曜日らしい履歴書持って乗り込んでくれってめっちゃいやだな。」

「その、今更だが大丈夫なのかね君は?」

「何がだよ、今の職場の事か?大丈夫だろ仕事めちゃめちゃ押し付けられてるからむしろせいせいするしな。」

「あ、そうなんだ…じゃなくていいのかい?君の人生を私は今めちゃめちゃにしようとしているんだよ?」

「なんだよ、そんなことか。大丈夫だよ。もう部屋もめちゃめちゃになってるし。もうどうのこうの考えるのもやめだ。」

 

目を閉じて自分の中にいるルシファーを意識しながら言葉を紡ぐ。

 

「お前らにとってとるに足らない存在だった俺たちを憐れんでそんな事は許されないって主流派に楯突いてくれたんだろ?仲間も失って、存在を圧縮なんていう聞いただけでとんでもない真似をしてこっちに来て俺達人類を助けようとしてくれた。…正直な話どこまで本当なのか分からない。あの卵どもだってお前のマッチポンプなのかもしれない。情報が足りないからお前の言う事をすべて信じる以外にとれる手段がない。だって俺が信じなくってなにも行動をしなかったら人類が終わった後に信じておけばって後悔すると思うんだ。そんな無様な真似はしたくない。だから事の真偽はどうであれお前をいったん全面的に信じてみることにした。」

 

心の中から息をのむ音がする。裏切られ、傷ついてばかりの旅路を進んできたのだろうからせめて俺くらいはこいつの言う事を信じてやりたい。その割には初手催眠から始まるファーストコンタクトは最悪だったが。

 

「だから俺を頼ってくれ。少しでいい、お前が出来ない事を俺がするから。」

「わかったよ、我が契約者。私の父母から賜ったこの名に誓おう。私が今まで君に語った事にただの一つも嘘偽りは無いと。」

 

真摯な声音が脳に響く。これで嘘をつかれていたら大した役者だと思いながら俺は言おうか言うまいか悩んでいた言葉を遠慮がちに吐き出した。

 

「それとこれはアレな話なんだけど…面接の時に催眠使って確定合格にならない?」

「さっきまでの感動を返してくれよボケナス。」

 

いや、ここの面接人類の存続がかかってるんだって。

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