君の背を追いかけて   作:ハーヴァ

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アイドルへの第一歩

詩音は、最近ふとした瞬間に心が重く感じることが増えていた。姉・凛音がモデルとして輝き続ける姿を見ていると、誇りに思う反面、どこかで手が届かない壁を感じていた。姉が忙しくなり、次第に二人で過ごす時間が少なくなっていくのが、どうしても寂しくてたまらなかった。以前はどんなに小さなことでさえ一緒に笑い合い、過ごしていた日々が、今では夢のように遠く感じられた。

 

思い返せば、姉をモデルの世界に薦めたのは自分だった。あの時は、姉の素晴らしい美しさをもっと多くの人に見てもらいたいと心から思っていた。姉がトップモデルとして活躍する姿を想像することが、未来への希望であり、姉と一緒に歩む道だと信じていた。しかし今、それがこんなにも寂しい結末を迎えることになるとは、あの時は夢にも思わなかった。

 

「お姉ちゃん、最近全然会えないよ…」詩音は心の中で呟く。言葉に出せないその寂しさを、どこかで押し込めてしまっていた。姉が忙しいのは当然だと思っていた。でも、どうしても胸の中でわき上がるこの感情は抑えきれない。

 

その日は少しだけ心を落ち着けようと、詩音は街を歩いていた。あてもなく足を進めるうちに、ショーウィンドウに映った自分の顔にふと目が留まった。黒髪が風になびき、少しだけ目を細めてその顔を眺める。普段は鏡に映る自分の姿に何とも思わなかったが、その瞬間、少しだけ違う感情が込み上げてきた。自分が目指すべきもの、そして自分が今、何をしているのか。その問いに、答えを出すにはまだ少し時間がかかりそうだと思った。

 

その時、背後から突然声をかけられた。「すみません、ちょっとお話ししてもよろしいでしょうか?」

 

振り返ると、スーツ姿の女性が立っていた。しっかりとした印象のその女性に、詩音は少し警戒心を抱きながらも、心のどこかで気になる存在に感じていた。彼女の目は、どこか真剣で、そしてどこか優しさを感じさせるものだった。

 

「あなた、どこかで見たことがありませんか?」女性は不思議そうに言った。

 

詩音は目を見開いて答える。「私ですか?」

 

「はい、あなたの目の輝き、そして自然な笑顔がとても魅力的です。」女性は続けた。「実は、アイドルとして非常に才能があると思いました。」

 

その瞬間、詩音は驚きとともに、内心で一瞬の戸惑いを感じた。アイドル…自分には無縁の世界だと思っていた。それでも、心の中で何かが引き寄せられるような感覚を覚えた。姉とは違う道。モデルのように誰かの前で華やかに振る舞うことなんてできない、自分には無理だと思っていた。でも、もしこれが新たな道の始まりだったら?もし、このチャンスを逃したら後悔するのではないか?そんな感情が詩音の胸を駆け巡る。

 

「アイドル…ですか?」詩音はその言葉を繰り返した。まだ信じられない気持ちで。

 

「はい。」女性は静かに頷き、真剣な眼差しで続けた。「私は『エースプロダクション』という事務所のスカウトマンです。あなたには、自然体でいながらも強い魅力があり、必ず成功できる素質があると感じました。」

 

その言葉を聞いて、詩音の胸は少し高鳴った。けれども、その興奮と同時に、心の中で不安も湧き上がった。アイドル。華やかな世界。いつも一歩引いて見てきたその世界に、自分が入ることができるのか?その疑念が頭をよぎった。何より、姉の背中があまりに大きすぎて、自分がその光の中でどう立っていけるのか想像もできなかった。

 

「でも、私はアイドルなんて…」詩音は一瞬戸惑いながら口にした。自分の言葉がすぐにうまく出てこない。それは、アイドルとして輝ける自分を想像できなかったからだった。

 

その時、ふと詩音の心に浮かんだのは姉・凛音の姿だった。凛音は、今やトップモデルとして光り輝いている。姉の成功を誰よりも誇りに思っていた。だけど、同時に、姉の背中が遠く感じるようになった。昔は、二人で手をつないで歩いた道が、今はもう二人で歩けない道に変わってしまったような気がした。あの頃のように一緒に笑い合いたかった。でも、姉の成功がそれを奪ってしまったように感じていた。

 

「どうして私は、あの時あんなことを言ったんだろう…」詩音は心の中で呟いた。姉を薦めたことが、今の寂しさに繋がっているのではないかと考えていた。でも、それでも姉の成功を喜ばなければならないことも分かっていた。それでも、心のどこかでその気持ちを隠しきれずにいた。

 

その時、女性の声が詩音を現実に引き戻す。「もし、よろしければ一度事務所にお越しいただけませんか?あなたには本当に素晴らしい可能性を感じます。」

 

詩音はしばらく無言でその場に立ち尽くしていた。胸の中で混乱が続いていた。しかし、その混乱の中で一つだけはっきりとしたことがあった。それは、これから先、自分が何をしたいのか、その一歩を踏み出さなければいけないということだった。姉と一緒に過ごす時間が減っても、自分が前に進まなければならないのだと強く感じた。

 

「分かりました。」詩音は深呼吸をして、決意を固めるように言った。「一度、話を聞かせてください。」

 

その瞬間、胸の奥で何かが動いたような気がした。詩音はその後、名刺を受け取り、少しだけ考えた。帰り道、心の中で何度も姉のことを思い浮かべながらも、それでも新しい道を歩むことを決意した。

 

「お姉ちゃん、今度は私が自分の道を歩む番だよ。」詩音は心の中でそう呟き、足を進めた。姉のように華やかな世界ではなくとも、きっと自分にもできることがある。そう信じたかった。

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