休日の昼下がり、詩音は自室で鏡の前に立ち、何度も口を動かしてみる。アイドルになることを姉・凛音に伝えなければならない。けれど、言いたいことがうまくまとまらない。
「どう言えばいいんだろう…。お姉ちゃん、なんて言うかな…。でも、これから伝えなきゃ!」
詩音は深呼吸をして心を落ち着け、自分に言い聞かせるように覚悟を決める。そして、リビングに向かう。
リビングでは、凛音がソファに座り、雑誌を広げて目を通していた。黒髪がほんのり光を受けて、凛音の周りには、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。普段はクールな姉だが、今日は家でのんびりしているせいか、なんとなくリラックスしているように見える。
「お、お姉ちゃん、ちょっといい?」
凛音は顔を上げ、軽く微笑んで詩音を迎える。普段の凛音らしい、冷静で知的な微笑み。詩音はその笑顔を見て、少しだけ安心した。
「どうしたの、詩音?なんだか緊張してるみたいだけど。」
詩音はソファに近づいて、少し座るのに時間をかける。緊張しながらも、目をそらさずに言葉を続ける。
「なんだか、考えをまとめるのが難しくて…。でも、お姉ちゃんにはちゃんと伝えなきゃって思うから…。」
凛音は首をかしげ、目を細めて詩音を見つめる。その視線に少し安心しながらも、詩音はまだ緊張している。
「そんなに緊張することじゃないよ。大丈夫、ゆっくりでいいから話してごらん?」
その優しい言葉に、詩音は深く息を吸い込み、何度か息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「私…アイドルになることに決めた!」
凛音の目が一瞬だけ大きく開いたが、すぐにふわりとした優しい笑顔が広がる。詩音はその笑顔に、思わず肩の力が抜けるのを感じた。
「アイドルか…やっと決めたんだね。」
詩音は、少しだけ目を伏せて、言葉を続ける。
「うん…。ずっとお姉ちゃんみたいに、輝ける自分になりたかった。でも、ただ憧れているだけじゃ、何も変わらないし、自分も一歩踏み出してみたくて…。」
詩音の声は震えていたが、その言葉には迷いがなく、心からの決意が込められていた。
凛音は黙ってしばらく考え、テーブルに手を置いた後、ゆっくりと詩音に視線を向けた。そして、優しく詩音の目を見つめ、少しだけ口角を上げる。
「それで…どうしたいの?本当にやってみたいと思った?」
詩音はすぐに答えたくて、でも言葉をひとつひとつ選ぶように、心を込めて答える。
「うん!ドキドキするけど、それ以上にワクワクしてるんだ。まだ始めたばかりだけど、自分にできることを全力でやりたいって気持ちが強くて…。」
その言葉を聞いた凛音は、そっと微笑みながら詩音の頭を優しく撫でた。
「詩音、すごいな。自分で決めたことをちゃんと実行に移すなんて、立派だよ。私も応援してるから、何があっても迷わずに進んでね。」
その言葉に、詩音は目を潤ませながら、笑顔を浮かべる。
「ありがとう、お姉ちゃん…。お姉ちゃんが応援してくれるなら、絶対頑張るよ!」
凛音は少しからかうように、にやっと笑いながら言った。
「それにしても、私もアイドルの妹ができるなんて…ちょっと誇らしいな。」
詩音はその冗談に慌てて反論しつつも、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「えっ、違うよ!私がお姉ちゃんのこと誇りに思ってるんだから!」
その言葉を言い終えたあと、二人は笑い合いながら、これからのことについてゆっくりと話し続けた。詩音が抱えている不安や期待を、自然に、そして素直に語り、凛音がそれに優しく応えてくれる時間が、詩音にとって何よりも大切な瞬間となった。
「詩音、どんなときも自分を信じて。自分の道を選んで進むんだから、迷わないように。私はずっとそばで応援してるから。」
その言葉を胸に、詩音は改めて決意を新たにした。姉の温かい支えを受けて、これからのアイドルとしての道をしっかりと歩んでいこうと思った。