冰演の魔物   作:名無しの権左衛門

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一緒にがんばろ!

 なんでと悲しそうな表情をするいのりに、毅然とした態度でみそぎが答える。

それは光という目標を目前にして、年齢的にもギリギリなのに人間1人の時間を割くのは効率が悪い。

 また、今は光世代光世代光光光!と言われていることを根に持っており、来年にいのりと同じ道を歩めばみそぎ世代としてひとつ下の世代が、まるごと注目されることになる。

だから在籍や登録するけど、滑ることはしないというだ。

 公式ですべらないだけであって、練習では滑ることを伝える。

もったいないと言われるが、いのりが光相手に追いつこうとしているのを世間が注目している間に、食傷気味な奴らにスケート女子の地獄を頭に叩き込ませてやる。

と豪語した。

 

「いのりちゃん、1クラス40人問題って知ってる?」

「ううん、私のクラスって28人だからわかんない」

 

 爛とした双極の子らは、フリーレッグというスケート選手になるための基礎を

行っている。本来ならば親御さんへの説明やスクール上がりの

初心者へどんなことを行いつつ進化していくのか、という

夢を示したり今後の要望を一緒に考えていく。

 だがここにいるのは、すでにノービスB優勝候補と言っても過言ではない、

究極の才能が降臨している。

 

 すでに双極の子らは要望よりも展望を拓き、2年後を見据えている。

 

「1人の先生が何人まで管理できるかっていう最高人数のことだよ」

「えっ、先生ってそんなに見れるんだ!」

「と言っても、管理できる何だけどね」

 

 二人が片足1.5キロもあるスケートシューズを長時間上げ続け、

これを片足3分10セット行う。最初の頃は全く上がらず、

それ以前の問題が山積みだった。

 一番の問題は滑ることでも筋トレでもない。

体を壊さない体の使い方。そう、柔軟だ。

 

 どんな運動選手もまずはウォーミングアップをして、筋肉をほぐす。

これをしてから静的運動を行うことで、けんなどの可動域を増やすんだ。

 

 

「それでね、司せんせはコーチングが初めてときた」

「あ、なるほど~みそぎちゃんは、司先生を鍛えたいんだね」

「うん! さっすが、いのりちゃん。賢いね」

「えへへー。……でも、ほんとは一緒に滑りたかったな」

 

 闇がいのりの思いを隠すが、すべては一握りの座のためだとみそぎは言い直す。

 

「司せんせのはじめては、いのりちゃんに譲るんだから、ちゃんと勝ってよ~?」

「当然!」

「「あははっ!」」

 

 司は初めての生徒の前に、ある程度付け焼き刃ではあるがインストラクタの

専門書を読んでいる。事前に詳しくではないが概要を聞いていたため、

ある程度覚悟はしていた。

だがその覚悟は自身の栄光への旅を頓挫するにことならない。

 自身の修行のため、一度自身の英雄譚の筆を置くだけだ。

休載であって、連載中止ではない。

 

 そう偽って強がっているが、いつ崖に落ちるかの綱渡りだ。

年齢と才能がリンクに転がり、気炎が大半と言われる氷の世界で

生きていけるのは貪欲な獸のみ。

少しでもなまれば、食われる。

 

「あーくそっ」

「ちょっと司くん!? 親御さんの前でそういう態度を取らない!」

「じー」

「いえいえ! これは……これは本当に、才能の塊なんですよ。

本来ならこの年の子は大成しない遅すぎると言われています。

しかしそれはめぐり合わせが悪かっただけです。

これからどうするか、手をいれるか。僕の手で、彼女たちをいかにようにでも

羽ばたかせられる。嬉しくてたまらないんですよ」

 

 浮かぶ。水底に沈んだ重しが軽くなる。決して浮力で上がったわけじゃない。

そう、彼の手に、天才二人の人生がかかっているのだ。

 すでに基本ができている。柔軟も及第点で、アイスダンスやバレエの一部を取り入れて

姿勢の基本を取り入れることで、背骨に癖をつけていない。

 パソコンの前で作業をしている人の多くは前かがみになってしまう。

これが習慣づけられると、田植えの小作農化のような腰になるのだ。

電子の01を植える仕事なのはそうだが、まだ若いのにそんなことを習慣づけるのはまずい。

 スケートを嗜むものにとっても、エッジで物理を滑らかに躱すため、

変な癖を体に染み込ませるのはよろしくない。

 

「いのりさん、みそぎさん」

 

 まずは小手調べ。最初のアレは過去を塗りつぶす強烈な一閃であったが、

大きな所だけみて小さな所を見逃すのは教育者として失格だ。

どこができて、どこまでがだめなのか。

細やかに見ていくことで、完成度を高めることができる。

 

「なぁに、司せんせ♪」

「ちょ、はやっ」

「はやいよお、みそぎちゃん」

「きっと光ちゃんもこれくらい速いと思うよ?」

「む、光ちゃん! 私ももっと鍛える!」

 

 彼は二人にまずはエッジの使い方を教える。

なにせ一般大衆でもフィギュアスケーターならジャンプでしょ、

と答えるくらいの認知度だ。

浅田なんたらさんや羽が生えて弦を結っている人、ベルツリーで明るくなってる人など

多くのスケーターが得点源としており、己のプライドであり魂とする

其の根幹。

 それらを支えるルールと起点。それがアウトサイドエッジとインサイドエッジである。

ノウハウや進入方法など、図形(フィギュア)を描くことが命題とされた

競技であるからこそ、エッジの使い方が明暗を分ける。

 

「次、ツイスト」

 

「ひょうたん」

 

「片足スノープローストップ」

 

「Bストローキング・Tストップ」

 

「……いのりさん、天才です! 直ぐにバッヂテストうけましょう!」

「受けれるの!?」

「い、いのり……? ママ、こんなに滑れるなんて全く知らなかったわ」

「だから言ったでしょ? オリンピックのメダルを取るって」

「瞳さん、司さん、うちの子をお願いいたします」

((ええー!?))

 

 いのりとみそぎがおしゃべりし司が悩んでいる時、高峰瞳といのりの母である

結束のぞみは一抹の不安を吐露していた。

姉が大怪我を負って選手生命を諦めるようになったこと、

今回は幸いにして予後は回復した。

 しかし世の中には脳震盪や複雑骨折、捻挫、斬り傷、全身打撲、顔面強打からの重症、

脳天損傷を患い植物状態、ブレードによる内太ももの殺傷と失血など

命を失う危険と隣合わせである。

こんな危険すぎる競技で姉だけでなく、いのりも怪我で失ってしまうなら。

 

 遊びの範疇を越えたプロとしての道を諦めさせたかった。

しかし、みそぎという子とスケートリンクで友だちになってから、

とても明るくなった。直接合ったことはないし、口伝てばかりで要領を得なかった。

今日不安で来たけれど、一瞬いのりをスケートから切り離そうとした思考が消えかかったほど。

強烈な星がいのりを導いてくれるなら、と。

 ぽつぽつと悲哀の連鎖に絡まれながらも、好きになりそうになった氷上の演舞を

いかに切り捨てられるか苦悩する姿が見て取れてしまう。

 

「あ、いえ、こちらこそありがとうございます!

お子さんをオリンピック、いや世界に名を轟かせる選手にしましょう!」

「ちょ、司くん。声、声っ!」

 

 まだクラブに入っていない状態なので、基本を見るためにリンクへ入るがこの時間帯は

スクールや大会に出られるか?といった家族が多くを占めている。

怪訝な表情。

 子を自分の栄光のための道具として使っている人形師は、

天狗になった鼻を折らなければどうにもならんらしい。

もちろん、ここにいる1人。今も複数の嘲笑と奇怪な目で蔑んでいる。

 

「あのぉ、司せんせ」

「ん、なんだい?」

 

 変にすり寄ってくるみそぎに、少々やりづらさを感じている司は

いのりへ説明している間ちょっとやってていいか聞く。

なんとなく察する司はあんまりやってほしくないが、いいかげんよく聞こえる独り言には

飽きた。

 

「よし、みそぎちゃんは軽く飛んできて!」

「はい!」

 

 いのりは一度リンクから上がって司とともにミーティングを行うが、

水銀爆弾のような肌をつく粛然たる空気。

飛び出す鏑矢は螺旋を描き宙を裂き、錆びついた気味合いを穿つ。

あっちゅーまに虜になる子どもたち。

 其の中にいのりと司も含まれる。

着用しているのはレギンスやジャージといった普遍のものであるというのに、

なんとも美麗なのだろうか。

 

「先生」

「どうしたのかな?」

「私、光ちゃんのスケートに憧れたんです」

「光……ああ、あの子か」

「でも、私が目指しているのは、みそぎちゃんなんです」

「なるほど、いいね」

「……なんでこんなに綺麗に踊れるのかわからないんです」

「きっと、ゆらぎを制御するのがうまいんだと思うよ」

 

 テコの原理をご存知だろうか。そう、シーソーだ。

真ん中に乗って両足でギッコンバッタンするんじゃなくて、正統派な乗り方をすればわかる遊具である。支柱が腰とすれば、上になった腕と対照的に脚が下がる。また上を脚と仮定すれば、腕を下にする。

 さらに支点から力点や作用点が移動することがあるが、そういう場合はうまくバレエや舞の演技を取り入れた表現でうまくバランスを取っている。

しかも全身を支えるエッジがどこにあるのかを把握し、自身が氷のアーティストとして

芸術祭を取り仕切っているのだ。

 

「綺麗……」

「ああ」

「私、みそぎちゃんのような人になる。手伝ってくれますか?」

「手伝うよ……いや、オレもアイスダンスの元選手として、

みそぎさんの舞は素敵だ。一緒にみそぎさんを越えましょう!」

「はい!」

 

 

 もううだうだ悩むのはやめだ。オレはもうコーチだ。

すでにオレ以上の才能を預かっている。

二人はこんなオレを信じてくれたんだ。それに応えないのは、専属コーチとして

大人として、何よりオレのスケート人生を裏切ることになる。

 

 切り替えろ。

 

 お前はもう、独りで抱え込む夢想家じゃない。

いのりさん、みそぎさん。二人を全日本に、オリンピックに出場し1・2独占できる

最高の選手にする。誓うよ。

 




語彙力ないので、ヒカルの碁みたいに詳しい話ができないまま、いのりとみそぎの仲睦まじさを届けたいです。
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