チリコンカン乾坤一擲と昔ながらの長い鐘の音が鳴り響く。
本日は晴天なり! なれど、放送部が音量設定の初期化をミスって音割れしております!
「きりーつ、れー」
「「「あじゃじゃしたー」」」
「したー!」
リニアカタパルトに積まれた戦闘機のように、教室からイジェクティンした
いのりは颯爽と階段を降りて来客用の駐車場へ赴く。
表情は小学校へ入学してから最大級のもので、心からうれしいという思いが溢れ出している。
一昨日までずぅっと土砂降りの雨にさらされた猫のような絶望を背にしていた。
何故か。
「いのりちゃん!」
「みそぎちゃん!」
それは唯一の友達と言って良いみそぎと、フィギュアスケートを本格的に習い始めたからだ!
「いのりちゃん聞いて聞いて!」
「なになに? どうしたの?」
二人が階段下の歩道で和気藹々としているのを、司が見つけて降りてくる。
「おー―――」
「昨日ね、司せんせと夜のお店に入ったんだ!」
「「ええええ!!?」」
「大人の階段アクセルジャンプ! 君はもうシンデレラスケーターさ!!」
「ちょ、ちょっとまって! みそぎさん、まって」
「どういうことなの、みそぎちゃん!」
「いのりちゃんが帰った後、一緒にどうって誘われてホイホイついていったら。
司せんせのやさしさにつつまれちゃった♪」
「明浦路先生?」
「いや、これは違うんですよ!」
結束のぞみに睨まれてしまい、信頼が崩壊しそうだったけれど
一緒に喫茶店でどんな強化を施そうか相談していたということを
みそぎが伝える。
そうすると結束のぞみは、オーバーリアクションかと納得して
みそぎの言葉を信じるに至る。
「ね、せんせ」
「なんだい、みそぎちゃん」
「およめさんできなかったら、わたしと結婚しよう!」
「うん! とりあえずその口閉じよっか。話進まないから!」
18になったら考えてやんよ、といじり倒された司はそう返事する。
ちょっとした疲労感を抱くが、幸いにして失ったのは3分程度の致命傷。
ラジオ体操をしたら柔軟といっしょにやって、スケーティングをしながら
本日の目標を伝える。
「いのりさんとみそぎさん、そのまま聞いて下さい。
今日はスピンを見ます。現行法では3つの基本姿勢のうち2つを入れたスピンを、
コンビネーション・スピンと言います。
GOEという追加点を含めれば、3回転フリップと同程度となりとてもお得です」
とてもお得と言っている司であるが、実はめちゃくちゃ難度が高かったりする。
スケート用語にトラベリングという言葉がある。
これの意味合いは、軸がずれて其の場で回転できていないというものになる。
コマでもベイブレードでもいいので、ゴーシューする。
このときにコマが其の場に静止すれば、姿が点対称のシンメトリー
になって芸術点がバクアゲになる。
だがトラベリングが発生するとどうだ。
軸がブレることで遠心力が同等にかからず、姿勢が崩れて無様な格好をさらけ出すことになる。
「え、ちょ!?」
司が指定するスピンをやってもらうために、一度リンクでお手本を見せて
から実力を見せてもらおうとした。
しかし二人は無言でセットアップに入る。
まさか、まさかとおもうが……。
司は二人の事前準備に既視感が宿る。
(いのりさんはクロスフットスピンとフライングシットスピン!
みそぎさんは、プルシェンコ選手のコレオグラフィックシークエンスからの
ウィンドミル、フライングキャメルサイドウェイズ、チェンジフットからシットビハインドでアップライトフォワード!!!)
司は今日もまたいのりとみそぎたちの才能に、脳が焼かれてしまう。
スピンというものは其の場で回転するものではなく、エッジを用いて小さな円を描く行為。氷に穴をあけることではないが、すべての人に手本と見せたいほど安定しているのだ。
また、なにげにみそぎが行っているのは、レベル4のスピンである。
フィギュアスケートで行われるスピンコンビネーションは、キャメル・シット・アップライトという基本姿勢のうち2つを選択する。
まず導入でスピンの予後動作に入る。このときに姿勢に入るとわかるものなら
二回転までに入らないと減点される。
そして一番最初に行う技はキャメル・シット・アップライトの中から選んだスピンを、
飛ぶかそのまま回るか足を替えて回るか選択する。
オリンピックでよく見るスピンを例題にするが、フライング→キャメル+身体をひねる+スピン→チェンジエッジ→足を替える→シット+足を伸ばす+スピン→
アップライト+上半身を倒す+スピン。
片足で2つまでしかレベルを取れないので、要素を如何に詰め込むかが鍵になる。
またフライングしてスピンに入るが、フライングだけではレベルのうちに入らない。
フライング〇〇スピンとして加算されるだけだ。
そのため、ちゃんと要素と共に綺麗に滑ってGOEを稼がないと
やっていることは難しくて点数ヤバキチなのに、意外と点数とれてなくて敗北
ということもある。
ちなみに、某有名なフライングシットスピンは基礎点が1.7。
レベル4で3.0。GOE+5で、4.5(基礎点+50%)となる。できればおいしいが、
着氷で姿勢が崩れるので筋肉と体幹が優れてないと得点を取れない
難しい技術となっている。
特に足をちゃんと伸ばし、軸足がおしりについていないと減点対象である。
「司せんせ、どうでしたか?」
「先生!」
「氷上の天使! 妖精! 言葉にならない!」
司はバッジテスト7級行かせてぇ!と思うほど、上達している二人。
教えることはもう殆どないと勝手に思い上がってしまうほど、
完成度が高かった。
そもそもの話、4回転とか未知の世界で筋肉とか十分についていないとできない。
更にいのりとみそぎは、一部のジャンプだけではあるが3回転ができている。
これからこのジャンプを教えられるかと言うことが、課題になってくるはずだ。
「はい、休憩!」
フィギュアスケートの実施ルールを何年にするか結構迷ってます。
ジャンプの完成度(2018-2021)か、振り付けによる世界観表現力(2024-2025)か。