冰演の魔物   作:名無しの権左衛門

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原作P80~ アニメ二話4:22~


今日はバッジテストの日だ!(前編)

 

 

 今日は真夏かと思える熱波が上空を覆い、初夏の様相を呈していた。

セミも叩き起こされたのか、アスファルトやコンクリで熱されてのぼせると思ったのか、

シャンシャンとちょびっと鳴き始めてしまうほど。

 早起きさんだねぇと、みそぎは教室の窓辺で頬杖をついて和んでいた。

それはそうと、今日もグラサンをキメて、蜂の巣駆除でもおっぱじめそうな重装備

は周囲におっかなびっくりな感じで見られている。

 

 みそぎの突発的な行動というかへんな方向の服装に関して言えば、

先天的なものなので学校もとやかく言えなかったりする。

 

「ミッソー!」

「ミッソー!」

「ミッソー! 今日もドミソだね!」

「イカしてるでしょ?」

「ドミソ!」

「ゲッソー!」

 

 みそぎは明るい女子生徒とお話しながら、学活を行う。

この日の時間割の最後は、わりと自由にできる時間で自分を高めろ!という

担任の先生が許可を取って放任している時間だ。

真下にある職員室へ大海嘯を轟かせないように、足は瀬戸内海のように頭は日本海のように活動をしている。

 いつもどおり学活で夏休みに行う自由研究を先に作る。

ここで作っておくことで、夏休みよりも長く時間を使えるし

夏休みの宿題をする時間を短くすることができる。

 

 皆が待望しているチャイムが校内へ響き渡った。

 

「っしゃあ! 学校終了!」

「ねーねー、ミッソー。今日は遊べるでしょ?」

「うん、今日だけ遊べるよ」

「っし!」

「じゃあ、ちょっくらゲーセンいこう!」

 

 今日のみそぎはOFFの日である。理由は言わずもがな、いのりが初級バッジテストを

受けに港区のスケートリンクへ赴いているのだ。

始まりは遅く、まだ小学生であるみそぎが、いのりと共にいく必要はないと

判断されている。

 本当は一緒に行きたかったが、ここを越えられなければ始まりに立てないと言われた。

今後みそぎがいないときがあるかもしれないので、その時の緊張や感情の制御を今のうちに学んでほしいという狙いがあるようだ。

 

 またみそぎは司が週一で休んでいるのに合わせて、月に1回だけスケートを休んでいる。

この休みのときは、クラスメイトの友達といっしょにだべりに行って親交を深めるのだ。

こうでもしないと、クラスで浮いてしまって居心地が悪くなってしまう。

みそぎ自身がアルビノであるということも手伝って、なれていない人は気味悪く思う。

 今あだ名で呼ばれているのは、そうしたみそぎが少しの時間を見つけて繋いだ努力の

証である。

 

「ミッソー、カラオケいくー?」

「いくけど、お金大丈夫?」

「今月、あと2回分しかない!」

「ええっ!?」

「でも、ミッソーのためにおいといたから!」

 

 みそぎは自分のためという言葉を、8割位受け取って感動する。

太陽のきらめきを映した白銀を翻して、季節外れの陽炎の中へ消えていった。

 

 

 

 さて、放課後直ぐに目的の場所まで移動するいのりとのぞみ。

事前に開始時間を知らされているが、テストを行う場所は邦和みなとスポーツ&カルチャーという場所で結構離れている。

更に夕方ということもあって、下りも上りも大混雑しているので電車を

繋いでいくほうがストレスがなくて済むと判断した。

 そうして、現地集合ということで、現場へ到達するいのりは、

なにやら騒がしいところへ赴く。

 

 一体なんだろうと長い廊下を渡っていると、全身真黒な男がいた。

あたりを夕日に染めているのにもかかわらず、その存在だけは克明に映し出されていて

とても違和感がある。

何故かゴミ箱をひっくり返し、携帯電話を放り投げる暴挙を果たす。

 極めつけにタバコを吸って、なぜかいのりをガン見するのだ。

どう見ても不審者です、本当にありがとうございました。

 

(えぇ……?)

 

 放心してしまったいのりは、母親に呼ばれたので急いでそっちへ向かう。

先に現地入りしている司と高峰ヘッドコーチに挨拶するが、

妙にそわそわしているいのりを見て司がどうしたのかを聞く。

 

「えっと……少し、外の空気を吸ってきていいですか?」

「いいよ。携帯持ってる?」

「はい」

「よし。会場入りはいのりさんが出番の二人前に呼ぶから、其の頃になるまでに

ウォーミングアップを済ませておいで」

「ありがとうございます!」

 

 落ち着きがないいのりは、すぐに荷物をのぞみへわたしてそそくさと

会場の外へ出ていく。

妙に焦っているのか、焦点も定まっておらずどこか浮ついていた。

 

「やっぱり、みそぎちゃんのいるいないの影響がでかいわね」

「はい。これからいろんな大会に出ます。友達や同僚が最大のライバルなんて、

今に始まったことじゃないのが、スケートの世界。

今のうちになれてもらいましょう。よろしいですか?」

「そうですね……」

 

 いのりの母親であるのぞみは、少々煮えきらなかった。

やはり周辺の普通と呼ばれる子たちより特殊だからか、もう少し精神的に

安定し始めるときまで守ろうと考えていた。

だが、選手としてプロとして、上を目指すのであればどうしても独り立ちしないといけない。

 特に今後、記者やテレビクルーなどに突撃されて、精神がかき乱されたとき突拍子のないことを漏らせば大炎上になってしまう。

そういう懸念もあるので、あるていどの突発的なことへの対応や一人という状況になれていてほしかったのだ。

 

(夕日が綺麗だな……そだ。最近ミミズを見なくなったんだよね。

ここらへんなら、新鮮で大きなミミズがいるかな?)

 

 クラブに所属して正式にお金を落とすようになっても、

小鳥たちへの餌を確保するのに意外とお金がかかることをしった瀬古間さん。

今度は取ってきてくれたら、少しのお小遣いと交換ということで

今もミミズ取りは継続されているのだ。

 

(……ここの土、ミミズがよくいる場所だ。こういうところこそ、たくさん……あれ?)

 

 ミミズを効率的に捕獲したいと思って、ミミズの本を図書室で見ては

それを実践し殆のミミズを取ったいのり。

少女はそんなミミズがよくいる場所を目ざとく見つけて、

すでに16匹集めた。

 そんなときだった。

目線の端っこ。木の枝に引っかかっている光り物を確認。

それを手で取ると、何かのネックレスだというのが判明した。

 

 見た目が金色なので、貴重なものなんじゃないかと直ぐにここを出ようとすると―――。

 

ゴチン!

 

「「あいったー!?」」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! 前を見てなくてごめんなさい!」

「うぐぐ……」

 

 結構派手にぶつかったが、今まで培った人生経験がいのりの復帰を早める。

そして直ぐに平謝りをして、ここで初めてぶつかった人を見るのだ。

 

「あ、かわいい」

「へ?」

「お姫様みたい! ね、どこのこ? 一緒にお茶しない? 電話番号交換しよ? てか、LIℕEやってる?」

「え? え?」

 

 頭をぶつけてみそぎの黒髪バージョンみたいな子を見て、とっさにみそぎメソッドが出てきてしまう。

テンパったときにみそぎのからかいを躱すために誕生した、間髪入れない言葉の調べ。

相手がどう思おうが、自分が情熱的に口説けばなんとかなると学習してしまった感がある。

 そもそもいまいのりは、蠢いているミミズを持っているだけの不思議な少女だ。

状況・見た目・言動が一致していなくて、ぶつかった黒い子は目を白黒させている。

 

 と、その時、ポケットに入っていた携帯からブザー音がなる。

 

「おっと、わたしはもう行かねば。君の麗しい心を奪えないのはさみしいよ。

君の瞳に乾杯」

「あ、はい」

 

 みそぎの黒髪バージョンの子は、呆然として立ちすくんでしまった。

一体アレは何だったんだ?

頭の中でいのりの変なテンションで、脳内の情報欄がバグっている子は

一瞬いのりのポケットに夕焼けで金色に輝くチェーンが見えた。

見た目は純朴そうなのに、ゴールドのチェーンをつけているなんて、ハイカラだなあと思うに至ったのだ。

 まさか、いのりも頭の中がこんがらがって、へんなテンションを貫いて帰っていったとは思うまい。

 

「光ー?」

「何、理凰」

「見つかったか?」

「ううん。あの人も探してるみたいだけど、進展なし」

「あの腐れ親父め」

「……ほんと、最悪」

「必要なのはわかる。だが、本当にアイツで良いのか?

スケート以外まるでガキだぞ? 物に当たるとか、幼稚園児か」

「この世界はスケートが全てなんだからしょうがないよ」

「納得いかねえ」

 

 妙に口の悪い少年と天才少女と呼ばれ世間を賑わせている女の子は、

哀愁を背中に漂わせながら帰路につく。

 

 

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