俺の姉ちゃんが転生者!!!   作:あえch

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姉ちゃんと、俺…
俺の姉ちゃんが転生者!!! 


僕は、姉ちゃんが大好きだ。

 

「姉ちゃん、遊ぼ!」

 

平和な村で、姉弟二人で。

僕は、僕たちは、幸せの絶頂だった。

 

 

 

僕の名前は『ネルフ・ムラン』

みんなは、僕のことを『ネルフ』って呼んでる。

 

「ネルフ~、ご飯食べよ~」

 

「うん!今行く!」

 

食卓から姉ちゃんに呼ばれた。

僕は寝室を飛び出して姉ちゃんの元へ。

 

姉ちゃんの名前は『ホムラ・ムラン』

肩まで伸びている赤色の髪が特徴的な僕の自慢の姉ちゃんだ。

 

「ねえ、ネルフ?そろそろ誕生日でしょ?欲しい物ある?」

 

僕は握ったパンを机に置き、少しだけ考える。

何にしよう、うぅーん…

 

…そうだ、これにしよう。

 

「誕生日は、姉ちゃんが僕と一緒に居て!約束!」

 

幼い男の子の声が食卓に反響する。

反響の終わり際、僕は姉ちゃんを見た。

僕の目の前にあったのは、ニヤつきながら、ほんのり赤くて照れくさそうな家族の顔。

 

「ふふふ、ネルフは私と居たいの?」

 

「……うん。ダメかな?」

 

「ダメなわけないでしょ!はーい、うちの弟優勝!可愛すぎ!」

 

(優勝?何が?)

 

はしゃぐ姉ちゃんを尻目に、僕は困惑しながら食べ進める。

したいことをするために、パクパクと食べ進める。

パン、スープ、パン。

このサイクルを終え、空っぽの皿を見つめながら、僕は手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

言葉と同時、僕は一冊の本を掴んだ。

僕は姉ちゃんを横目に見る。

 

姉ちゃんは、まだご飯を食べている。

僕は、そんな姉ちゃんを見つめる。そして、姉ちゃんが好きなボロボロな本を掴む。

その本のページは所々破れ、読めない部分も多い。

しかし、それでも、そんな本こそが、僕と姉ちゃんとの『コミュニケーション』

 

「姉ちゃーん、いつも姉ちゃんが読んでるボクシング?とかいう運動の本。僕が持ってるから」

 

「オッケー、その本持って先に行ってていいよ~」

 

先に行く、何処に?

そんな心配は要らない。だって、僕は知っているから。

僕は何の迷いもなく扉を開けた。

刹那、僕のおでこに差し込む光。同時、僕の髪が風で靡く。ヒューと耳の間を通る向かい風。それを感じて、僕は迷いのない足取りで進んでいく。

僕と姉ちゃんだけが知っている『秘密の場所』

それだけを目指して、僕は歩き出した。

 

 

─────────────────────────

 

 

「着いたぁ」

 

伸びをしながら僕が進んだ先。

そこは、草木が揺れる音を聞きながら待てる、暖かな風が心地よい広大な原っぱ。綺麗な、綺麗な景色。そんな一面の緑こそが、僕と姉ちゃんだけが知っている秘密の場所。

僕は一面に広がる綺麗な緑を瞳に映し、姉ちゃんのことを考えながら姉ちゃんを待つ。

 

僕の姉ちゃんには秘密がある。

この広大な原っぱよりも大きな秘密。

それは…

 

『ホムラ・ムランは転生者であるということ』

 

転生者とは、前世の記憶を保持し、別の世界から送り込まれた人達のこと。

姉ちゃんは少し不思議だし、嘘とか苦手だし。

言われたときは、すんなり納得出来た。

 

転生者は、ただ送り込まれるわけではない。

送り込まれる際に天使から『ギフト』と『使命』を与えられるらしい。

ギフトとは能力。

使命に関しては、僕にも教えてくれなかった。

転生について教えてもらえたのも特別だったのだ。

 

本当は能力を使いこなし、強くなってからじゃないと周りに公表してはいけないらしい。

しかし、僕には「ネルフなら良いよ~家族だし!」と、教えてもらえた。

そんな優しい姉ちゃんに、使命も知りたいと駄々を捏ねるのは、姉ちゃんを困らせる我儘だろう。

 

もちろん、姉ちゃんにも能力がある。

それは『筋骨隆々』

筋肉量を自在に操れる能力で、上限、下限こそあるらしいが大岩なども軽々持っていたし、普通に強くてカッコいい能力だ。

 

(姉ちゃんって、やっぱり凄いなぁ)

 

心地良い風を受け、僕は漠然と考える。

そこには嫉妬など一切無い。ただあるのは、純粋な憧れのみ。

 

「ネルフ、お待たせい」

 

「全然へーき、はい、これ姉ちゃんの本」

 

「ありがと~、前世じゃボクシングなんてやってなかったからね。本が無いと何も分からないんだよね〜」

 

僕は、脇に抱えていたボロボロの本を手渡す。

題名は『楽しいボクシングを1から!』

著者は『ルーク・レオン』

 

慣れたようにページをめくる姉ちゃん。

僕は純粋な疑問を口にする。

 

「そういえばさ、槍とか、剣とか。魔法とかもあるのにさ。なんで姉ちゃんはボクシングっていう殴り合いしてるの?」

 

「ふふふ、ネルフは分かってないなぁ」

 

姉ちゃんは自身の顔前で人差し指を振り、自信満々に口を開く。

 

「筋骨隆々は、剣とか振るぐらいなら拳振り回してた方が強いの!拳こそ至高なのだ!」

 

「確かに、一理あるかも」

 

刀は一つ、拳は二つ。

確かに威力が同じなら拳の方が当たりやすそうだ。

僕は、納得の意を込めて静かに頷く。

顎に指を置いて、頷く。

 

そんな時、平和な空気の中で、姉ちゃんの空気が変わる。

 

「よし、ネルフ。やろうか」

 

姉ちゃんは本を閉じ、ゆっくりと僕の前に移動する。

そして、両の拳を顎の前に置き、ファイティングポーズを取る。

 

「……手加減してよ?」

 

僕も同様に腕を上げる。

その答えは、ファイティングポーズ。

見つめ合う僕たちの視線と構えが『コミュニケーション』となって辺りを包み込む。

 

そう、コミュニケーション。その正体は『ボクシング』

構えて、見つめ合って、戦おうとする僕と姉ちゃん。

稽古という名のコミュニケーション。

始まる戦い。この時、何故か、草木の揺れる音だけが、妙に大きく聞こえたんだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

『楽しいボクシングを1から!』

この本には、四つのことが記載されている。

 

 

一つ目 ジャブ(左拳を真っ直ぐ突く、右ストレートよりも威力は低いが速く、速射が可能)

 

二つ目 ストレート(右拳を真っ直ぐ突く。左ジャブよりも威力は高いが遅く、速射が出来ない)

 

三つ目 ボディブロー(肘を90度に曲げ、相手の脇腹に拳を突き刺す。左でも、右でも撃てるが基本的には利き腕の方が威力は高い)

 

そして、四つ目。将来世界を変える、最強のスタイル。

 

『接近戦(インファイト)』

 

 

姉ちゃん対僕。

この対決。姉ちゃんは僕を見つめて、余裕そうにニヤける。

その姿を見て思う。やっぱり、姉ちゃんはすごい。

僕は、姉ちゃんとは対照的に真剣な眼差しを向けた。

姉ちゃんみたいな余裕は、僕には無い。

足りない余裕。僕は埋めるように前傾姿勢を取り、全力で頭を横に振る。

 

先に手を出したのは…

 

「来ないなぁ。そうしたら、私から行こうかなっ!」

 

この言葉と同時。僕に飛んできたのはジャブの二連打。

速い、とてつもなく速い。まるで速射砲のような左。

僕は顔の前に置いたガードでガッチリとブロック。

一連の攻防、姉ちゃんは渋い顔を見せる。

 

「ちょっ!それ私が能力使ってたら負けてるよ!?」

 

姉ちゃんは、目を見開き、素っ頓狂な声を挙げる。

その理由は単純。姉ちゃんの能力『筋骨隆々』

この能力を使った拳は絶大な威力を誇る。

その威力は、軽いジャブだとしてもブロックを容易に破壊する程。

対策するならば、僕みたいに防いではいけない。

確実に、絶対に、避けなければならないのだが……

 

(姉ちゃんのジャブは速い。どうせ避けられない)

 

筋骨隆々を使われたら、どうせ負ける。

僕の諦め。それが姉ちゃんに届く。

 

「そういうことね〜。ふふっ、良いよ。筋骨隆々使わずに勝ってあげるっ!」

 

次の瞬間、速くなる姉ちゃんの速射砲。

それでも、僕は前に進む。

 

この世界にボクシングは存在しない。

ボロボロな一冊の本を除いて。

姉ちゃんには前世の記憶がある。だから、インファイト以外のスタイルも見たことぐらいはあるかもしれない。

しかし、僕は知らない。見たこともない。

一冊の本を信じて、突き進むしかない。

 

「ジャブじゃ止まらないかぁ」

 

愚直に相手の懐を狙うインファイト。

僕は拳を受けながら、少しずつ、少しずつ距離を詰める。

そう、距離を詰める。追い詰めているのは僕。

しかし、それでも、ニヤけたのは姉ちゃんの方だった。

 

「ネルフ。威力を上げる方法は、筋骨隆々だけじゃないよ」

 

僕は、姉ちゃんの言葉と同時に速射砲のような左を受け続ける。

姉ちゃんの速射砲、確かに僕には避けられない。そう、速射砲を避けることは不可能。

しかし『あれ』ならば別。

僕でも避けることが可能。

 

瞬間、姉ちゃんの右拳に力が籠った。

 

(来たっ)

 

刹那、僕の顔面に飛んできたのは大砲のような『右ストレート』

威力は絶大。しかし、速射は出来ない右ストレート。

 

僕は、これを待っていた。

 

ブン!!!

 

「うっそ!?」

 

姉ちゃんが、再度目を見開く。

その様子は、確実に意表を突かれた人間の姿。

しかし、僕は、その様子は見ない。否、見る暇がない。なぜならば、そんな余裕すらも今の僕には無いのだから。

 

(決めるなら、ここしかない)

 

僕はストレートを屈んで躱し、そのまま一息の踏み込みで、一瞬で距離を詰める。

 

ドン!!!

 

踏み込んだ先。そこに広がる視界。それは、右ストレートによってガラ空きになった姉ちゃんの脇腹。

 

ガラ空きになった脇腹を見つめる僕。

瞬間、初めて姉ちゃんの顔から笑みが消えた。

 

「防御、避け、踏み込み。ネルフ、全部速いね……」

 

「勝つっ!」

 

 

空いた脇腹。僕は、そこに左拳のボディブローを突き刺すことを選択する。

近付いていく左拳。

僕は、突き刺した。確かに、この時、そう思った。

 

「速い。でもね……甘いよ」

 

「んなっ!?」

 

僕の驚愕の言葉が響き渡る。

それが証明するのは、届きそうで届かないということ。

僕のボディブローが直撃することはないという事実。

 

僕の左拳と姉ちゃんの右脇腹に挟まっていたのは左手。

姉ちゃんは、ジャブに使っていた左手を防御に回していた。

 

(あそこから防げるのか!?反射神経が高すぎる……このままだと、やばいっ!)

 

拳を掴まれ、僕の動きが止まる。

僕の顔に、姉ちゃんの右拳が降って来る。

 

「これで、私の勝ちっ!」

 

「ぐふっ……」

 

僕の頬を貫く大砲。

情けない声と共に、僕の視界は闇に消えていった。

 

 

─────────────────────────

 

 

「…―い」

 

「…」

 

「…おーい」

 

「…痛い」

 

「あ、起きた」

 

頬が腫れているのを感じながら、僕は目を覚ました。

視界が濡れている。

あまりの痛みに泣いてしまったのかと思ったが、ぼやける視界で姉ちゃんを見ると、手の平で水魔術を作っていた。

どうやら、姉ちゃんが僕の顔に水をかけているらしい。

 

「……姉ちゃん、ずるいよ。最後、筋骨隆々使ったでしょ?」

 

「あ、バレた?」

 

明らかに威力が違った、流石に分かる。

はぁ、弱い者いじめも良いところだ。

僕は、不貞腐れたように頬を膨らませる。そんな僕の姿に、姉ちゃんは苦笑いを浮かべて声を掛ける。

 

「だって、ネルフ強かったんだもーん」

 

「嘘吐き、弱い者いじめ!」

 

「あはは、ごめんって」

 

ホムラは、笑う。そして、自身の左手を見つめた。

ボディブローを受けた左手。それを、じっと見つめる。

 

(弱い者いじめ、かぁ)

 

震えの止まらない左手。

それほどの衝撃を受けた。

この事実。姉は、弟を見つめて再度微笑む。

 

「ネルフは強いよ!」

 

「ちょっ、何すんの」

 

弟の髪をくしゃくしゃと乱す姉。

ボクシングは二人のコミュニケーション。

しかし、遊びではなく修行だった。

二人の実力差は、修行と呼べるものであった。

 

 

─────────────────────────

 

 

姉ちゃんとのボクシングの後、僕は遊びにいった。

遊び相手は昔からの友達。

まぁ、幼馴染というやつだ。

 

「ネルフの頬、凄い腫れてる。大丈夫?」

 

「あぁ、姉ちゃんと殴り合いしててさ。全然大丈夫」

 

「良いなら良いけど、ネルフが傷つくのは嫌」

 

「う、うん、なんかごめん」

 

彼女の名前は『エマ・コレッティ』

短めの黒髪に、僕より少し低い身長の幼馴染。

良い奴なんだけど、なんかお節介なんだよなぁ。

 

「わたし、今日はネルフとおままごとしたい」

 

「おままごと…良いかも!」

 

「やった、決まり。ネルフとおままごと」

 

僕は、エマの声を聞いて笑った。

笑いながら、ゆっくりと思考を回す。

僕の考えること、それは、たった一つ。

 

(ボクシングよりおままごとの方が楽しいなぁ)

 

正直、ボクシングは特段好きというわけではない。これが僕の本音だ。まぁ、嫌いでもないんだけどね。

姉ちゃんとやるから楽しい。これが僕の気持ちだ。

 

「ネルフ、内容はどうする?」

 

「そうだなぁ。エマが決めていいよ」

 

「分かった、嬉しい」

 

楽しそうに一生懸命考える幼馴染。

楽しいおままごとをして、人も喜んでくれる。

最高だなぁ。

 

そんな満足の中、僕の脳裏に過ったのは不安。

その正体は…

 

(あれ?もしかして、僕ってボクシング向いてない?)

 

ボクシングが苦手になったら、姉ちゃんに嫌われるかもしれない。

ネルフは、そんな有り得ない不安に頭を抱えた。

 

楽しむ幼馴染と不安がるネルフ。

そんな光景の中で、ゆっくりと、ゆっくりと時間は進んでいく。

 

 

─────────────────────────

 

 

ネルフがおままごとを楽しんでいた同時刻。

姉は悩んでいた。

 

「はぁ、ネルフの誕生日プレゼント何にしようかなぁ」

 

自宅で水を飲みながら言葉を呟く。

弟は一緒に居られればそれでいい。否、それがいいと言っていた。

しかし、それでも、何か渡したいというのが姉の心情であった。

 

「ネルフ、ボクシング好きだし、殴る用にカカシでも買ってあげようかな?」

 

あれだけ鋭いボディブローが撃てるのだ。

好きで、好きで、毎日努力していなければ無理だろう。

 

ネルフ達に親は居ない。

だから、ホムラは姉として、親として、そして家族としてネルフを守らなければと考えていた。

 

コンッ。空になったコップが机に置かれる。

それと同時、音は途切れることなく爆音へと繋がっていく。

 

爆音。それは自宅の扉が蹴破られる音。

 

バゴンっ!!!

 

「ホムラ・ムラン。ここに居たか」

 

「ちょっ!?びっくりした〜。随分と、乱暴な人が来たなぁ」

 

どちらさま?

この言葉に、扉の前で佇む男は口を開く。

 

「俺は、貴様を、ホムラ・ムランを殺す者だ」

 

「……あら、物騒」

 

言葉を受け、ホムラはゆっくりと椅子から立ち上がる。

瞳を光らせ、静かな覚悟を決めて立ち上がる。

 

ここにあるのは、殺気、魔力、熱。

モワモワと広がる歪が、小さな家に渦巻き始める。

 

 

─────────────────────────

 

 

「ネルフ、わたしと結婚する」

 

「あれ?そんなセリフあったっけ?」

 

「あった、早く答えて」

 

内容を決め終え、おままごとをしている二人。

僕は、思い出すように頬をポリポリと掻いた。

 

「ちょっと、セリフ忘れちゃった」

 

「了承でも断りでも良い。早く答えて」

 

エマからの圧。

僕は冷や汗をかき、逃げるように口を開く。

 

「あ!そろそろ帰らないと!姉ちゃんが待ってる!」

 

少し雑で大きな声。

我ながら、下手くそな嘘だと思ったのだが…

 

「分かった」

 

どうやら、納得してくれたようだ。

ふぅ、危なかった…

 

「ネルフのお姉ちゃん、凄い強い。怒らせたら怖い」

 

「ふふっ。まぁね!姉ちゃんは最強だから!」

 

僕は姉ちゃんが褒められた喜びと、少しの後ろめたさを感じて立ち上がる。

すると、それを見てエマも真似するように立ち上がった。

 

「次回、続きからやる」

 

「いや、覚えてないと思うけど」

 

「大丈夫、わたしが覚えてる」

 

(エマ、本当に覚えてそうだな。セリフ考えとこ)

 

彼女らしからぬ食い気味な言葉。

僕は逃げるように背を向け、帰り始める。

苦笑いをしながらも、幸せを感じながら、姉ちゃんのことを考えて、僕は一歩目を踏み出す。

 

そんな僕。姉ちゃんのことだけを思い浮かべる僕は、この時何も知らなかったんだ。

 

幼馴染からの圧なんて比べ物にならないほどの空気。

そんな空気が、自宅に渦巻いているということを。

 

 

─────────────────────────

 

 

「あら、物騒。殺す?私のこと?人違いじゃない?」

 

ホムラは、男を目の前にして冷静さを保っていた。

冷静さを保ちながらの質問。

そんな彼女を見て、男は、こんな言葉を返す。

 

「筋骨隆々を与えられた女。怪物の転生者……」

 

薄氷のような冷静が、動揺によって割れる。

ネルフだけが知っているはずの情報。転生者という事実。

ホムラは、これを聴き、動揺していた。

 

「能力についても、転生についてもバレてるんだ〜。ふーん、すごいじゃん。でも、だけどさ。『あれ』については知らないんだね」

 

ホムラは間違いなく動揺していた。それは間違いない。

しかし、その動揺はすぐに消えさっていく。

消える動揺、その代わりに現れるのは、己への絶対的な自信。

 

「私の『強さ』知らないんだね。乙女の自宅に不法侵入した覚悟は出来てる?」

 

「無論だ、もう失敗はしない」

 

男の言葉と同時、ホムラが見せるのはファイティングポーズ。

全ての筋肉が隆起する。

刹那、少女の背中が恐ろしいほど大きくなった。

 

─────────────────────────

 

「アイスキャノン」

 

男は言葉を放ち、鋭い氷を生成した。

生成されたのは三発。その全てが恐ろしい速度でホムラの心臓を狙う。

 

ドンッ!

 

「……なるほど。やはり、化け物か」

 

上がっていく砂煙。そこに広がるのは、無傷のホムラの姿。

アイスキャノン。避けたのか?否、違う。彼女には確かに当たった。それは鳴った爆音が証明している。

しかし、それでも、彼女は無傷。

彼女は心臓に飛んできた氷に対して半身になり、肩で受けたのだ。

傷ついたのは服だけ。

筋骨隆々は攻撃だけではない、防御においても最強。

 

「危なぁ。胸で受けてたらおっぱい丸見えだったじゃーん」

 

軽い言葉を放つホムラ。

しかし、彼女の顔は険しかった。

少し赤くなった肩を見つめ、彼女は戦況を分析する。

 

(速くて避けられなかった。しかも、それだけじゃない。肩で受けたのにヒリヒリする)

 

心臓。急所なら死んでいたかもしれない。

それほどの威力、只者じゃない。

 

高速で戦況を処理するホムラを見つめ、男も険しい顔をして片手剣を抜いた。

長めの片手剣には、男の動揺は映らない。

そう、険しい顔にあるのは殺気のみ。

 

(魔法では威力が足らん。剣で決める)

 

(この距離じゃ魔法の餌食、やるしかない)

 

ホムラと男、二人の考えが合致する。

二人の頭に浮かんだのは

 

『接近戦』

 

ドン!

 

「先手必勝!」

 

「来たか」

 

瞬間、ホムラが前傾姿勢を作り素早く前進する。

速い踏み込み。しかし、男の顔色は変わらない。

男は冷静さを保ち、横薙ぎを放つ。

速い横薙ぎ。しかし、ホムラはこれを屈んで避ける。

 

ブン!!!

 

「これを避けるか」

 

(はっや。最速で、最短で首を狙われた)

 

空振りした横薙ぎは空気を割き、ホムラの後方にあった壁を横一文字に破壊する。

その事象にホムラが感じたのは恐怖。

この恐怖が、筋骨隆々でも受けられないことを物語る。

 

額に溢れ出す冷や汗。

ホムラの顔が険しくなる。

しかし、それでも、彼女の険しい顔はすぐに笑いになる。

 

「だけど、近づけた」

 

「チッ」

 

横薙ぎを避け、ホムラは男の懐に入った。

中距離は男の土俵、剣がある分有利。

しかし、懐は違う。剣の長さが邪魔になる。

 

ここは、拳の土俵だ。

 

(一発で良い、当てる!)

 

筋骨隆々を使ったジャブの連打。

低いところから顔に飛んでくる最速の拳。

 

男は体勢を整え、後ろに下がりながら躱す。

それを追うようにホムラも前に出る。

 

ただのジャブが必殺の威力。

ジャブの乱打。そのうちの一発が男の頬を掠めた。

 

(掠ってこの威力か)

 

掠った部分、男の頬が青く変色する。

それほどの破壊力、筋骨隆々の拳。

 

ブン!ブン!ブン!!!

 

攻める、攻める。この攻めこそ、最大の脅威。

それは、強い男相手でも変わらない。

そう、変わらない。

確かに勝てるんだ。

 

このまま、ホムラが攻めていれば。

そう、勝てるんだ。攻めてさえいれば…

 

ブン!……ブン。

 

「速度が落ちてきたな」

 

「きついっ……」

 

攻めていた筈のホムラの表情が曇る。

スピードが落ちた要因は『疲れ』

ジャブを撃ち続けたホムラの左腕は、まるで鉛のようであった。

 

「終わりだ」

 

(やばいっ)

 

言葉と同時、避け続けていた男に余裕が生まれる。

ホムラの落ちたスピード。それによる、刹那とも呼べる隙。

男は、ジャブの合間を縫うように横薙ぎを放つ。

避けられない、ホムラは歯を食いしばり、右腕を首の横に置いた。

 

ザシュッ!

 

恐怖の音と同時。

瞬間、舞ったのは血飛沫。

男の横薙ぎが、筋骨隆々を破壊する。

 

「しぶといな」

 

しかし、少女の破壊には至らない。

ホムラは、男から距離を取る。

 

ボトッ

 

鮮血と共に、何かが床に落ちる。

その正体は、皮一枚で少女の首を守った物。距離を取った衝撃で千切れた物。

 

「防いだか。だが、その代償はデカかったな」

 

「……」

 

「右腕が無ければ、俺は倒せんぞ」

 

鮮血と共に落ちた物は『右腕』

痛い、苦しい。

無くなった右腕からは、ドクドクと血が流れていく。

 

右腕は死んだ、この事実。

右ストレートは撃てない、この苦しみ。

ジャブは、当たらない。この戦況。

これが現実、非情な戦況。

 

この時、ホムラは何を考えていたのだろう。

死ぬのが怖い?絶対にぶっ殺す?

 

どちらも違う。脳内にあったのは、たった一人の家族の存在。

 

「ネルフ」

 

薄れていく思考で、巡らせるのは弟の存在。

巡らせて、考えて、だからこそ気付けたのかもしれない、たった一つの勝ち筋『希望』ってやつが。

 

 

ホムラは足に力を溜める。

筋骨隆々を、最後の気力を。

 

「ネルフは、私が守る」

 

ホムラは、この激しい戦闘の中で、一つ、そして二つ、深呼吸をする。

 

ドン!!!

 

次の瞬間、彼女が飛び込んだ。

最速で男の懐を奪い取る、超速の踏み込み。

それほどのスピード。ホムラの首に、横薙ぎは飛んでこない。

彼女は、ここに来て可能にする。決心する。ネルフを守ると。そして覚悟を決める、こいつを殺すと。

 

ホムラは左肘を90度に曲げ、力を込める。

彼女が放つのは弟が得意な技、ネルフの必殺技。

 

『ボディブロー』

 

(届かせる、絶対に!)

 

満ち溢れる想いと気力。この心は、確かにホムラを動かし、希望を鳴らしていた。

しかし、それ以上に、この場には反対の何かが溢れ出す。

そう、この場に広がっていたのは『違和感』

その正体は、単純であった。

 

『男が横薙ぎを撃たなかったこと』

 

理由は油断ではない。別の狙いがあったから。

刹那、ホムラに襲い掛かる違和感。

彼女の背中に、ゾワッという寒気が広がる。

 

「貴様に、フックは無い」

 

横薙ぎは、威力は高いが撃ち終わりに隙が出来る。

空振りすれば反撃はおろか、避けることも難しい。

故に、撃たなかった。

男は、ボディブローを読んでいた。

 

男が狙っていたのは、たった一つ。

威力を補完する、最上の一手。

 

ザシュッ

 

静かな音。それとは対照的、戦況が揺らぐ。

男は、小さな音を鳴らした。

上手く腕を畳み、ホムラを斬る。

右肩から左腰にまで繋がる上からの袈裟斬り。

不可能と思われた、左拳のボディブローに合わせた完璧なカウンター。

 

「ぐふっ」

 

「もう一度言おう」

 

仰向けに、ホムラが倒れる。

カウンターは相手の勢いを利用して威力を上げる技。

ホムラといえど耐えられなかった。

彼女の筋骨隆々を持ってしても、耐えられなかった。

男は、ただ黙って仰向けの少女を見下ろし、ゆっくりと口を開く。

 

「終わりだ」

 

男は容赦しない。

ホムラの首に剣を突き立て、息の根を止めに行く。

 

「いっしょ、やくそくした、のに……」

 

恐ろしいほどの静けさ。

激しい戦いの最後、死闘を、静寂が覆っていく。

静かな空間に、たったこれだけの、最後の言葉が木霊する。

 

「ネルフ、ごめん…ね……」

 

刹那、姉の首が飛んだ。

 

 

─────────────────────────

 

 

『死』とはなんなのだろう。

一つの事象から様々な物に繋がる不思議な物。

 

友が死んで、自死を選ぶ者。

悪が死んで、喜ぶ者。

 

そんな『死』を目前にした男の子。

彼は決意する。

 

姉の死を後悔し、人の死を願う『復讐』

弟は生首を抱え、決心する。

 

「殺す、殺す。絶対に殺してやる」

 

細く、黒い言葉。

そんな言葉を放った少年の顔は、恐ろしいほど黒く、酷く歪んでいた。

 

 

 

 

 

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