知ってるか?って僕は誰に話しかけたんだ。
それはともかくウルトラマンだ。
怪獣護送中の事故で死なせてしまったあの人だ。
命を救う為に地球人と融合した光る人だ。
初めて見た時「ドジなやっちゃな〜」と思いながら観ていたものだ。
他人事ながら何とも迂闊な奴だし、そもそも護送中の怪獣を道中で殺害するのっていいのか?
なんてツッコミを入れたものだ。
製作者がそんな俺の姿を見ていたらきっと「素直に見ろよ!!」とキレていただろう。
しかし、得てして他者の失敗をせせら笑ってる人間に限って似たり寄ったりの失敗をするものだ。
人の振り見て我が振り直せなんて言葉もあったなそういや。
僕の名前は雨宮吾郎
母親は父親の居ない子を親に内緒で出産
出産後の出血で母親は死亡
父親はどこの者とも知れず、残された母方の祖父母が娘が命と引き換えに産み落とした一粒種を育てることになった。
娘の命と引き換えに生まれ落ちた子供に祖父母は純粋な愛情をかけることもなく、孫との間にある溝を埋めることも無く死亡。
残された孫は健気に産婦人科医となって一人生きていく…
というのが浦原さんと決めた人間、『雨宮吾郎』のカバーストーリーだ。
「悲劇盛り盛りだな吾郎!!マンガみたいだぞ」と一心さんは笑っていたが、僕からすれば現役女子高生で滅却師の女の子の婿養子になった開業医の方が遥かにマンガみたいだし、そもそも何歳差なんだよアンタ、あんなオッパイデカくて可愛くて明るくて性格の良いオッパイのデカい現役女子高生を捕まえるなんてこの野郎、隊長と副隊長の気軽なスキンシップとか言って乱菊さんにちょっかいかけてたのはやっぱりオッパイが好きだからなんじゃねーかと思わなくもない。
羨ましくなんて無い。
女子高生をモノにしたことが羨ましい訳じゃない。
護廷十三隊の隊長という栄誉ある誇り高い使命を投げ打ったことが許せないだけでオッパイ女子高生をモノにしたことが羨ましい訳じゃない。
無いったら無い。
「でも本当は羨ましいんだよね?」
「そうね、僕は田舎で爺さん婆さんの相手をしてる一方であのヒゲは女子高生とイチャイチャ…いやいや、いやいやそれは無いからね?」
「こっちにも女子高生はいるし、可愛い女子小学生もいるよ?」
「それ死にません?死にますよね?」
「私がその気になれば指先一つで君は死ぬね」
「通報だよな?それ通報だよな?」
病院の屋上で
「ツッキーさぁ、浦原さんにどういう教育されてる訳?僕にはお前さんの態度に敬意が欠片も見えないんだけど?」
「敬意?」
キョトンとするな。腹が立つ。可愛い顔を理解し尽くした角度で首傾げてるのが寧ろ腹立つんだけど?
「お生憎様。私の生みの親は喜助だから。君達に敬意を示す必要なんて無いし」
ふふーんと無い胸を張るツクヨミという傲慢極まりない名前を持つ少女。
浦原さん、次に同じ様なの作る時はもっとお淑やかで控えめで庇護欲そそる様な子にした方が良いよ絶対。
名前もツクヨミなんて仰々しいのじゃなくてさぁ、さりなとかうるるとかアイとかそういう可愛らしいので。
今度東京に行った時に打診してみよ。
「それで、君はこんな所でサボってて良いの?お気に入りのアイドルの出産が近いんでしょ?見たところかなり信頼を得てるみたいだね。流石護廷十三隊で初めて痴情のもつれで追放された男だね」
「嘘ぉ〜!?僕そんな噂になってんの!?」
「虚に不覚を取って尸魂界に戻れなくなったのとどっちが不名誉なのかな」
それを言われると弱い。
けどさぁ、本来の力ならあんな虚なんて瞬殺よ?
本当マジで。強がりじゃねーし。負け惜しみじゃねーし。
そこんところわかって欲しいんだよ。
それにさ、あんな厄介な虚だとは思わなかったんだし…
「……君は現世に深入りし過ぎだよ」
「それに関してはそうだな」
「それが無ければ遅れを取らなかっただろうに」
「まぁ、痛いところを突いてくれるなやツッキー。今度は大丈夫」
「フラグ?」
「違ぇーし」
ホント嫌なこと言うなこの人造幼女。
拳骨の一発くらい食らわしてやろうか。
「あれ〜?センセーこんなとこにいたんだ」
「あ…星野さん。どしたの?」
担当患者の少女は嬉しそうに駆け寄ってくる…いや、妊婦が走るなよ。
いつの間にかツクヨミは姿を消してる。正直ありがたい。
仕事サボって銀髪幼女と屋上にいたらまたロリコン疑惑を掛けられる。
俺は一心さんじゃないから女子高生に惚れたりはしない。
「どうしたって、散歩に行く時間じゃん」
「あぁ〜…もうこんな時間か」
「全く、センセーは仕方ないな〜」
腰に手を当てて「私怒ってるんだからね?」みたいに振る舞う推し。可愛い。超可愛い。
あくまでも推しだから。
一心さんみたいなラブじゃないから。
「星野さんは体調良さそうだね」
「うん!コーチョーコーチョーゼッコーチョー」
「はい、元気なのはわかったからターンしない」
「転びそうになってもセンセーが守ってくれるでしょ?」
「自発的に転ぶ患者さんの面倒はどうかな〜」
「いじわるー」
あぁ、ご褒美っすね。推しのアイドルが頬を膨らまして「いじわるー」なんて幾ら払えばいい?やっぱりね、痴話喧嘩で斬魄刀持ち出すような死神の女子がおかしいんだよな。現世最高。
「センセーは私のファンなんだよね?」
「そうだね」
「その割には…こう、素っ気ない?じゃなくて何か…うーん、さっくり?ざっくり?」
「あっさり?」
「そそ、それ。あっさりしてるよね。握手会に来るファンの皆はもっと私をねっとりした目で見てるような…」
「医者が患者をそんな目で見てたら大問題だ」
「それはそうだけど〜」
アイは腑に落ちない顔で上目遣いに見つめてくる。
やめてくれ、その目は俺に効く。
本当は少しばかり嘘を吐いた。
僕には一番の推しがいるから。その子がいる限りどんな子がいても僕はファンの分を弁えずに入れ込むことは無い。
「言っとくけど、僕も十分こってりしたファンだからな。僕のキレキレなオタ芸見たら腰抜かすぞ」
「あははは!!見てみたいよ。寧ろ今度やって」
「それは君のLIVEでのお楽しみに」
「LIVEかぁ〜…」
ふっとアイの表情が微かに翳る。
表面上は笑顔だが、彼女の笑顔が作り物に変わるのが俺にはわかる。
「心配するな。ちゃんと無事に産ませてやるから」
「ッッ」
ポンと軽く背中を叩く。
頭だと思った?いやいやそんな気軽に女の子の頭なんて触ったら通報されるから。
距離感は弁えてるんだよ。
セーフだよね?
「アイドルも母親も両立させる…だろ?じゃあ僕も医師とファンを両立させるさ」
「何それ」
クスッとアイが笑う。
本当の笑顔。
不安はひとまず消えてくれたようだ。
まぁ、少しばかり反則技は使ったけど。
回道に治療する患者をリラックスさせるものがある。治癒の効果を促す為のものだ。
この身体でもこの程度の回道は使える。
「約束だからね?」
散歩で身体が温まったからだろう、ほんのり頬を赤くしたアイが見つめてくる。
「絶対、出産はゴローセンセーが立ち会ってよね?」
「勿論。僕は君の担当医だからな」
「…うん!」
アイは俺が知る限り最高にとびきりの笑顔で頷いた。ぐぅかわ。惚れてまうやろ。いや、惚れないけど。
「あんた星野アイの担当医?」
彼女が偽名を使っているのにも関わらず、彼女の入院を知る不審な男が現れたのは出産予定日のことだった。
「関係者?名前を聞いていいか?」
男は問いには答えず、すぐさま逃げ去る。
あの程度ならすぐに追い付ける…
そう思った瞬間だった。
「!!」
男を追い掛けようとしていた足は逆方向へ、病院へと戻る。
本当は男を追い掛けたいところだがそれを踏み止まって事務長に警察に連絡するように伝えたのはアイの出産に立ち会う為。
ではなく、彼女の病室から”
「この霊圧…まさか…ッ」
窓は砕け、床に散らばった硝子の破片が月明かりを浴びて冷たく輝いている。
アイの病室に駆け付けると、出産に備えていた看護師達が倒れていた。
幸いにも気を失っているようだが、すぐに視線はベッドへと向けられる。
「…カッ……コホッ…く、くる…し…」
「アイ!!」
爬虫類のような身体に不釣り合いな綺麗な面。
能か何かの面を彷彿とさせる白い仮面の舌から伸ばした舌がアイの首を絞め上げ、その先端が彼女の膨らんだ腹に半ばめり込んでいた。
『美味い…何と美味い魂だ…それも2つも…』
愉悦に震える掠れた声に頭の奥が千切れる程に熱くなる。
目の前が赤く染まるようだ。
僕はあの虚を知ってる。
知ってる。
覚えている。
忘れる筈もない。
何故ならずっと探していたから。なんという偶然だ。やっと見つけた。
『!?貴様…ッ!!』
「お前はこっちだよ!!」
義魂丸を呑むのも後回しに、手に込めた霊力で力一杯に虚を殴り付けると、そのまま砕けた窓から飛び出す。
刹那、アイがベッドに倒れ込むのを確認するとありったけの霊力で病院の裏手にある山へと虚を引き離す。
『放せ!!』
「放すかよ!!」
着地も考えずに裏山の崖下までもつれるように虚と落ちる。
崖を転がり落ちるたび岩に身体を叩きつけられ、身体中からしてはいけない鈍い音がする。
ガツンと頭を石に打ち付けると、目の奥に火花が走る。
義骸とはいえ痛いものは痛い。
これは頭蓋骨が完全に砕けたな。
内臓もぐちゃぐちゃだろう。
落下の衝撃に肺から空気が吐き出され、呻き声すら上げられない。
おそらくこの
「ヒッヒィィー!!?」
痛みに悶絶していると、男の悲鳴が聞こえた。
聞き覚えのある声。
痛みに痙攣する身体に鞭打って声の方に視線を向けると、黒いフードを被っていた男が虚を前にへたり込んでいた。
あれはさっきの不審者だ。
虚はへたり込んだ男をじっと眺めていた。
食指が動かないということでもないだろう。
虚の肩が震える。
『なんと…知っとる匂いと思えば…そうか。お前を知ってるぞ?』
「は…はぁ?な、なななな…なんで、俺のこと…俺はしら、しらない」
『んん?そうか?そうかそうか』
ゲラゲラと笑いながら虚が白い仮面を鋭い爪の生えた手でつるりと撫でる。
「ヒィィッ…ヒカ、ヒカッ…ヒカ…ッ、ル!?」
『そうそうそんな名前だったな。コイツは』
つるりと撫でた顔は悍ましい身体に不釣り合いな綺麗な男の顔になっていた。
蜂蜜色の長い髪をした、中性的な美少年。
女と見間違える程に美しい顔が蜥蜴のような虚の身体に乗っかっている姿はグロテスクと言うには余りにも現実味が無く滑稽ですらある。
あの黒フードの男の知り合いのようだ。
『こやつの記憶におったのはあの女だけじゃなかったな。貴様の記憶もあったぞ?くくくく…随分とあの女に入れ込んでいたようだな。あの女の腹の子の父親を大層恨んでおったようだが…この男が父親じゃと知らなんだのかのう?』
「…は、はぁ…?」
トントンと愉快そうに端正な顔を歪めて、虚が自身の顔を指さす。
その言葉を黒フードの男は理解しているのか、理解を拒んでいるのか、目を見開いたままただただ呆然としていた。
男の反応が期待していたよりもつまらなかったのか、虚は美少年の顔をつまらなげに歪めると、溜め息を一つ。
『つまらんのう。もういいわい』
「へっ?」
間の抜けた声と共に男の上半身がぱくんと食いちぎられた。
『……不味い…これだから男の魂は…』
ひと呑みにした魂の味の酷さに虚は顔を顰めた。
雑味しか無い。悪に堕ちた魂も歪みきった魂もそれぞれに味わいはある。
この顔の餓鬼も綺麗な顔に似合わず歪んだ魂をしていて、なかなかのコクがあった。
好みを言えばもう少し熟成してる方が良かったが、食われる瞬間の「何故自分がこんな死に方をするのか?」と信じられないと言った表情が絶妙な薬味となって味を増していた。
しかし、今食った魂はそれらの味も実に半端なものであった。
歯に挟まった男の髪を爪の先でこそぎ落とすとぺっと吐き出す。
せっかく美味い魂を「ついさっき」食べたというのに台無しだ。
口直しが欲しい。
霊力の高い人間の魂がいい。
『先ほどの男がええか』
そう、先ほどの男が丁度良いだろう。
死に掛けていたし、死体から魂が出てきたところをつるんと呑むのが粋というものだろう。
「僕がどうした?」
『!?』
先ほど自分を窓から叩き出した男の声がすぐ側でしたことに、虚が咄嗟に飛び退く。
飛び上がった拍子に視線を巡らせたのは男が倒れていた崖の方向。
そこには確かに先ほどの白衣の男が血塗れで倒れ臥したままだ。
ならば、なぜあの男の声がしたのだ。
真逆の方から。
『いぎぃっ…』
虚はそこでようやく痛みを覚えた。
右の指が三本程斬り落とされていたことにやっと気付いた。
『き、貴様…ッ!!』
「相変わらずすばしこいな…いや、俺が鈍ったのか」
崖下で倒れている白衣の男と全く同じ男がそこに立っていた。
但し、白衣ではなく鴉の羽のように黒い装束を纏い、月明かりに白刃を煌めかせた出立ちで。
『貴様…死神か!!』
「正解」
竜胆の花と四の字が刻まれた腕章を一度だけ懐かしむように撫でると、眼鏡越しに冷たい眼差しで虚を見つめる。
『……貴様、覚えておるぞ…あの時の死神』
「僕だって忘れてねぇよ。随分と借りを作ったお前の顔はな」
『ぎひひひ…ほうかほうか。ワシとて覚えておるわい。死神如きがワシの身体に傷を付けた屈辱をのう…』
「屈辱?それはこっちのセリフなんだけど…まぁ、いいさ。どうせここで終わるんだ」
溜め息を吐く姿が虚の自尊心を甚く傷つけた。
死神を何人も殺し、喰らってきた自分に対して畏怖の念も恐怖も抱かない態度が癇に障った。
嘗て自分を仕留められなかった分際でという気持ちが、すぐさま苛立ちを怒りに変える。
『覚えておるぞ覚えておるぞ。言ったはずじゃ覚えておると。貴様がワシに手傷を負わせたことも、貴様がワシにやられたことものう!!……この顔に貴様が剣を振り下ろせなんだこともなぁ』
虚の顔が端正な美少年の顔から、少女のものに ──── 少年よりも更に幼い、髪の無いあどけなく綺麗な少女の顔に。
「……」
『ヒヒヒヒヒ…固まっておるな。あの時と同じように。“この娘"が死んだ日と同じようになぁぁーー!!』
臓腑が震え、背骨が軋むような咆哮を月下に響かせ、虚が矢のように飛び出した。
強靭な両脚のバネに霊力を加えた高速の動き、そこに尻尾を叩きつけた勢いを乗せた姿は限界まで引き絞られた矢の如き速度であった。
肉を引き裂く男と共にどうっと重たい物が落ち、地を揺さぶった。
土煙を上げて転がる肉体。
『何…じゃと…』
倒れ伏した肉の塊 ─── 虚が茫然と呟いた。
信じられなかった。
痛みよりもまず困惑が虚の中に広がる。
記憶では、この死神を自分が退けていた筈なのに。
なのに、何故だ。
何故自分が地に臥しているのだ?
何故自分の手が無い?
何故自分の足があんなところに転がっている?
何故…
「ま、こんなもんか…こんなもんなのになぁ…」
刀を軽く振りながら
ただ、そう振る舞うのが一連の動作に組み込まれているだけといった風である。
それ程の速度で自分は斬り刻まれたのかとようやく理解が追い付く。
「悪かったな」
虚には最初、その謝罪が誰に向けられたものかわからなかった。
その言葉が自分に向けられているのだと気付いたのは死神が自分を冷めた眼差しで見下ろしていたからだ。
自分を斬り捨てた死神が何故謝罪をするのか。
そのことが理解出来なかった。
「僕のせいでお前を勘違いさせたのは。強いと勘違いしなきゃ、もっとマシな死に方出来たのにな…マジで済まない」
この死神が言っていることが虚には何一つ理解出来なかった。
理解出来ない故に不気味だった。
不気味であるが故に恐ろしかった。
ただ、わかっているのは、この死神の目には最初から最後まで「この顔」の餓鬼しか映っていなかったのだ。
自分の存在など塵芥に等しかったのだ。
ぽっかりとした虚さが広がる。
虚の持つ穴などよりも大きく深い穴のような虚しさを抱きながら虚は霧のように散っていった。
「お疲れ様っス雨宮サン」
「浦原さん」
「お疲れ様、ゴロー」
「なんでツッキーもいるんだよ」
ぬっと気配も無く闇から現れた帽子に甚平姿の男が、下駄を音も立てずに雨宮の隣に立つ。そのすぐ後ろに控えるツクヨミを一瞥すると雨宮は驚く様子も無く浦原と呼ばれた帽子の男を見やる。
「お疲れ様っス」
もう一度、吾郎自身に賞賛されるべきだと自覚させるように浦原が繰り返した。
「大したことないですよこんな雑魚。そもそも僕がマヌケじゃなけりゃここまで犠牲者も出なかったのに」
「いえいえ、コイツをここまで迅速に処理出来るのは隊長格しかいません。けど、こんな奴相手に隊長格を上が派遣することはまず無い。コイツはそういう中途半端に強い、一番厄介な虚なんスよ…この
そんな名前だったのか、と吾郎は無感動に罅割れた地面、虚が消え去った名残りに見遣ると斬魄刀を収めた。
「壊れた病室の修復と彼女達の記憶処理はこっちでやっときましたよ」
「ありがとうございます。けど、わざわざそんな報告だけに来た訳じゃないですよね?」
「さっすが雨宮サン。察しが良い〜」
パンと扇子を広げて、軽薄に笑う浦原にじっとりとした視線を吾郎は向ける。
それなりに付き合いがあるからすぐに察したのだ。
厄介なことを頼まれるのだと。
「星野サン…彼女の子供がヤバいです」
「!!」
軽薄な笑みを引っ込めた浦原の言葉に、吾郎が息を呑む。
子供達ではなく、子供と口にした浦原の言葉のもう一つの意味にもすぐに気付いた。
「子供…一人はダメだった、そういうことですか?」
「聡い人だ…」
そっと目を伏せる浦原の肩に掴み掛かりたい衝動を堪える。
薄々察していたのだ。
あの虚の舌がアイの腹に深く潜り込んでいたのを目撃している。
そして ─── 『美味い…何と美味い魂だ…それも2つも…』 ─── そう言っていたのだ。
「単刀直入に言います。彼女の霊魂は今非常に不安定な状態なんス。欠けた子供の魂を無意識に自分の魂で補おうとしてる…死産した母親が産後の肥立が悪く命を落とすのはこのケースが多いと
「もう一つが問題だと」
浦原はこくりと頷く。
既に吾郎がその術を察していることに気付きつつも、己の責務だとして浦原はそれを告げる。
「もう一人、男の子の方は魂が欠けた状態っス。雨宮サンにはその子の肉体に入ってください」
「アイの子になれってことですか?」
「暫く…という意味では」
吾郎は一つ、深く息を吐く。
「どれくらいか…聞いても良いですか?」
「早くて30年…作るよりも修復の方が魂は時間が必要っス。その子の魂が雨宮サンと相性が良いか、その子の霊力が高ければ…或いは」
もっと早いかもしれない、そう口にするのを浦原は一瞬の逡巡の後に止めた。
魂の未熟児のようなものか。
吾郎が一時的に融合することで、癒し成長を促し一人の人間として問題が無くなるまで寄り添う。同一人物でもあり、兄弟でもあり、親子のようでもある関係になる。
「……30年」
「雨宮サンの葛藤はわかってるつもりっス」
死神の30年は些細な時間だ。
しかし、人間にとっては長い時間だ。
それも子供から30歳の大人になるまでの時はかけがえの無いものだ。
それを自分が奪ってしまうことに、吾郎は僅かに躊躇する。
そう、僅かに。
「しゃーないか。恨まれるかもしれないけど、死んだら恨むことも出来ないからな」
「……いいんスか?尸魂界には」
「既に除籍扱いだから別にいいですよ。約束したんですよ〜ちゃんと無事に産ませてやるって」
それにと吾郎が照れ臭さそうに笑う。
「ちょっと夢だったし?【推しの子】になるの」
吾郎の笑顔をツクヨミは呆れたように、それでも微かに口元を緩めて見つめていた。
ウルトラマンて知ってるか?
知ってるか?って僕は誰に話しかけたんだ。
それはともかくウルトラマンだ。
怪獣護送中の事故で死なせてしまったあの人だ。
命を救う為に地球人と融合した光る人だ。
初めて見たのは現世に遊びに来ていた時のことで、ぶらりと立ち寄った食堂のテレビで再放送されていたものを「ドジなやっちゃな〜」と思いながら観ていたものだ。
他人事ながら何とも迂闊な奴だ。
死神で言えば虚との戦いに人間を巻き込んで死なせてしまうような感じだと思えば、ドジっぷりがよくわかる。
ウチの隊だったら卯ノ花隊長にニコニコ笑いながら無言の圧力を受けることになるだろう。想像しただけで震えが止まらない。
しかし、得てして他者の失敗をせせら笑ってる人間に限って似たり寄ったりの失敗をするものだ。
「あら〜もう起きたの〜?」
自分を抱き上げる推しの顔を間近に眺められる幸せに目眩を覚えつつ、同時に襲ってくる罪悪感に耐えきれずアイから目を逸らす。
俺のせいで本来の「この子」の魂は眠ったままだ。
いずれ彼には謝らなければならない。
それまではどうか安らかに傷を癒してくれ。
君がいつかちゃんとアイの子として生きることが出来るようになるまで、アイは僕が守るから。
「うん、大人しいね。やっぱり
とりあえず、子供の名前についてはもう少し強めに言っておくべきだったかなぁ…
【Death, Rain and
Birth】
【一応の登場人物】
・雨宮吾郎
四番隊副隊長
抜け穴を使ってサボっているところを十番隊長のヒゲに見つかって以来よく飲みに行く仲に。
現世で過ごしている時に仲良くなったとある難病に苦しむ少女の影響でドルオタに。
変色竜に遭遇したのは上記の少女が若くして命を落とした日。
失意のドン底でいたところに、変色竜の能力により少女の顔に変化され不覚を取る。卍解使えるのに情けない話だ。
霊力を著しく失った事もあり現世に留まっていた。
三席の勇音ちゃんが自分より遥かに優秀なので副隊長に就いてくれて良かったと思ってる。
・志波一心
十番隊隊長のヒゲ
なんやかんやあって巨乳JKと夫婦になった。
吾郎は彼を空前絶後のロリコン野郎と呼んでいる。
現世では医者繋がりで吾郎と交流は続くが、吾郎の女たらしぶりを知ってる為、幼い愛娘2人には決して会わせない
・星野アイ
16歳で妊娠、出産した究極で完璧なアイドル
うっすらとだが吾郎が出産の時に助けてくれたことを覚えている。
・蜂蜜色の髪をした少年
星野アイのお腹の子の父親
歪んだ美しさを持つ魂の匂いに惹かれた変色竜に肉体ごと魂を食われる。バリバリと。
どんな人物かはわからないが気の毒なことである。
・黒いパーカーの男
星野アイの反転アンチのストーカー
変色竜にぱっくりと食われる。
半端な奴の魂は変色竜曰く不味いらしい。
・変色竜(カマレオンテ)
食らった魂の記憶と霊力を自分のものにする虚
死神も食らっている為に力は強い。
触れた者の大切な者に化けることが出来る
なまじ副隊長に勝ってしまったので半端に強くなり、途轍もなく増長した。
・浦原喜助
謎の駄菓子屋
一心や吾郎の義骸を作ったりツクヨミを作った。
ツクヨミの性格について吾郎から苦情を受けたため、今度作るなら生意気で勝ち気な性格と可愛らしく大人しい性格の2人を作ろうかなと思っている。
・ツクヨミ
浦原喜助が最初に作った被造魂魄の少女
仰々しい名前だが死神センス的には別に不敬でも何でもなく、文句を言ってる吾郎は寧ろ現世に毒され過ぎ。
・星野アクア
吾郎と混ざり合うことで死神に。