Death, Rain and Birth   作:FOOO嘉

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某親子がちょっと匂わされます。


Anger at myself

絶叫

 

苦痛を少しでも和らげる為に声を上げるというのは意外と遭遇することが少ない。

大抵は仕留め損ない逃げられるか、痛みに声も上げさせる間も無く「終わらせる」からだ。

虚に悲鳴なり絶叫なりを上げさせるということは、苦痛を与え続けているということ。

そこまでの声を上げさせる傷を負わせていながら止めを刺さず、逃がしもしないということに他ならない。

 

 

 

ヒィィィィィ…

 

 

 

耳障りな悲鳴を上げて転げ回る虚を見下ろす。

半ばで断ち切られた尾を掻き抱き泣くように鳴く姿は滑稽ですらある。

 

下らない。

 

尾を斬られたくらいで喚くなよみっともない。

ああ、虚なんてみんなそうか。

死んでも死にきれず、生きている者を妬む惨めな存在。

死してなお生者に執着し、死してなお死を恐れる。

 

下らない。

 

鳥を上げ、怯えた仕草をする虚の目の奥に狡猾な光が宿るのを見逃さない。

白い帯のような手。

五指が更に枝分かれし、根を張るように音も立てず足元まで伸ばされたそれに斬魄刀を突き立てる。

 

 

ヒギィィィィーー!!?

 

 

悲鳴が一際高くなる。

先程までの聊か大袈裟な悲鳴がより切実なものに変わり、少しだけ胸がすく。

 

 

「大袈裟だな。指の一本を切り落としたぐらいで」

 

剣を振るう手は止めない。

言っている間に切り落とした指は十本を超えている。

これだけ細かく分かれていれば痛覚も弱くなっているようなものだが、どうやら違うらしい。

傷口に突き立てた錆刀を試しに捩じってやれば、気持ちいい程悲鳴が大きく、高く鳴り響く。

 

 

捩じる

悲鳴

突き刺す

悲鳴

斬る

悲鳴

突き刺す

悲鳴

捩じる

悲鳴

斬る

悲鳴

突き刺す

悲鳴

捩じる

悲鳴

捩じる

悲鳴

悲鳴

悲鳴

悲鳴

 

 

 

「あ」

 

うっかり指を全て切断してしまった。

斬り落とされ、捩じり取られ、引き千切られた指を残して、虚が羽を広げて飛び上がる。

 

 

ひぃ、ひぃ、ひぃ

 

 

哭いているのか呻いているのか、擦れて醜い声を上げながらも、自身を床に拘束していた楔から半ば強制的に解放されるや否や逃げ出すのは大した執念であり、そして…

 

「実に小賢しいな」

 

飛び上がり、上空から僕を見下ろす虚の目には憎しみと恨み、そして嘲笑が浮かぶ。

 

自分を嬲りものにしたことへの憎しみ。

食事を邪魔したことへの恨み。

そして侮り嬲った結果まんまと自分を逃がしてしまった死神への嘲笑、まぁそんなところだろうか。

 

 

下らない。

 

実に馬鹿で浅ましいケダモノらしい思考だ。

 

 

 

ボッ

 

 

ボッ

 

 

ボボッ

 

 

ボボボッ

 

 

ボボボボンッッッッッッ

 

 

一つ、花火のように鮮やかな炎の華が浮かんだ。

そこからは連鎖的に花々が夜空に描かれる。

無数の爆発。

 

空を埋め尽くす程の大小様々な爆発を無防備な背中に浴びて、声も無く虚が墜落した。

 

這いつくばったその顔は、白い仮面に覆われていながら激しい動揺が透けて見える。

ダメージよりも思いがけない爆発そのものに動転しているのだろう。

 

「赤火砲って言ってさ、三十番台の鬼道なんだよね」

 

ゆっくりと虚に近づく。

びくんと、虚の身体が震える。一丁前に恐怖を覚えているらしい。

敢えてゆっくりと歩くのはじわじわと恐怖を与えるためだけじゃない。

油断のならない虚だから警戒を怠らないためだ。

 

「真央霊術院の授業でも習う割と基本的な鬼道なんだけどさ、これが中々奥が深いんだ」

破面でもあるまいし、鬼道をどこまで理解できているかはわからない。

それでも、何となく喋りたくなるのは誰かにちょっとした研究成果を自慢したくなる気持ちが僕の中にあるからだろうか。

浦原さん辺りに話したら「なんだ、そんなことっスか」と一笑に付されてしまいそうで言いたくないというのもあるんだけど。

 

「詠唱破棄することで小さな灯りにもなるし、磨き上げればその名の通り大砲のような威力にもなる」

 

昔、藍染隊長が撃つのを見た時は正直引いた。ていうかビビった。

 

「圧縮た爆発を飛ばしてぶつける術なんだけど、逆に言えばぶつからない限り爆発しない術でもあるんだ。だから空中に固定してやれば機雷のような使い方も出来る」

 

勿論、多少コツが必要なんだけどさ。

可能な限り圧縮して目立たないようにしたり、霊圧で固定するのが多少難しかったり、込める霊圧をある程度低くすら方が調整が利くし目立たない。それに周囲への被害も抑えられる。

 

「小さな爆発でも重ねれば、ほら、ご覧の通り僕如きが使っても君の羽を焼き切る程度にはなるんだけどね」

 

焼け焦げた翼の残骸を踏み躙る。

翼が焼け落ち、爛れた背中は愉快なくらい痛々しい。

尾を切断され、指を全て切り落とされ、羽を焼かれ、惨めに這いつくばる虚を見下ろす。

 

 

「よっと」

 

指の無い虚の腕に錆刀を突き立てる。

 

 

ギィィイェィヤァァァァーーー!!!

 

 

耳をつんざくような悲鳴を聞きながら、突き立てた錆刀を何度も捩じる。

 

下らない。

 

「散々人を苦しめて、魂を嬲って、苦痛を堪能してきた癖に、自分の痛みは大仰に訴えるじ

ゃないか」

 

悲鳴を上げる虚を見ても何も感じない。

犯してきた罪を一つ一つあげつらい悔恨を促すべきなのだろうか。

喉も裂けんばかりに絶叫する姿に笑みでも浮かべるべきなのだろうか。

 

下らない。

 

「お前のせいであの母親はどれほど苦しんだのだろう。あの女の子はどれほど悲しんだのだろう」

 

 

気が付けば虚の腕を斬り落としていた。

たまたま病院で見かけた親子の姿を思い出す。

この虚に目を付けられ、衰弱の一途をたどっていた娘そっくりの母親の青白く痩せこけた顔、そして、その母親の病室の前で歯を食いしばってただ静かに涙を流していた少女を思い出す。

まだ高校生か、もしかしたら中学生くらいだろうか。可愛らしい少女だった。

泣き腫らして目元を赤くしながらも「どうしたの?迷子かな?」なんて見ず知らずのガキ(アクア)に笑いかけてきた優しい娘。

 

「あの親子がどれほど泣いたのだろう」

 

間違いなくこの虚が齎した不幸。災厄。悲劇。

 

 

 

 

「なんてね」

 

独り言の間も錆刀を振るう手は止めていなかった。

見渡せばぶつ切りになった虚の腕が転がっている。腕だけじゃない、足も斬り落とし、頭部だけ辛うじて残した虚の頭を踏み付けていた。

 

 

下らない。

 

 

悪意を煮詰めた本能で動くケダモノにどんな反省があるのか。

仇でも何でもない者の痛苦と叫びにどれほど気が晴れるというのか。

ただの八つ当たりの癖に。

この期に及んで死神っぽく振舞おうとする自分の矮小さが情けない。

偶々目に付いた親子の苦境を自分の怒りと振る舞いを正当化させるための口実にする自分の卑劣さに反吐が出そうだ。

 

踏み付けた脚の下で、悲鳴も弱々しく手足も尾も羽も無い身体では藻掻くことすら碌に出来ない虚を見下ろすが、心の中に蟠ったへドロのような感情は一向に晴れる気配が無い。

 

もう仮面を断ち割ってやればいいのだろうが、それでも手にした刀を頭部に振り下ろす気にもなれない。

胸の内に蟠っている感情が何かはわかっている。

濁った感情。

魂の奥で渦巻くもの。

憎しみ。

虚への憎しみ。

ような苛烈な感情でも、激しい激流のような衝動でもなく、ただ緩やかな波のように憎しみが寄せては返す。

衝動と呼ぶほど抗いがたく力強いものではないはずなのに、その波に抗おうという気は不思議と起こらなかった。

 

まるで笹の葉のように軽く、酷く現実味が無い。

 

流れていくのなら、流れるままになってしまえばいい。

 

投げやりな、いや、それどころか愉悦すら感じているかもしれない。

 

 

この流れに乗って自分の心がどこに行くのか。

この流れのまま自分の心がどこに辿り着いてしまうのか。

この流れに心を委ねて何をやってしまえるのか。

 

 

どこを斬ってやろう。

どこを刺してやろう。

どこを削いでやろう。

どこを抉ってやろう。

 

惰性塗れの嗜虐心に押されるまま切先をふらふらと揺らがせていると、視界の端が微かに煌めくものを捉えた。

 

 

「!」

 

 

タンッ

 

 

糸を引くような真っ直ぐな剣閃と共に虚の仮面が真っ二つに断ち切られた。

多少は剣に覚えがある者なら惚れ惚れとするような一太刀。

視界に焼き付いた余りに美しい直線を自然と心の中で反芻している間に、虚がゆっくりと崩れていく。

一匹のケダモノが散っていく。

それは細雪のような美しさなど無い。薄墨色を帯びた灰の塊がそよ風の一押しでぼろぼろと崩れる様によく似ている。

活け造りの魚のように、虚は自分が斬られたことに気付かぬようにぼそぼそと何事かを呟きながら風に流れ、闇へと溶けて行った。

 

 

「なーにらしくないことしてんスか雨宮サン」

「·····死神に復帰したんですか浦原さん」

「そんなんじゃないスよ。ただオトモダチがグレちゃいそうだったんで、ちょっと待ったをかけただけス」

「死神の職務をこなしていただけですよ」

「嫌ですね〜〜〜⋯⋯⋯⋯虚をいたぶるのは死神の仕事じゃないでしょ雨宮サン?」

 

虚を葬った斬魄刀を収め、普段と変わらない調子で笑う。

口調こそいつも通りの軽いものだが、僕を見つめる目は冷徹なまでに硬く、何処までも静かだ。

彼の静かな眼差しに射抜かれて頭の芯から冷えていく。

 

虚への怒りじゃない。

何も出来なかった自分への怒りに僕はずっと囚われていた。

真咲さんを助けることが出来た可能性があったのは僕だけなのに。

死神の力を失っている一心さんでもなく、幼い一護でもなく、僕だけだったのに。

どの面を下げて一心さんに会えばいいのだ。

どんな言葉を一護にかけてやればいいのだ。

 

 

本当はそう思うことすらおこがましいとわかっているのに、それでも抑えきれない怒りと苛立ちと憎しみを虚へとぶつけていた。

浦原さんは僕よりも早く僕の八つ当たりに気付いていたのだ。

 

「さ、帰りましょう、雨宮サン」

 

ぽんと軽く背を叩かれる。

 

「僕は⋯」

「それに…どれだけ虚を痛めつけても、真咲サンは帰ってこないし、黒崎サンも喜ばないですよ」

 

 

言葉も無かった。

言い様の無い羞恥心と、自己嫌悪の念が次から次へと込み上げる。

 

 

僕は、本当に無様だ。

 

 

 

 

 

 

 




【赤火砲】
破道の三十一。真央霊術院の授業でも習う比較的難易度の低い鬼道。
修得難度は高くなく、使用しやすい鬼道であり、マッチの火から火炎放射器レベルと使い手の霊圧と技量と才能によって威力が大きく左右される。
五番隊と共同で虚退治に当たった際、五番隊長藍染隊長が撃った赤火砲は高層ビル程の巨体を誇る虚の頭部を上半身ごと吹き飛ばした。ていうか塵にした。

吾郎は震えた。皆震えた。


【赤火機雷】
真央霊術院時代に吾郎が「馬鹿正直に撃ったら避けられるなら、バレないようにすればよくない?」というコンセプトの下、独自に改良した赤火砲。同期で飲み友達だった十一番隊のハゲに「セコイな」と言われたのが地味に傷ついたので彼はこの術を誰にも話していない。
知っているのは開発に付き合ってくれた後輩と元カノ、お披露目したハゲとハゲの友達のナルシスト。あとは面白そうだからと勝手に見物していた八番隊長くらい。




【錆刀】
斬り付けた対象の痛みを対象の霊圧に応じて増幅させる。
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