仮面ライダーアステラ   作:赫牛

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私の家族

「あー……」

 

 9月に入り、新学期が始まって間もない日。

 大空みつきはソファーに寝転ぶなり深い深いため息をついた。今日も夜遅くまで来週の授業の用意や書類の作成等の業務をこなし、干からびながら愛しき我が家に帰宅したのである。

 授業についていけない生徒のフォロー、及びそれを組み込んでの授業展開の再構築。担任としての業務や2年生の修学旅行についての会議。更には9月の暑さも乗っかって、疲労困憊のみつきの頭は回っていなかった。

 そんなみつきだったが、ポケットのスマホが震えたのには気付く事ができた。画面に表示されていたのは愛しい旦那の名前。

 

「研くーん!久しぶりー!」

『久しぶり。今日もお疲れ様だ、みっちゃん』

「ほんとだよー!疲れたぁー!」

 

 電話口から笑い声が漏れる。そして疲れたと言いつつもみつきの顔にも笑顔が浮かんでいた。この夫婦、夫である研二(けんじ)が仕事の多忙さ故にあまり家に帰れず、今の様な通話の時間が1カ月に1回程しか取れない事もあり、互いに40を越えて尚あだ名で呼び合うくらいにはアツアツである。

 

『この1カ月で何か変わった事ある?』

「変わった事……?」

 

 みつきがこのひと月の出来事に思考を巡らせた所、やはり一番のトピックは仮称サクラちゃんが居候するようになった事だろうとなった。花鹿程とは言わないが、サクラに対しても親心の様なものが芽生えていて、最早家族の一員と言っても差支え無いとみつきは思っていた。

 繰り返すが、この時のみつきは疲労により頭が上手く回っていなかった。そこに重ねて久々の夫との通話で浮かれていて、普段通りの思考ができていなかった。

 

「あー、家族が増えたくらいかなー」

 

 故に、あまり深く考えずにこんな軽口を叩いてしまった。

 

『家族?家族って、どう言う事?ペットとか?』

「ううん、娘かなー」

『娘……?』

 

 暫しの沈黙。そして。

 

『むすめええええええ!?』

「うわあっ!」

 

 電話越しからの絶叫に耳をやられたみつきは、少しの間だけスマホを遠ざけていた。そして再び耳を当てた時には通話は終了していた。

 突然至福の時間が終わってしまった事にみつきは困惑した。しかしそれも疲労が押し流して、何故終わったかを考える事はしなかった。電話口を遠ざけている間に何か聞こえた気もするが、それも今のみつきにとっては些事だった。そして汗でべたつく体を洗うため、風呂に入ろうと思考を切り替えたのだった。

 

 この出来事が一波乱生むのは、次の日の話。

 

 

 

 

 

 扉を出て通路を歩くと、段々と人々の喧騒が戻ってくる。ゲートを通り抜けた先にはポップコーンやドリンクを持つ人も多くいて、入場できる時間になるのを今か今かと待っている。

 ビルに併設された映画館の出入り口ではよくある光景……だと思う。

 

「結構面白かったね」

「はい……」

 

 今日は花鹿が前々から興味があった映画を二人で見に来たのだ。私的にはテレビでCMがしてるなーくらいの認識だったが、見てみると案外楽しむ事ができたのだった。

 

「次、いつ見に行きますか?」

「次?なんか面白そうなのやってたっけ……?」

 

 と言う私の返しに、花鹿は首を横に振った。どう言う事か一瞬考えて、気付く。

 

「え、もしかして同じやつ?」

 

 今度は首を縦に振った。

 確かに面白かったけど、2回目?そう言う事する人もいるとは思うけど、私は別になぁ……。

 返答に困っていると花鹿のスマホが鳴った。画面を見た花鹿がえっ、と小さく漏らす。

 

「どうしたの?」

「電話、お父さんからで……」

「お父さん?」

 

 花鹿のお父さん、大空研二さんは仕事が忙しく勤務先の寮で寝泊まりしていて、私はまだ会った事も声を聞いた事も無い。多忙で連絡もなかなかしないらしいが、こんな時間に一体どうしたのだろう。

 

「もしもし……今外だよ……えっ」

 

 またも驚きの声。

 

「あ、はい……分かった……」

 

 花鹿はスマホを離す。豆鉄砲を喰らった顔とは、まさにこの事だった。

 

「え、どしたん?」

「お父さんが……帰ってくるって」

「……え?」

 

 多分私も、同じ顔になったんだと思う。

 

 

 

 

 

 できるだけ早い時間の電車に乗って家路につく間、ずっとそわそわしていた。

 このままの流れなら当然花鹿の父親と顔を合わせる訳だが、一体どう言う面持ちで会えば良いのか分からない。先日からお世話になってますとでも言うべきか。いや言うべきだ。

 この時の私の様子を、後に花鹿は『娘さんをくださいと言いに来たどこの馬の骨とも知れぬ男』と表した。そんな大層な事じゃないと思うが、兎に角私は緊張していたのだ。

 ふわふわした気持ちで歩いている内にいつの間にか家まで帰ってきていて、勝手に喉が鳴る。生唾を飲むとはこう言う事なのだと、新たな発見をした所で花鹿がドアを開けいつも通り玄関に入っていく。私もそれに続いて入り、手を洗ってうがいをしてリビングに入る。今日は休日。中ではみつきさんがアイスに舌鼓を打っていた。

 

「ただいまー。お父さんは?」

「まだ帰ってきてないよー」

 

 その言葉にそっと胸を撫で下ろす。ただ問題が先延ばしになっただけだけど、心の準備をする時間はいくらあったって良い。そう思って気を抜いたのが間違いだった。

 油断した私を嘲笑う様にがちりと玄関の鍵が開く音がし、心臓が何センチか跳ねた。鍵が勝手に開くと言う事は鍵を持っている人物が開けたと言う事であり、ここにいる3人以外で該当する人物は一人しかいない。

 とととと、と廊下を小走りする音、そして次の瞬間には勢い良く扉が開かれ、紺のスーツを着、緩いパーマのかかった黒髪を左右に分けた男性が入ってきた。

 その鬼気迫ると言った表情に、一同押し黙る。そして静寂を破るのも、この男性であった。

 

「花鹿……」

「あ、うん……」

 

 花鹿の名を呼んだ男性……間違いなく大空研二氏は、ふるふると肩を震わせ、そしてがっと花鹿の肩を掴んだ。

 

「えっ……」

「花鹿……おめでとう……!」

「……何が?」

「覚悟はしてたけど、こんなにも早く嫁に行ってしまうなんて……!」

「……は?」

 

 嫁に行くとは、一体何の話をしているのだろう。目に大粒の涙を溜めた研二さんは、こちらの困惑が見えていないのかそのまま話を続ける。

 

「しかしなぁ、やっぱり一言言って欲しかったなぁ。しかも相手も女性って言うから驚いた。ああ勿論駄目って言ってる訳じゃないんだ。ただこっちにも心の準備が……」

「何言ってる……?」

 

 流石の花鹿もこの反応である。勿論私もついていけてない。

 何?花鹿がお嫁に行くと?しかも女性と結婚?一体全体どうしてそうなった?

 

「研くん、何の話してるの?」

「え?花鹿が結婚するって……あれ、違う?」

「違うけど、どうしてそうなった?」

「だって娘が増えたって、みっちゃんが……」

「……あー」

 

 みつきさんは頭を抱えた。そして同時に、私もどう言う思考なのか分かった。

 きっかけが何か分からないが、花鹿が結婚する事で婿……いや嫁か。兎に角娘が増えると勘違いしているのだ。そしてもしかしなくてもみつきさんの言った増えた娘と言うのは……。

 

「ごめん研くんそう言う事じゃなくてね、この子をうちで預かる事になったって事なの」

「……え、誰?」

 

 この瞬間初めて私の存在に気付いたみたいだ。

 

「あの、サクラって言います。記憶喪失なのでここでお世話になってます。よろしくお願いします」

「はぁ……記憶喪失……?」

 

 研二さんはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。自分の認識と事実のずれ、そして情報量に頭がついてきていないのかもしれない。

 

「あれそう言う事だったのかー。確かに勘違いするかもしれないけど、それにしても思い込んだら一直線過ぎだよー」

「……え、勘違い?」

「うん」

「娘が増えたって、居候って事?」

「そうですね」

「花鹿は結婚しない?」

「まあ、そうだけど……」

 

 それを聞いた瞬間、研二さんは膝から崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

「いやぁ、恥ずかしい所を見せてしまった……」

「本当、恥ずかしい……」

「し、仕方ないだろ?花鹿が結婚するって思ったらつい……」

 

 花鹿のぼやきに言い訳しながら、研二さんは麦茶を飲み一息つく。

 

「取り乱して申し訳ない。改めて、大空研二、みつきの夫で花鹿の父です。よろしく」

「よろしくお願いします」

「まあ知っての通り、僕はあまり家にいないから話す機会も少ないと思うけど、少ないなりに話せると嬉しいよ」

「こちらこそ。まああんまり話せる事は無いですけど……記憶喪失なもので」

 

 会話の引き出しが少ないのってコミュニケーションにおいて致命的だと思う。別に人生で縛りプレイしたい訳でもないので記憶くんには本当に早く帰って来て欲しい。

 さて、と研二さんが手を叩く。

 

「変な汗かいたし、軽くシャワー浴びてくるよ」

「仕事は大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。休みはちゃんともらったし遅れた分後で取り返せば良いだけだから」

 

 それじゃ、と研二さんはリビングを後にしていった。

 

「凄い簡単そうに言いましたね……」

「あれでできちゃうから凄いのよねー研くんは」

「成程」

 

 さっきは取り乱していてそんな感じしなかったけど、毎日忙しいだけの事はあるんだなあ。まあ、どんなに凄くても人の親と言う事かもしれない。

 分かった様な事を思ったけど、分かってないのかも。

 当然だけど、家族だものね。

 

 

 

 

 

 明くる日。陽も中天に差し掛かる頃。

 都会の中にぽつんと建てられた、小さな水族館。そこに大空一家と私はいた。研二さんにとって貴重な家族との時間と言うのもあり、折角だからどこかに遊びに行こうと言う事になったのだ。私は遠慮したのだが、是非一緒にとの事だったので断るのも忍びなく付いて来てしまった。

 様々な魚達が泳ぐ大きな水槽の中。青い背景に白い粒がきらきら光り、赤や黄色の宝石がゆらゆらと漂う。普段目にする様な魚もそうでないものも、一様に命が光っていた。それを閉じ込めている水槽は溢れてしまわないのだろうかと、そんな心配しなくてもいいような事を考えていた。

 三人が話している中、そう言う事ばかりを思わず考えてしまっていた。一緒に横に並んで、時折相槌を打って聞いているふりをしていたけど、張り付いた笑顔がガラスに薄く映っただけの様な気がした。

 水が弾けるイルカショーを見て、星の様なクラゲを見て、自然と戯れる生き物達を見る。皆楽しそうに喋って、笑って、仲が良いなって思った。

 勝手に仲間外れみたいな気がして、少し笑った。

 

 

 

 

 

 お昼時。

 水族館にも食べ物が売ってるのって、結構親切だと思う。花鹿とみつきさんは自分達が食べたい物を選んでいて、私と研二さんはお留守番。

 やっぱり、気まずい。何を話せば良いんだろう。引き出しが私に無いからって、向こうの話を聞けば良いだけだから会話をしない理由にはならない。ただ私が話せないだけだ。

 

「花鹿とみつきとは仲良くできてる?」

「え……はい、そうですね」

 

 話しかけてくれて正直助かった。研二さんは安心した様に笑う。

 

「良かった。あんまり話したりしてないのかと思って」

「それは……」

 

 多分今の様子を見てそう思ったのだろう。

 理由は分かるけど、だけどそれを言ってしまうのはちょっと。

 

「邪魔しないようにって気を遣ってたのかな?」

「う……」

「でしょ?」

「……それもあるけど、そうじゃないって言うか」

 

 嫌になる。

 自分の遠慮を悟られて、逆に相手に気を遣わせる。器用じゃないのは仕方ないけど、それでも嫌だと思う時はある。全部自分が悪いのだから、余計にみじめだ。

 

「どう言う気持ちか教えて欲しいな」

 

 だけど研二さんの目は優しくて、言葉は優しくて、言ってしまっても良いかなと思ってしまった。

 

「私が勝手に遠慮して、それで、やっぱり家族じゃないなって思っただけなんです」

「家族じゃない、か」

「だって、他人じゃないですか」

「うーん……」

 

 両手を合わせ、口に当てて考える研二さん。そしてゆっくり言葉を紡いでくれる。

 

「血は繋がってないけどさ、家族だって思うのは自由じゃない?」

「そうですか?」

「だってさ、そもそも花鹿と僕達は血が繋がってはないよ。でも家族だ」

「それは確かに……」

 

 納得せざるを得ない。でもそれは一緒に過ごした時間が……。

 

「確かに僕とサクラちゃんが一緒に過ごした時間は少ないから、いきなりそう思うのは無理かもしれない。でも、先に家族になっておくのも手だと思うよ」

「先に、ですか?」

「本当の家族だって、全員が仲が良いとは限らない。結局はどう付き合っていくかだと思うんだよね。だから家族として僕はサクラちゃんと向き合って、家族だって思ってもらいたい。そう言う付き合い方をしていきたい」

 

 家族と、どう付き合うか。

 そっか、皆は今までちゃんと家族同士で向き合って、ちゃんと付き合ってきたから仲が良いって言う、それだけの事だったのか。

 

「家族でも、良いんですか?」

「勿論、この歳で娘が一人増えたのはびっくりしたけどね」

「確かに」

 

 研二さんと二人、笑い合う。急に近くなった気がして、でも悪い気分ではなかった。

 

「ただいまー……どうしたのそんなに笑って」

「何でもないよ。じゃあ交代ね。行こっかサクラちゃん」

「はい!」

 

 怪訝そうな花鹿と優しく微笑むみつきさんと交代で、研二さんと一緒に食べたい物を探しにいった。

 

 

 

 

 

 僕がそれに気付いたのは、水族館から帰ろうとした時。水の匂いがする通路を抜けて建物を囲む水路を目にした時だった。

 水底から浮かんでくる黒い影。魚にしては大きすぎるそれは水面を破る。

 顔を出したのは、三角形のヒレ。古典的なサメ映画で見た様な光景が、何故か街中で再現されている。

 こんな水路にサメが紛れ込んでくるなんて聞いた事が無い。そもそもこの水路には魚はいないはず。

 今更になって頭の中で警告が鳴る。それと同時にその影は水飛沫と共に空に跳んだ。

 地面を濡らして着地したそれが顔を上げる。それは予感通りサメの様な特徴を持つ。

 

「人型……こんな所に!」

 

 気付いた人々の悲鳴が連鎖して、皆散り散りに逃げていく。人型は静かに狙いを定めている。変身するなら、この混乱に乗じるべき。

 

「皆、隠れてて!」

 

 腰に力を集めて、光を浮かべる。

 

「変身!」

 

 光に両手を重ね、左右に腕を広げる。光が身体を駆け巡って、僕はアステラになる。

 僕に気付いた人型と目が合う。歩いて、間合いをはかって、僕が跳ぶ。拳は当たって人型がよろけるけど、痛みで僕も怯む。身体がざらざらしていて殴ったら拳に傷が付いた。傷はすぐ治ったけど、どう戦うか考えないといけなくなった。

 見た感じこの前のカブトムシと違って全身がざらざらしてそうだから、どこかだけ狙うのは意味が無い。かと言って武器とか持ってないし無視して殴るしかないんだけど、傷を治す分だけ戦える時間は短くなる。

 つまりは弱点を見つけて、効果的に攻撃をしないといけない。

 そう結論付けた時に人型が大きな口を開けながら迫ってきて、転がって避ける。勢いのままカウンターにぶつかった人型の顎が閉じ、牙が石で出来たカウンターを抉る。取り敢えずあれに噛みつかれたらやばいのは分かった。

 入り口から外に出て突進する人型を迎え撃つ。紙一重で躱して、振り返った所に跳びかかる。地面を転がって、力強く投げ飛ばす。人型が地面に落ちるけど、まだぴんぴんしてそう。

 人型の身体と擦れた所にやっぱり傷が出来ていて、治す度に力が減っていくのが分かる。やっぱり弱点、結晶のある場所を探さないと。

 と思った時。

 

「花鹿!」

 

 僕を呼ぶ声と同時に銃声。人型に当たって怯ませる。

 振り返ると、お父さんが拳銃を構えていた。

 

「え……今撃って大丈夫なの?」

「大丈夫。始末書の一つくらい、すぐ書ける!」

 

 それは大丈夫なのだろうか。

 まあでも、今はありがたい。

 

「弱点見つけたいんだ。だからいっぱい撃って欲しい」

「了解。当たらないように気を付けて」

「うん」

 

 頷き合って、僕は走り出す。横を銃弾が通り過ぎて、人型の身体で火花が散る。人型がお父さんの方を向いたけど、動き出す前に殴って注意を引き付ける。人型が僕を攻撃しようとしている間にも、銃弾が人型を撃ちつける。

 その内の一つが、人型を大きく怯ませる。

 

「花鹿、左胸の鰓だ!」

「分かった!」

 

 ジャンプして、突き出した右脚で鰓を蹴る。胸を押さえた人型が怒って噛みつこうとするのをかいくぐって殴る。もう一回、もう一回、兎に角鰓を狙って殴る。

 大きな一撃で吹き飛んだ人型が弱弱しい声を上げて、一目散に水路へ走って飛び込む。どう考えても水中は相手のホームだけど、逃がす訳にはいかないからそれに続く。

 凄い速さで人型が泳ぐ。普通だったら追いつけないから、脚に光を集めて、それを弾けさせて加速する。

追いついた所で掴みかかる。人型が振り落とそうともがくのを耐えて、腕に光を集める。それを拳に纏わせて、同時に肘から真っ直ぐに放つイメージ。

 

「やあっ!」

 

 噴射したエネルギーの勢いも乗せたパンチが鰓を貫く。人型の身体に潜り込んだ拳が、中で何か硬い物を砕いた感覚がした。

 動きを止めた人型は、そのまま僕の眼の前で爆発した。

 

 

 

 

 

 一昨日見たスーツを着て、支度をした研二さんが玄関に立つ。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 急に申請した休暇で、しかも勤務外で発砲した事の始末書を書かないといけない為、研二さんは今日で単身赴任先に戻る事になった。

 昨日いきなり銃を撃った事には驚いたが、研二さんが持っているのも当然だった。所属しているのは警察、それも今は人型対策本部。普段から人型の怖さを知っている人だから、用心の為に持ち出していたらしい。それは大丈夫なのかと言ったけど、心配要らないと言われてしまった。

 

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「うん、また電話するよ」

「程々にね」

「花鹿も気を付けるんだぞ。無理は程々にね」

「……うん」

 

 みつきさんと花鹿、そして研二さんが言葉を交わす。仕事に行く家族を見送る、よくある光景。

 私も、家族でいたい。

 

「あの……」

「うん?」

 

 顔を上げた研二さんに、一歩近づく。

 

「その……気を付けて、また帰ってきてください」

「勿論。またね、サクラちゃん」

 

 玄関を開け、研二さんは私達に背を向けた。だけど扉を閉める前にこっちを見て、手を上げた。

 それに応えて、花鹿とみつきさんと一緒に私も手を振った。

 

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