HOLOLIVE COMBAT〜Skyblue Triangle〜 作:ブラウ隊
「五目並べやろっか、みこち」
「いいよー」
とある一室。と言っても事務所どころか中規模の飛行場クラスにまで敷地が広がった『基地』の一室である。
ちなみに外は快晴、だが五目並べという謎のセレクトで押入れから碁盤が持ち出されてきた。
白上フブキ、さくらみこの両名は白と黒の碁石を片手に向き合いながら現在の状況、自分達の境遇について未だに理解が追いつかない、という状況にある。
そう、全ては一月前に遡る。ホロメンが軍用機に乗ることになった建前は海外のエアショーや国内の航空祭に近い程度。
だが実際はもう少し踏み込んだ内容であり、哨戒──空域のパトロールを任されることになった。
さらに今まで事務所として機能していた建造物は管制塔へと姿を変え、周辺には滑走路やハンガーが増設。まるで空軍基地だ。
「「バグみたいな飛行物体?」」
『一応こっちのレーダーでも捕捉はできてるのに雲が邪魔してる、それか極端に速い何か…これも仮定の域ですねー』
「で、みことフブさんしか今は動けないんだ?」
『ごめんなさい!みこにぇーさんとフブキ先輩にしか今は頼めないかな、解析も難航してて…』
holoXの頭脳こと博衣こよりは机に置かれたタブレットのモニター越しに見てもグロッキー気味、後ろに見えるデスクに栄養ドリンクが数本転がる程度には完徹ラッシュが見て取れる。
『配信モンスター』の異名で知られる彼女も畑の違い、謎の飛行物体の度重なる目撃情報の整理で頭脳がオーバーヒートしているらしい。
「なるほど?戦闘機なら触ったことありますなぁ、配信で」
「ゔぇ!?スゲェー!…って配信かよぉ!」
『こよ達も他のメンバーも機体の割り当てが順番待ち、現状で合流できても二人くらいかな…』
そして今に至る。なお、この世界は時空で繋がる場所が幾つか点在する。文字通り時空の裂け目と言ってもいい箇所だ。
「やっぱ変ですねぇ」とフブキが呟きながら勝利、ピカーン!と光る白い碁石。やっちまった、と悟ったみこの絶叫が響く。
RTAとは言わせない。だが上には上がいた。そう、目の前に。
「あ、勝ちですー」
\フブさァァァんッ!?/
何回かフブキがストレート勝ちした後で二人はスマホを取り出して地図アプリを起動する。
このアプリはこの世界の三層構造を各階層で確認、視覚化に成功した代物であり、日常生活から防衛機能まで幅広く普及した経歴がある。
一つ目は『バーチャル』。ホロライブや他のライバーが身を置き、容姿や種族などの縛りは一切なく、何でもアリを尊重する『いつもの光景』がここにある。カオスと言えば身も蓋もないが、様々なコミニュティが溢れている。
二つ目は『アナザー』。パラレルワールド全般を十把一絡げにした呼称であり、単なるミスで他の時空から流れ着いてしまった、もしくはそれを前提に危害を加える存在の流出元となり、いわゆる『異界』のようなものだ。
三つ目は『現界』。いわゆる現実世界がこれにあたり、配信を通してのみ、かつコメントのみで交流が可能なため、バーチャルに身を置く者にとってある意味で現界こそ『バーチャル』と言える部類に入る。
また、バーチャル、アナザーは世界が各9エリアに分かれて構成され、これがピラミッド型の正三角形に組み合わさったこの状態で地図アプリに映る。
. ①
. ②③④
.⑤⑥⑦⑧⑨
ちなみに、この2つの世界がほぼ同じ地形や景色、気候となる一方で現界のみ現実の世界地図と同じ世界で独立。
現在はバーチャル地図の③に位置する中央都市部エリアにあたり、各種の中枢機能や企業が集中している。
「変だにぇ…両方の時空に変化がないって」
「とりあえずハンガー行きますか」
「あ、見つけましたよ!」
「「えーちゃん!」」
友人A。この基地と化した管制室を取り仕切る存在である一方、武器弾薬など兵装の管理も受け持つなど『いつ寝てんの?』とコメントで心配されるがピンピンしている。
そして補聴器の先にインカムが付いたような小型の装置を手渡してきた。
「空軍の装備を元に開発したコーティング装置になりますね。耐Gスーツとかヘルメットの機能を集約してるので皆さんの姿はそのままです」
「やってんにぇ…」
「角とか耳がヘルメットに収まりそうにないメンバー、数人どころじゃないですよね?」
「あー?白上のことかなぁ?」
それでは、と管制室に戻る背中を見送り、梯子を登って各々の機体に乗り込む。
まだまだハンガーは余裕があり、逆に言えば戦闘能力に乏しい。現状、どれだけ多く見積もったところで一個小隊規模が関の山だ。
「こより達と連携できればいいんですがねー」
「自前でレーダー持ってるらしいやん…」
なぜ合流できるメンバーが極端に少ないか。それは機種が違いすぎるという至極シンプルな理由に過ぎない。
当然ながら同じ機体を使うメンバーはいずれ出て来る。が、問題はそれまでの期間は操縦系統の互換性が限りなく低い。
仮にベイルアウトして生還しても機体を喪失していれば──それは貴重な戦力がさらに減ってしまう、という事態に繋がる。
Control tower《友人Aより各機 タキシング後は滑走路で待機を》
Control tower《天候 風向きよし 離陸を許可します》
その機体は──直線番長の異名を持ち、豪速球の如く空を切り裂く迎撃機。
現在稼働している戦闘機においてトップクラスの速度を叩き出し、スピード狂を体現したような存在、MiG-31『フォックスハウンド』。
白い機体はそのままに、主翼や尾翼に水色と黒のラインが目を引く。
Fubuki《白上フブキよりコントロールタワー》
Fubuki《フォックスハウンド 出るぞいッ》
Control tower《頼りにしてますよ》
Fubuki《了解!》
滑走路を駆け抜け、機首をグッと上げるとあっと言う間にMiG-31が見えなくなった。
「みこさん、どうぞ」の一言でエンジンを噴かし、後から追いかけるように離陸する機体の姿がある。
20カ国以上に採用された戦闘機が存在する。
それは安価で性能も及第点、何よりプガチョフ・コブラに代表される曲技飛行さえ可能な機動性が一目置かれた機体、MiG-29『ファルクラム』。
白地に桜の花びらをランダムに置いた塗装は良くも悪くも目立つ存在となった。
Miko《こちらみこ えーちゃんへ》
Miko《ファルクラム 行ってくるにぇ》
Control tower《Fボタン押しちゃダメですよ》
Miko《これ ヘリじゃないよ…》
離陸から数分後、高度800m程度で合流。雲もまばらな快晴は飛行物体も楽に見つけられる、そんな空ではあるが一向にアクションが起きない。
ぶっちゃけつまらない。その一言を飲み込む五目並べRTAコンビの後ろに広がる雲海の中から迫る機影があった。
Miko《こよの言ってたヤツ いなくね?》
Fubuki《こちら白上 見晴らしも最高…ん?》
Fubuki《みこち! 後ろに1機いる!》
Miko《はァァァ!?》
航空支配戦闘機。この機種にのみ与えられた唯一無二のキャッチコピーだ。
生産ラインが早くに閉じられたため、配備数こそ多くはない。が、空対空戦闘においては間違いなく最強の部類に入る。
門外不出の頂点捕食者──その名を『猛禽』。
F-22A『ラプター』である。
Fubuki《みこち! 白上はガン無視かよぉ!》
Miko《撃って来ない…どこ行った?》
Fubuki《真下! 背面飛行でくっ付いてる!》
Miko《何だよそれぇ!》
2機の後方から確実に狙える位置に陣取り、それでもミサイルも機関砲も撃たず、文字通り追ってくるだけ。
そして──みこを動揺させ、冷静さを失った隙を突いて背面飛行で真下に潜り込み、加速しながらズズズ…と効果音を発しそうな雰囲気と共に機首が視界に入り込む。
そのままF-22Aが先頭を切る形となり、機体を水平に戻して通信回線を開く。聞こえてきたのはホロメンなら誰もが知る声。
Sora《ごめんごめん 味方だよね》
Sora《五目並べどうだった?》
Miko《そらちゃん ビビるじゃん!》
Fubuki《もちろんRTAで圧勝しましたって》
ときのそら。旗揚げ当時からホロライブと共に生きてきた筆頭メンバーである。
最強クラスの機体に乗るだけあり、慣らし運転も兼ねて先に上がっていたらしい。ハンガーに向かう際、二人の五目並べが見えたという。
コバルトブルーと白だけで塗装されたシンプルなラプターの右主翼にトレードマークでもある紅色のリボンのエンブレムを採用し、雲の中から背後に出現。例え味方でも心臓に悪い。
Sora《えーちゃん 合流したよ》
Fubuki《こちら白上 状況に変わりなし》
Miko《平和なもんだにぇ》
Control tower《了解 こちらのレーダーも異常なしです》
Control tower《慣らし運転は済んだみたいですね RTB》
まだ日が高く滑走路は余裕で目視できる。徐々に減速、お手本のように着陸の後タキシングしながらハンガーに入るF-22AとMiG-31。
Fubuki《おつこーん》
Sora《ただいまー》
間違えて加速、アフターバーナー全開の低空飛行でジェットコースターさながらの挙動をするMiG-29。そのままもう一度上空へ。
Miko《やべぇぇぇぇぇぇ!》
ハンガーと管制塔の2ヶ所で思わず録画が始まる。下手をすればshort動画モノだが何しろ速すぎる。
Fで加速、とはよく言ったもの。離陸前に少し弄られ、釘を刺されながらPONは健在。この巫女、やはり持っている。
大きく旋回する羽目になったが反対側から着陸、やっとハンガーに機体が入ってきた。
「全ロスかと思ったにぇ…」
「とりあえず余計に使った燃料の分は天引きしますね」
「えっ…えーちゃん…みこの報酬ないなった…?」
友人Aが眼鏡をクイッと直しながら淡々と告げる。逆光で表情が見えない。
アホ毛ごと肩を落とすみこを「今日のお昼くらい出すから」とサムズアップしながら食堂へと向かうフブキとそら、友人A。
これから起こる巨大なうねりに向かって彼女たちは歩き出していた。