正義の味方を目指した生徒、黄昏ヨナ   作:お昼寝【スタジオホルス】

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自作SSを動画化しています。
動画をご視聴していただければよりお楽しみいただけると思います。
https://youtu.be/-N1oyYTFGFY


用無しのヨナ

通常ヴァルキューレ警察学校は15歳で入学となる

私も当然15歳だった

 

…しかし

私は災害孤児だった

災害の影響かそれ以前の記憶はなく、当時の記憶も酷く朧気だった

同じような孤児が集められた施設に居た、と思う

その施設の中でも私は最年少だった

年上の子達はそれぞれ施設を出ていき、学校に迎えられていった

そして私はヴァルキューレに志願した

身よりがない私を寮に置く代わりに、教育も兼ねて私は早期に入学していた

生活安全局、交通局、情報通信局、警備局

私はすでに公安局以外に在籍していた過去がある

しかし…その過去がありながら成績は常に最底辺

記憶がない影響もあったと思う、学んでいくうちに当時の教育係の独特な口調が癖づいていた

 

しかし、どのような理由があろうとも結果は結果

年齢を理由にできた昔ならまだしも、今では同年代

それに、私は問題児と認識されていた

各局で色々と…問題を起こしていたからだ

 

「すみません!うちの猫が樹から降りれなくなって…」

「それは大変っす!お任せくださいっす!」

「ん?梯子車が動いている?」

「今日点検の予定とかあったか?」

「…運転してたの、新入りのヨナだったよな」

「…あの車両の機関員は誰かね?」

「あ、私ですが」

「…始末書、書いてね」

「…ヨナあああああ!!」

 

「止まってくださいっす!速度違反っす!」

「すみません!妻が産気づいて…病院まで急いでいるんです!」

「!!」

「…わかりました!乗ってくださいっす!」

「ま、待てヨナお前機関員じゃないだろうが!」

「それに飛ばしすぎだ!緊急走行だろうと速度制限が…」

「命が懸かってるっす!そんなの気にしてられないっす!」

「ヨナああああああ!!」

 

「はい!こちらヴァルキューレ警察学校…」

「え?死にたい?首を吊る?そ、そんなことをしてはいけないっす!」

「いいですか、この世には正義の味方がいるっす、今どんなに苦しくても必ず助けが…」

「大丈夫っす!見たことなくても私がなってやるっす!」

「…ヨナのやつ、あれはいつもの常習の電話だぞ…」

「切ればいいのに、真面目に対応してたら1席回線が埋まってしまう…」

 

出動指令、DU芝タウンにて加害発生、各隊出動せよ

「出動っす!行きましょう!」

「待てって、芝タウンって言ったらちょうど管轄の境目なんだ、このまま行くと被ってしまうかもしれねー」

「先に確認を取って処理をしてから…」

「そ、そんなことしてるからうちは対応が遅いとか言われるっすよ!」

「決まりだから仕方ねーだろうが!今上が確認しているから準備をして待ってろ!」

…今こうしてる間にも…

…っ!!

「ヨナ?!おい待て!単独で行くんじゃねーって!!俺が怒られるだろーが!!」

「この…用無しが!」

 

…数々の服務規程違反、暴走行為

…振るわない成績

…独特な口調

…そして特殊な経緯と転々とする所属先

噂になるのは当然だった

いつしか耳にした、私の名前をもじった陰口

”用無しのヨナ”

同じく正義の味方を目指している仲間だと思っていた存在は、いつしか敵のように見えてきていた

正義の味方だと信じていた組織は、現実には法や規則に縛られ動けなかった

当然だ、大きな力にはそれ相応の制限がある

組織を暴走させないためのルール、それが法であり規則なのだから

頭では理解していた、でも…

私は、正義の味方になりたかった

15歳になり、最後の場所

公安局に転入した

毎回1年生だったが、今回は違う

今回だけは…

違うと、信じていた

 

「遅くまで射撃練習しててもうこんな時間っす」

「明日の支度もしないと…」

「…ヨナですか?」

!?

(この声は、薄明先輩?)

(…相手は局長っす?)

「まぁ…そうですね聞いたことはあります」

「用無し、ですか」

!!

「そうだ」

「…まぁ確かに訓練の成績は振るっていません」

「それに暴走する傾向もあるでしょう、そこは否めませんね」

「それに経緯も特殊ですし…そのような噂が広まるのも無理はないかもしれません」

(…そっか、やっぱりここでも私は…)

(先輩にとっても私は…)

 

「…昔のお前のようにか?」

「…耳が痛いですね」

「なにからなにまで、あいつはお前に似ている」

「…もう、知っているのでしょう?」

「…最初から知っている、でなければお前を担当に着けたりはしない」

「お前達、薄明シロと黄昏ヨナは…」

 

次の日、訓練があった

崩壊の危険がある建物の中にいる要救助者を救助する想定の訓練

私は外での待機員だった、救助隊員が帰り着くまでの命綱を確保する大事な役目

でも…

私はまた、失敗した

 

「訓練中止!」

「…各員、なにか言いたいことはあるか」

「すみません、道中トラブルに見舞われ要救助者を発見できず、規定時間を過ぎてしまい…」

「お前達はいい、下がっていろ」

「は、はい…」

…この日の薄明先輩は違っていた

今までよりも遥かに…怒っていた

「…黄昏、なぜ入った」

「せ、先輩」

「なぜ命綱を放棄し侵入したのかと聞いている、答えろ」

「…無線の内容から発見に至らず、命綱も道中にて切断、効果を発揮しない状態になっていましたっす」

「そのような状態になったときに、進入しろと誰が教えた?」

「そ、それは…」

「教本に書いてあったか?答えろ」

「…書いてないっす、そのような場合は待機…外部にて進入以外の手立てを…」

「…でも!それじゃ誰も助からないっす!」

「だが犠牲者が増えることもない」

「私は命が惜しいわけじゃないっす!」

「そういう話をしているんじゃない」

「私は要救を…仲間を助けたかったっす!」

「だが現実には要救が…犠牲者が増えるだけだ」

「やってみないとわからないっす!」

「まだわからないのか!!」

 

!?

「お前…正義の味方になりたいとか言っていたな」

「…はいっす」

「そんなもの、バカが目指すものだ」

!!

「現実が見えていない愚か者だけが目指す」

「確かに何も知らないものには警察という組織は正義の味方にも見えるかもしれん」

「実際入ってきて夢を語る者もいる、だが数年のうちにそんなことも言わなくなる」

「なぜだか解るか?」

「…」

解っていた、だが答えられなかった

それを口にしてしまったら、私は…

「この組織に、正義の味方は必要ないからだ」

「…っ!!」

「正義の味方というのは、警察という組織の否定だ」

「…お前も解っているはずだ、ヨナ」

「…嫌っす」

「現実を見るんだ、大人になれ」

「夢を諦めるのが大人になることなんすか?」

「…その必要がある場合も、ある」

「…なら私は子供のままでいいっす」

「ヨナ!」

「元々私にはなにもない!身寄りも、記憶も、仲間もいない!」

「私にはあの人しか…正義の味方しかいない!」

「先輩に解るわけがない!才能も…人望も…全部持ってる先輩には!」

「どうせ!誰も私が死んだところでなにも思わな

 

…乾いた音が響いた

…頬が痛む

先輩に頬を張られたのだと気づくのに、少し時間がかかった

先輩は…薄明シロ先輩は、泣いていた

あの先輩が、涙を流していた

「…ふざけるな」

「局長が…周りが…私がどんな気持ちで…」

「死んでもなにも思わない…?本気で言っているのか…」

「お前にとってこの組織はそこまで…」

「…」

「せ、先輩…?」

「…暴力を振るったことはすまなかった、謝罪する」

 

普段拳骨を振るう先輩は

…初めて私に謝罪した

その日のことは公の訓練中だったこともあり、上に知られることとなった

私と先輩には三日間の寮内謹慎処分が下った

…なぜ先輩が泣いていたのか

先輩の気持ちとはなんなのか

未だに私は解っていない

ただの不出来な後輩だったはずの私に、なにかあるのだろうか

それを聞こうにも先輩は…

 

三日間の謹慎は長く感じた

訓練も出来ない、私にはなにもやることがなかった

「…ヒマっすね」

「…正義の味方ならパトロールでもするっすかね?」

「まぁ…寮内でなにかあるとは思えないっすけど…」

「…ん?」

「あれは…生徒っす?」

「…もう始業時間っすけど、なんで寮内に?」

「それに…もう一人はうちの生徒じゃないっすね」

「おーい、もう始業してるっすよ、なにしてるっす?」

「!?」

「お、おいなんで生徒がいるんだ、この時間は誰もいないって…」

「し、知るか!普段は誰も居ないんだよ!」

「…ん?あの八重歯、それに逆十字のネックレス…」

「…お前”用無し”か?」

「…っ」

「はははっ!やっぱりヨナかよ、そりゃ謹慎くらってりゃこの時間にも居るわな!」

(…やっぱりみんな用無しって思ってるっす…)

「おいおいそんな怖い顔すんなよ、お前が迷惑かけた相手も忘れたのか?」

 

「…?」

「!!あんたは…」

「思い出したか?お前が暴走したおかげで上から絞られたよなぁ…」

警備局に居た時、私の一学年上にいた生徒だった

「…その節はご迷惑をおかけしたっす」

「ははっ、まぁ今となっちゃどうでもいいけどな、目的のためなら規則をものともしないお前を俺は気に入ってるんだぜ?」

「…それで、なにしてるっす」

「あん?お前には関係ねーよ」

「関係あるっす、他所の生徒を入れていい場所じゃないはずっす」

「何やら後ろめたいことがありそうっすね、先輩に報告して…」

「!?」

…こいつの先輩…たしか一緒に謹慎くらったっていう…

薄明シロ!あいつは不味い、買収なんて絶対に不可能だ

「おい、いいのかよヨナ」

「…?」

「俺は病気の家族を養うために治療費を稼ぐ必要があるんだ、だが…」

「どっかの誰かのおかげで出世街道からドロップアウト、通常のちんけな報酬じゃ足りねーんだ」

「どっかの誰かさんのおかげでなぁ!」

(病気の家族っておま、よくそんなベタな話を…)

(それに実際にはお前、散々不正やら汚職を重ねてきた結果だろうに…)

(片棒を担いでるお前が言えた台詞じゃねーよなぁ!)

「う…」

「なぁヨナ、少し割の良いバイトしてるだけだって、黙ってくれてれば問題ねーからよ」

「…」

(そんなの、正義の味方は許さな…)

「正義の味方というのは、警察という組織の否定だ」

(…っ!)

「なぁ頼むよ!見なかったことにしてくれりゃいいからよ!」

「わ、私は…」

(…駄目っす、やっぱり見逃すわけにはいかない)

「お、大人しく

 

「そこで何をしている?就業時間中だぞ」

げ!?あいつは薄明シロ?!

「せ、先輩…」

「…ヨナ?」

(なぜか知らんが固まってる!いまだ逃げるぞ!)

(お、おう!)

「…」

「先輩…」

「…部屋に戻るぞ、お互い謹慎の身だ」

「…はいっす」

…私は結局、取り逃してしまった

後になってわかったことだが、この生徒は退校処分が決まっていたらしい

…今になって思えばこの時、無理矢理にでも捕まえておくべきだったのだ

私はこの時の判断を、後悔することになる…




続く
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