正義の味方を目指した生徒、黄昏ヨナ 作:お昼寝【スタジオホルス】
…トリニティにある総合病院
ここにシロ先輩は入院している
ヨナ …先輩、今日も目を覚ましてはくれないんすね
ヨナ …
ヨナ 先輩、私はヴァルキューレを辞めようと思うっす
ヨナ こんな…制服も着れない、意志もない半端物が居ていい場所じゃないっすから
ヨナ …怖くて震えてるような奴が、居ていい場所じゃないっすから…
そう、私はあの日まで、本当の恐怖を知らなかった
…いや、正確には忘れていたんだ
三日間の謹慎が明け、シロ先輩と私は現場へ戻った
正直気まずかった、それは他の先輩達も一緒だったのだろう
ギクシャクしながら日々の業務をこなしていた
だが…
生徒 なぁ、明らかにおかしい…よな?
生徒 うん、備品の在庫がごっそりなくなってる…
生徒 予備の装備、弾薬、それに押収品の一部まで…
生徒 お金になりそうなやつだけなくなってるよねこれ…
生徒 …
警防局にて備品の横流しが発覚した
聞き取りによれば以前から少量の在庫異常はあったらしい
だが…問題の発覚を恐れた為かそれとも内々で処理するつもりだったのか
他の局まで話がくることはなかった
今回の件は今までとは規模が違った
明らかにバレても構わないと言うような…大規模な量だった
すぐに犯人は特定された
…あの日、寮内で見かけた他の生徒と
それに協力していた、警防局の生徒だった
…あの生徒
気になって調べたが…あの生徒は…
…
犯人は特定されたが、一つだけ謎なのが搬送経路
生徒一人や二人で搬送できるような量ではなかった、それだけ大規模な量だったのだ
一体どうやって…?
野放しには出来ないと、警防局主体で捜査網が張られることとなった
公安局には…私とシロ先輩に声がかかった
ヨナ …私達に声がかかったのって、やっぱり…
シロ …私から具申した、失態は自らの手で取り返す
ヨナ 了解っす
シロ メインストリート等は警防局が担当している、私たちはそれ以外をあたる
ヨナ 物品を保管してる…そう考えるなら鐘崎港の保管庫…とかっすかね?
シロ 奴らも少しは考えるだろう、そんなありきたりな場所に…
シロ いや、逆にそれを逆手に取っているかもしれんな
シロ そこをあたる、準備はしっかりしておけ
相手の人数は少数、そんな重武装は必要ない
軽装のまま現地へ移動した
港にはコンテナが多数あり、ひとつひとつ調べるのはかなり骨が折れそうだった
ヨナ 先輩、二手に分かれて捜索したほうがいいっす、時間をかければそれだけ逃げられる可能性も…
シロ ん…しかしな…
ヨナ 先輩!汚名返上のチャンスっすよ!
シロ …
シロ (これで発見に至ればヨナも少しは元気に…)
シロ …もし発見した場合は無線で連絡しろ、くれぐれも先走るなよ
ヨナ はいっす!
ヨナ よおーし!絶対見つけるっすよ!
シロ …なんかもう既に元気だな
シロ さて、気を引き締めるか…
…コンテナと倉庫の捜索は夕方になっても終わらなかった
それらしい痕跡はなく、ここはハズレなのだと私も落胆し始めた頃
…奥にあった薄暗い、大型の倉庫だった
ヨナ お次はここっすか…デカい倉庫っすね
他校生徒 しかしどうやってこの量サバくんだよ
ヴァルキューレ生徒 ブラックマーケットしかないだろうよ、大丈夫だってこの装置を使えば…
他校生徒 本当にそれ便利だよな、一体誰がくれたんだよ、いい加減教えろって
ヨナ …話し声?
ヴァルキューレ生徒 だから知らねーって言ってんだろ!いきなり送られてきたんだよ
他校生徒 そんな都合良い話あるかー?
ヴァルキューレ生徒 本当なんだからしかたねーだろ
ヴァルキューレ生徒 …妹のことを神様が見ててくれたのかもしれねーな
他校生徒 お前まだそんな設定言ってんのか、私しかいねーんだからいいだろうに…
ヴァルキューレ生徒 …
ヨナ 動くなっす!!
ヴァルキューレ生徒 !?
ヨナ 見つけたっすよ…やっぱりあんた達だったんすね
ヴァルキューレ生徒 またてめーか、ヨナ
ヨナ 大人しく捕まるっす、応援も呼んでるっす!
ヨナ そんなに大量の物品を持ったまま移動なんて無理っすよ!
ヴァルキューレ生徒 へっ!なんにも知らねー甘ちゃんが!
他校生徒 お、おいどうすんだよ!その装置、物の転送しかできねーんじゃねーのか?!
ヴァルキューレ生徒 …試したことはねーな
ヨナ …あんたなんでこんなことしたっすか
ヴァルキューレ生徒 あん?
ヨナ 普通に考えて逃げ切れるわけないじゃないっすか、いくら対応が遅いって言ってもヴァルキューレっすよ!
ヴァルキューレ生徒 …
ヨナ …トリニティ総合病院
ヴァルキューレ生徒 !!
ヨナ 妹さん、そこに入院してるみたいっすね
ヴァルキューレ生徒 …
他校生徒 え?!
他校生徒 お、お前、言い逃れのでまかせじゃなかったのかよ…
ヨナ あそこの治療費、並大抵じゃないはずっす
ヨナ あんたは本当に治療費を稼ぐためにこんなバカなことを…
ヴァルキューレ生徒 うるせぇ!!
ヨナ !
ヴァルキューレ生徒 病気の苦しみも知らねーやつが偉そうに…
ヴァルキューレ生徒 多少の痛みがあっても翌日にはすぐ治る怪我とはちげーんだよ!
ヴァルキューレ生徒 恵まれた身体に生まれたやつにはなにもわかんねーだろうがな!
ヴァルキューレ生徒 今回の稼ぎがあれば…完治するかもしれねーんだ
ヴァルキューレ生徒 どんな手を使ってでも金がいるんだよ!
ヴァルキューレ生徒 おい!跳ぶぞ!
他校生徒 え、でもお前それ生身も一緒に跳んだら何が起きるか…
ヴァルキューレ生徒 知るか!どうせ死にはしねーよ!
ヨナ 動くなって言ってるっす!今のは警告っすよ!
ヴァルキューレ生徒 撃つなら撃ちやがれ!どうせ多少傷む程度なんだからな!気絶さえしなけりゃこっちのもんだ!
ヨナ (あれは…なにか手に持ってるっす?)
ヨナ (あれを撃ち抜けば…)
ヴァルキューレ生徒 おら!覚悟決めろ!
他校生徒 畜生!やってくれ!
ヨナ (当たれっす!!)
ヨナ …
ヨナ 外したっす…
ヨナ でも…
他校生徒 …?
ヴァルキューレ生徒 な、なんで作動しない?
ヴァルキューレ生徒 生身が居たら作動しないのか…?
ヴァルキューレ生徒 ち、畜生!こうなったら物だけでも…
…その時だった
何かが、変わった
そう表現するしかなかった
何が変わったのかはわからない
私だけが感じているのかと思ったが、違った
2人も辺りを見渡し、震えていた
一体…?
だが、それを考える前に
倉庫の奥の暗がりから、突然それは現れた
見たことのない存在だった
いつからそこにいた?最初からいたのか?
じゃあなぜ今になって?それに頭上のあれ
あれはヘイロー
…?
突然、間に居た他校の生徒が倒れた
ああ、そうか撃たれたのか
倒れたってことは気絶した…
…
倒れた身体から広がる赤い水溜り
いや、違う…水じゃない
…血だった
え?血?撃たれたぐらいで…血?
理解が追い付かない
なんで、血が流れて…
だって、今までいくら撃たれたって
血なんて一滴も出なかったじゃないか
訓練で撃たれても、爆発に巻き込まれても、痛みはあるけど血なんて流れなかった
気絶することはあれど、すぐ回復するし翌日には傷なんて残らずに完治していた
記録には大型ミサイル等で過去に流血沙汰があったなどの記述があったが、その程度だった
そうなっていた、そういうものだったんだ、そう認識していた
この流血の量…まさか死…
私の知っている世界では、そんなものは…
死なんて無縁…
いや、違う…知っている
私 は、 こ の 感 覚 を、 知 っ て い る
あの災害
私が初めて死を感じた、あの災害
一緒だ
あの時と一緒だ
どうして忘れていたんだろう
こいつは、あの災害と同じく
私達に死を齎し得る存在だった
ヴァルキューレ生徒 う、うわあああああああああああああああああああ!!
生徒の叫び声で私ははじかれたように我にかえった
ヨナ う、動くな!警告っす!それ以上…
弾は私の頬を掠めた
頬が痛む…
拭った手の甲には…血がついていた
そうだ、こいつに撃たれれば
…私も、死ぬ?
死ぬ?私が?
正義の味方にもなれずに?
ヨナ …
…身体が動かなかった
動かない身体とは裏腹に思考は動いていた
腕がこっちに向いている
あれが銃口だとするならば、あの射線、あの生徒に当たる…
護らないと…
私は正義の味方なんだから
──やめろ、お前はなれっこない
今こそ、弱きを助けるために動くべき
──あの時みたいに、死にかけるぞ
動け、動け、動け、動け
死にたくない、死にたくない、死にたくない
──正義の味方は、必要ない
…やっぱり、身体は動かなかった
そう、私は…怯えていたのだ
そしてそのまま銃声が響き…
ヨナ 先輩!見つけ…!南西…、一番奥…倉庫…!
シロ !
ヨナ 早く来…このま…逃げ…
シロ ヨナ?ノイズが酷い!ヨナ!
ヨナから来た無線連絡は、ノイズが酷くそのまま途切れてしまった
…先走ってないといいが…
私は他の隊に応援を頼み、そのまま南西へと向かった
向かう途中、1発の銃声が聞こえた
…嫌な予感がする
そして唐突に、猛烈な寒気に襲われた
…なんだこれは、一体なにが…
そうしているうちに聞こえる、2発目の銃声
…あの倉庫だ、一番奥…!
入った瞬間目に入ったのは
血に染まり倒れている生徒、半狂乱になり竦んでいる生徒、動かないヨナ
…そして、得体のしれない何かだった
考える間もなくそいつの腕が向いている先へ飛び込んだ
銃声が響き、そのまま弾丸は
シロ先輩の盾によって防がれた
シロ …無事か?
ヴァルキューレ生徒 お、おおお前は薄明シロ?!
シロ 動けるならそこの生徒の状態確認、生きているならそのまま連れて逃げろ
ヴァルキューレ生徒 え?え?
シロ お前もヴァルキューレ生だろうが!市民の為に動け!
ヴァルキューレ生徒 は、はい!
シロ ヨナ!怪我はないか?!
ヨナ …
シロ ヨナ!どうした?!
シロ (負傷したのか…?だが…)
…そこで私は異変に気が付く
そうだ、流血している
そこの生徒も、ヨナも血を流している
…あれ以来だった
あの、災害
本能が叫んでいた、一緒だと
全てが謎だったあの災害と
…お前か?
お前が、関係しているのか?
シロ …何者か、自我があるのかすらもわからんが
シロ 同行してもらう、令状は…
シロ 必要なさそうだな!!
ヴァルキューレ生徒 い、生きてる!息がある!
シロ ならば連れて逃げろ!こいつはこっちでなんとかする!
ヨナの様子がおかしい…
もしかしたら災害の事を思い出しているのかもしれない
もしそうなら…こいつの注意を向けさせるわけにはいかなかった
シロ こっちだ!この蛸野郎!
くそ!なんて硬さだ…
あまり効いている様子がない
…応援は、まだ来そうにないな
シロ ぐっ…
盾の限界が近い、このままでは…
…アイツの腕
数本あるうちの1本からしか、銃撃はしてこなかった
あの腕さえ壊せば…
数発当てると、徐々にだが亀裂が入り始めた
だが…
こいつ、庇うような動きを…学習しているのか?
装填しなければ…
!しまった、弾が…
銃撃にばかり気を取られていた私はそのまま組み付かれてしまった
くそ…あと少しだというのに…
ヨナ …先輩?
気づいた時には、先輩が化け物に組み付かれていた
助けないと…
あの腕に当てれば…
当てれるのか?さっきもはずしたくせに
いいから逃げろ、先輩もそれを望んでる
今更足を引っ張るな、自分の事だけ考えろ
可能性はほぼ無いだろ
逃げ切れるように神様にでも祈ってろ
…ふと、胸元の逆十字が目に入った
…正義の味方
??? 何度折れてもいい、立ち上がって
??? その祈りが、叶いますように
ヨナ 確かに、役に立てる可能性は低いっす
ヨナ …でも、やらなかったらゼロっす
ヨナ 今更でも、情けなくても、何もしない理由にはならないっす
ヨナ …私は…神には祈らない
ヨナ ああああああああああああ!!
シロ ヨナ?!
ヨナ 私は!正義の味方に!!
ヨナ 先輩を、放せえええええええ!!
ヨナ 私が放った銃弾は、化け物の腕を破壊した
ヨナ や、やったっす!
シロ ヨナ!まだだ!
ヨナ !?
後ずさったと思った化け物は、突然跳びかかってきた
反応が遅れた私はそのまま…
ヨナ うわあああああああ!
…
痛みはなかった
腕は、私まで届かなかった
シロ先輩の身体で、止まっていた
シロ …最後の一発、避けてみな…
その一発は化け物の中心を捉え
??? !?
表面に亀裂を負わせた
??? …
そのまま化け物は、何処かへ消えていった
ヨナ せ、先輩…やったっす
シロ …
こつん、と
…先輩の額が、私の額と合わさった
ヨナ …?
なにか言っているような先輩の口からは…言葉は出なかった
代わりに出てきたのは、一筋の血だった
そのまま私にもたれかかるように体重を預ける先輩の身体は
…いくつもの傷があり、そこから血が流れていた
腕は先輩の身体を貫いていたのだ
ヨナ …先輩?
シロ (ヨナ、お前がいなければやられていたよ)
先輩は動かない
ヨナ …え?
シロ (お前は、トラウマに立ち向かって私を助けてくれたんだな)
温かい
温かい血が、私の制服を染めていく
ヨナ あ、ああ…
そう、私は最後の瞬間でさえも
…失敗したんだった
ヨナ あああああああああああああああ!!
シロ (泣くなヨナ、誇っていいんだ)
シロ (お前は、正義の味方に…)
シロ (…声が出ない)
シロ (私の想いはヨナに…届かないのか…)
その後の事はよく覚えていない
応援隊が到着し、そのまま先輩はトリニティの総合病院へ搬送された
恐らく、あの生徒も同じ病院に運ばれたはずだ
例の警備局の生徒がどうなったのかはわからない
今回の件は箝口令が敷かれた
それだけ異常な事態だったのだろうか
…どうでもよかった
私はその日以降、制服を着ることが出来なくなった
…血に染まった制服にしか、見えなくなってしまった
あの時の先輩の体温が、まだ身体に残っている…
私は子供だった
本当の恐怖も知らないくせに、命をいらないなどと粋がる、何も知らない子供だった
現実を知った時、怯えて何もできない子供だった
いつも、なにをしても手遅れで、余計なことしかしない
…用無しだったのだ
…次回、完結