引きこもり少女は異世界において神である(物理)   作:田地町 待乃

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オープニング「転生したら女神でした」
慣れない民族衣装のミニスカートが寒い!【挿絵2つ!】


「わぁぁー女神様ー!」

「おお、雪の色をしたまばゆいばかりの肌に、それと全く同じ純白の衣!」

「つややかに波打つ黒い髪! うをーーー、正真正銘の女神様がこの世に降臨なさったー!」

 

 ワケがわからなかった。

 引きこもって鬱々と眠っていたはずの私が、いきなり外の世界へ放り出されて、かと思えば、こうして得体のしれない群衆に囲まれているんだから。

 

【挿絵表示】

 

「な、何……?」

 

 それも、どうやらこれは、“引きこもり少女が久しぶりに出てきたぞ!”というような好奇の視線とは全然違う。

 実際、そういうシチュエーションで()()()()()()()()を浴びた経験のある私は、その違いを的確に判断できた。

 そう。これはたぶん、私には最も縁がなかったはずの、賛美とか崇拝といった類の注目……。

 

 雪の色をした肌? こんなの、陽に当たっていない年月が長すぎたせいで、皮膚が漂白されてしまっただけじゃない?

 純白の衣? こんなの、平凡な部屋着のワンピースでしょう。

 つややかに波打つ黒い髪? こんなもの、おさげをほどけば誰でもこうなる、単なる三つ編みウェーブに過ぎないのに。

 

 ともあれ。

 ──な、何──

 今の、極めて間の抜けた第一声によって、群衆の騒ぎはより大きくなる。

 

「おおーっ、なんという透きとおった甘いささやき声!」

「これはまさしく、混迷極める我が『サウステニラ』に現われし救世主! ありがたやー」

「あだもすてー」

 

 そこでハッと興ざめするように、私は冷静になった。

 あ、これは夢だ、と。

 なぜなら、もしもこれが現実なら、慣れない“外の世界”に放り出された私が、こうしてなんの緊張もなしに悠々と佇んでいられるはずがないから。

 それに、仮に私が別の国へ転移してしまったのなら、こんなふうに民衆の言葉を理解できるはずがないし、何より、彼らの衣服がおかしい。

 

 そこそこ()()()な小学校に通っていた私は、修学旅行で西洋の田舎へ赴いたけれど、誰もこんな格好はしていなかった。みんな、それなりに現代的な服装だった。

 でも今私が目にしている彼らの装いは、クラスメイトがよく楽しんでいたテレビゲームやライトノベルにでも出てくるような、いわゆる中世ヨーロッパ調のそれ。

 

 そうか。私は、夢の中で異世界に来てしまったんだ。

 私自身はゲームやラノベに興味がなくっても、きっと、この心のどこかにそういうファンタジー世界の残像が残っていて……。

 

 今まで見てきた夢のパターンからすると……

 例えば、そう。ちょうど今、こちら目がけて一目散に駆けてくる女の人が、私とぶつかるんだ。

 それで、目が覚める。

 そうだ。きっとそうなる。

 もう早く目覚めさせて。

 こんな面妖なだけの夢、いらない。人の注目を集めるのは、好きじゃない。

 私は……静かに生きたい。

 

 その“駆けてくる女の人”というのは、騒ぎを聞きつけて……という様子で、町中の暗い路地から姿を現した。

 視野を広げてみると、ここは大きな広場のようで、私はどういうわけか大きな台座の上に立っていることが分かる。

 ああ、建物の造りとか、所々に馬車が走っているあたりまで、何もかも中世ヨーロッパ調だった……。

 

 そして足元には、何か像のようなものが砕け散った跡が。

 これじゃまるで、私が神様の像を割って現れた、本当の女神様みたいじゃない?

 嫌だ。こんなネグリジェ同然のだらしない服装に、セットもしていないヒドい髪で……。

 

 だから早く私とぶつかって、そこの女の人。

 今、その人はというと、「どいて下さい」「すみません」……人だかりをかき分けながら、長い時間をかけてこっちへ向かってきている。

 ずいぶん、順序というものを律儀に守ってくる夢だなぁと、思った。

 普段の夢なら、彼女は人混みなんて易々とすり抜けて、即座に私の真ん前へ来るはずなのに。

 

 ともあれ、彼女は私の足元、つまり台座の手前までたどり着くと、こっちを見上げてチョコンと一礼、

 

「女神様、少々お時間をいただけます?」

 

 凛とした声で、誘ってきた。

 というより、そのサッパリしたボブヘアーと、きりりと引き締まった面持ちのせいで、声まで凛として聞こえたのかもしれない。

 地味で古臭い私とは正反対のタイプだし、私の通っていた私立の中学校全体にも、この手の人間はいなかったと思う。

 西洋の愛らしい民族衣装と、私と同じ黒髪とのギャップも鮮烈だった。

 

 ところでこの女の人、私の目ではなくて、この胸元の上ばかりを見つめて話してくる。

 ……けれど、彼女が『同性愛者のチカン』じゃないことだけは確かだった。

 

 鎖骨の下までガラ空きの部屋着(ワンピース)から露わになっている、私の胸元の紋章……。

 彼女は間違いなく、この炎を象ったタトゥーのような刻印が物珍しくて、まじまじとこの胸元に視線を向けてきている。

 こんな地味な女の子が、どうして胸元にタトゥーなんて? ……大方、そんな感じでしょう。

 でもこれは入れ墨なんかじゃなく、()()()()()を意味する紋章。

 私の闇と、私の恨みと、私の想いの全てが、ここには刻まれている。

 

 ──と、夢の中であるはずの世界で、色々と思考を巡らすことまで叶ってしまう。

 夢にしては何かがおかしいと感づきだした私に、

 

「ここが夢の世界だって思ってるんでしょ? でも、違うよ」

 

 とても鋭い、女の人のヒソヒソ声が吹きあがってきた。

 

「え……どういうことですか?」

 

「私、あなたと同じように、現代(イマ)の日本からここへ転移してきたの。私も最初は今のあなたみたいに、夢だって思った。でも、これって間違いなく現実なの」

 

 ここまで長い会話が、ここまで順序だてた形で進行してしまうとなると、いよいよ普通じゃない。

 私は本気で、怪奇現象を疑いだした。

 

 だって非科学的なことは、世の中に存在する。

 例えばそう……

 都市伝説に踊らされて、あの日の午前零時、あるサイトに“地獄へ流したい人物”の名前を書き込んだ私。

 そうしたら、“仕置き人”に相当する女の子が、私の背後にパッと出現したのであって。

 そんな()()()()()()()を目の当たりにした私のこと、たとえ「異世界は存在しています」と云われても、ぼんやりと信じてしまうかもしれない。

 

 女の人は、台座に体がつくくらいに踏み込んでくる。

 

「どうしてあなたがここに転移してきて、それで女神って云われてるのか、教えてあげたいし。お願いしたいことも色々あるから、ちょっと来てくれる?」

「…………」

 

 行きたいとも行きたくないとも思えなくって……

 私はただ、台の上で女神のように棒立ちしていた。それは、私めがけて飛来しつづける無数の“誤った礼賛”を肯定するように。

 

 だって、興味がない。

 復讐サイトを利用した対価として、もう地獄落ちが確定している私。

 楽しく生きても悲しく生きても、結局、死後は永遠に苦しみつづけることが決まっている私のなかでは、何かに関心を持つという感情が壊死していた。

 力なく立ち尽くしていた私を突き動かしたのは、その人がやや得意気に放つ、次の一言だった。

 

「あなたの胸の上にある、それと同じものね、私のここにも、刻まれる予定(はず)だったんだ」

 

 彼女は、私の地獄紋があるのと同じ胸元あたりに、どこか力強く手を当てている。

 

「え?」

 

 私は思わず台座を降りていた。

 階段3段分くらいの低い台でも、そこから飛び降りれば、運動不足で(なま)った膝や足首は軽く悲鳴をあげる。

 そして……体に鋭めの衝撃が走ったのに、やっぱり目は覚めなかった。

 これは少なくとも、“眠って観る夢”とは違う。もう、それだけは確実だった。

 

 この彼女、いったん地獄通信に誰かの名前を書き込んで、その後で、あの糸を解かないという選択をした……? 

 殺したいほど恨んでいた相手が、実は同類とか理解者だったというパターンは、少なくないような気がする。この私がそうだったように。

 私は結局、胸元に烙印をおされる道を選んだけれど……ともかく、“予定(はず)だった”というのなら、そういうケースしか考えられない。

 まさか、まさか、地獄流しが途中でキャンセルされるなんて、まず考えられないし。

 

 女の人は「こっち来て」と私を案内しだす。

 彼女に向かって次々飛んでくる、

 

「おーいネーチャン、あんたは神仏を信じてないんじゃなかったのか!?」

「そーだそーだ!」

「ソーダ水の中を貨物船が通るなんて科学的にはありえねーとか著書(ほん)に書いてたろー」

 

 という野次にはアカンベーをしたりしながら──。

 この人は、よくテレビに出て超能力を否定している科学者たちみたいなことをしているんだろうか?

 

            Б

 

「ねえ沢井(さわい)さん、そろそろ振り向いていい?」

「ちょっと手こずったけど、大丈夫です。ちゃんとメガネかけて、三つ編みにも戻しました。それと、学校じゃないんだから、下の名前でいいです」

「あはは、やっぱり(あかね)に似合ってるね。そういう格好でいれば、みんな町娘って思ってくれるでしょ」

 

 私は、この人の家に連れていかれ、名乗り合うなり即座に着替えさせられていた。

 それは、白いパフスリーブのトップスに、黒いコルセット、灰色のスカートという……いかにもな西洋の民族衣装。着づらさが半端じゃなかった。

 今まで着ていた部屋着も一応パフスリーブだったけれど、こっちのほうはもう、至るところに飾られたフリルがもたらしてくる異物感がすごい。

 

【挿絵表示】

 

 異物感といえば、慣れないミニスカートが誘い入れてくる空気の冷たさもそう。

 そのせいで、少し頬が赤くなってしまうのが嫌だった。

 

「こっ、こんなの私に似合わないけど。女神扱いされるよりは、いいかもしれません。服、貸してくれてありがとう、飯合(めしあい)さん」

「こっちも名前でいいよ」

(ほたる)さん、色々と教えてほしいんだけど──」

 

 軽い恥ずかしさをこらえて、この人に色々と訊かなければ。

 何よりもまず、このファンタジーめいた異世界のこと。そして、この人と地獄通信との関わりのことを……。




 とにかく挿絵を最初の部分に入れたい! そんな想いゆえ、かなり長くなってしまいました。
 挿絵は頂き物でございます。
 また登場人物の状況や、公式エピソードとの時系列の関係などの説明は、次へ回す運びとなりました。

 ちなみに、このヒロインが通っていた学校、公式アニメガイド『地獄絵巻・第壱巻』によると『私立富士見沢中学校』という名前なんだとか。
 そして「静かに生きたい」は、この話のレビューを書かれたブロガー様によるものです。CAP画像の下に書かれてらしたので、なんだか本人の言葉のように思えてしまいまして……。
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