引きこもり少女は異世界において神である(物理) 作:田地町 待乃
カードマジックを文章で描写するのがこんなに難しいとは!
それにしても、『R.O.D』覚えてる人いるかな?
「今しがたの楽の調べは、このワタクシ、新たな女神アカネロッテによるものでございます」
ドアの前に立つ私は、結局、またこういうことをさせられていた。
「キサマこそがー!」
「先日セキドーコに降臨したという!」
「エセ女神かー!」
信者たちが口々に敵意を表す、その息のピッタリ具合が気に入らず、
「……運動会で、ございますか?」
と、静かに吹く。
こういう、みんなで気持ちを一つに! というような感覚、本当に苦手で仕方ない。
一方、蛍は信者たちに混じって、ブーブー文句を言う
信者たちの沸き立つ様子がしばらく続いていると、案の定……来た。
「神は一人で充~~~分! 出たなインチキ女神!」
例の輝かしい頭を持つ中年信者が、海を割るような威厳をもって信者たちをかき分けながら、私の前へ仁王立ちしてくる。
当然、彼は私がさっき“峠入り”してきた信者予備軍少女だとは気づかない。
「どうせ、さっきの神曲も、誰かのをパクったものだろう?」
幹部と思われる、その輝かしい人物の一声によって、場がいくらか静まりかけた……それをゴーサインに、
「The Paper!!」
私はここぞと叫んで、巫女服の袖から紙束を出して掲げる。
紙はたちまち天めがけて小さな塔を成していく……けれど、それは私が魔女だからではなくて、紙のほうに『飛び出す絵本』方式の細工を施していたから。
信者たちの目の色が変わる。
「Oh! The Paper!」
「おお紙を操っておられる」
「まさに女
もはや耳慣れてしまった歓声に添えられる形で、
「
と、蛍からの
「違います、似てますが」
いなしつつ、さて本番に入ろうかと姿勢を整えたところで、輝かしい幹部の隣に立っていたアフロヘアーの男が騒ぎ出す。
「これがスモールマザーのお力だぁぁ!」
彼は両手に持った棒によって、巧みに飴細工を操っていた。
鮮やかな花を作ってみたり、適当な模様を編み出してみたり。
それは私からすれば、よくテレビが見せてくるようなパティシエの技巧に過ぎない。
でも信者たちにとっては、それが神の力に見える……んでしょう。
私はアフロ男をユルリとにらんで、
「よろしい。では、そこにしばらく立ち尽くし、数分後も同じことができるというのなら、それを神の力であると信じましょう?」
高らかに言い放つ……と、案の定、なんのことはなかった。
「あ、俺、スモールマザーへの祈りを捧げる時間だから。こんなコトしてるヒマねーんだわ」
飛び跳ねるような勢いで、アフロ男は退散していった。
信者たちを包み込むのは、ただもう気まずいばっかりの騒めき。
蛍は信者たちに見えるように中指を立てつつ、私にだけ見えるよう、コッソリ親指を立ててもいた。
「皆様、あれは単なる飴です。彼が操っていた鉄の棒は、おそらく極限まで熱されているのです。熱を加えれば変幻自在ですが、固まってしまったらテコでも動きません。あぁ……テコなら、動くか」
「ん、どっちだぃ?」
「ハッキリしやがれ、インチキ女神!」
一部の信者の心が揺らぎだしたことに危機を覚えた私は、ふわりと後ろを振り向き、蒸気にかすむ山頂のほうを指さす。
「では、あそこの広場へ」
◎
巫女服は冬寒く夏暑いと聞いたけれど、そのせいなのかどうなのか、酸素さえ薄い山頂の空気には、全身へ突き刺さってくるような冷たさがあった。
高い山の頂は、母之峠という集団の礼拝堂のような場所になっている。
中央に、巨大なスモールマザー(この言葉の大きな矛盾!)のブロンズ像があって、そこへ向かう形で長椅子がズラリと並んでいる様子は、まるで屋根のない教会だった。
私は適当な椅子に、袖から出したトランプをバラバラにして広げてゆく。
それはもちろん、すべて裏返された状態で。
「では、我こそはどんなインチキをも見破る『神の使途』であると、そう自負する方がいらしたら、こちらへどうぞ」
「…………」
「………………」
「……………………」
一同、沈黙。
「いや、いないのですか?」
蛍を呼びたいところだけれど、もしも今後、私と蛍の関係がバレるようなことになったら、「あのカードのときもグルだったんだな」という結果になる……から、自分で指名してしまおう。
「では、そこの怒ってらっしゃる殿方、こちらへどうぞ」
「俺は元々こういう顔だぃ」
ギリッとした目つきのチンピラ的な青年は、渋々私の前、つまりトランプの散らかった椅子の横へと歩いてきた。
「このカードには、すべてこのワタクシの、女神の力が宿っております」
「ヘッ、ありえるもんか」
「そう思うのでしたら、あなたの意思で、このカードの海を割っていただきます。何度も真っ二つにして、あなたが最後に残したカードを、ワタクシが当てて見せましょう」
何だか自分が本当にインチキ教祖のように思えてきてイヤだけれど、ともかく、すべては自分のプライドのため……。
タァッと腕を突き出し、青年の指に念を送る(フリをする)。
「これで、あなたの指は神力を得ました。このカードの海のうち、お好きな箇所に人差し指を置いて下さいませ」
ひねくれ者の青年は、隅っこのほうに指を置いてきた。
海を割る、という表現ゆえ、私側が〈青年は中央に指を置いてくる〉ことを想定していると考えたんでしょう。
だから彼は、あえて端の位置を選んだ。
……まあ、構わない。
「では、〝あなたの選んだ部分よりこちら側〟のカードは排除させてもらいます」
私は、指定された箇所を中心点にして線を引き、線の向こう側にある数枚のカードを回収した。
「お次は、どこにいたしましょう?」
「ん」
次は案の定、ちょうど真ん中あたりを指してくる。
十戒のごとく、私はカードの海の中央を指で割り、右半分のカードを排除した。
そして、それを繰り返していく。
最終的に、海は水たまりくらいのサイズになり、残すは三枚のみになった。
「最後は、どこで区切ります?」
「おぅ……ここだ」
青年が適当に指を置いた箇所から左側を、私は意味ありげな所作で取り除く……そして宣言する。
「あなたが最終的に残したカードは…………ハートのエース!」
私は最後のカードを指さし、声高々に宣言した。
「マジかぁ?」
「ほんとにハートのエースだったら怖ぇ」
「どうせハートのエースが出てこなーい、とか叫ぶんでしょ」
最後の野次は蛍のもの。
私はそれらを無視して、残ったカードをめくるよう、例の輝かしい幹部を指名した。
「私とこの青年がグルだと思われたりしたら心外ですからね」
なんて付け加えたりして。
「下らん……これは
カードをひっくり返した彼は硬直。
「さあ、それを皆様のほうへ向けて、どうぞ」
少々サディスティックに、幹部の男を急かす。
ああ、そうだった。私には、こういう
心配して家に通ってくる教師のことが憎らしくて、〈クラスに不登校児がいると自分の立場に響くからなんでしょう〉と、その人の心を少女のトゲで抉ったこともあったりした。
ともあれ、幹部の男は打ちひしがれたように、重苦しい溜め息を添えつつ、渋々カードを信者たちのほうへと向ける。
一同が目にした模様は……ハートのエース。