引きこもり少女は異世界において神である(物理) 作:田地町 待乃
ヤッホー、またまた参上のピンク茜ちゃんやでぇ~!
まずな、最初の部分(慣れない民族衣装のミニスカートが寒い!)の初っぱなにも、もう一つ挿絵を追加したから、みんな見てな!
イキナリ異世界に飛ばされてオドオドしとるウチの姿や。
それからな、今回の挿絵は巫女さんやで!
顔見て「いつもの茜ちゃんと違う」って感じるかもしれへんけど、この顔は『地獄絵巻 第壱巻』ちゅう本の『設定帳』を参考に描いてもらったんや。
メガネ取って三つ編み解くと別人になるとか言われてまうウチやから、前回みたいな変装も上手くいくわけやなー。
じゃ、今回はインチキマジック初披露回や! みんな楽しくツッコんでいってな~!
ちな種明かしは次回やで!(バーレバレの子供騙しトリックやけどな!)
およそ一日半後──
電気、という概念が皆無の夜は、所々に寂しく燈るランタンだけが、何か抑えつけられたような薄明りのなかに町を浮かびあがらせていた。
そして、
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。ただいま、あの丘に女神様が参上なさいます!」
蛍が指差すその先……町外れの小高い丘の上に、巫女装束に狐面という装いの私が、パッと姿を現す。
木々の揺らめきのはざ間に、炎色の光をまとって、私は静々とたたずんでいた。
「皆様お見知りおきを! この、わたくしこそが、この世界の新たな女神『アカネロッテ』でございます!」
ハイ。
結局はこういうことになっている。
その理由は言うまでもなく、蛍に従うより他に、今の私には選択肢が残っていないからだった。
仮に、ここで突っぱねて蛍の申し出を断ってしまったら、私は無一文で見知らぬ町に放り出される。
それで運悪く野垂れ死ぬようなことになれば、私は『恥ずかしいことをして失神した挙句、棚に頭をぶつけて昇天した女』という不名誉を背負ったまま、永遠に地獄をさまようことになる。
地獄での再会を約束した先生は、もちろん、私の破廉恥な最期を咎めるような人じゃないけど、たぶん私のほうが自分を許せないと思う。
死後に地獄で受ける苦しみ+伝説的な羞恥を背負う苦しみ……これを、同時かつ永遠に背負うことを受け入れる強さなんて、私にはない。
それに、こうして
そういうことも含めて、とにかく今ばっかりは[いったん女神になってみる]という選択肢を左クリックするしかなかった。
ところで『アカネロッテ』というのは、あの有名なファストフード店の名前によるもの。
それを思い出して、とっさに作った偽名だった。
「アカネロッテ様~! お顔をお見せ下さい~!」
はい来た。
私はもったいぶった神妙な所作で、そっと、狐面を外す。
お面を外して出てくるのは、もちろん
女神様が巫女服……というのはちょっと変だけれど、これしか“それらしい”衣装がなかったらしいから仕方ない。
「ぬぉおぉぉっ、さっきの女神様だぁあぁあぁ!」
「ぬわんとお美し~~~い!」
「わーーーー! ロッテ様~!」
ん……今、とんでもない不届き者が!
「ちょっと! そこ! 変なふうに名前を省略しないっ!」
私は自分を〈ロッテ呼び〉した犯人を指差して抗議する。
だって〈ロッテ〉だけでは私の名前の原型がない上、甘いものを売っている企業からクレームが入りそうで怖い。
「んーー? なんや今の声、変でなかたか?」
「んだんだ! 変な方角から聞こえたんべ!」
これはいけない!
ちょっとしたバグが……。
「わ、私は喉から声を出しているのではなーい! 天から、想念を降らせているのです!」
これ大丈夫……?
「なるほどー!」
「さっっっすが女神様だー!」
ホッ……。
では気を取り直して。
「ただいまより、わたくしの神力をお見せいたしましょう」
私は情念を込め、なめらかな動作で巫女舞を踊り出した。
蛍は「あなたって踊れるの?」と顔をしかめたけれど、こんな引きこもり少女でも、一応は踊ることができる。
そういえば、色々と
私は、お面を『お祓い棒』代わりに、いつか動画で観た巫女の舞い方を再現していく。
この服を着ていると、ゆるりと円を描く腕も、前へ後ろへ厳かにステップさせる足も、何かが乗り移ったように自然な動きをしてくれるから不思議なもの。
それはまるで、私が元々巫女舞という行為に慣れていたかのように。
「おお、なんと見事な……!」
「見たことないわよ、あんな綺麗な舞は」
観客が盛り上がれば盛り上がるほど、私の舞も熱と艶を帯びていく。
それは、原色のスポットライトに照らされた地下室で起こる、アイドルとファンの交歓のように。
腕を持ち上げればずり落ちる袖。露わになった二の腕を伝う汗。
そんな自分の体を不思議な気持ちで眺めていた。
いっそ、地獄通信を利用した女の子たちを集めて、『地獄落ちガールズ』という地下アイドルグループでも組もうかしら。
蛍の発言を信じるなら、こちらへ転移してきた女の子は、なぜかみんな藁人形の糸を解いた経験があるというし。
「わあぁぁあぁ綺麗だぁああぁああ」
「コーフンしてきたぜぇぃっ!」
はい?
何か今、不埒な意図で舞を観ている不届き者がいたような……!?
だめだ。
下手なことを言って失敗はできない。
二度目のイージーミスをする前に、さっさと済ませてしまおう。
ひときわ高く大きく、腕を振り上げると、
「では今から、そこの時計塔へ瞬時に移動して御覧にいれましょう!」
と、仰々しく宣言した。
要は、町外れの丘から、町の真ん中にある時計塔まで瞬間移動するという企画。
せつな、この全身は、私の名前と同じ色の炎に覆われ始めた。
「おい! 丘が燃えたぞ!」
「女神の焼身自殺か!?」
「ってか丘が火事になったらどうすんだ! 町にまで火が回っぞ」
期待通りの危惧の直後に、すっと消え失せる炎。
そして私はこれまでにない大声で叫びだす。
「皆様ぁ! わたくしはこちらです!」
丘を眺めていた民衆たちが一斉に振り返り、村のシンボルともいえる時計塔を見上げると……
零時を告げる大時計の上、三角形をした屋根の直下にある窓に、
マジックショーのように両手を広げて「はい、拍手!」と〆てみせる。
「一瞬で移動したぞ! なんてこったい!」
「きゃぁあぁぁぁあぁぁっ!」
「神だぁあぁぁぁ! 奇跡だぁあぁぁぁっ!」
同時に、丘のふもとに立っていた三人の町人が、生い茂る木々をものともせずに駆け上がって行き、私が元いた地点で奇声を上げる。
「すごい! 完全に消えてる! 跡形も残ってない!」
「んー! 双子かそっくりさんが二人一役してるってわけでもねーぞこりゃあ!」
「マジモンの女神様なんだわぁぁ!」
三人の叫びを聞いた民衆は、より大きく激しく沸き立っていく。
……のだけれど、これに関してはちっとも喜べなかった。
だって、テクノロジーというものを知らない異世界民たちが、現代日本人の技を見て驚喜している、その姿にこちらが優越感を覚えてしまうのは、何かが
そう。ここで私が悦に入ってしまったら、それは例えば、久しぶりに登校をしたあの日、
──頑張って学校に戻るんだね、茜ちゃん偉いねぇ──
そんな声援を歩道へ飛ばしてサポーター気分に浸っていたオジサンオバサンたちと同じになってしまう。
私は、塔のてっぺんで一人、過去の暗雲に心を侵されていた。
もちろん私は、丘の上からこの時計塔へ瞬間移動をしてきたわけじゃなく、蛍考案の
さっきの失敗は、痛すぎる。
きっと後で蛍に散々絞られて、これを
最悪、お金を稼がせるためにイカガわしい仕事とかもさせられてしまうかもしれない!
ああ、過去も今も、異世界も現代日本も、私にとっては全部闇なんだ。
そろそろ
私は、民衆に対して姿を見せた大窓から離れて、その対面にある少し小さな窓を開けると、フワリ、喪服同然の黒い衣をまとった。