引きこもり少女は異世界において神である(物理) 作:田地町 待乃
一方、泥酔シーンは完全にネタにふってしまいました……。
なんといっても見事にフィットする画像があったもので、思い切ってギャグ回にしてしまったわけです。
一応は、ヒロインがエセ関西弁を喋るのはラストエピソードへの伏線……としてるんですけどね。
もしかしたら今後、別のシナリオに置き換えるかもしれません。
というわけで、ストーリーはともかく、2つのイラストは最高に素晴らしいので、そちらを中心にお楽しみいただけたらと思います!
同時に、随所に挿絵をたくさん追加しておりますので、そちらもご覧いただけたらと思います。
新規挿絵の詳細はこちらの活動報告に書きました:
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=323251&uid=466871
異世界転移から約一日半強というもの、嫌な恥を味わわさせるような体験が多すぎる。
「ちょっと! どうして私の踊ってる姿なんかがネットで流行るの!? それって私が
私は大いに取り乱していた。
それはもう……昔、メル友と教師とが同一人物だと知って、先生に携帯を突きつけ問いつめた、あのとき以上に。
その際、職員室にいた教員という教員が、私の剣幕を見て全員
「私に怒られても……! 観てただけだし!」
蛍もまた教員たち同様の
それでも彼女が尻もちをつくようなことはなかった。そう、さっき見事にコケた私と違って!
それがまた、“身のこなし方を磨いた女”というムードを強めてきて、私の苛立ちを増幅する。
「面白がって観てた時点で蛍も同罪でしょ?」
「なんてこと言うの!?」
ジリジリ、蛍は壁際の棚のほうへと追い詰められてゆく。
「観てるだけって、それってイジメと同じじゃない? 民衆一人一人がそんな体たらくだから、どんどん悪意が広まって連鎖していくのよ!」
それを言った瞬間、蛍の全身が衝撃の刃に貫かれるのが分かった。
「ごめんなさいっ! そうだった……そうだったね。ごめん」
彼女は棚に背をぶつけると同時に、突然の謝罪を試みてきた。
強い力を持った瞳が、こうして悲しみに沈んでしまう、その様子は本当につらいものがある。
「…………」
憤怒のなかでも、私が何か蛍の
ふと彼女は、自分の後ろ手が、大きな瓶に当たったことに気づいたらしい。
「こ、これっ、マッスーダが持ってきたの! 遠い東の国の名産品なんだってー。飲んでみる?」
「知らないっ……」
「まあまあ、とにかく飲んで飲んで落ち着いて!」
それは、大きく『甘酒』と書かれた瓶。
「っ……」
私の怒りが、不意に静止する。
なぜなら、お酒というものには細からぬ縁があったから。
引きこもる日々のなか、どうしてもストレスに折り合いがつけられなくなったりすると、私は、キッチンへ忍び込んで調理酒をちょっぴり拝借することがあった。
あのまま引きこもりつづけていたら、私はもしかしたら“若年キッチンドランカー”になっていたかもしれない。
それに、ここ三年はもう、母の淹れる味のないお茶類の他には、缶ウーロンとか缶ジュースくらいしか飲んでいない。
いよいよ高級な飲み物が恋しくなってくる頃合いだった。
私は瓶を受け取ると、それをラッパ飲みしだす。
教師の携帯を手に取って調べたり、初対面の相手のビスケットを奪ったり、緊張状態にある私はどうやらマナーという概念を失くすらしい。
それはそうと。
……はい、おいしい。
久しぶりの高級な美味に酔いしれた私は、ドテッとその場に座り、甘い酒粕をぐびぐびと胃腸へ流し込んでいった。
「ぐびっ……あーーー、美味しい~……ぷばっ」
「う、うん、なんといっても神仏の土地『イーステニラ』産だからね」
さっきとは全く別の意味で(別方向へ)後ずさりしていく蛍。
サウステニラに、イーステニラ? やっぱり“何々テニラ”というのは、地球でいうところの南半球・北半球のようなもの? それとも国名?
ダメだ。今のアタマでは難しいことは考えられない。
私は中規模な通りに面した窓へ駆けると、イキナリそこから身を乗り出した。
「ヤッほー! 女神様やでー!」
泥酔女神の声を聞いて、眼下の民衆が歓声をあげる。
「今度はこっちに現れたーっ!」
「何また瞬間移動したの!?」
「おぉおおぉぉぉー!」
酔っぱらっていては、“インチキで異世界民を沸かせる”ことへの罪悪感も薄れ……
「見たか!? ウチの華麗な巫女舞を! どうやった!?」
「アカネチャンカワイイヤッター!」
「よーーっしゃ! そっちの略し方なら無問題や!」
一方、首を左右させて困惑する蛍の姿が、この目尻には
顔の両脇を縁取るボブヘアーの揺れは、どこかカブトムシの羽を思わせる軽快さだった。
「なんでイーステニラ弁なのよ!? そこまで酔うはずないんだけどな。だってアルコール度数0.1って……」
酔うとどういうわけかエセ関西弁で喋りだして手がつけられなくなる──
それは、よく親戚の集まりなんかで、酔った大人たち特有のおふざけによって
イイ気分になると、テレビでよく耳にした“気っ風の良い関西弁”を真似たくなるのかもしれない。
そう。私は酔うと、エセ関西弁になる。
ところが、蛍は今、これをなぜか“イーステニラ弁”と呼んだ。
ここは強引にでも酔いを醒まして、そのことについて質問を……
と、ピンク色の脳を頑張らせようとしたところで、下方から変な怒号が発射されてきた。
「そんなものはインチキにすぎーん! 子供騙しのトリックを用い、民衆を惑わせた罪は重いぞォ!」
通りから見上げてくるのは、虚無僧のような服装をしたツルッ禿げの男。
「なんやと!? イッペン死んでm……やない。もーイッペン言うてみぃ!」
「お前のやったことは全部ツルッとお見通しだ! 本物の神は、我が『母の峠』のスモールマザーだけなのだ!」
面白かったのは、“全部ツルッと”のところで男が自分の頭に手のひらを滑らせたこと。
一方、面白くなかったのは、彼に付き添っているゴロツキみたいな連中が、
「母上様ー!」
「アカネチャンズルガシコイヤッター!」
などと叫びだしたことだった。
こいつら……母の峠のメンバーだ。
私は喉が痛むほどの大声を通りに降らせだす。
「ほんならウチがどんな方法で瞬間移動したか言うてみぃ!」
「んぐっ……それはだな」
「ふんっ、所詮はんんんんっぐっっ」
ものすごい不適切発言が出ようとしたところで、強い力によって口を塞がれた。
蛍は私の頭部を抱きかかえ、大慌てしている。
「…………」
散々酔いきった状態でも、久しぶりに味わう人の温もりというものが……とても甘くて優しいんだという事実だけは、この胸に深々と沁みてきた。
「マズいよこれ」
蛍が万策尽きたムードになったところで、アスリート三人組の一員・ムキムキレディのマッスーダが部屋へ駆け入ってきた。
「なんかが起こってるみたいだから来てみたら……蛍! それアルコール10パーセントよ!? 若い子に飲ませちゃダメでしょ!」
「うわー、そういえばイーステニラは横書きが左右逆なんだった。10を0.1って読んじゃってた」
なんか難しいことを言っているけれど、私は酔いと怒りでいよいよ狂乱していく。
「蛍! 今から母の峠に乗り込むで!」
「明日、あなたの酔いが醒めたらね!」
「んなもん待ってられるか! 爆弾でも仕掛けて一掃したるわ! きぃいぃぃっ」
そこでブッチンと、パソコンを強制終了でもさせる要領で、私の意識は途絶えた……
「マッスーダ、お願い手伝って。私の部屋まで運ばなきゃ」
そんな蛍の懇願を聞いたのを最後に。
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「んー……あ、蛍」
電源入れたてのブラウン管テレビさながらに、少しずつ鮮明になってゆく視界。
東京では見られるはずもない、レモネード色をした夜明けだった。
この質素な寝心地は……ああ、蛍の部屋のベッドのなかだ。この急ごしらえの寝台には昨日も寝たばかりだから、すぐに分かる。
とはいっても、昨日はマジックショーの打ち合わせが長引いたせいて、とんだ遅寝早起きだったけれど。
そして目の前には、あきれても困ってもいない真顔でこちらを覗き込む蛍の姿。
「おはよう」
「おはっ……んっ」
起き上がろうとするも、頭がズキズキしすぎて無理。
「だめだって、もうちょっと寝てないと」
厳しくなだめるように蒲団を首まで被せてくれる蛍を、私は不思議に思った。
「ねえ蛍、ずっとここに、いてくれたの……?」
蛍は、斜め下へ視線を落とした愁いの面差しで、
「酔って眠って、それで目覚めたのがこんな異世界の地だったら心細いでしょ」
と、早口にささやいてくる。
こういった表情は、私もよく世をはかなんだときなどに浮かべると思う。
それで確信した。この飯合蛍という女性は、私のような女の孤独や絶望を理解してくれる人なんだって。
気づけば私は、私は……
「蛍、色々ありがとう」
先生に対してすら見せることのなかった笑顔で、蛍に感謝していた。
そう。そうだった。
誰かに対して笑いかけるときの気分というのは、こういう感じだった。
笑みを浮かべるという行為は、もう三年以上ぶり……か。
「その代わり、今日から早速、直接対決してもらうよ、スモールマザーと」
「え?」
シュピッと、鼻の頭あたりに鋭い指先を突きつけられる!
「それとっ、お酒をダラダラこぼして巫女服を汚した分の弁償代と、酔っぱらって大暴れしてマッスーダに迷惑かけた分の慰謝料も加わるから、他の
好戦的な瞳で私を見下ろしてくる蛍がまた怖くなってきた。
この人の優しさはやっぱり、私をウェポンガールとして利用するための
えっ、若い子がどうしてブラウン管テレビを知ってるの!? とお感じになる向きもあるでしょうが……
公式本編において、このヒロインの部屋にあったのは紛うことなきブラウン管テレビだったので、このような表現を使いました。
放映された2005年(ちょうど20年前!)は、ブラウン管テレビ衰退の足音が聞こえてきていた時期だったはずで、小生が初めてこのアニメを観たのもブラウン管テレビでした!
Wikipediaにも「2000年代中頃から、VHS方式ビデオデッキとブラウン管テレビは徐々に衰退」とありますね。
この小説は「公式本編の3年後」という位置づけなので、大体2008年頃のストーリーというご理解で構いません。
スマホが出ず、ケータイという言葉しか出てこないのもそのためです。
異世界がメイン舞台なので、あんまり「少し昔を舞台にした小説」という気分にならないんですけどね!笑