機動戦士Gundam GQuuuuuuX 蒼の炎獄   作:ミトコンドリアン

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初めましての方ははじめまして、ミトコンドリアンです。
ジークアクスがおもろすぎて書いてしまいました。気軽に読んでって。


プロローグ/“キラキラ”が眩しくて

 

 頭の痛みと生きてきた。まだ13の時からだった。

 

 一年戦争。“地球連邦軍”と、サイド3にて建国した“ジオン公国”の、エゴとエゴのぶつかり合い…それは()()()()()()()()()()()。地球連邦とジオンの間では協定が結ばれて…科目で歴史はとっていないから正式名称や詳しい条文はわからない。でも、簡単に言えば…『俺が上!お前が下!』と言うことであったらしい。

 

 それから宇宙はジオンのものになった。スペースコロニーはさらに発展を遂げ、人がそこで生まれ、死に…何百年前の人からすれば、考えられない世界になったのだろう。戦争もたった一年で終わったのだ。ずっと昔は百年も続いた戦争があったらしいから、泥沼になる前に終わっただけ良かったのかもしれない。

 

 痛む頭で、連邦が勝ったらどうなっていたのか、を考えてみた。愛国心の強いジオンのことだから、敗戦しても諦めない人たちが出てくるかも。そしたらいろんなことが起こって…()()()()()()()も、こっちがやらかすことになってたのかも。なんだか悲しくなってしまって、考えるのはもうやめた。

 

 戦争のことを考えるのは、なんだか()()()に悪いのだ。たぶん頭痛と戦争とが頭の中で結びついていて、考えようとすると痛みが増すのだ。難儀な身体にしてくれた、僕の()()()()を恨むばかりだ。

 

 だんだん痛みが増してきて、ベッドの上で頭を抱える。視界の黒点がじらじらしてきて、胃が持ち上がるような感覚があった。すぐに袋を引っ掴んで、不快感を解放する。胃が限界まで萎むような感覚と共に、苦酸っぱい液がざぼ、と吐き出た。看護師さんを呼んで、口を濯がせてもらった。嘔吐物の入った袋もなんとかしてもらったのでお礼を言ったら、気の毒そうな表情で「お気になさらず、仕事ですから」と。

 

 ああいう目で見られるのは少し苦手だ。頭の痛みに悩まされまともな生活も送れない俺は、他人には気の毒に見えるらしい。自分でもコレを呪ってはいる…が、それを可哀想だと憐れまれているのは、なんだか癪に障る。でも、周りの大人はみんなそうだ。

 

 嘔吐した後の形容し難い感覚を胸に抱きながら、病室にかかった時計を見た。時刻は午後…そろそろ()()()()()()()()()。俺の、たった一人の大切な()()()()。あの子と会うのが日々の楽しみになっていた。

 

 しばらく待てば…こんこんこん、と病室のドアがノックされた。時計を一瞥して、いつもよりちょっと早いかな、と思った。でも早い分には歓迎だ。

 

「どうぞー」

 

 抑え目の声でそう言うと、ドアが開かれた。向こう側には高校の制服…有名な、所謂()()()()()の制服に身を包んだ女の子が立っている。彼女は慣れた様子で病室の沓摺り跨ぎ、片手をよっ、と挙げた。

 

「こんちは。具合どう?」

「今日はなかなかいいかな。こんにちは、()()()

「そっか、じゃあいつも通り、散歩行く?」

「そのつもり。じゃあ準備するから、カーテン閉めさせてね」

「はいよ」

 

 彼女は簡単な受け答えを交わした後、勝手知ったる、との様子で病室の隅の椅子に座って、スマホをいじり始めた。俺はそれを一瞥した後、しゃっ、とベッドの周りのカーテンを閉め、バッグから着替えを取り出し、病衣に手を掛けた。

 

ーーーーー

 

 どこか偽物のようなこのコロニーでの暮らしの中で、彼と交友を持つようになったのはいつからだったろうか。まあ、意外と長い付き合いかもしれない。最初の出会いは奇妙なものだった。

 

 あの日、学校からの帰り道に、いつもは通らない通りを選んだ。今日は少し学校を出るのが遅れたから、塾に間に合うために近道の通りを選んだのだ。人が多いから、なんだか窮屈で避けてはいたが。

 

 雑踏の中を歩いていると、かつ、とつま先に何かが当たる感覚がした。下を向いてみると、何やら短い棒のようなものが落ちている。気になって拾い上げてみると…キャップのような物がついていて、ラベルも貼られていた。そこには、“トスバリジン”との表記。スマホですぐに調べてみると、それは鎮痛剤の一種らしい。静脈注射による投薬に使われるそうだ。ということは…これは注射器なのだろう。

 

 こんな物が落ちていた理由はわからないが、交番かどこかに届けたほうがいいだろう、と歩き出すと、視界の端にベンチが映った。そこには、頭を押さえて蹲る()()()ぐらいの子供がいた。右手で頭をかき抱き、左手は力無くだらりと下に垂れていた。

 

 もしや、と思い慌てて駆け寄る。青髪の少年は大量の脂汗をかいていて、呼吸も少し荒い。注射を片手に彼に声をかける。

 

「君!この注射、君の!?」

「あ゛…はぃ、ぁりがとう、ござ…」

 

 微かな返答を返した彼は、私の差し出した注射器を受け取ろうとするが、何度も手を空振る。前がはっきり見えておらず、指に力も入らないようで、空を握る動作をしながらは引っ込め、また手を伸ばしてを繰り返していた。それが少しまどろっこしくなって…。

 

「無理しないで。私が打つから。…どこに打てばいい?」

「ぁ…こ、こに…………」

 

 私の言葉に一瞬の戸惑いを見せた後、手で首の右側面を指差した。私はそれをしっかりと確認してからキャップを開け、ラベルに書いてある図解通りに底面のボタンに親指をかけ、彼の白い首筋に手をかけた。

 

「わかった!じゃあ打つよ!」

「ぁ、りがとぅ、ござま…」

「行くよ!さん、にい…いち!」

 

 慎重に、しかし素早く首筋に注射を当て、親指でボタンをしっかりと押下。プシュ、という音と共に中の液体が彼の身体へと送り込まれていった。恐る恐る注射を外し…なんだか私まで汗が出てきて、彼の隣にどすんと座った。

 

「ふう…大丈夫?変なふうになってない?」

「あ…は、い…」

 

 隣でしばらく様子を見ていると、彼の呼吸はだんだんと落ち着いていった。顔色も少し良くなって、具合は良くなったようで、か細いがしっかりとした声で話し始めた。

 

「あの…ありがとうございます。注射、拾っていただくどころか打つところまでしていただいて」

「…お礼はいい。だって、あんなの見ちゃったらほっとける訳ないじゃん」

「えっと、だとしても、助けてくださったことには変わりないです。なにかお礼をさせてください」

 

 中学生くらいにしては律儀な子だな、と感じた。背も私と同じくらいの、まだまだ成長期って感じの男の子なのに、なんだか私の周りの友達よりしっかり丁寧な言葉遣いだ。お礼も受け取ってあげたいが…今は急いでいるのだ。

 

「ごめん、この後塾があるから、お礼は今は受け取れないかな」

「…なら、仕方ないですね」

 

 納得してくれたか、と、置いていた荷物を拾い上げて駆け足でその場を後にしようとすると…少年は手帳を取り出して、ページに万年筆を滑らせた。そして、ばり、とページを破りとる。

 

「これ、俺の連絡先です。また後日、余裕ができたら…ここに書いてある場所に」

「……………あ、うん」

 

 まっすぐ私を見つめる彼の目は、綺麗な空色をしていた。そのせいで私は流されるまま、それを受け取ってしまった…。

 

 その後、塾も終わって家に帰って、お風呂にも入ってさあ寝よう、となったところで不意にこのことを思い出し、カバンに突っ込んだままだったページを見た。そこには、こう書いてあった。

 

『アキト・ミチナガ アクトン大学病院 304号室』

 

ーーーーー

 

「…ねえ、アキ。宇宙(そら)ってさ、自由だと思う?」

「いきなりなんなの藪から棒に」

「なんか…訊きたくなった、から?」

「なるほど…それって、俺が“バイト”してるから訊いたの?」

 

 公園のベンチに座りながら天を仰いでつぶやいた言葉に、アキト…アキは頬杖をつきながらこちらを向いて答える。

 

MS(モビルスーツ)のテスター程度じゃ、そういう哲学的なことはわかんないかな…」

「でも、会社の中だと一番上手いんでしょ?」

「まあ………()()()()のお墨付きだし、そうなのかもね」

 

 彼は通信制の高校で勉強をしながら“バイト”として義父…彼の養父の会社の手伝いをしているそうだ。普通に生活するのも難しい持病持ちなのに変だなあ、と最初は思ったが、今はもう気にしないことにしている。

 

「でも、マチュが思ってるのとは違うよ?軍用をびゅんびゅん乗り回してる訳じゃないし」

「そういえばそっか…でも、宇宙には出たことあるんでしょ。どんな感じだった?」

 

 未だ肘をついているアキに、身を乗り出すようにして少し近づく。メガネ越しにジト、とした目を向けられるが…彼は素直に答えてくれた。

 

「コロニーとはやっぱり違うね。でも、無重力の感覚は()()()にいいんだ。なんというか…和らぐんだ、痛みが。締め付けがなくなる感じがして」

「なるほど…なんか、私も乗ってみたいな」

 

 そう溢して上を見上げる。コロニーの空は、やはり地球の空とは違うんだろうか。筒の真ん中に雲が浮かんでいて、街が頭の上にある。そして空は脚の下にあるんだ。

 

 そんなことをぐるぐると考えていたら、不意にアキが口を開いた。

 

「宇宙もなんだかフワフワしてるけどさ…マチュ、確か…地球の海とか、見てみたいって言ってなかったっけ」

「…、口に出したことないよ」

「あれ、そうだっけ。…でも当たってるじゃないか」

 

 にま、とドヤ顔をしながら指をさしてくる。

 

「…コロニー生活が退屈ならさ、将来好き勝手できるくらいには偉くなってさ…本物の海でもなんでも見に行ってごらんよ。きっと楽しいよ」

 

 まるで他人事のように彼は言った。…実際、私に言っているんだから他人の事ではあるのだが、なんだか含みを感じる物言いだった。だから、ちょっと言い返してやりたくなった。

 

「アキはさ。将来したい事とかある?」

「うーーん……今の所は、まだ義父さんのお手伝いかな」

「なんだ。アキもはっきり決まってないじゃん」

 

 やってやった、満足な気持ちでくすくすと笑いながら言うと、アキは麗らかな笑みを浮かべながらこちらを見据える。

 

「なんだかさ。いくら戦後だからって…高校生、まだ世の中をなんにも知らないうちから“将来何やるんダーッ”て、やいやい言ってくるの、ちょっと変だと思うんだ」

 

 手ごねをしながら彼は続ける。

 

「だから、やりたい事とかはいつか見つかるってだけにとどめて、もう考えないようにしてる。だから、僕はとりあえず勉強だけはしてるよ」

 

 …周りの人とは違う事を言うのが、私にとって新鮮だった。毎回こんな感覚をくれるから、彼は大事な友達だった。なのに、彼はいつも…私が彼から離れていく、そんな前提で話している節がある。

 

「そっか。…そうかな」

「マチュの好きにすればいいんじゃない?」

 

 にこ、と笑いかける彼に釣られて、私の口角も少し上がるのだった。胸の中に一縷の寂しさを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ。マチュ、うちのテスターパイロットとか目指せば?そしたら大人になっても友達でいれるよ」

「…………()()()()()()かぁ…倍率めちゃくちゃ高いじゃん……………」

「ふふ、もし勉強に困ったら俺も力になるよ」

「…………ちんちくりんのクセして、私より歳上なのムカつく」

「あ゛、身長はイジるなよ!昔は同年代で一番デカかったんだからな!」

 

ーーーーー

 

「…いつも通りだ」

 

 スペースコロニーの端っこ、宇宙展望台。真っ暗な宇宙に星が瞬くのが見えるだけの場所。いつも人はとても少ない。今日は俺一人だった。

 

 マチュが用事でいない散歩の時は、決まって最後にここに来る。真っ暗な宇宙を無重力区画の浮遊感に身を任せて見ていると、奇妙なことに頭痛が和らいだから。

 

 貨物を運ぶ船の往来をなんとなしに眺めながら、この間マチュが言ってきた事を思い出す。

 

『宇宙って、自由だと思う?』

 

 あの言葉の意味はわからなくて、はっきり答えるのは避けたが…俺からすれば…この世に、自由な場所はなかった。これは彼女の世界ではなく、俺自身の感じるこの世界に、である。

 

 俺の頭の中にある何かは、ずっと俺の人生を縛り付けてきた。13の時のあの事件から、俺は見えない鎖に繋がれ、それは病院のベッドに括られていた。ツィマッド社の社長、義父の養子に迎えられたから、もう()()()()は起きないとわかっているのに、俺は未だに怯えている。怯えて、自ら鎖にしがみついている。じゃないと、この宇宙(そら)に放り出されてしまうような気がして。

 

 もしマチュが将来、自由を手に入れたとしたら、俺を置いていってしまうのだろうか。そんなことはないと言う気持ちと、そうなるかもしれないという気持ちがカフェオレのように混ざっている。頭を振って分離しようにも混ざったままだ。

 

 気持ちの悪い自分の心に嫌気がさす。俺にとっては彼女は無二の親友であり、この関係はずっと維持したい。だけれど彼女にとっては、ちょっと珍しいだけの友達の一人であるのかもしれない。ならばこの感情は、女々しい感情は一体なんだ。男のくせに、男のくせに。

 

 ぐずぐず、うじうじ考える。そのまま螺旋に落ちていく。もうこのまま時が止まってしまえばいいのに…と、手すりに肘をかけ項垂れていると、違和感に気がついた。…右隣に、誰かがいる。

 

 恐る恐る顔をむけてみると、僕のすぐ側で、女の子が窓の外の宇宙を眺めているではないか。いつの間に、と驚いたところで、また違和感。…この女の子…14歳くらいだろうか。空色の髪の毛と赤い綺麗な目をしている儚げな容姿だが…古いジオンのノーマルスーツを着ている。コスプレ趣味にしては変わっているし、質感がとんでもなくリアルだ。もしや…本物?

 

「…君、ひとり?お父さんやお母さんは?」

 

 意を決して声をかけてみた。ひょっとすると迷子かもしれないから、もしそうなら親御さんのところに連れていってあげなければ。頭の中の感情は一旦隅に追いやって、少女に事情を訊く体勢に入った。すると、少女は無言のまま右手を挙げ、窓の外の一点を指差した。

 

「…外?ご両親は外にいるの?」

 

 変だな、と思いながらそう問えば、少女は首を左右に振った。そして、一点を指差したまま、首だけを動かして一点を見つめている。その視線の先を追うと…そこには、観光地の展望台にありがちな望遠鏡。ここでは宇宙しか見えないので誰も使わないのか埃が被っている。

 

「これで…差してる方を見ればいいのかな?」

 

 こく、と少女は頷いた。それを受け止め、しばらく咀嚼して…「わかった」と短く返した。こうなったら、少女のなんらかの遊びにも付き合ってやろう。俺は懐から硬貨を取り出して、投入口に少し息を吹きかけて埃を飛ばしてから、そっと差し込んだ。カタン!と何かのロックが外れる音がする。俺はそっと望遠鏡を覗いて、少女の指さす方へ向けた。

 

 そこには、変わらず宇宙があった。なんだ、やっぱりからかってるんだな、と思いながら目を外そうとすると…そこに、一瞬閃光が煌めく。あれ、と思って、望遠鏡の倍率を上げてみる。

 

 ぐりぐりとダイヤルを回している間にも、断続的に閃光が輝いている。その様子は、会社のシュミレーターでよく見るM()S()()()()()()()の光にもよく似ていた。…………その考えは、間違いではなかった。

 

「なんだ…あれ」

 

 断続的にスラスターをふかし、宇宙を泳ぐように起動するMSがそこにいた。もしかしてあれに両親のどちらかが乗っているのか、と思ったが…そんな事はどうでも良くなる程の衝撃を受けた。

 

 十分な倍率になった望遠鏡の先で翻る機体は、民間用MS…いや、軍用としても異常な機動を見せている。そして、その機体の色は…赤い。

 

 それに、あの特徴的な細身のシルエット…そして、二機の瓢箪のようなものがくっ付いたMS…それを見て、気がついてしまった。

 

「…………ガンダム

 

 歴史の授業…いや、一年戦争が終結してまだそこまで経っていないから誰でも知っているだろう。ジオン救国の英雄、シャア・アズナブルが駈る、赤い連邦のMS…RX-78、ガンダム。行方知れずとなったはずの伝説の機体が、今俺の目の前にいる。

 

 未だに機体は目の前を踊るように機動している。望遠鏡に目をつけたまま、隣にいた少女に訊く。

 

「アレにご両親が!?」

 

 声が大きくなってしまったが、気にする余裕などなかった。そして、少女が無口であったことを思い出し、望遠鏡から顔を外そうとすると…耳元で声がする。

 

「違う。お父さんもお母さんも、あそこにはいない」

「…………じゃあ、こんなとこに何で一人で…なんで指をさしたの?え、アレをあの距離から気付けてたの?」

 

 ぶわ、と心の中に疑問が溢れる。しかし、少女は構わず言葉を続ける。

 

「ねえ…何か感じない?」

「感じるって…何をさ」

 

 少女が、望遠鏡を掴んでいた僕の手に手を重ねたのを感じた。…それから体温は感じられない。驚くほどに、冷たい。

 

「あの踊る機体を見て…感じているはずよ。わかるでしょう?」

「感じてる、ったって…」

 

 感じている、という少女の言葉に、必死に身体の中や頭の中を探る。すると、気が付かなかったが…頭の中に、何かを感じた。どきどきと鼓動するそれは…すぐに耐え難いほどの痛みへと変じた。

 

「あ゛…!こん、な、時に、発作が……!!!」

「発作じゃないわ。ただしいことよ」

「正しいってなんだよ!!!」

「貴方と私のために必要な事なの」

 

 少女の言う事に大声をあげてしまう。しかし少女は怯えるどころか、さらに身体を俺の背に這わせてきた。それからも、ノーマルスーツの感触しか感じられない。少女はなおも言葉を続ける。

 

「ほら、あの機体をもう一度、よく見て…」

「な、にを、言って………!!!!」

 

 少女の言葉に、また視線をガンダムに戻すと…ガンダムが、停止している。そして…こちらにそのクアッドアイを向けている。まるで、あの距離でもこちらが見えているみたいに…。

 

「……………ほら、わかるでしょう」

 

 それに気がついた途端、頭痛がこれまでにない程に激しくなる。頭の中に焼きごてを入れられ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような感覚。だが、それでも…ガンダムから目が離せない。

 

「あれが、本物の……………」

 

 やめろ、それ以上喋るな…!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『排除すべき、ニュータイプよ』

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、目の前に光の渦が現れる。それは一瞬で俺の身体を飲み込んだ。その閃光が目に入る度に、耐え難いほどの激痛が襲う。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!」

 

 心拍がおかしい。視界の端がじらじらと砂嵐のようになる。眼球が痛い。頭が熱い。

 

君は…そこから僕が見えているのか…

「だ、黙れ!!!!!話しかけてこないでくれ!!!!!」

 

 脳内に声のようなものが反響する。腕を振ってそれを振り払おうとする。光の向こうに、何かが見える。

 

君は…僕と同じ感じがする。けれど、僕とは違う感じもする。

「な、なんだ、なんだよ………!!!」

…今は、話しかけない方がいいのかな

 

 人影が、だんだんと近づいてくる。それは、俺の友人と同年代くらいの男の子で………

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会おう、と、ガンダムは言っている」

 

 はっきりと聴こえたその言葉と共に、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

ーーーーー

 

「…………ゔ…」

 

 背中に硬い感触を感じながら、意識を取り戻した。ここはどこだ。目を開こうとしても、固まってしまったかのように瞼が開かない。手でぐしぐしと目を擦ると、それは解消されたが…そこは病院でも、展望台の床でもなかった。

 

「………会社の、テスト控室…?」

 

 そう。そこは俺の義父さんが社長をしている、ツィマッド社の一室。MSのテストを始める前の控え室のような場所だった。何故俺はここにいるのか。そして、あの少女は、あの閃光は、ガンダムは何だ…?

 

 寝ていた簡易的な寝台から上体を起こし、身体を確認すると…寝ている間に着替えさせられたのか、パイロットスーツを身につけている。しかし、これは…いつも着ているテスト用のものでは無い。新品の香りがする。

 

 そして、掌を見てギョッとした。そこには、乾いた赤黒いカスのようなものがたくさんくっ付いている。これのせいで目が開かなかったのか、と一人で納得して…寝台から立ち上がり、控え室の洗面台にある鏡で顔を見た。顔色は回復しているが…涙の跡のように、手についていた赤黒いものが両眼の下にラインを引いている。スーツを着たまま蛇口を捻り、顔を洗った。カスが水に溶けてゆく様子を見て気がついた。これは血涙、というやつだったのだ。

 

 顔を洗うのもそこそこに、控え室の外へ出た。もう終業時刻はとっくに過ぎているだろう会社の廊下は薄暗かったが…MS格納庫の明かりが付いているのが、そこに続く廊下の先に確認できた。人がいそうだ、とりあえず事情を訊こう。そう考えて、俺はそちらに歩みを進める。

 

 MS格納庫への扉を開けると…そこには、いつも通りのツィマッドのMSが並んでいた。並んでいるのはドム、ドム、ドム、リックドム…隅っこの方でシートを被っているのは、ヅダというMSらしい。乗ったことはないが、社員さんの一部が“次は必ず正式採用を”と躍起になって推していたのはよく知っている。

 

 人を探すために格納庫の足場を歩くこと数分…そこに、見慣れないMSが鎮座していた。扁平にしたドムの頭にザクの排気パイプを付けたような頭に、スパイクのついた肩アーマー。身体はジオニックのグフのものにも似ていて、まるでグフとドムの合いの子のような見た目だ。

 

 じっくりと、見たことのないMSを観察する。腰に一振りマウントされているのは…ヒートサーベルだろうか。脚部にはこれ見よがしなミサイルポッドに、バックパックに乗ってるのは…ガトリング?

 

 興味を惹かれてジロジロ見ていると、不意に肩を叩かれた。そちらを見ると、仕立ての良いスーツを着た壮年の男性が立っている。その姿を見て、俺はほっと一息をついた。

 

「ああ…義父さん、こんばんは」

「こんばんは、アキト。身体は大丈夫かい?」

「うん、今は大丈夫。…ちょっと混乱してるけど」

 

 安心した途端、先程起こった出来事がまた気になりだした。あれは、あの“キラキラ”は、一体…?

 

「…どうやら、忘れられない体験をしたようだね」

「え…わかるの?」

「分かるさ。僕は人生経験豊富な大人だぞ?」

 

 ふふん、と得意げに、しかしニヒルに笑う義父さんの姿に、俺も自然と笑顔になった。

 

「君のバイタルの変化を機器が拾ってね…慌てて迎えに行ったんだよ」

「そうなんだ…ありがとう。あのまま倒れてたらどうなってたか…」

「いいんだよ。それが親の勤めさ」

 

 手すりに肘をかけ、体重を預けながら義父さんは言う。その視線は、目の前の謎のMSに向いていた。俺は義父さんに質問してみる事にした。

 

「ねえ、あのMS、なんて言うの?」

「ああ、アレはウチが地球で計画していたものをブラッシュアップしたものでね…イフリート・エクスターンって名前をつけた」

「…イフリート・エクスターン………なんでこんなものを?」

 

 目の前の機体の名前はそう言うらしい。俺がまた質問すると、義父さんはまた笑いながら返す。

 

「今回の新型のパイロット…アキト、今から君にやってもらいたくてね」

「いつものテスター?でも、俺さっきまで倒れてたし、今すぐは…」

「………頭、まだ痛むかい?」

「え、そんなのあたりまえ………で……」

 

 義父さんとの会話で、ある事に気がついた。いつも強弱はあれど、寝ても覚めても常に感じていた痛みが…()()()()()()()。多少の違和感だけを残して、ほぼ。

 

「あ、あれ、何で…?」

「………どうやら、“体験”がいい作用をしたようだね。うんうん、重畳…」

「………何か知ってるの?」

 

 …どこか、義父さんの様子がおかしい。

 

「赤いガンダムを見たんだろう?」

「…知ってるの?」

「国経由で流れてきたんだよ。赤いガンダムがこのコロニー付近で発見された、って。そのガンダムを見て、頭が痛んだかい?」

「………うん」

「そうか、そうか…ようやっと()()()()みたいだね」

 

 くつくつ、くつくつくつ、と義父さんが笑う。その様子に得体の知れない恐怖を感じて、少し後ずさった。

 

「…………話す時が来たようだね。ああ、長かった。戦争が終わってから、ずっと…」

「な、何、怖いよ…」

 

 義父さんは僕の頭を指差し、言葉を続ける。

 

「その頭の痛みは…13の時に偶々発症した持病なんかじゃあない。れっきとした外部要因によって引き起こされているものだよ。それがやっと定着して、君は()()したんだ」

「………なに、いって」

 

 脳内が疑問符で塗りつぶされているのもお構いなしに、義父は続ける。

 

「フラナガンにいた頃から…()()()()()()の下にいた時からずっと取り組んでいたんだよ。それがニュータイプとの感応によって、真に完成した…これで準備は整った」

「ぶ…ぶつぶつ言ってないで、説明しろよ!俺の頭の痛みの原因、知ってて黙ってたのか!?」

 

 声を荒げても、目の前の義父は身じろぎすらしない。

 

「あそこで作っていたOS…E()X()A()M()()()()()は確かに素晴らしいものだった。しかし、根本的にずれている…ニュータイプに対抗するために、身体でなく機体に積むOSを強化するなんて。クルスト博士も耄碌していたのかな…?」

「…OS?身体?」

「でも、僕は頭がいいからねえ…気がついたんだよ。機体にではなく、()()の頭に補助OSインプラントを埋め込めば…どんな機体に乗ろうと、思い通りに動かせる!ハード性能の制限など手動でオフにすればいい!」

「………頭に、埋め込む?」

 

 にまにまと、本当に愉快そうに笑う義父が恐ろしくなる。今すぐに逃げ出したい。だが…脚が、動かない。

 

「そうさ。君の頭にはOS…名付けてEXAMインプラントが埋め込まれている。元々はMSに詰め込むためのものだ、小型化には随分手こずったよ…しかも、今まではそれの拒絶反応が頭痛を引き起こしていたが、やっと真に身体の一部になった!」

「……そんな、そんなこと、してたのか…!!!」

 

 恨めしい痛みは、()()()()がしでかしたことで発生した、と聞かされていた。それは真っ赤な嘘だったのだ。

 

「…でも、何でそんなことを!もう戦争は終わってるんだぞ!」

「いいや終わっちゃあいないッ!!!!!」

 

 突然の大声に体が硬直する。義父の鬼気迫る表情に気圧される。

 

「あの忌々しいシャア・アズナブル…現生人類を滅ぼすはずのニュータイプが、救国の英雄などと持て囃されている!彼らはきっとまた新たな火種になる!!」

「でも、ガンダムと一緒に行方不明って…あ…」

「そうさ…そうとも………現れたのだ、赤いガンダムが!

 

 まるで獲物を見つけた捕食者のような獰猛な笑みを浮かべて義父は声を荒げる。そして、俺を見つめる。まるで、頼もしい仲間だ、とでも言いたげに。

 

「ようやくチャンスがやってきた…。君が、イフリートで…あの赤いガンダムを、シャア・アズナブルを()()。現生人類の天敵、ニュータイプを排除するのだ!」

「…俺に、人殺しになれって!?」

「ニュータイプは化け物さ!ヒトなどではない!!!」

 

 義父は俺にMSで、あの赤いガンダムを堕としてほしいらしい。だが…そんなのに従ってたまるか。今までの恩が、先程までの会話で憎悪に変わった!

 

「そんな事するわけがない!!俺には友人だって出来たんだ!人殺しになってたまるものか!!」

「………従わない、か。フウ、あのアマテ・ユズリハとかいう女と関わらせたのは失敗だったかな」

「…マチュを、とかいう女呼ばわりか!俺の大事な友達だ!」

「では忘れる事だ。辛いだけだぞ」

「黙れ!!お前みたいな奴の言いなりになんてなるもんか!!!!」

 

 怒りのまま拳を振り上げ、目の前の義父だった男に向かっていく。そのまま綺麗に顎に入る…寸前に、ビタ、と拳が止まる。

 

「…対策を講じていないわけがないだろう」

「身体が、動か…」

「さて、抵抗しても無駄だ。君には今から出て、あの赤いガンダムを…シャアを排除してもらう!」

「そんな、こと、するもんか………!」

「君の意思は関係ない。さ、行こう」

 

 義父が懐から何かのボタンを取り出し、カチ、と押下する。それと共に、俺の意識は再び闇に落ちるのだった。

 

ーーーーー

 

 突然のことだった。いつものように会いに行こうと思って、病院の受付さんに言ったら…気の毒そうな顔で、こう言われた。

 

 

 

 

 

「…アキト・ミチナガ様は…先日、逝去なされました………」

 

 

 

 目の前が、真っ暗になった。

 

【To Be Continued…】

 

 




アキト・ミチナガ:ナニカサレテタ今作主人公。マチュは無二の親友!

アマテ・ユズリハ:友人が死んでたらしい。

赤いガンダムand少年:いつか巡り合う、と、ガンダムは言っている。

謎の青髪の少女:一体誰なんだ…!?

ーーーーー

もしよろしければ感想などよろしくお願いします。
ガンダムでニ次小説書いたの初めてなんでちょっと不安なり。
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