機動戦士Gundam GQuuuuuuX 蒼の炎獄   作:ミトコンドリアン

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どうも、こちらではお久しぶりのミトコンドリアンです。
お気に入り875件ありがとうございます。うれち…。

ジークアクス最終回ショックで吹っ飛んでたりしました。またまあ他の小説と並行しながらぼちぼちやってきます。プロットはもう組み直してあるんでね。

それでは…どうぞ。


ファイアウォールはつけましょう/動き出す歯車

 

 アキト・ミチナガ…俺は、ちょこっとだけ困惑していた。

 

「………………あ、の〜?」

「どうしたんだい、アキト君」

 

 戸惑いから漏らしてしまったへにょへにょの情けない声に、隣に座っていた…名前を聞くに、エグザベさんというらしい。彼が反応した。そちらをちら、と一瞥し、何度か咳払いをして…両手で持ったコーヒーのカップを見つめながら答える。

 

「俺はですねエグザベさん。確かに取引したいから話し合おうとは提案したんですけど…」

「そうだな。君は確かにそう言った。なんだ、今更やめるだなんて言えないぞ」

「………………場所が、ね…」

 

 怪訝な顔をするエグザベさんに、俺は手の震えを抑えつけ、こう言った。

 

「なんで………あんたがたの艦でやるんですか?」

 

 コロニーの中心に浮かぶ、緑の()()…俺は、そこの一室にいた。

 

「なんで、って…取引をするんだから、きちんとした場を用意するのは当然だろ」

「だったら()でどこか借りればよかったじゃないですかーっ!」

「下だと、機密がどこかから漏れるといけない。こっちの方が安全だ」

「ごもっとも…」

 

 エグザベさんの正論に項垂れる。いや、覚悟がなかったわけではない。だいたい協力関係になった暁には何度か足を踏み入れることになるかもしれない。しかし…まだ関係は結べていないのに、もしかするとトラブる相手の領域に足を踏み入れてしまっている。

 

「…まあでもそうか。古今東西、船の上で約束事、ってのは定番ですものね」

「…………そうか。ソドンの上はジオン公国軍の領土ということになるのか」

「気づかないで上げたんですかエグザベさん!?」

「…これは僕の上司の判断だから」

 

 むかしむかし、それこそ宇宙世紀の前、西暦の時代においても“軍艦の上”というのは特別な意味を持った。まあ、大体は“軍艦の上はその軍艦の所属する国の領土”のような扱われ方をするものだが…今回もそれは変わらないだろう。

 

「安心してくれ。君を害するようなことはしない、と、僕の上司も言っていた」

「…階級は?」

「ああ、僕は少尉d「上司さんの方は?」…中佐だ」

 

 中佐。…まあ、発言に責任のある立場だろう。

 

「わかりました。では、大人しく待っているとしましょう」

「ああ。僕も、君との話し合いが良いものであることを祈っているよ」

 

 コーヒーを啜りながら、俺はエグザベさんの()()()()()()()()()()()を快く思いながら、その中佐の某を待つのだった。

 

ーーーーー

 

「あなたが、エグザベ少尉の連れてきた重要参考人ですね?」

「……………………?」

 

 うへえ、遠慮がないなあ…という感想を最初に抱いた。向かいのソファに腰掛け、腕を組んで僕を値踏みするように見る緑っぽいおじさんと、その斜め後ろに立って怪訝な顔でじっと僕を観察する女性に、だ。

 

「ああ、自己紹介が遅れましたね。私の名前はシャリア。シャリア・ブル、階級は中佐です」

「コモリ・ハーコート、少尉です」

「ああ、ご丁寧にどうも…アキト・ミチナガです」

 

 なんだか改まって自己紹介してしまった。硬い雰囲気のまま、シャリアという男がいきなり切り出した。

 

「きみが、盗まれたガンダム・クァックス、及び赤いガンダムについて、知っていることがあると聞いております。…しかし、きみはそれを素直に提供しにやって来たわけではないということも」

「ええ。まあ、いきなりそれでは信用できないでしょ。だから、幾つかお教えしましょう」

「おや…いいのですか?」

「勿論。こちらとしても、取引はぜひ成立させたいですから」

 

 手でろくろを回して、俺はシャリアに…まずは、小出しにする。

 

「あの赤いガンダム…乗っているのはシャアじゃありません。とある男…ああ、男子高校生くらいかな、あの歳は」

「…シャア()()との関係はわかりますか?」

「さっぱり。でも…強いて言えば、様子のおかしい奴です」

 

 いきなりそんなことを言う俺に、エグザベさんやコモリさんがギョッとするのがわかるが、シャリアはそれに構わない。じっと、俺の目を見つめている。

 

「具体的には?」

「“ガンダムが言っている”が口癖でした。さも、ガンダムがなにかモノを話すように振る舞う奴でしたね。はっきり言って頭がおかしいです」

「………………そうですか」

 

 何かを咀嚼するような間の後、シャリアは返事をした。そして、さらなる話題を切り出す。

 

「では…今度はきみの話をしても?」

「…………お、私のですか?」

「ええ。きみの身元は調べが付きましたが…これが不可解なのですよ」

 

 シャリアが手元に持っていた資料を机に広げた。…俺の顔写真が載ってる書類もある。これは…戸籍なんかの書類か?

 

「アキト・ミチナガ。18歳。誕生日もそろそろですね。…しかし、もうこの世にはいない人間です」

「…?」

 

 コモリさんが眉を顰めたのがわかる。そりゃそうだろう、この世に居ないのに目の前にいるだなんて何をおかしなことを、と思うのが普通だ。シャリアはさらに続ける。

 

「アキト・ミチナガは…今年の○月×日に、くも膜下出血により死亡している。彼が長らく入院していたアクトン大学病院の病室で」

「…そ、そんな…じゃあ、君は一体…!?」

 

 何も知らなかったエグザベさんが驚いたような声で呟いた。シャリアは書類を一瞥して、僕の顔をまたじっと見て…ああ、そういうことか。

 

()()()()()困ってますか?何か知ってたら、取引なんてせずに情報だけ抜き取ろうとしましたね?」

「…なんのことやら」

 

 こいつは、シャリアはおそらくNTである。おおかた、心を読んで俺の知っている情報だけを掻っ攫おうとしたのだろう。確かにその方が楽だし、どこの馬の骨とも知れぬ輩とこれ以上話す必要もなくなる。惚けるシャリアを睨み返す。

 

「これの秘密も教えましょう。エグザベさんにはもう見せましたけど…はいっ」

 

 そう言って、被ったままだったキャスケットを脱いだ。つまりは…あの結晶質の二本の角が顕になるということ。一瞬だけ怪訝な顔をしたコモリさんは…それが、本当に俺から生えていることに気づいてぎょっとした表情に変わる。そりゃそうだ、人間にツノなんて生えないもの。

 

「それは…それが、秘密ですか」

「ええ。これを用いてシャリアさん、貴方のNT的感応による読心を防御しております。まあ…頑張っているのはこの()()()()子ですから、ファイアウォールのアプリみたいなもんです」

「まるで、感応をクラッキング行為のように揶揄するんですね」

「こちらがやらないんだ。そちらもやらないのが礼儀だろ」

 

 おもしろい、というふうに微笑を浮かべた彼にぶっきらぼうに突き返す。それでもなお表情を変えない彼に気持ち悪さを感じながら、俺が持ってきた別の資料を…彼の後ろにいたコモリさんに渡してみる。

 

「これ、俺の身体についての色々な測定結果です」

「え゛っ…あ、見させてもらうわ」

 

 一瞬驚くが、毅然とした態度で受けとり、彼女はそれに目を通し始めた。…そして、読み進めるうちに眉間の皺が深くなっていく。最後まで読み終えた時には口も一文字に結ばれ、深刻な表情で資料を机上に置き、シャリアに提言した。シャリアはその資料を拾い上げ目を滑らす。

 

「シャリア中佐…彼の言うことと、この資料が本当なら」

「ふむ…なるほど…………これはまた」

 

 アレは、ドミトリーから出る時に貰った俺の身体測定時の書類だ。アレの中身は俺が受けた違法改造の内容が盛りだくさん。もし俺の取引が受け入れられなくても、義父がやってることの警鐘を鳴らすことはできる。…ぶっちゃけ、それだけでもできたら満足だ。エグザベさんがこの空気に困惑するのも気にせず、シャリアは口を開いた。

 

()()()()。肺や心臓他各種臓器、骨格筋、神経…脳。車やMSに例えるならフルチューンといったところですね」

「…そんな、非人道的な」

 

 冷や汗を垂らしたエグザベが絞り出すように呟いた声が部屋の空気に消えていくのがわかった。ジオン軍の三人は、目の前にちょこんと座る俺を穴が開きそうなほど見つめて…シャリアが切り出した。

 

「あなたは…EXAMシステムを追いかけていると、エグザベ少尉から聞きました。その目的は?」

「………ここまで来たら、察せられると思うんすけどね」

 

『…妖精さん、起動できる?』

『わかった』

 

 短く返した妖精さんの言葉の後に…両の眼と、()()()が紅く、血のように紅く、不思議な光で輝いた。その光に照らされた軍人の方々の表情は三者三様。驚愕、困惑…そして、不敵な笑み。それに、同じような笑みで返して言い放つ。

 

「生身のマリオンと、会って話がしたいんだ」

 

ーーーーー

 

『ぶわぁぁぁぁあ!きちいきちいきちいきちい!!!』

『騒ぐ割には避けているではないですか。ほら、もっと頑張って』

『ちぬぅちぬぅぅぅぅ!!!!!!!』

 

「…………………重要参考人の姿か?あれが」

「中佐の相手をするのは僕も嫌ですから、気持ちはわかりますけど…」

「…騒ぎすぎですね」

 

 ラシット艦長がため息と共に漏らした声が、少年の悲鳴にかき消されていく。艦橋のモニターには、踊るように黄色いメガ粒子の線を避ける()()が映っている。…いや、踊るようにというのは間違いだ。彼は今、メガ粒子を放つキケロガによって踊らされていた。

 

『こ、攻撃の暇がない!むり!体力尽きたら死ぬ!』

「どこぞの何某が必死こいて作った強化人間でも、“灰色の幽霊”サマには勝てんとみえる」

 

 モニター内のヅダが身を捩るようにビームを避け、ビームが放たれた方向へマシンガンを連射するも、もう有線メガ粒子砲はその場から消えている。気配を感じさせないオールレンジ攻撃は強化人間相手でも通用するらしい。

 

「しかし…まさか、あんな得体の知れない少年を証人保護プログラムの庇護下に入れるとは、中佐も好き放題なさるな」

「一応、簡易検査でも裏は取れていますから、強化人間であることは間違いありません。こちらに、彼の持参したデータと…7ページ目からはソドンでの簡易検査の結果です」

「どれどれ……………はあ、なるほど…いつまでも戦争気分で、こう言うことをやらかす輩がまだいたか」

 

 眉間を右手の人差し指と中指でぐい、と、指圧し、耐え難い頭痛から意識をなんとか逸らしたラシット艦長は、コモリ少尉から受け取ったバインダーを背後の管制員達に回す。彼らは資料に目を通してギョッとしたり、モニターのヅダを操る少年に憐れみの目を向けたりと、反応は様々だ。

 

『運動性能は足りてる、推力も足りてる…でも駆け引きで負けが込んでるか!』

『客観的な自己分析ができるのも、将来性に繋がりますね』

『クソ…せめて一発でも…!!』

 

 ブリッジの面々にアキトの事情が共有されている間にもキケロガとヅダの戦いは続いている。無理矢理反射でビームを避け続けたせいでグロッキーなアキトは自らの限界を悟った。しかし…やられてばかりでは居られない。彼も男であるからだ。

 

『次は…これだ!』

 

 ヅダが徐にマシンガンを手放し、背部のラッチに縣荷されていた武器を手に取った。MSの全長に近い長さの砲身と、その上に取り付けられたスコープ。重量を感じさせる動作で引き抜かれたそれは…ジオン軍MSにおいてはなかなか有名な武装である。

 

『ビーム兵器がよかった…でもヅダじゃ無理、だったらなるたけ弾速が速いやつ!』

『…対艦ライフル』

 

 135mm対艦ライフル。かのルウム戦役で“赤い彗星”が使用したと言われるMS用対艦ライフルは有名だが、これは徹甲榴散弾ではなく通常の高速徹甲弾を撃発するものだ。向けられる銃口が宇宙空間に炎を吐き出したが、しかしキケロガはもうそこにはいない。

 

『……本当にズルすぎません?』

『ふふ、戦場にインチキなどありませんよ』

 

 コクピット内部の映像は共有されていなかったが、シャリアは確かに微笑を浮かべながらアキトの発言を一蹴。仮想空間の宇宙をなめらかに動くキケロガは機体各部に備えられた推進器を次々に細かく噴かし、予測不能な軌道を描きながらアキトの視界より外れる。そこから有線メガ粒子砲台よりオールレンジ攻撃が飛んでくるのだ、常人なら落ちているところだが…前述の通り、アキトは気合いで避け続けていた。

 

『マジの対ニュータイプ戦…擬似的なMAV戦術を1人でこなす!羨ましいったらありゃあしない、な!』

 

 メガ粒子の飛来方向へすぐさま対艦ライフルを撃つことを繰り返すも、しかし相手の砲門にすら傷一つ与えることはできない。歯噛みするアキトだったが…シャリアはシャリアで予想と現実の乖離に直面していた。

 

『(形勢はこちらにある。だが…彼は未だに最適な動きで私の攻撃を躱し続けている。宙間戦闘の利点を最大限に利用できている)』

 

 上も下もない宇宙空間でサイコミュ兵器を相手にすることは難しい。地上ならば、下側は母なる大地に守られているからそうそう警戒せずとも良い。警戒すべきは前後左右と上のみで、現行の技術では重力という枷がビットやファンネルの自由な稼働を咎めてくる。

 

 しかし宇宙には上も下もない。警戒すべき範囲がぐっと広がり、それだけプレッシャーや恐怖も増す。よすがのない、体重を預ける大地のない空間に放り出されるだけでも、人間の脳は想定外の状況に自動的に恐怖を沸き立たせるものだ。そこに“攻撃による死”の恐怖が加われば、人間の多くは冷静ではいられない。だが…

 

『(弱音を吐いてはいる。だがしかし操縦に曇りはない。EXAMの恩恵だとしても…人の身体とMSとでは訳が違う)』

 

 シャリアはアキトから聴いた、彼の強化内容…EXAMインプラントについて思い返していた。従来のEXAMシステムのように、機体に乗せて機体へと動作を入力する方式ではなく、パイロット自身がEXAMの導き出す操作を出力して機体を動かすやり方。機体に積み込む大掛かりなやり方ではない。後から学習させれば、ただパイロットが機体を乗り換えるだけで多様な機体をそれぞれ最適に操ることのできる、非人道的だが画期的な設計思想。

 

 しかし、シャリアは考えた。インプラントは人間に埋め込まれる。機械とは違い、人間にはインプラント以外にも“考え、体を操る”器官…脳がある。インプラントを埋め込まれた人間も考えて動くのだから、確実にシステムと被験者の意思が干渉するはず。そう考えれば効率的と言えず、操縦も上手くはいかないと予想される。だが…

 

『(この子は、インプラントと同調している…EXAMの導く適解を材料に、自らがブラッシュアップした()()()を出力している。…それに!)』

 

 シャリアは極限まで意思を希薄にし、気取られぬよう砲門を伸ばし…引き金を引く。ビューウと引き伸ばされるメガ粒子の線は…また避けられる。

 

『(駄目だ…やはり反応されてしまう。並のニュータイプなら反応できないほどまで抑えた殺気ですら気取られる!)』

 

 シャリアはアキトの最大の強みを確信した。それは()()()。何であれ意思を“受信”するニュータイプ能力が非常に強く、少しでも漏れていれば察知されてしまうのだ。先程の会合でアキトの心を読もうとしたのを逆に察知されたこともそれを裏付けている。アキト本人のニュータイプ能力と、EXAMシステムの“ニュータイプを検知する”という機能が緻密な連携を果たし、もはやシャリア自身ですら感知できないであろう希薄な意思でなされた攻撃にも反応してくる。

 

 有限の武装、有限の攻撃回数。これはEXAMインプラントと彼の技術で対応されてしまう。そして何よりも厄介なのは…兵器を操るのはあくまでも人間だということ。彼を落とす為にはそれ相応の用意がいる。それでなければ気取られる。

 

『(気取られても対応が不可能なほどの物量攻撃、または完璧な偶然による攻撃………あるいは、意思を漏らさず完全に閉じ込める?)』

 

 もう何度目かの回避運動を追いながら、頭の片隅で考え続ける。シャリア自身も、対ニュータイプ戦闘を想定した()()()()()()()()を自主的に訓練していたし、それも堂に入ってきていた。しかし、流石に完全に殺気を漏らさずにいるのは難しい。心を完全に殺してしまえば、それはもう廃人同然だ。

 

『クソ…こうなったら、一撃でも入れてやる!』

 

 考えを巡らせているうちに、とうとう我慢ならなくなったようだ。ヅダが腰部に取り付けていたクラッカーを全てばら撒き…起爆の瞬間、白煙が二者を包んでしまった。

 

「スモーク!?悪手だろ、それは!」

 

 真剣に観戦していたエグザベが声を上げる。対ニュータイプ戦闘…それもただでさえ攻撃の飛来方向が判りにくいオールレンジ攻撃を相手にする上で、さらに視界を縛るのは悪手中の悪手。相手がニュータイプなら意味を成さない視界妨害。エグザベの意見は正当だが…シャリアの心中は違う。

 

『(成程。こちらの攻撃も位置も察知できる自信があるようだ。…だが、未だこちらの方が上手)』

 

 シャリアは己の感覚に従い、伸ばしていた砲門をすべて戻した。素早く巻き取られたそれを使って、正面の白煙の中メガ粒子を一発。その先から爆発音が響いた。もう一発撃てば、今度はメガ粒子の散る音と金属の感触。

 

『シュツルムファウストに、ヒートホークも投げましたか。…なりふり構いませんね。もうライフルの残弾もないでしょう』

 

 白煙の中から飛んでくる攻撃を全てしのぎ、残るはヅダ本体。白煙の中に感覚を研ぎ澄まし……一際大きな気配に向けて、全ての砲門で狙い撃つ。その向こうから確かな()()()を感じ、引き金から指を離し…

 

『………………いや、やれていない!』

 

 直感に従い、キケロガの前方にある推進器をフル稼働し、急速にその場からバックで離脱。その影を追って、白煙の中から()()()()()ヅダが飛び出す!!

 

『(肩部シールドと左腕を犠牲に減衰させた…一歩間違えば爆散するというのに!)』

 

 命を知らない戦術を見せられ、初めて額から一筋の汗を垂らしたシャリア。こちらに高速で迫るヅダの上を越すように回避軌道を入力し…鈍い音。

 

『まずは、一基…!!!!』

『……素晴らしい』

 

 シャリアは視界の左端にある火器管制の表示を一瞥した。そこには“下部メガ粒子砲損傷”の一文が赤く表示されている。機体を回転させてヅダの方向を見れば、右手で対艦ライフルを()()()()()()()()ヅダが残心の姿勢のまま宇宙を高速で進んでいた。弾切れを起こした対艦ライフルを、ヅダの推力を乗せることで鈍器として使用したのだ。

 

「…中佐からひとつ取った!?」

 

 素直に感嘆を漏らすエグザベの声は、しかしブリッジの総意を代弁している。

 

『まさかここまでとは…素晴らしい技術です』

『まだだ、もう三基残って…!!!!!!』

 

 微笑を浮かべながら褒めるシャリアの言葉に、アキトは未だ闘志のこもった声で応えた。ヅダが更にスラスターを噴かし、もう一度キケロガへと突貫しようとする。しっかりとシャリアの気配を捉え、そちらに向けて…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかしアキト君。きみは少々()()()()()()ようですね』

『え……………………あっ

「ん?……………あ、あぁ…」

 

 アキトに向けて為された忠告が、そしてそれに対して心当たりのありそうなアキトの気の抜けた声がブリッジに届く。一瞬疑問符を浮かべたものの、エグザベも納得したように声を漏らし、そのまま額にすっ、と手を当てた。

 

「…どういうことです?」

 

 その隣にいたコモリが、エグザベの様子が気になったのだろうか。軽く問うと、ゆっくりとエグザベが口を開いた。

 

「軍のシミュレーターは、色々な機体の性能を細かく再現してあるんだ。ちょっとした操縦のクセだとか…もちろん、欠点もちゃんと再現してある」

「……………あっ」

 

 会話をなんとなく聴いていたのだろう操舵士のタンギ曹長も声を漏らした。表情は変わらないが、心なしか気の毒げな雰囲気を漂わせてモニターを一瞥した。

 

「ヅダはかつて、ザクと軍のコンペで争って…とある欠点が取り沙汰されて負けたんだよ」

「…その、欠点っていうのは…………?」

 

 何かを察したのか、引き攣った表情でエグザベの方へ向き直るコモリ。

 

『あれなんでだろうスロットルがフルから戻らないんだけどなんでだろうまさかやってしまったのかやってしまったわけではないよなまさか』

「エンジンの不具合で、長く最大出力で回していると、そこから下がらなくなってしまうんだよ」

「……………って、ことは………」

 

 ようやく意味を理解したコモリは、最大出力ですっ飛んでいくヅダへ…合掌。エグザベは腕を組んでモニターを見上げ、哀れむような表情で呟いた。

 

「あれでは機体が耐久限界を迎えてそのまま空中分解してしまうね」

 

『う わ あ あ あ あ あ あ ! ! !』

 

 モニターに映し出された、機械で作られた仮想の宇宙空間に…情けない悲鳴と共に、流れ星が儚く散ったのだった。

 

「………………死んだんじゃないか?」

「ちゅ、中佐たちを迎えに行ってきます…」

 

 ラシット艦長が頬杖をつきながら呟いた言葉が、ブリッジに木霊したような気がした。コモリは困惑しながらも、二人を迎えにシミュレータールームへと向かった…。

 

ーーーーー

 

「あの子のブースは…ここか」

 

 重力ブロック、訓練用シミュレータルームの入り口にかかったバインダーと用紙を確認。『5番筐体:アキト・ミチナガ』と記入されているのを確認したコモリは、備え付けられた鉛筆で取り消し線を引いて部屋の奥へ進んでいった。

 

 コクピットを模したシュミレーターをひとつ、ふたつと通り過ぎていく中で、彼女は先程の出来事を思い出す。シュミレータールームから出てきたシャリアに頼み事をされていたのだ。

 

ーーー

 

『ああ、コモリ少尉。迎えにきてくださったのですか』

 

『実は、少し頼み事がありましてね…。アキト君がシュミレーターから出てきたら、私の部屋に連れてきて欲しいのです』

 

『もしラシット艦長や他の方から呼びつけるよう言われていたらそれが先でも構わないので…お願いしますね?』

 

ーーー

 

「返事する前に言っちゃったし…だいいち、同じシミュレータールームを使ってるんだから自分で声を掛ければいいのに…」

 

 ぶつくさ文句を言いながらも、上官に頼まれてしまったのではしょうがないからなあ、と彼女はなんとか納得する。目的の【五番シミュレーター】のプレートが取り付けられた筐体を見つけ、ブーツの踵を鳴らしながら足下の黄色と黒の線を踏み越えた。

 

「えーと…アキト君ー?ちょっといいかなー?」

 

 勤めて冷静に、それでいて柔らかい態度でコモリは閉まった筐体の中へと声をかけた。彼への若干の不信感を気取られぬように。彼女の声かけに一拍置いて、中から返事が返ってくる。

 

『はい…い゛ま開けますんで』

 

 はっきり言って、コモリは彼に少しの恐怖すら感じていた。いくら被害者とはいえ、彼は確実にジオンに敵対するために生み出された強化人間である。それに、先程見せたシャリアにも迫る実力はそれを助長するのにも十分であった。

 

 コモリが警戒用テープの外側に戻ると、筐体のハッチがゆっくりと開いた。開いたフレームに青いパイロットスーツの手を掛け、アキトがゆっくりと身体を出し…コモリは彼の顔を見た途端、血相を変えて彼に駆け寄った。なぜならば、アキトは口元に手を添え、右の目から流血していたからだ。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

「はい゛、ん゛ッウ゛…大丈夫っす」

 

 喉の奥で咳払いをしながら彼は答えたが、そんなふうには見えない。よく見れば、無事を伝えてこちらに押し出した掌にも血がついているではないか。喀血に血涙は無事とは言えない症状である。

 

「たぶん強化のアレで…ハイGに対応するために心臓も強化されてるんで、Gが落ち着くと血圧上がって毛細血管が破れちゃうんすよね…」

「せ、説明は後ででいいから!とりあえずこれで拭いて、医務室まで案内するから…!」

 

 シンプルなハンカチを慌てて差し出すコモリ。それを受け取って目と口の周りを拭き、右目を押さえながら口を開く。

 

「医務室は結構です。まあ最近ちょい貧血気味ではありますけど、いつものことなんで…」

「そんな青白い顔で言われても説得力ないよ!」

「あちょ、本当にいいですって…おわっ!」

 

 遠慮したアキトが振った手のひらをわっしと掴んで連行しようとするコモリだったが、思ったよりアキトの足腰に力が入っていなかったのか、彼がバランスを崩した。幸い、近づいて話をしていたのですぐに支えてあげられる距離におり…

 

「ああ…よっ、と」

 

 コモリが優しく彼を抱きとめる。ちょうど胸鎖関節のあたりに彼の顔がぽすんと音を立てて収まった。一瞬だけ彼の体重がコモリにかかる。彼の片腕も寄る辺を探したのか、コモリの肩を掴んでいた。危なっかしいなあ、と心配した後…コモリはそれを更に深める。

 

「(…小さい)」

 

 強化人間。戦争のために作られた、兵力だけを求められた人間。彼の体格からは、それが微塵も感じられなかった。今、彼を抱きとめたことで、尚更それを実感する。彼の背に回した手は、おそらく後少し深く抱きしめれば腹の方まで回せるだろう。今コモリの顎下にある頭も、額から生えたツノを除けばやはり小さなものだ。華奢で、儚い体だ。それなのに、先ほど感じた彼の体重は見た目よりも重たかった。そして…強化されたことがはっきりと分かる、まるで殴りつけられているかのように跳ねている彼の心臓の鼓動がはっきりと伝わってきていた。

 

「もが…ご、ごべんなさい…」

 

 一瞬硬直したコモリを他所に、アキトは彼女の胸から顔を離した。その顔には少し赤みがさしていたが、コモリの制服の胸元を見た瞬間また蒼白に戻ってしまう。

 

「あっ…ご、ごめんなさい汚しちゃった!」

「え?…ああ、ほんとだ…」

 

 見れば、彼が顔をつけた部分に小さな血のシミができてしまっているではないか。しかし小さなシミだし、少し工夫すればすぐ取れるであろう。

 

「どーしよ、クリーニングとかだよな…お金…財布持ってきてねえ…!」

 

 そんな小さなコトひとつにわたわたと慌てた様子を見せる少年を目の当たりにして…コモリの心中からは毒気がすっかり抜けてしまった。

 

「…ぷ、くく」

「え…何が可笑しいんすか」

「いやあ、なんか君、フツーにいい子なんだなって!」

 

 安心した笑みを浮かべるコモリに、意図を読めないアキトは困惑するばかりであった。

 

ーーーーー

 

「えーっと、失礼します」

「ん…おや、アキト君。先ほどはどうも」

「ボコボコにしてきたくせによくも………コモリさん、案内ありがとうございました」

 

 開いたドアの向こう、廊下から部屋の中にコモリの気さくな返事が聞こえてきた。一拍置いてアキトが入ってきたのを見計らって、シャリアは部屋のドアを遠隔で閉める。電子錠の音が部屋の中に響き渡り、アキトの片眉がひそかに上がる。

 

「…………秘密の話でもするんですか」

「話が早くて助かります。…まずは、どうぞ座って」

 

 何らかの書類に目を通していたシャリアは立ち上がり、部屋の真ん中に配置された応接ソファを手で指した。一応の儀礼で「失礼します」と言ってから、アキトはそこにゆっくりと腰を下ろした。

 

「…仲良くなったのですか、コモリ少尉とは」

「あっちが柔らかくなってくれただけです。……また心を読んだのか」

 

 けっ、と言わんばかりにしかめ面で外方を向くアキトの態度にも、シャリアは何も言わない。自分もゆっくりとソファに腰を下ろし、書類を机の上に広げた。

 

「便利でしょう?」

「心を読まれるのが嫌な人にそれやったら大失敗しますよ…恥を知れ!って」

「フッ、いやに具体的な忠告だ…」

 

 しかめ面を保ったまま言ったアキトは、ゆっくりと足を組んでからシャリアの双眸をしっかりと見据える。

 

「で。秘密の話…とは?」

「単刀直入に行きましょう。…あなたの目的に協力します」

 

 指同士を合わせた手を膝に下ろし、シャリアは軽く言い放つ。

 

「嫌に素直ですねえ…追加条件でもあるんですか」

「御名答。しかし…追加というより、あなたが提示した“ガンダムクァクスと赤いガンダムの隠し場所を教える”という条件からは変更したい、という申し出です」

「………変更?」

 

 訝しむアキトだったが、姿勢を正し一言一句聞き逃しはしまいと耳を傾ける。シャリアはひと呼吸置き、口を開く。

 

「あなたは…端的に言えば、対ニュータイプ用に調整された強化人間。それも、君にもニュータイプの素養があった上で強化され、元々の素養と強化による力の底上げにより凄まじい戦闘能力を発揮しています。……その存在の“業”は重い」

「はあ、なるほど…」

 

 目を伏せ、重たい口調でシャリアは言葉を連ねた。読心せずとも、それが彼が腹の底で考えたものだとアキトには分かった。

 

「君は強い。しかし…君の存在は“キシリア派におけるニュータイプ論”を増長させることになります」

「……()()()()()()()()()()()()だと?」

「ええ。化け物、恐るべき生物、悪魔…そんなニュータイプ論です」

「あんたはそれを望んじゃいないのか」

「勿論。キシリア閣下は…君のようなニュータイプを知れば、真っ先に()をつけようとしてくるでしょう。私には…それが我慢ならない」

 

 むっつりとシャリアの言葉を聞いていたアキトは、ゆっくりと足を組み替えた。少しだけ手で鼻を触って、机の上に手を下ろし、少し上目遣いでシャリアを見る。

 

「じゃあ、俺は()()()べきだと?」

「……………………それは、まだ決められません」

「いつ決める」

「………ひとつ、質問を」

 

 シャリアが指を一本立て、手をアキトに向けた。

 

「君は……ニュータイプをどう()()しますか?」

 

 そう言って、彼は目の前の少年をじっと見つめる。アキトには、彼の目が何かを吸い込むように渦巻いているようにも見えた。答えを探し、逡巡し、咀嚼し…ふう、とひとつため息をついた。

 

「まやかしと断じるには、俺は()()()()()()を経験しすぎました。しかし…俺はジオニズム的ニュータイプには承服しかねる」

「…」

「たぶん…あれは団結を高めるために言ったものだ。他人と分かり合える人間ってのは確かに理想的だが、やはり理想でしかない。だから、宇宙に上がった人間の進化として提唱して、皆それを目指せるようにした。…これは、俺も良いと思う」

「では、どこに承服しかねると?」

「まず……言っちゃあなんだが()()()()()がすぎる!」

 

 アキトが軽く机を叩く。

 

「人類の革新…聞こえはいいけど、何だか早すぎはしませんか。人類が宇宙に出てたった八十と数年で進化だなんて、()()()()ですよね?」

「なるほど…」

「アースノイドに対するスペースノイドの優位性ってのを主張するための基盤になりかねない。だから…あまり好きではない」

「では、あなたの解釈は?」

 

 眉を顰め、シャリアが訊ねた。…アキトは右手を握って開いて、覚悟したかのように目を鋭くシャリアに向けた。

 

「ニュータイプは…他の人類と同じに、()()に扱われるべきだ」

「…ほう?」

「ニュータイプが矢面に立って他の人間を引っ張ってって、最終的にみんながニュータイプになる。…素晴らしいとは思うけど、ニュータイプが矢面に立ってくれる前提があるし、ニュータイプがみんな引っ張ってける人間だとは言えない」

「…それに該当する者に心当たりが?」

「ええ。俺も含めていっぱい。だからこそ、ニュータイプを神輿に乗っけるような思想は…ちょっと」

 

 シャリアも足を組み替え、組んだ手をほどき、また組む。

 

「……言いたいこと、言って良いですか?」

「どうぞ。私も興味があります…君の理想に」

 

 少し弱い口調で訊いたアキトに、シャリアは頷く。アキトは左手で額のツノを撫で…言う。

 

「結局、ニュータイプ同士でも分かり合えない人間ってのはいる。根っこがまるきり違えば分かり合えない。これは普通の人間でもいっしょ…」

「確かに、それは問題だ」

「だから、ニュータイプに頼り切りはいけない。表面での付き合いもしなきゃいけない。それに…不倶戴天の相手でも、仲介があればなんとかなるかも」

「仲介…」

「手を繋ぎたかぁない相手でも、両者にどこか一致するものを持つ第三者を介してなら繋げるかもしれない。それでも無理なら仲人を増やせば良い。そうしていけば…いつかはみんな手を繋げるかもしれない」

「あなたの思想も、大分理想論的に聞こえますが」

 

 シャリアの言葉に、たはは、と笑ってアキトは続ける。

 

「確かにそうです。世の中には手を繋ぎたがらない、自分のことを考えるのに精一杯な人がたくさんだ。…だから、その人たちを何とかするため…()()が必要だと思うんです」

「………大人?」

 

 聞き返すシャリア。アキトは天井を見上げ、ため息を漏らした。

 

「生物学的な意味じゃあないですよ。たとえ嫌でも…後ろの人間のために頑張れる。そう言う人間を()()だと思ってます」

「……責任ある大人、ということですか」

「その通り。責任ある大人たちがまず手を繋いで、皆を引っ張って、後続をちゃんと育てて、育った子供たちは大人になって責任を持つ。…ヒトにとって、その繰り返しが一番丸いやり方だ」

 

 少し間をとって、真剣な表情でシャリアを見つめ…フフ、とそれを崩し、アキトは言い放つ。

 

「ニュータイプもオールドタイプも関係ない。責任ある大人が責任もって世の中を回す…そういう風にしていかなきゃいけない。だから、ニュータイプがぜんぶ背負う必要なんてない…()()にいきましょうよ」

 

 その言葉が、防音の施された部屋の壁に染み込むように消えていった。沈黙が長く続いていく。何分か、シャリアとアキトは見つめあっていた。その沈黙が意味を持つのか持たないのかも分からないまま、ただ時間だけが流れた。

 

 その後…シャリアはふう、とため息をつき、頭をかくりと下げた。

 

「なるほど…なるほど」

 

 シャリアは席を立つ。部屋に備え付けられた冷蔵庫の扉を開け…中から小さなピッチャーに入った何かを取り出した。一緒に中で冷やされていたグラスに氷を三つ四つと入れ、その中の淡い赤紫の液体を注いでいく。

 

「決めました。君とは…私も対立したくない。君は生きるべきだ」

「そりゃどうも。………じゃあ、話が大分逸れてましたけど、本題に入りますか?」

「ええ。君にやってもらいたいことがあります」

 

 シャリアが持ってきたグラスの中で、赤紫の豊かな芳香を放つ液体が揺れていた。机に置かれ、からからと氷が音を立てる。滑らせるようにアキトに差し出されたそれに、シャリアはようやく目を向けた。

 

()()()()()という飲み物です。ワインをベースにしたカクテルですが…アルコールは飛ばしてあります。柑橘は合成果汁だけですが、砂糖も入っています。エグザベ少尉に味見もしてもらいましたから、ご安心を」

「へえ。………やってもらいたいことは?」

 

 何言ってんだこの人、という目線を軽く受け流し…シャリアは立ったままアキトへ向き直る。

 

「我々の計画に協力をしてもらいたい。君には…そのための、()になってもらいたいのです」

 

「世界で最後の…剣としてのニュータイプに」

 

 シャリアが右手をアキトへと差し出した。それをアキトはゆっくりと眺める。目線を外し、机のサングリアへと目線を落としたりもする。少し汗をかいたグラスが、部屋の薄い照明にあてられて光っていた。

 

「シャリアさん…あんたの、その計画ってのは?」

「君の言葉に合わせて言えば…ニュータイプが()()でいられるように、世の中を変える計画です」

「へえ……なるほどねえ」

 

 アキトは腕を組み、シャリアの手とサングリアとを交互に見ている。

 

「同意せずとも構いません。どうなろうと、あなたは我々によって保護されます。それに…これに同意すれば…」

 

      あなたは()()()()()()()()()

 

 重苦しく、シャリアはそう言った。アキトは意外そうに目を見開いた。シャリアの掌と、顔とを交互に見て…少しばかり目を瞑る。

 

『…どうするの?』

 

 アキトの心中に、柔らかな声が響く。妖精さんの…マリオンの声が。

 

「(君の分け身を追いかけるって時点で…そういうことになるのは覚悟してたさ)」

『でも…辛いわ。きっと、とても…』

「(独りだったら、そうだったろうね。でも…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(君がいる。君のために…頑張る。そして、君を自由にするよ)」

 

 アキトはサングリアに手を伸ばした。グラスに口をつけ、くっ   と中身を煽る。勢いよくグラスを机に戻し、左手の甲で口を拭って、立ち上がる。

 

「んぅ〜…ちょっと砂糖が足らんですよ。でも良い味だ…後でレシピを教えてください」

「………ええ、勿論」

「よかった。一緒に飲みたい相手がいるんです」

 

 グラスのつゆに濡れた右掌のまま…ぱしりと音を立てて、シャリアの右手をしっかりと掴んだ。シャリアは複雑そうな…しかし、柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「私にも、友人が増えたようです」

「友人…友達、か。良いですね。…じゃあオトモダチさん、軍では中尉待遇で扱ってくださいよ〜?」

「フフ、考えておきましょう」

 

 アキトもニヒルな笑みを浮かべた。右手に力を込めれば、シャリアもしっかり握り返してきた。…読心のファイアウォールも、すでに解いた。誤解はなかった。

 

「では…これからよろしくお願いしますね、アキト君」

 

 

      新しき、時代のために。

 

 

 

ーーーーー

 

「…中尉。この任務、引き受けてくれるかね?」

「…………拝命致しました」

「よろしい。では、機体の調整に戻れ。じきに()()()のだ、今のうちにしっかりと用意をしておけ」

「はっ。失礼します」

 

 ぎらりと光るゴーグルに見つめられた男は、よく訓練された行儀の良い敬礼を返した。つい、と後ろを向いた上官の部屋から退出し、廊下をゆっくりと歩んでいく。

 

 横一文字に噤んだ口内で、彼はかつての記憶を反芻する。ルウムでの戦役、MSの威力、そして……連邦の敗北、そして“コンペイトウ落とし”。彼にとっての重苦しい記憶が、更に彼を無口にした。

 

 それは、自らを縛る枷にもなった。彼はただ上に従うままに、その黒い士官服を着るまでになった。もう敗北したというのに…彼の所属する組織は、ずうっと戦争を続けていた。負けたことを認められない者たちの中で、ずうっと仕事を続けてきた。

 

 しばらくして、目的地に着いた。MSの格納庫で、数人の整備員が立った状態のMSを弄っている。それを上から見下ろして、彼はふうと息を吐いた。

 

 与えられたこの機体に、彼は何かを感じていた。上官たちが引き入れたとある人物が協力したと言われるその機体…彼はそれのテストパイロットであり、その期待を十全に扱えると判断されていた。

 

 一番最初にテストしたアレは、戦争終結の混乱期にどさくさに紛れて横流しされた、ジオンの作ったガンダム(GUNDAM)マスプロモデル(Mass promodel)らしい。しかし、彼らの中の技術者がそれを更にいじくり回し、つけられた名はジム(GM)…安直な名前だな、と彼は少しだけ笑ってしまうが、それも重苦しい空気にすり潰されて消えた。

 

 それをどんどんといじくり回し…上層部は、全く新しいものを作ったという。量産されたそれはジムカスタムと呼ばれ、配備が進められているらしい。何と仕事の早いこと…。

 

 そして、それを更に上層部が練り上げ、とある()()()()の礎としてこれを作った。彼はそれに乗り、じきに宇宙へと上がる。そして…とある作戦に協力することになった。

 

 彼は無意識に握っていた拳を見下ろして、MSに向き直った。機体の隅々までが蒼く塗られたMSが、そこに聳え立っている。彼はそのクアッドアイと目を合わせた。…その頭は、()()()()を模していた。

 

「………俺は、どうすればいい。どうすれば…いいんだ」

 

 教えてくれ。そんな風に漏れた言葉は、MSに向けられていた。

 

    しかし、返事はない。ただのMSのようだ。

 

ーーーーー

 

「……また、変なものをよこしてきやがって…」

 

 サイド6、イズマコロニー。ツィマッド社のMS格納庫にて、作業服の男は目の前に寝かされたMSをキャットウォークから見下ろしていた。

 

「奴等が組んだMSか………ははあ、もしや()()()が知恵でも貸したのかね。アイツらしいダサいフォルムだ」

 

 手元のバインダーに留められた資料をぺらりとめくって目を通す。ジェネレータ出力、保有装備などなど…一通り目を通したら、懐からボールペンを取り出し、強い筆圧で紙にペン先を押し付け始めた。

 

「ここがダメ。()()()ならもっと推力を出しても耐えられる。ブースターを変えてジェネレータもウチのに載せ替えよう。おそらく合うやつがあるはずだ…なければ作るまで」

 

 がりがりと塗りつぶし、取り消し線を入れ、丸で囲み、注釈を入れ…次のページを捲り、男は眉をいっそう顰めた。

 

「…サイコミュ兵装………なるほど、クルスト博士を確保したんだったな…機体の運動制御の一部にもサイコミュを使うだと………チッ、私たちだけに特別?ふざけやがって」

 

 キャットウォークの欄干にバインダーを軽く叩きつける。かあん、という軽い音は虚しく格納庫の中空に消えていった。気に入らない…そんな様子で後頭部をがしがしと掻きむしる。

 

「可変機構…ハッ、そんな大層な機構仕込んでおいて、変形にこんなに時間がかかるんじゃあ世話がない。…フレームの構造は確かに革新的だが…これならMSに下駄を履かせた方が早いだろうに」

 

 ため息をつき、首をコキコキと回してペンをしまう。欄干に肘をかけ、下にあるMSを見下ろした。

 

「ニュータイプを滅ぼし否定するためにニュータイプを使う…結構なことだ。大体我々は弱い生き物だからな。強い牙を持つ奴はちゃんと閉じ込めておくか、繋いでおかないと危険だ…」

 

 男はそう独り言つ。そして、今この場にはいない、彼の愛する義息子へ思いを馳せた。

 

「あの子も…そろそろ、馴染んだはずだ。あの子がEXAMの少女を()()()、言うことを聞かせるカギだ…それに、あの子はMSの操縦が上手いからな」

 

 あの子がEXAMの少女との絆を深め、EXAMを扱えるようになる…それはそれでたいへん結構なことだ。

 

「…ふう。では、こんな感じで整備計画を下ろそう。3日もあればいい。正直言って、あの子にはもっと良い物を与えたいが…ひとまず、これで我慢してくれると良いな」

 

 キャットウォークを靴で踏み鳴らしながら、男は下へ降りる道をゆっくりと進んでいく。手首を回して軽く鳴らして、口笛を吹き…

 

「もうすぐ…戻ってきてくれるよな、()()()…」

 

 ツィマッド社社長…アキトの義父は、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべたのであった。

 

【To Be Continued…】




アキト:シャリアの下につくことになった。本人のNT能力とEXAMの機能、そしてマリオンのNT能力が悪魔合体してえらいことになっている。甘党。

妖精さん:マリオン・ウェルチ。彼女を解放するための過酷な道へ、アキトが自ら飛び込んでいったのに感激している。もう彼を離したくない…。

シャリア:読心を防御され、最初は不信感を持って接していた。しかしなんかいい子だったし、予想以上に見込みがあった。だから…彼は、私たちと共に来るべきだ。

コモリ:なんだ普通のいい子じゃん。アキトとは彼を普通の少年として接することに決めた。

エグザベ:ぶどうジュースカクテルうまいなあ、また今度飲ませてくださいよシャリア中佐!

連邦軍残党の男:MSパイロット。無口ないい男。

ツィマッド社社長、義父:サイコ野郎。俺のアキトならもっといい機体でも乗りこなせるもん!強いんだもんウチのアキトは!!!

ーーー

もしよろしければ感想などよろしくお願いします。
次回はマチュとかあれこれを書きたいぜ…。
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