機動戦士Gundam GQuuuuuuX 蒼の炎獄 作:ミトコンドリアン
お気に入り865件!感想評価も感謝です。ここまで来れたのもみなさまのおかげ!
さて、今回は頻繁に場面が変わるスタイルを採用してみました。次からは元に戻ると思います。
では、どうぞ。
「……ど、どうぞ」
「おおーっ、いただきます!」
狭苦しいアパートの一室で、小さなテーブルを囲んで床に座る二人。緊張した面持ちで言った彼女…ニャアンに、アキトは満面の笑みで手を合わせた。
「嬉しいなあ、ニャーンちゃんがご飯作ってくれるなんて!…でもなぜに唐突に」
「ニャアンです。……いつも作ってもらってるから、たまには」
人好きのする笑顔を浮かべたアキトの問いに、ニャアンは少しだけ目線を下げた。照れ臭いのを隠すように一瞬俯いて、またアキトの顔を見た。彼の目線は未だテーブルの上の料理に向いていた。
「別に好きでやってるんだからいいのに!…でもまあ、嬉しい!ニャーンちゃんはいい子だねえ!」
「…ンフ、そうですか…?」
感激したように言うアキトに、さらに照れ臭くなったニャアンは笑って誤魔化した。そんな彼女を他所に、アキトは手に持った先割れスプーン スーパーで無料だったものを多めに貰ってきて常備している を、まずはタレのかかった茹で鶏に突き刺し、口に運んだ。もごもごと咀嚼する彼を、緊張した面持ちで見つめるニャアンだったが…
「…初めて食ったけど、美味いよこれ!」
「そう、ですか…?よかったぁ…」
驚いたような表情をする彼に、安心からか少しだけため息が出た。自分の料理の出来栄えに満足してくれたのが分かって、自分も先割れスプーンを手に取った。
「んふふ、うめ、うめ…これなんてーの?」
「カオマンガイ、です。得意なのでよく作るんです」
「かおまんがい。なるほど…聞いたことはあったけどこんな料理なんだね」
するするとスプーンを運ぶアキトを一瞥して、ニャアンも食事を始めた。米飯をすくって口に運び、我ながら良い出来であると再確認する。
「このごはん、もしかして鶏の茹で汁で炊いてる?」
「はい、そんな作り方なんです」
「どうりで鶏の旨みが…付け合わせの胡瓜もなんだか嬉しいね」
ぽりぽり咀嚼音が鳴っている。小さな口でもくもく食べるものだから、ニャアンにはそれがどこか可愛らしく見えた。普段は大人びた言動をするし、仕事もしっかりしているし…自分よりも大人な人だと印象づけていたけど、食事中の様子だけはなんだか子供らしく、可愛らしかった。何週間かを彼と過ごしていると、そう言うところも目につくようになる。
「美味いねえ…なんだかこう、しみじみ美味しいよ」
再びふにゃり、と笑った彼の眼差しから、ニャアンは確かに父性というものを感じていた。まるで娘の手料理を喜ぶ父親のようだ、とも思った。彼の言葉や行動は優しく、温かい。この人が…マチュやシュウジに二度も立ちはだかった、あの蒼いMSのパイロットとは思えないほどに。
「…………そういえば、さ」
「?」
「シュウジは…元気にしてるか?」
「………え?」
ニャアンの口から困惑が音を伴って漏れ出した。てっきり、またいつものようにマチュの様子を聞いてくるものだと思っていた。だが、今回彼の口から飛び出したのは“シュウジ”の四文字、それに…身を案ずるかのような言葉だった。
「げん、き、だと思いますけど…」
「…………なんで言葉に詰まるの」
「いや、あの………え、えっと」
そうもなろう。なにせ、ニャアンはマチュからアキトの言動を聞いていた。やれ“シュウジを殺す”だの、“死ねシュウジ”だの、彼に向けるのは強い殺意と敵意のみ。「私を取られたのに嫉妬してんじゃない?」ともマチュは言っていたが…この人は、おそらくマチュに危険なことをやらせているから彼を恨んでいるのだろう、とニャアンは考察していた。
しかし、やはり聞き間違いでなければ、長らく会っていない友人の近況を訊くような口ぶりだった。その言葉からは、悪意は微塵も感じられなかった。
「…もしかして、マチュからなんか聴いてた?」
「えっ!?あ、えっと…!」
「その反応は図星だね。…まあ、俺が悪いんだよナ」
たはは、と笑ってスプーンを咥えるアキトを、ニャアンは得体の知れないものを見るような目で見ていた。
「流石にさ、殺そうとするのはダメだった。頭に血が昇ってたんだ。…死んだら終わりなんだから、殺しちゃあだめだ」
「………」
「頭、下げに行こうかと思ってんだよ」
アキトは先ほどまでの心からの笑みを、どこか悲しげなものに変えてしまった。そのまま少し俯いて、彼は続ける。
「今更許してもらえるとは思ってない。殺されたって文句は言えない。けどな…あいつも話が通じないやつじゃあない」
「…シュウちゃんに、謝る…」
「シュウちゃん?………へえ、渾名で呼ぶ仲か」
ふふ、とおかしそうに彼は笑う。
「マチュは…あいつにご執心なわけだ。俺からの言葉が聴けなくても、あいつからの言葉なら聴けるんじゃないかと思ってな」
「外堀を埋める、ってわけですか?」
「そうかな…そんな感じになるかもなあ」
コップから水を啜り、ほう、とワンルームの中空にため息を漏らすアキト。
「マチュはあいつとの友情を何よりも優先する…だから、あいつが何か口添えしてくれれば変わるかもな、って」
「………直接言えばいいのに」
「…俺、意気地がないからさ」
ニャアンは思った。きっと、この人はまたこっぴどく拒絶されると考えているのだろう。そして…実際に、彼女はそうするだろう。だが。だが、しかし。
これまでとは別の意味で拒絶するだろうと、ニャアンは確信していた。
今日の夜、またクランバトルがあるというのも、彼女の口を重たくさせた。負い目があったのであった。
ーーーーー
さんさんと照りつける、調整して取り入れられた太陽光。殺風景なコンクリート張りの屋上に置かれた、場違いなデッキチェア。傍らには氷の入った飲み物がテーブルに置かれている。そこに寝転がった少女は、サングラス越しに空に広がるコロニーの窓を見つめていた。
「…」
ヘッドホンから流れるchillな音楽に心を任せて、少女、マチュは目を瞑る。降り注ぐ光はサングラスで遮光され、幾分かの暗闇がマチュの瞼の裏にもたらされる。…しかし、
『…あ!マチュ、今日も来てくれたんだ』
瞼の裏の暗闇に映し出されたのは、病院のベッドからこちらに話しかけてくる、かつての友人。その表情は明るく、しかし儚く…優しげだ。
『宇宙ってさ、自由だと思う?』
『……コロニー生活が退屈ならさ、将来好き勝手できるくらいには偉くなってさ…本物の海でもなんでも見に行ってごらんよ。きっと楽しいよ』
あの日のやり取りは今も鮮明に思い出せた。…確かに、マチュとアキは親友だった。他愛のないことから、将来のことまで話しあって、表面だけでもわかり合えた…立派な親友と呼べる関係だった。
…だったのに。
『さぁ、せぇ、るぅ、かァァァァァァア!!』
あの日。アキは死んだ。確かに死んだのだ。一度死んだと思って、悲しんだこともあったが…それは杞憂だったのに。でも、今度は本当に死んだのだ。
『………マチュ…マチュ』
瞼の裏に人影が浮かび上がった。その人影が、瞳を紅く光らせてマチュに語りかける。
『マチュ……君は…俺の…………』
人影が伸ばした手が目の前にあった。ゆっくりと伸ばされたそれが鼻先に触れ……………
「おい。大丈夫かい?」
「……………あれっ」
気がつけば、サングラス越しにこちらを覗き込むアンキーの顔が目の前にあった。上体を起こして自分の額を拭うと、たっぷりの汗に濡れていた。
かくして、マチュは戻ってこれたのである。戻ってこれたのが、本当に彼女の為になったのかは…ここでは、まだ語ることはできない。
ーーーーー
「…そう言えば、エグザベ少尉」
コロニー内に張り巡らされた路線を巡る地下鉄の車内。紙に印刷された数列を鉛筆で解く老人と、緑のジャケットを着た若者が隣り合って話していた。彼らはジオン軍人…エグザベ少尉と、老人の方はキシリア直属の諜報機関、その連絡員の男だった。エグザベ少尉はシャリアの下にいはするが、未だキシリア派なのであった。
彼らは今、一通りの報告を終えたところであった。ガンダムクァクスが盗まれたのはシャリアの謀だとキシリアが疑っていること、そしてシャリア・ブルという男を信用しすぎるなという忠告。それらを終え、そろそろ終わるかと思いきや、男が口を開いたところなのだ。
「シャリア中佐から極秘経由ルートのレーザー通信で、キシリア様へ報告があったらしい。…“強化人間”を捕獲した、というのは本当かね」
「…ええ。間違いありません」
エグザベはアキトの顔を思い浮かべた。あの後少し話したが、普通の人当たりの良い少年だった。しかし、彼は強化人間だ。その事実は変わらない。
「それも、ニュータイプを改造したものらしいじゃないか。キシリア様はたいへん興味を持っておられる」
「…どういう?」
「なに、自分も強化人間を作ろうなどとは考えてはおられん。戦争中でもあるまいし…倫理がな」
老人は軽く笑った。だがエグザベの顔は暗い。…あの後、交流も兼ねてシュミレーターで模擬戦をしたのだが、そこで彼はアキトの恐ろしさに気がついたのだ。
エグザベは思い出した。まるで背後にも目がついているような動き。そしてGをまるで無視した動き。同じギャン、同じ装備で挑んだのに、動きがまるで違ったのだ。戦績は4戦2勝。トータルでは引き分けだ。
『う、わわ、血が出てるじゃないか!!』
『あ゛、大丈夫っす大丈夫…』
シュミレーターでも出血は起こるようで、ひとしきりそれでアタフタしたのを覚えている。
「彼は普通の人間でした。精神に異常をきたしている様子もない…ただの普通の少年でした」
「そうか………その少年にも、未来はあっただろうにな」
憂うように老人はため息を漏らした。何かを紙に書き付けながら、エグザベに言う。
「とにかく。キシリア様は、その少年と話したがっておられる…直接でなくとも、何か通信をセッティングできればありがたい、とのことだ」
「…………了解しました」
何をどうやってキシリアとアキトを会わせるのか。そんなことも考えずに、エグザベは返事をしてしまう。
「そして。強化人間の制作なぞをやらかしたとされる、ツィマッド社社長のことだが…いつ逮捕する手筈だ?」
「それは我々の方でやる予定です」
エグザベは、ソドンの皆とアキトとで立てた“突入作戦”を脳内で再度復習する。彼が言った言葉が頼もしく、ずっと心に残っているのだ。
『協力してくれそうな人たちが、ツィマッド社内にいます。ジオンからの出向組の人たちです。…彼らは、“信頼に足る大人”ですから』
ーーーーー
コロニーの地下。水路や作業用通路の張り巡らされた迷路のような場所、その一角に…異様な部屋がある。ぼろぼろのランチが置かれ、床や壁、天井一面にグラフィティが描かれているのだ。その奥に、MSと少年がいた。
「うーー、ん…うーん…」
MSの上に横たわり、少年、シュウジが何やらうめいている。なにも悩んでいると言うわけではなく…なんだか暑いのだ。傍らの小さなロボ、コンチも機械音を発しながら心配そうに彼を見ている。
そんな中、その部屋に入るための重たい扉が開く音がした。シュウジはぼやける頭で起き上がり、いつもの友人達がきたのかな、いや、この後のクラバがあるからニャアンだけかな、など考えながらそっちを見て…目を擦り、意外そうに開く。
「よう。…久しぶり」
かつての友人、アキト・ミチナガがそこに居た。足下のコンチが警告するように機械音を出した。それはそうだ、三度自分の命を狙った相手だ。普通ならば逃げたり、応戦したりするだろうが…シュウジの頭にその選択肢はなかった。彼はそのつもりがない、と確信していた。
「アキト…久しぶり。げんき?」
「…フハ、マジで逃げないのかよ…すげえな」
呆れたように笑いながら、かつかつと、フォーマルな青と黒の装いにロングコートを羽織り、赤いスカーフの映える彼が近づいてくる。ひょい、とMSの上に飛び乗り、座ったままの彼を見下ろす。
「お前を殺そうとしてた相手なのに、随分余裕じゃないか」
「君ならやらない。…わかってるから」
「ハハ、そっか…」
見下ろしたまま話すかと思っていたが…アキトはぺたり、とシュウジの横に腰を下ろした。キャスケットを脱げば、結晶質の二本角が顕になる。シュウジはそれを見て、少しばかり息を呑んだ。
「………それって」
「インプラント。まあ…“次のステージ”らしいんだけど、詳しいことはわからん」
「そうか…なるほど、そうか。そうなんだね」
シュウジは俯き、少しだけ考えるような仕草を見せた。しかし、アキトはそれを意に介さず、少しだけ深呼吸をして…
「シュウジ…すまなかった!」
「うん、いいよ」「えっ早っ」
渾身の土下座で感じるはずの機体の冷たさは、それを掌に感じる暇もなく済んでしまった。拍子抜けした顔でアキトがシュウジを見上げると、彼はアキトに笑いかける。
「人々の道の交わり方は、人の数だけある。だから…ひとときは味方でも、その後に敵になってしまうのは仕方ない。でも、君はそれを悔いて、謝りに来た。立派だよ」
心配そうに寄ってきたコンチを膝の上に乗せ、シュウジは続ける。
「君は、マチュをバトルに関わらせたくない。マチュのことを誰よりも心配しているのは、僕も分かってる」
「…分かってくれてたのか」
「うん。それに…僕は、君が
「え?」
首を傾げるアキトに、シュウジは少しだけ宙に目を泳がせ、続ける。
「君は、最初は話し合いで済ませようとした。でも、それじゃあダメだったから武力を選んだ…ここまでは、誰でもやっていること。でも、君は…また
「……………そうだ」
シュウジの言葉に、アキトは目をさらしながらも答えた。
「それは、誰にでもできることじゃない。僕ですら…刃を納めるということはできるかわからない。だから、凄い、立派だと思うんだ」
マチュと一緒にクランバトルをしている僕が言うことではないかもしれないけれど。そう結んだシュウジは、自らの額に手を当て、黙ってしまった。そんな彼に、アキトは一瞬だけ俯き…
「なあ、シュウジ」
「なあに、アキト」
「俺はもう大人になった。お前と協力して、マチュの危うい道を是正してやりたい。…だから、俺は…」
空気を深く吸い込んで、刹那。
「だから俺は、お前を許す。だからお前も俺を許せ」
手を差し出し、言う。シュウジはそれをしばし見つめ、ふにゃりと笑って…
「もう許しているよ…アキト」
がっしりと、その手を取ったのだ。
ーーー
「んで…この後予定あるか?飯とかおごるぜ」
「………クラバの試合…」
「…………そ、そうか…なんかさっき話した手前止めづら…ん?」
「お前…ちょいデコ出せ。…あっ、つ!!!熱出てんじゃねえか!」
「え〜…?なるほど、だからこんなにぼやーっとしてるのかあ…」
「呑気だな…お前それでクラバ出るつもりだったのかよ、そればっかりは許さんぞ…マチュが怪我したらどうす…お、おい!」
「あっ、やめてよアキト、クラバに遅れるぅ」
「うるせえ!そんな体調で行ったら酷くなるぞ!マチュも危険に晒…お、おい引っ張んな、どわあっ!!」
「ああ〜っ…」
「イ、イテテ…。あっおい、何してんだ!!」
「遅れたら…違約金が…」
「あ、ああ〜ッ!!!!!!!!」
ーーーーー
駅構内、ロッカーの中。少女と男が押し込められ、息を殺している。いや…男が少女をそこに留めているのだ。
「君…クランバトルって知ってるか?」
「…っ、知らねーよ…なんかヤバいギャンブルとかだろ…?」
しかめ面で目を逸らす少女に、男…エグザベはスマホの画面を見せて問うた。そこに映っていたのは、MSバトル…クランバトルの中継だった。対戦カードには“ポメラニアンズ”の文字。そう、ジークアクスを奪って乗り回しているクランである。
「(あくまでしらを切るか…まあいい。これで出てこなかったなら、ジークアクスを盗んだのはこの子で決まりか)」
エグザベは、目の前でそっぽを向きながらも目で中継を見ているこの少女を疑っていた。あの時見た制服と赤髪など、特徴が一致していたから。顔はよく見えなかったから人違いかもしれないが、この中継にジークアクスが出てこなければ、少女が犯人である確率は高まる。
ジークアクスは特殊なMSだ。それに、エグザベが赤いガンダムと交戦した際、手動操縦系を破損させてしまった。メンテナンスぐらいは可能だろうが、軍用の、しかも情報を表に出していない最新鋭機の操縦系を本格的に修理できるとは思えないから、自ずとオメガ・サイコミュによる操作が必要になる。サイコミュ・システムはそうホイホイと動かせるようなものではないから、代役も立てられないだろう。それがエグザベの考えの根拠であった。
「(…どうしよう、もう間に合わない…シュウジ、ごめん…!)」
少女、マチュは心の中で最愛の友人に懺悔した。マチュ自身も、あのMSを動かせるのは自分しかいないと自負している。よしんば動かせても、私には及ばないと。だから彼女の心中は悲しみと悔しさでいっぱいだった。このままでは、シュウジと共に地球に行くという夢が…!
二人は固唾を飲んで中継を見守った。少しして…それは、現れた。
「(……………えっ)」
「(……なんだって?)」
緊張が驚愕によって霧散した。画面の奥、コロニーの外の黒い宇宙には…ジークアクスの姿があった。そしてその斜め後ろから近づいて、ジークアクスの肩に手を乗せる赤いガンダムも。
「(どういうことだ…人違いだったのか…?)」
「(なんで!?誰が…乗ってるの!?)」
短く息を吸ってマチュの様子を伺うエグザベ。マチュは驚愕に目を見開いたまま、クランバトルの画面を凝視していた。
己の
ーーーーー
「久しぶりだな、宇宙って…シュウちゃんはどこだろう」
ジークアクスのコックピットで、操縦桿に手をかけたニャアンは呟き、辺りを軽く見回した。懐かしい、しかし冷たい宇宙の星々が瞬いている。
マチュが軍警を蹴ってしまった時は焦った。そしてはぐれて、なかなかカネバンに来ない時も焦った。そして、焦りに焦って
「あっ…シュウちゃんのガンダム」
少しして、彼女の視界に近づいてくる赤いガンダムが映った。右手を伸ばし、ジークアクスの肩にかける。接触回線が繋がった。しかし…その向こうから聞こえてきたのは、とても機嫌の悪そうな声。
『………オイ、マチュ』
「えっ…アキさん!?」
『え?……………ニャーンちゃんが乗ってるの!?』
ニャアンはその声にぴくりと肩を震わせた。向こう側もこちらをマチュだと思っていたようで、心配そうな声で語りかけてくる。
『な、なんで君が乗ってるの…危ないよ!?』
「そ、その、マチュが面倒ごとに巻き込まれて来れなくなって、えっと、いつまでも戻って来ないから私が…で、でもアキさんはなんで!?」
『俺は……あー、シュウジ!』
『やあ、マチュ………あれ?ああ、今日は君なのかあ〜』
「…シュウちゃんも一緒なんですか?」
向こう側から別の声も聞こえてくる。そちらは聞き慣れた、友人であるシュウジの声だった。ニャアンは思い出す。アキトがシュウジと仲直りしようと言っていたことを。ニャアンはなんだか嬉しくなって、少しの笑みをこぼした。
「仲直り、できたんですね」
『ん、まあそう…だけど。なんかコイツお風邪引いてんの』
『でも…バトル出なきゃ、違約金…地球…』
『あーあー、無理に喋んなくていいから!ほれシートの後ろで目つむってろ!……てわけ。無理に出撃しようとするもんで取っ組み合ったらコクピットに落ちて…コイツが俺を乗っけたまま発進させやがったんだよ』
「……じゃあ、誰が操縦するんですか?」
ニャアンが溢した疑問に、赤いガンダムのコクピットから少しの含み笑いが聞こえた。
『そりゃ、俺しかいないな。……君もシュウジがよかった?』
「え、その…風邪、引いてるならしょうがない、と思います」
『否定はしないんだな。……まあいい。よっ、しゃ!』
ぱちん!と音がした。頬を叩いたのだろうか。そして、続いてガチャガチャと異音。何かをいじっているらしい。
『シュウジ、リミッターのパネルどのへん?』
『そこ…違う、その左、そのカバー外して右上の機械…』
『お、これか。よし…おお、赤い彗星さんも攻めた緩め方してるな…でも、解除!解除!解除!』
ぱちん!ぱちん!とスイッチを切る音と共に、なんらかの警告音が聞こえてくる。だん!と拳を硬いものに叩きつける音がして、それはすぐ止まった。
『これでよし。……ニャアンちゃんは無理せず下がってなさい。今回は俺が頑張るよ。援護射撃ぐらいはできる?』
「…私だって戦え、ます。馬鹿にしないでください」
優しく呼びかける声に、ニャアンは少しだけ苛立った。こんな時になっても、この人は私をどこか子供扱いする。ジークアクスが持っているビームガトリング まあ、元はアキさんから奪ったものだが を構えて見せると、ふうむ、と向こう側から聞こえた。
『そうか。………じゃ、ヨロシク。頼りにしてるよ』
「アキさんも………気をつけて」
『おう。君も気をつけて…』
ミノフスキー粒子が撒かれたのか、手を離した赤いガンダムとの通信が途切れていく。名残惜しさと、これから始まる戦いへの緊張を誤魔化すように深呼吸をし…
信号弾が放たれ、試合が始まった。
ーーーーー
「バルカンもない、ビームライフルもない。盾とサーベルだけでここまでやれてたなんて、すげえよなお前」
「前はビットがあったからね…」
「俺とシイコさんはビットなしで倒してるくせによ…」
視界の端で信号弾を確認しながら、シュウジと会話を交わした。神経を研ぎ澄まし…
「ニャアンちゃんを狙うか。まあ…シャアよりシャアじゃない方を狙いたいよな」
「乗ってるの、シャアじゃないけどね…」
スラスター光で位置がバレるのもお構いなしにかっ飛んでくる二機のMSは、どちらもリックドム。俺にとっちゃあ馴染み深いMSだ。
「テストで何度か乗ったっけな。やっぱすごい推力…だけどっ!」
ニャアンちゃんに突っ込んでいく黒いリックドムが放ったバズーカの射線に割り込み、盾を使って弾を…逸らす!そしてこちらに照準補正するバズーカの砲口の下に潜り…胴体を思い切り蹴飛ばす!!
「遅いッ!!」
体制を崩すリックドムを踏み台に反作用で跳躍し、ジークアクスを少しだけ押して離してやった。ニャアンちゃんには悪いが…今回はワンマンプレイでいかせてもらおう。
「翔べ!ガンダム!!」
少しだけ距離を取ろうとするリックドムに向かって、リミッターを外したガンダムのスラスターを最大までふかし…ビームサーベルを手に、敵へかっ飛んでいくのだった。
【To Be Continued…】
アキト:シュウジと仲直りできた。大人であろうとするあまり人を子供扱いしがち。しかし確かに健全な父性が伴っている。MSの足癖が悪い。
ニャアン:お手製カオマンガイをアキトに振舞った。アキトに感じているのは本当に父性だけだろうか…???
シュウジ:…………君が、それに呑まれないことを祈っているよ。
ーーーーー
いかがでしたか?
よければ感想評価よろしくお願いしまあす!
跳んで喜びます。
では、次回は戦闘回ですね。んじゃまた!