機動戦士Gundam GQuuuuuuX 蒼の炎獄 作:ミトコンドリアン
なんとお気に入りが一気に83件まで増え、感想もちらほら頂いております。評価してくださった読者の方々に最大の感謝を!
今回はほのぼの回です。では、どうぞ。
「では、ショーダウンになります」
イズマコロニー某所、とある路地裏から行くことのできる、秘匿された場所…タバコや酒の香りが入り混じる、違法な香りのする場所だ。ディーラーの宣言を受け、卓についていたプレイヤー達は一度に手札を見せた。ディーラーはそれを確認し…青髪の、丸いサングラスをかけた少年に向け、チップをすい、と押し出した。
「ストレートフラッシュ、此の方の勝ちとなります」
「…どうも。では俺はこの辺で」
「だぁーっ、まぁたあのガキにしてやられた!」
「本当につええよな坊主…コツでもあんのか?」
「毎日徳を積むことですかね」
「
ほくそ笑む丸サングラスの少年は、楽しそうに、はたまた悔しそうに笑う男達をよそに、山のようなチップをかき集めそそくさと換金所へ向かう。少年…アキトはこのようなことを、ここ最近ずっと続けていた。
アキトにはもう帰れる場所がない。病院には戻れないだろうし、ツィマッドに戻るのは以ての外。だから、最近はシュウジとの共同生活を送っている…が、常に金欠に悩まされていた。
最初は真面目に働いて金を稼ごうとしていたが、彼の見た目が邪魔をした。まだ幼さの見える中性的な外見では、どこも雇ってはくれやしなかった。闇バイトですら断られるのだ。だから彼が目をつけたのは…違法なギャンブル。運と実力だけの世界は、実に都合がよかったのだ。
ニュータイプは超能力でない。もしニュータイプ能力が特別強ければありえるやもしれないが、彼程度では何らカードの場には活かせない…しかし、アキトは賭け事がうまかった。これは彼自身初めて知った才能であるが…MS乗りは大抵、リスクヘッジが上手いのだ。乗るか去るかを慎重に判断し、決めるときは一気に決める…これが上手ければ、カードゲームもMS戦も勝ちやすい。
「おーい、シュウジー!帰ったぞーっ!」
いつもの隠れ家に戻り、中にいるシュウジに呼びかけるが…返事は返ってこない。見てみれば、赤いガンダムの姿もなかった。
「また外に描いてんのかね…まあ、すぐ戻ってくるだろ」
アキトが納得したわけは、シュウジの趣味にあった。いや、趣味と言うと語弊があるかもしれないが…彼は何かに突き動かされるように、“向こう側”を模したグラフィティを描きにいくことがあった。シュウジだけ消えていれば街中に、ガンダムも一緒ならコロニーの外壁に。スプレー缶もギャンブルの儲けで買い足しに自由が効くようになったから、最近は描きにいく頻度もだいぶ増えた。
アキトは買い物袋を抱えて、えっちらおっちら梯子を登る。上のランチにたどり着いたら、すっかり片付いた部屋の
「冷蔵庫があるだけでだいぶ違うよね…」
綺麗に整頓された冷蔵庫の中に、買ってきたものを幾つか突っ込んでいく。マトモな生活能力のないシュウジの為に、病院暮らしで家事経験ナシのアキトは自分なりに頑張っていた。机の上のレシピ本を眺めながら、卓上IHコンロでたまに失敗しつつ料理もする程には。
さて…冷蔵庫の整理が終わり、少し落ち着けば…毎日の日課が始まった。部屋の隅にある
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…」
規則的な呼吸を心掛けながら、重たいペダルを漕いでいく。エアロバイクにはコードが繋がれていて、その先にはバッテリーがあった。…電力問題の解決法はこれである。衝撃の人間足漕ぎ発電だ。しかし、これがまた彼にとってはちょうどよかった。
「ふぅ、ふっ、あとっ、2分…!」
発電効率が悪く、時間もかかるが…これは彼のリハビリも兼ねている。EXAMインプラントの定着の折に、頭痛が極限まで弱まった。はっきり感じるのはMSに乗った後ぐらいであるし、普段は違和感までに留まっている。だから、これまでの緩やかなペースの散歩だけでなく、激しい運動ができるようになった。彼の年齢的にも、MS操縦者としても、体力をもっと付けることが急務だった。
「ご、よん、さん、にぃ………よし終わりッ!」
ぷはーっ、と息を吐いて足を止める。ペダルの惰性に任せて脚が動くのも気にせず、彼はエアロバイクの上で深呼吸。息を整え、エアロバイクを降りたらそのまま冷蔵庫へ。中のペットボトルを取り出し、キンキンに冷えたスポーツドリンクを一気にあおった。これも病院にいた頃はできなかったことだ。定期的に嘔吐していたため胃に負担のかかるようなこともできず、飲み物と言ったら常温の水か白湯、経口補水液。それより甘くて美味しいこれに、彼は大層ハマっていた。
「ひゃーっ、隠遁生活、サイコーッ!!」
隠遁生活を始めてはや3週間。アキト・ミチナガは、ようやく訪れた自由を謳歌していた…!
ーーーーー
「…さて、洗濯とかもこれでいいかな…ルーターも新しくしたし、いけるかな」
「エト、パスワードは確か………よし!」
「さて…だいぶ間あけちゃったけど、久しぶりに顔出すか!」
ーーーーー
「…これに“ガンダム”の映像が?」
「はい。軍警から提出されたものです。今ご覧になりますか、シャリア・ブル中佐」
「ええ、よろしくお願いします、コモリ少尉」
「ガンダムの、戦闘記録…」
サイド6、イズマコロニー近辺。ジオン公国軍所有の船にて…その中の一室で、軍服を着た女性がモニターに繋がれたデバイスに何かを差し込む。その様子を、もう二人の男性…こちらも軍服、片方の襟には中佐の徽章がついていた。
そう。彼らはジオン公国軍の軍人…額を出すような髪型の女性はコモリ・ハーコート少尉。椅子に座ってモニターの準備を眺めているのはシャリア・ブル中佐。そして緊張した様子で膝の上に握り拳を作り、モニターを見つめるのはエグザベ少尉…とある“特務”を帯びた艦のメンバー達である。
「では流します」
コモリ少尉が再生ボタンを押し、足早に二人が座る椅子の後ろへ。数秒の後、モニターにある映像が流れ始めた。
「イズマコロニーの軍警のザクのブラックボックスにあった、赤いガンダム…そして、青い謎のMSとの戦闘記録、だそうです」
映し出されるのは、軍警ザクのメインカメラ映像。画面の真ん中には、青いモノアイを光らせ停止している青いMSと、その肩を抱くように寄り添う…“赤いガンダム”
「ほ…本物ですか!?」
「いや…まだ早計かと」
「……………」
コモリ少尉の驚きの表情をちらと見て宥めるエグザベ少尉と、未だモニターをじっと見据えるシャリア・ブル中佐。そのうちモニターに動きがあった。突然青いMSがスラスターをふかし…一瞬にして画角から消える。それと同時に何かの激突音。そして、一瞬にして映像は真っ暗になった。
「え…これで終わり、ですか?」
「いえ、これは
「………八↓機↑ィ!?」
「エグザベ君、静かに」
「あっ…失礼致しました」
素っ頓狂な声を上げたエグザベを咎めるシャリア・ブル。やり取りの間に、次のザクの映像に移り変わった。
『な…なんだ、あの青いの!』
『落ち着け!所詮シャアのなりきり野郎と、訳のわからんホームメイドMSだ!軍用のザクの敵じゃない!』
パイロット達のやり取りも入っているらしい。目の前の赤いガンダムと青いMSはザク達を見据え…青いMSが動く。両腕についていた装甲を稼働させ…スパイク・シールドが現れた。それをまるでメリケンサックのように構え…モノアイがグポォン、と赤く発光した。瞬間、ボ、という音と共に映像が停止する。次の映像に移り変わった途端、なぜそうなったのかがわかった。
「…メインカメラを殴り潰したのか、あの一瞬で!」
「すごい加速ですよ、何なんですかあのMS!」
「これは…」
次のザクの映像には、味方の軍警ザクの
『な…逃げる気だ!』
『俺のマヴまで…おい、もうすぐ
『了解…何だか知らんが、枚数有利だ!負けるわきゃあねえだろ!!』
警察ザク達は短く通信し、二機の不明機を追って飛ぶ。今の映像に映っているザクはしっかりと画面に二機を捉えていたが…フッ、と画面から姿が消えた。
『チッ、スラスターを消したか…だが好都合、一気に近づい…ウワーッ!!!!!』
轟音と共に画面が揺れる。
『な、あ、赤いの!た、助け、ヒィーーッ!』
ビュウン、というエネルギー音と共に、断続的な破壊音が響いた。それが何によるものかはすぐにわかった。映像のザクは何かに押され、ポーンと宙に放り出され回転する。それに映ったのは、赤いガンダム…ビームサーベルを抜いて、側には切断されたザクの手脚。このザクは達磨にされ、無力化されてしまったらしい。
『チャック!クソ、よくも俺のマヴを…何だ!?』
映像が切り替わる。そちらに気を取られ、ザクマシンガンを赤いガンダムに乱射している軍警ザクは、背後から忍び寄る青いMSに気が付かなかった。まるで羽交い締めのように背後から拘束される。パイロットはすぐにメインカメラを操作し、ザクの首を180°回転させ…真っ赤に光るモノアイと目が合う。
『なぁ、や、止めろ!!!!!!!』
まるで血のような真紅のモノアイに覗き込まれ、パイロットは怖気付く。その悲鳴と、青いMSの頭部バルカンの斉射の音と共に、映像は真っ暗に。
その後も、軍警ザクを蹂躙していく二機のMSの様子が映され続ける。ザクマシンガンの斉射をスパイクシールドで弾きながら接近し、ジャブで一機のマシンガンを破壊、キックで遠くへ。その間に脚部のミサイルポッドから何かを射出し、それから出た電撃でもう一機のザクを拘束。蹴り飛ばされた方はヒートホークを抜いて突貫するが…電撃で無力化されたザクを盾にされ、思わず停止。青いMSはそこに人質にしたザクを蹴り飛ばし、停止したザクにぶつける。宙を漂う二機に、マウントされたガトリングを抜き…閃光と共に映像は停止。
「うわ、何あの動き…中に人でも入ってるんじゃないですか!?」
「ビーム兵器…ゴロツキのMSの出力で扱えるようなものじゃない、ですよね」
「…………」
赤いガンダムがデブリが溜まった域に入り、追いかけるザク二機。遮蔽が多い場所で見失い、周りを確認していると、衝撃。もう一機のザクが捉えたのは、蹴り飛ばされてデブリに激突、デブリと“キャノンハンマー”で頭部をサンドイッチにされるザク。衝撃でデブリが砕け…それに刺さっていた
「…すごい」
「………………………」
思わず声を漏らすエグザベと、未だ神妙な面持ちで黙り込むシャリア・ブル。映像は監視カメラのものに切り替わり…そこには、漂うザクの残骸を、隣り合って静かに見つめる赤と青のMSの姿。二機は周りを見回した後、カメラの画角の外、どこかへ飛んでいってしまった…。
「これで終わりのようです。………すご、かったですね、中佐」
「ええ………実力・MSの性能…この映像では全ては分かりませんが、あの赤いのはやはり“ガンダム”」
「じゃ、じゃあやっぱりシャア・アズナブルですか!?」
「………映像では分かりません」
まだ衝撃が残っているのか、息をつくように言うエグザベに、大声でシャリア・ブルに疑問を投げかけるコモリ。シャリア・ブルは手を組み、机に肘を置き…落ち着いた声で返答した。
「しかし、あの青いMS…個人が勝手に制作したものとしては常軌を逸した性能です。炉だって相当な高出力じゃないとビーム兵器は…!」
「しかもビームガトリングですよガトリング!コンペには何度か出てましたけど、要求出力のせいでまだ軍にも正式採用されてないんですよ!?」
「…おそらく、個人制作のものではありません。心当たりが」
エグザベとコモリの声に、シャリア・ブルは手元の端末からデータベースへアクセス。しばらく操作し…目の前のモニターに、とある機体の図を映し出した。
「これ、は…あの青いのに似てますね」
「これは地球に降りた部隊と、一緒に降りたツィマッド社が試作していたMS…型式番号MS-08TX、“イフリート”」
「イフ、リート…ずっと昔の、確か…イスラーム、でしたっけ。そんな名前の宗教に出てきたような…」
「へえ、初めて知りました。詳しいですね、コモリ少尉」
「え、あ、えへへ…ありがとうございます中佐…」
嬉しそうな恥ずかしそうな顔で笑うコモリを他所に、エグザベがシャリア・ブルに質問を投げかける。
「地上ってことは、地上戦闘用の試作機でしょう?武装も違いましたし、空間戦闘まで対応しているなんて…本当にこのMSなんでしょうか」
「いい質問ですね、エグザベ少尉。確かにあの青いMSは、このイフリートよりも性能が上のようでした。便宜上、“イフリートⅡ”と呼ぶことにしましょう…しかし、元のイフリートにも、宇宙戦にも対応できるようなバリエーションが存在します」
シャリア・ブルが端末を操作すると、図が切り替わる。そこには、さっきの映像のような青いイフリートが映っていた。
「これはイフリート改。イフリートに特殊な改造を施し、理論上は空間戦闘もできた機体です。パイロットはニムバス・シュターゼン。当時の階級は大尉、彼は現在ズムシティ基地に駐在しています」
「では、あの映像のMSもこれですか?」
「いえ…イフリート改は製造数一機のみ、それに…もう機体そのものは残っていません」
「…墜ちちゃったんですか?」
コモリの問いかけに、シャリア・ブルは首を振り、答える。
「戦後間も無くして、機体は軍により押収…解体され、独自に積んでいた
「…なぜ、そんなことを?」
「……“クルスト・モーゼス”という男の名前を知っていますか?」
神妙な面持ちでそう言うシャリア・ブルに、コモリは答える。
「知ってますよ。あの人は、ニュータイプは危険だ何だって言う被害妄想に取り憑かれて、ニュータイプ排除の為の研究をしてたって話ですから。でも、それがキシリア様一派にバレて投獄された、馬鹿な人です」
「…クルスト博士が、その機体のOSを組み上げたのです」
「へえ…でも、何で破壊する必要が?」
「“人体実験”で作られたからです」
コモリの純粋な疑問に答えたのは、意外にもエグザベだった。
「フラナガン・スクールで、お世話になった教官に聞きました。昔、フラナガン機関にいたクルスト博士は、ニュータイプの少女を犠牲に機体制御OSを完成させた、って」
「…そんな…そんな、ニュータイプなんて
「ええ。クルストが投獄されたのは、その件が大きいそうです。それに…そのOS…“EXAMシステム”は危険すぎた」
続けてシャリア・ブルが映し出したのは、とある映像だった。そこには青く塗られたイフリートが、試験用の地下施設に鎮座していて…事故は起こった。
『な、し、システムが暴走している!』『止めろ!止めろと言っているんだ!テスターパイロットは何をしている!』『と、止まらない!機体が勝手に動いてるんだぁ!!!!!』
突然モノアイを紅く発光させたイフリートが、固定を振り切って暴れ始める。試験場はめちゃくちゃになり…映像も、ヒートサーベルが突っ込んできたことで砂嵐になった。
「…この通り、一度暴走すれば敵味方は関係ない。ただ周りにニュータイプがいなくなったと判断するまで、機体や操縦者にかかる負荷すら無視して暴れ続ける…こんなもの、兵器として運用することはできない」
「なるほど…でも、あの真っ赤なモノアイの光って」
「ええ。これが
先程の映像の暴走するイフリートと、今回手に入れた映像のイフリートを比べるように映し出す。そのモノアイの光は、両者共に真っ赤…EXAMシステム搭載機の特徴である。
「…確かに似てますね」
「でも…EXAMシステムは無差別攻撃をし始めるんでしょう?なら、何で赤いガンダムを攻撃しないんです?」
「それも説明がつきます。イフリート改のパイロット、ニムバス・シュターゼンがその証人です」
エグザベの言葉に、シャリア・ブルは続ける。
「EXAMシステムは危険です。ですが強力なシステムなのも確か…高負荷に耐え、十全に扱えるパイロットがいればの話ですが…ニムバス大尉は、EXAM搭載機であるイフリート改を乗りこなしていたのです」
「…じゃあ、これにはニムバス大尉が!?」
「いえ。彼はズムシティから離れていないことが分かっていますし、まずサイド6からズムシティには距離が。それに…ニムバス君は今は少佐階級。おいそれと自由に動ける立場ではありません」
「じゃあ、一体…誰が乗っているんです」
息を呑み、エグザベが問う。緊張感の漂う室内で、シャリア・ブルは両手を組んだまま呟いた。
「コロニー内で事情聴取といきましょう。…ツィマッド社の社長が、このコロニーにいることがわかりましたから」
ーーーーー
「…今日も疲れたなあ」
濡れた髪を乾かしながら、自室にて、コモリ少尉は呟いた。今日はあんな映像も見せられたものだから、精神的な疲労もピークであった。髪の毛が十分に乾いたら、キャミソールとハーフパンツのラフな格好で部屋にある椅子に座った。そのままラップトップを取り出し、ヘッドホンを接続して電源をつける。…鼻歌まで歌って、なにやら上機嫌である。
「さーて、今日はようやくネットサーフィンができる…!」
そう。イズマ・コロニー近辺まで航行してきたため、漸くネットが繋がったのだ。コモリ・ハーコート、23歳。趣味はたまのインターネットであった。
「久しぶりにゲームもいいかも…あれっ」
個人のラップトップ…ゲームもできる仕様のもので、久しぶりに何かしようか、と思っていたら…チャットに何か通知が来ている。それを確認して、コモリは笑みを浮かべた。
「あ…“ヅダミチ”さんからチャット来てる…!」
そう言った彼女は、“ヅダミチ”なる人物とのDMを開く。そこにはこんな文言が。
[お久しぶりです“ハコトン”さん。なんかご一緒しませんか?]
コモリ・ハーコートのインターネットでのユーザネームを呼ぶのは、コモリのネット上の友人。何やら謎のエンジンの画像をアイコンにしている、ユーザネーム“ヅダミチ”であった。やり取りをするには互いに三週間ぶりである。コモリは笑みを浮かべ、キーボードを軽い動きで叩く。
[お久しぶり、ぜひやりましょ。何します?]
[じゃあ、〜〜〜でレベリングでもしに]
[じゃあログインして待ってます!]
短いやり取りの中には、これまで過ごしてきたネット上での付き合いから来ていた。とあるMMOでフレンドになってから、色々なゲームを共に遊んだ中であり…コモリにとっては、“ヅダミチ”はネット上のマヴ、とまで言える存在であった。私がそう思っているんだ、この人もそうに違いない。と、コモリは考えていた。
さて、ゲームを立ち上げようかと準備をしていると…不意に“ヅダミチ”からまたメッセージ。
[そういえば…ハコトンさん、結構前にボイスチャットもやりたい、って言ってませんでしたっけ]
[はい。でも、環境的に難しいんでしょう?]
[いえ、実は最近環境が変わりまして…ボイチャ、できるかもしれないんですよ]
『わ』
“ヅダミチ”とは意外と長い付き合いがあるから、もしこの人が良ければボイスチャットをしてみたいな、とかねてから考えてきたコモリは、この申し出に驚いた。なぜなら、今までは断られていたからである。最も、“ヅダミチ”の居住環境的に難しくて断念していただけなのだが…コモリにとっては、一度も聴いたことのないネッ友の声が聴けるチャンス。逃す手はなかった。
[じゃあ、よかったら繋ぎましょーよ]
側から見れば気持ち悪がられるほどのスピードで打鍵し、メッセージを送った。少し緊張して、数秒待って…メッセージが返ってきてから、コモリは喜んだ。
[じゃあ繋いでみますか]
そう返答が返ってきて、チャットアプリ内のボイスチャットルームにアイコンが表示される。ヘッドホンに付属したマイクの位置を調整し…コモリは意を決してボイスチャットに入った。
ぽこん!と音が鳴り、通話が接続される。その音に反応したのか、“ヅダミチ”のアイコンの枠が緑色に光り、“ヅダミチ”のものらしき声が聞こえてきた。
『あー、あ〜…テステス、聞こえてます?』
「え、あ、ばっちりです!こちらは?」
『此方も大丈夫です』
意外にも、ヅダミチの声は高かった。勝手に想像していた男性の声ではなく…どちらかといえば少年のようなソプラノボイス。少し驚いて吃ったが、それはノイズキャンセリングされたようだ。
『…女性だったんですね、ハコトンさんって』
「え、言ってませんでしたっけ?」
『ええ。今まで分かんなかったです』
「そうでしたか〜。…そう言うあなたも、随分可愛い声してますね」
『…俺としてはもうちょい低くなりたいんですけどね』
俺…、と、コモリは心の中でヅダミチの一人称を反芻し…何かに気がついた。
「…ヅダミチさんって、男の人、ですよね。おいくつ?」
『あー………まだ18、今年で19ですね』
「へー、若いですね。歳下だぁ」
どうやら画面の向こうのマヴは、成人になりたての年齢らしい。同い年くらいを想定していたので、さらに驚いた。歳下の男の子…いい響きだ、とコモリは心の中でつぶやいた。
「じゃあ、そろそろログインしますね」
『はい。ロビーでまってますね』
「は〜い」
短くやりとりし、結構やりこんだMMOのロビーへ入る。そこで合流し、レベリングへと出かけた。流れ作業のようなレベリング中は、会話の捗るものである。
『最近、同居人がめちゃくちゃ服を汚して返ってくることがあって〜』
「へえ、シェアハウスですか?」
『…同居、ですねえ。寝る部屋が分かれてるわけでもないですし』
「え、もしかして彼女さんとか?」
『や、男ですよ。ただの同居人ですねえ』
「へー…へー」
『ハコトンさんの方は、一人暮らしです?』
「あー…ええ、そうですね」
『さいですか…そうだ、自炊とかってしてます?』
「あー、してませんね。それがどうかしました?」
『や、最近自炊も始めまして。コツとかあるかなって』
そんな他愛のない話を続けていると、不意に会話に出てきた言葉にコモリはまたまた驚いた。その内容は…
「え、ヅダミチさんってサイド6に住んでるんですか!?」
『ええ、イズマコロニーに…そんなに驚くことですか?』
「いえ…丁度仕事で近辺に来てまして。これもホテルからラップトップでログインしてます」
『へえ、すごい偶然もあったものですね』
ヅダミチはどうやら、このサイド6…それも、目の前のイズマコロニー在住らしいのだ。度重なる偶然に、コモリは舞い上がり…突拍子のないことを考える。
「(…オフ会とかできるかな)」
流石に進みすぎである。それに、いくら意外と長い付き合いだからとて、申し出て了承されるわけが無い。そんな考えが頭を渦巻くが…ネッ友に会ってみたい、顔を見てみたい!という好奇心が、コモリには抑えられなかった。そして、意を決して…
「あの…ヅダミチさん」
『はいなんでしょ』
「実は…もし貴方がよかったら、その…オフ会とk」
『…ねえ、何やってるのアキt『わ、ちょちょッと待って!!!』
ヅダミチがボイスチャットから抜けた。原因は明らか…どうやら、さっき言っていた同居人が帰ってきたらしい。ハプニングに邪魔され、変なところで申し出を切られたことにコモリは少し落ち込む。そしてしばらくして…テキストチャットでメッセージ。
[すみません、今日はこの辺でお暇します。また今度遊びましょう]
それを読んで、少し残念がりながら、コモリは返答を打ち込み、送信し…ぱたん、とラップトップを閉じた。そしてそのままベッドに寝転がる。
「…………男の子、だったんだ」
コモリの心に、それがずっと引っかかっていた。…コモリも女性である。それも、意外にも異性に興味がある方であった。ジオン軍の男女比はなかなか近いので、身近に男性もいる。最近では、パイロットのエクザベ君なんかいいな、と思っていたが…コモリ・ハーコート、23歳にはとても魅力的な存在が現れてしまった。ネッ友のマヴ、ヅダミチである。
「18歳の、男の子か…ふーん、ふ〜ん」
むふー、と息をつく。なんだか気になって仕方がない。ネット上の友達というバリューがつくとこうなるのか、はたまた5歳下の可愛い声の男の子だ、というのがそう思わせるのか。コモリは脳内でヅダミチとのやり取りを反芻する。
「…ヅダミチさん、本名…アキくんって言うんだ」
先程の通話で乱入してしまった、彼の同居人らしき人物が言っていたヅダミチの名前を、はっきりとは聞こえなかったが断片的に拾っていた。18歳の、可愛い声のアキくん。…見た目の保証はどこにもないのに、コモリには確信があった。
「絶対…絶対かわいい子だろうな…」
ベッドの上でぱたぱたと足を動かしながら、コモリは愛しのネッ友に思いを馳せた。次こそはオフ会を申し込むぞ、と意気込みながら、である。
…はっきり言って、不純な動機で彼女は動いているのであった。
ーーーーー
「久々にやったな…シュウジがネットだけは用意しといてくれて助かった。…まあ、コロニー内ネットワークを“お借り”してるんだけど」
イフリートのコックピット内で、イフリートに繋がれた型落ちラップトップを外しながら呟く。ネッ友と初めてボイチャをしたのだ。今までは病室からだったのでできなかったが…ハコトンさん、女性だったんだ。
女性の友人…それに記憶野を刺激され、自分の現実の友達…マチュのことを思い出した。急に俺がいなくなって、寂しがっていないだろうか。本当に何も言わずに消えた形だから、きっと焦って探しているかも。
「いつか顔も出しに行かなきゃなぁ…」
「…顔?」
「うっわビックリした!!なんだよ!」
ひょこ、とコクピットの下から顔を出すシュウジ。三週間ほど一緒に暮らしていてわかったが、こいつはだいぶ天然が入っているらしい。だから声をかけたりだとか、そういう事もなしにいきなり現れる。心臓に悪すぎる。さっきもチャット中に…名前呼ばれた時の声、入ってないといいけど。
「顔ってのは…こうなる前、友達がいてさ。何も言わずに、というか言えずにこうなっちゃったし、心配してるかなーって」
「…………………へえ」
俺がシュウジに答えると、シュウジは少しの間の後、笑ってこう言うのだ。
「きっとまた会えるよ…ガンダムもそう言ってる」
「…ガンダムのお墨付きなら安心だな」
会える、というか落ち着いたら会いに行くつもりなのだが…いつものガンダム通訳に、俺も笑って返すのだった。
【To Be Continued…】
アキト・ミチナガ:ネットのユーザネームは“ヅダミチ”。ツィマッド社製の空中分解で名高い()ヅダ+ミチナガのミチでつけた。ハコトンさんはネット上の友人であり、それ以上でも以下でもない。ちなみに型落ちラップトップをMSにつなぎ、そっちのCPUに処理を任せることで無理矢理ゲームをしている。
コモリ・ハーコート少尉:作者が女性陣の中で一番好き(私情)。なのでヒロインになってもらうよ…。コモリ×エグザベのエッセンスを特典パンフから感じる?知らん知らん!!!
ユーザネームは“ハコトン”、安直なネーミング。“ヅダミチ”の誘いは優先順位一位に入るほど“ヅダミチ”と仲がよく、彼をネッ友マヴと認識している。ヅダミチくんは18歳、もうすぐ19歳か…なら23歳と付き合っても合法だ!
エグザベ少尉:フラナガンスクール主席の優等生くん。え!?この後赤いのだけじゃなくて青いのとも戦う可能性あるんですか!?
シャリア・ブル中佐:湿度高めのおじさま。赤いガンダムも気になるが、イフリートⅡ(仮称)も気になる。あれには…誰が乗っている?ツィマッドに訊いてみよう!!!!!
シュウジ・イトウ:絶対ノックとかしない。シュウフラで名前の一部をコモリにばらした。型落ちラップトップは彼のもの。“裏のマーケット”で必要なものを買うのに使っていた。最近も買い物をしている。届くのは明後日だそうだ。
ーーーーー
いかがでしたか?
よければ感想・評価などよろしくお願いします。
特に感想ね。わたくし感想もらうの大好きなの。
では、さらば。