機動戦士Gundam GQuuuuuuX 蒼の炎獄   作:ミトコンドリアン

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お久しぶりっす、ミトコンドリアンでごぜえます。
お気に入り452件、評価、感想44件どうもありがとうございます。

…7話のショックが癒えぬままの最新話です。どぞ。



“久しぶりに会った旧友が人妻にたらし込まれてた”

 

「…………ぅん…?」

 

 その朝、私は突然ぱっちりと目を覚ました。初めに目に飛び込んできたのは、私が寝ていたのにも関わらず無遠慮につけられた電灯だった。その次には部屋の奥からの物音…そして、鼻腔を掠める、()()()()によって使い潰されてしまった空気。それに気がついた途端…自らの中に、鋭利な刃物で切り刻まれたような鈍痛を実感する。それは種々の感情がないまぜになったものだったが…二つ程ピックアップするなら、罪悪感と幸福感であった。

 

 状態を起こし、床やベッドに散らばっている自分の寝巻き、そして下着を発見した。そして一緒になって散らばっている、半透明の、中に白濁の溜まったそれを見ていると、何故だか笑えてきた。自らへの軽蔑と、彼や旦那への申し訳なさが増してくる。散乱する私の抜け殻をつまみあげ、生まれたままの姿だったのを隠した。

 

 直情径行に彼を()()、ようやく実感できるようになった“感応”を使ってなし崩して…そんな事を考えれば考えるほど、昨夜の過ちのことを思い出せるようになる。まず私が襲って、押し倒して、そのまま初めての快楽に悶える彼の服を剥いでその白磁の首筋に唇を…

 

「………起きてたんすか」

「きゃっ!」

 

 突然の声に驚いた。久しぶりにこんな声を出した気がする。…ゆっくりと声のした方へ向き直ると、そこには彼の姿があった。

 

「オハヨーゴザイマス。…よく眠れましたか」

「えっ、と、あの…」

「…コーヒーをどうぞ」

 

 彼は眉間に皺を寄せ、じっとりと不機嫌そうな顔をしていた。そのままずい、と、両手に持っていたマグカップの片方を差し出してくる。促されるまま受け取ると、彼は近くにあった三脚椅子に腰を下ろした。そしてマグカップを口に持っていき、傾け…顔を顰める。

 

「うえっ…やっぱまだ無理だ」

 

 未だ湯気の立ち昇る、私の手の中のコーヒーを見つめている間、彼は手に一緒に持っていたスティックシュガーを口に咥え、歯で押さえて破る。さらぁっ、と勢いよくすべて入れると、指を突っ込んでかき混ぜ、ひと啜り。満足げな笑みを浮かべる彼の姿を見て…()()()()()()()()()

 

「…なに、にやけてるんすか」

「え…?」

「ったく…なんて事してくれたんだ、あんた」

 

 呆れ半分のような、申し訳なさも感じられる声を上げる彼は、寝る前に来ていた半袖のTシャツとハーフパンツ…首筋や鎖骨のあたりには、幾つもの赤い()()がついている。それと、私の寝ている床の湿り気で…三度、何があったのかを実感した。

 

「…私ったら、なんてこと」

「罪の意識あるならいいですよ。…元はと言えば、俺があんたを刺激したのが悪いんだ」

 

 まるで絞首台に立たされた死刑囚のような面持ちで、彼は目を伏せた。それもまあ、心情は察することができる。いきなり襲われて、なにも抵抗できなかったのだし…初めてを()()()()()()で経験するだなんて、トラウマになっても仕方がない。

 

 しかも…昨夜のあの行為は、想像を絶する程の快楽を伴った。テクニックによるものではない。身体の逞しさも旦那の方がある…しかし、旦那との睦言とは、また別の種類の悦であった。

 

 まるで自らの魂を相手の魂に擦り付け、上から()()()()()()()()ような…征服感と優越感、多幸感に任せて彼を貪ったのだ。

 

「…ごめんなさい」

「互いに間違ったんだ…今回のは忘れようではないですか。誰が悪いとか…そんなの無しにしましょう」

「ええ、そうね…それが一番」

 

 幸い、()()()()()()てはいなかった。だから万が一も無いだろうから安心だ…と考えても、それはそれで罪悪感が湧く。まるでただ退廃的な快楽に浸るためだけに彼を誑かしたみたいで…。沈んだ気分でコーヒーを啜る。いつもなら心地よく感じるであろう内臓が温まる感覚も、今では私の業を咎めている気さえした。

 

「ッスゥーッ…あの〜…とりあえず、シャワーとか浴びてきてくださいよ」

 

 不意に、ちまちまと加糖のコーヒーを啜っていたアキトくんが言った。先ほどとは少し趣の違う、恥じらうような表情だ。鼻の下を人差し指で擦りながら、言いづらそうに口を開く。

 

「そのぅ…ちょっと失礼かもですけど、匂いがね…」

「臭かったかしら…?」

「あ、いえ別にそんなんじゃあなくって、シイコさんも気持ち悪いだろうし、それに」

「それに?」

 

 我ながら、喋った後にこのおうむ返しはどうかと思った。彼はさらに恥ずかしそうに、頬を赤らめ、目を伏せ… マグカップを持っていない方の腕で体をかき抱き、こう言った。

 

「そんなカッコで居られると、思い出しちゃいますよ…()()()()()

 

 その言葉を聞いた瞬間、脳裏にはっきりとフラッシュバックしてくる、昨晩の光景…彼と私の痴態。彼の手首を押さえつけ、身体も魂もぐちゃぐちゃ触れ合うような激しい行為…。最初は不本意そうだった彼の声が、グラデーションのように変わって、最後には甘く弱々しくされるがままに喘いで…それが、たまらなく()()

 

「………………ねえ、アキトくん」

「なんです?」

 

 ちょいちょいと手招きすれば、もう和解したと思っているんだろうアキトくんはなんの警戒心もなく、マグカップを適当なところに置いてちょこちょこ近寄ってくる。18歳とは思えない、見た目年齢の低い身体に整った顔…そういえば、昔はこういう可愛い系もタイプだったな、と思い出す。彼のせいで…完全に、心の中の()()が再び燃え上がった。

 

「旦那は優しいわ。坊やも可愛いし…」

「はい?」

 

 いきなりなんだ、と考えているのが手に取るようにわかった。やはり、この子は私のM()A()V()なのだ、と実感した。あの人と重なるわけじゃない。あの人も私の大切な相棒で、MAVだった…そのベクトルで気を許せる相手が、再び現れたというだけなのだ。私もマグカップを置いて、ぽんぽん、とベッドの隣を叩く。無警戒に、彼はそこにとすんと腰を下ろした。ちいさなお尻にかかった体重がシーツに皺を作っている。

 

「でもね。やっぱり君は私のMAVよ」

「…………あんたにゃホントのMAVがいるだろ」

「勘違いしないで。あの人も認めたし…君も私が認めたってだけ。重ねてるわけじゃないわ」

「んぉ…そうすか」

 

 いきなり面と向かって言われて気恥ずかしいのか、ぷいっと目を逸らすアキト君。その様子が、たまらなく愛おしい。それは何というか…()()にも似ていた。我慢できなくなって、腕を広げて彼に突撃した。

 

「ひえっ!」

「君はわかってくれたじゃない!MSに乗ってる時もそうだったもの、あなただってホンモノのMAVよ!」

「………付き合いも短いのに、そこまで肯定できる意味がわからない」

 

 抱きついていた体を少し離し、彼の顔の前に自分の顔を持ってきた。それと同時に、つい、と彼が顔を背ける。むくれた顔がなんともチャーミングだ。

 

「でも、私たちはわかりあっている」

「でもNTによる感応のお陰ですよ。そんな…いけませんよ、年月をスキップしていきなり心の友なんて。絶対認めませんから」

 

 彼の表情に影がさした。…彼の心を通して見た、件の()()のことを思い出しているのだろう。どうやらその子達もNTで…おそらく私たちのようになったのだろう。しかし、彼の友人を非行の道に走らせた、みたいな感じだろうか?少なくとも…彼はこの()()()()にあまり良い感情は抱いていない。ならば、やることは一つ。

 

「わかったわ。じゃあ今日は私について来なさい」

「はい。シュミレーター?それとも実戦ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒におでかけしましょ?」

 

「……………そ、そうきたかァ〜ッ…」

 

ーーーーー

 

「うんうん…似合ってるわ。身体は小さいけど、すらっとしてるからこういうのが似合うわね」

「そ…そうすかぁ…?」

 

 声が上ずる。促されるまま連れ出され、されるがままに連れ回され…お茶したり景色を見たり、あまつさえ服まで買ってもらった。面映ゆいがしかし、何だかえもいわれぬ嬉しさを感じた。

 

「いいんすか、こんなの買ってもらって。別に俺はコートあるし…」

「…あのねアキト君。()()()()()のノーマルスーツをコートで隠して歩き回るのはね、まともな服とは言わないのよ?」

「ごもっともぉ……」

 

 さっきまで店で売っていた服からタグが外され、そのまま俺の服に。黒いズボンと青いワイシャツに、ちょっとフォーマルな感じのジャケット。ラウンド型の色の濃いサングラスが何だか慣れない。そして極め付けは…

 

「…スカーフ」

「ええ。きっと似合うと思ってたの」

「そうすか。…これ、シイコさんがノーマルスーツに付けてるのとおんなじやつ?」

「もちろん、私のMAVなんですもの」

 

 俺の首周りに一周している赤いスカーフ。シイコさんの付けていたやつと同じデザインだが、よく見るとシイコさんのとは逆に巻かれている。隣に立つとちょうど対称になるように…?ふふん、と胸を張る仕草がなんだかお茶目で笑えてきた。しかし…俺の視界の端にちらつく()()のせいで、素直に楽しめないでいる。

 

『私の…私のなのに…私のMAVなのに…』

 

 彼女の赤い瞳が、この時だけはまっ…………黒に見える。脚を踏み外せばそのまま飲み込まれるかと錯覚するくらいには、深く暗い洞が空いている。というか…鏡越しじゃないのに、なぜ像が見える?

 

『これ以上…これ以上彼を縛りつけようとしたら…!』

「…どうしたの、アキト君」

「あ、いえ…ちょっと頭痛が一瞬」

『アキトは私のお…!!!』

 

 はっきりくっきり姿の見える妖精さんは、シイコさんの顔面に何度も何度もジャブを放っているが、実体がない    当たり前だ、俺の脳内にしかいないんだから    せいで、一発も当たらずすり抜けていく。その姿は何とも間が抜けていて、ちょっと笑いそうになったのを誤魔化す。

 

『汚れるっ…穢れるっ…!!!!』

「そっか。じゃあ、次の次で最後だから、帰ったら少し休みましょうか」

「はい。どこまで行くんです?」

「菓子折りを買ったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラム街まで

「…正気か?」

 

ーーーーー

 

 無秩序に建てられた家屋群の隙間を抜けていく。変な段差や妙に短い階段(無駄に手すりつき)があったりして、なかなかどうして面白い。古く荒れているように見えて、しかし廃墟とは違う。この建物たちの中には、確かに人が生きていた。想像していたよりも、もっと、ずっと力強く。

 

 もしもあの改札の前で、立ち止まらず歩いていれば…私はこんな場所も知らないまま、“幸せ”に生きていただろうか。今となってはわからない。賽は投げられた…というやつだ。ニャアンともシュウジとも…あのMSにも出会って、今の私は最高に楽しかった。あれに乗っていると、世界の方が私に応えようとしてくれる…。

 

 これからまだまだ待ち受けているだろう非日常を想像し、幸福感を高めていると…脳裏にあの()()がよぎった。シュウジではなく     アキト・ミチナガ、アキの方である。

 

「元気かな」

 

 私が初めてクランバトルに出た日…私は、あの蒼いMSと戦った。乗っていたのは、私の友達だったアキだったのだ。シュウジと共に、なんとか彼を退けたが…あのとき口をついて出た言葉が、何気にノドに引っかかっている。

 

「確かにムカッとしたけど…一応、言ってることは嘘じゃなかったっぽいよね…」

 

 彼が呼びかけてきたことは、きっと恐らくめいびぃ…私を心配してのことだ。それはそうだ、危険な闇競技に友人が出ていたら私でもそうする。でも、私とジークアクスは()()()なのに、彼はそれを信じてはくれなかった。ちょっとだけ、彼をこっぴどく拒絶したことを後悔していた。

 

「一応、生きてはいるだろうし…クラバもたまに出てるっぽいけど、まだ当たったことはないしなあ」

 

 私とシュウジは、あれから何度かクラバに出ていた。それもシュウジの目的を手伝って、一緒に地球に行くためである。だからクランバトルについて、あの“カネバン有限公司”の皆々様に話を聞いたりしている。彼の現在について聴いたのは、あのたらこ唇の、口うるさい犬バカからだった。

 

『おい、ちょっと見てみろよ…お前が負かしたやつ、スッゲー暴れっぷりだぜ。良く勝てたなあ…』

『え?クラバに出てるの?』

『おう、これ見ろ』

 

 彼が差し出した画面には、あの蒼いMS     破壊された頭が別のものに変わっている     が、バトルの場を荒らしまわっている様子だった。

 

『うへ〜、相変わらずやべえ動き…こんなん死んじまうぞ。中身はどんだけ屈強な奴なんだか…』

『カラクリが気になるよね…しかも、見てよあの右腕!』

 

 いつの間にか後ろから画面を覗き込んでいた、黄色髪のチビも声を上げた。言われた通りにMSの右腕に注目すると、元の腕ではない…茶色と青のツートンに塗られた、なんか変な腕がついてる。

 

『これ()()()()の腕だよ!すごいな、どうやって手に入れたんだろ』

『あっがい…?』

『あ〜…コレだ』

 

 チビが差し出したスマホには、件の“アッガイ”とやらが写っていた。ずんぐりしたフォルムで、MSにしてはなかなか可愛らしいなと思った。

 

『宇宙に対応してないし、作業にも向いてないから払い下げもされてないはずなんだけど…どうやって手に入れたのかな』

『元ジオンの奴らから買い取ったんじゃね?』

『あ〜、そういえばこのクランって…』

 

 その時はこんな感じで、私そっちのけでMS談義が始まっちゃったから、それ以上は見ていないけれど…また会える日が来たら、ちょっと話し合おうと思っている。まあ…彼の態度が変わっていたら、だが。

 

 道端に落ちてた石をけりけり、私は歩いている。不意に何かが聴こえてきた。…鳴き声だ。犬の、それも小型犬特有の高くてやかましい鳴き声。もしかして、と其方に向かえば、そこには見覚えのある格好の男と、そいつの握るリードをびんと張って吠える黒毛のポメラニアン。そして…

 

「元気な子だなあ、おいくつ?」

「すんませ…あ、今年で3つっすけどっ、こらっ大人しく…」

「いいんすよいいんすよ、かわいいねえ君ねえ…怖がることないですよシイコさん」

「そ、そうね…噛んだりはしてないし…」

 

 少し怯えた様子の知らない女の人の目の前で、威嚇ではなく、はしゃいで鳴き声を上げるポメラニアンと、「よーしゃよしゃよしゃよしゃ…」と撫でる…

 

「アキ!?!?!」

「んお…あー、マチュ久しぶり!」

 

 喧嘩別れしたはずなのに、だいぶ気さくに話しかけてくるアキの姿があった。

 

ーーーーー

 

 とても、とても気まずい沈黙が流れている。カネバン有限公司の一室、応接用のソファに隣り合って腰掛ける男女…どちらも童顔だが、しかし油断ならない雰囲気を滲ませている…。

 

「……あんたらかァ、マチュをクラバに出してるっての」

 

『俺ちょっと疲れてるんかな…目ェ光ってるように見えんだけど』

『奇遇だな…俺も疲れてるのか…』

『昨日ぐっすり寝たけど俺もそう見える…!』

 

「…アキト君、そんな態度しない。失礼よ?」

「なにが失礼なもんですか…女子高生を違法決闘賭博に駆り出してるヤカラですよ」

「おやおや、自分を棚に上げてよくそんな事が言えるねえ」

「馬鹿にする…ッ!!」

 

 部屋の隅で身を寄せている有限公司の男連中を射抜くのをやめ、ぐり、と眼光をアンキーの方へと向けた彼の声色は、まるで“今にも爆発しそうです”というメッセージが載っているようであった。それを優しい言葉で諫めるシイコだったが、アンキーの軽口に反応して勢いよく立ち上がり…

 

「待ってよアキ、ここで喧嘩したってなんにもなんないじゃん」

「………それもそうだね。マチュに免じてここは我慢します」

 

 むすっとした表情のまま、再びどっかりと腰を下ろしたアキト。それを見ていたシイコが、その丸い目でゆっくりとマチュの方に視線をずらしたのを感じて、彼女は得体の知れない不気味さを感じた。2秒ほどの沈黙を切り裂くように、アンキーがまたもや口を開く。

 

「で…地球連邦軍のスーパーユニカムさんが、ウチに何の用事で?あんた、今は結婚して子供もいるって聞いたけど」

「聞きたい事があって来たの。…ねえアキト君、だれ?」

「ン」

 

 だれ、とだけ聞かれ、アキトはずいっと指をさす。人差し指の先は、赤髪で背の低い少女へと向けられていて…

 

「ああ、バイトさんかと思ったのだけれど…あなたなのね」

「えっとお…何が、ですか?」

「アキト君のお友達よ」

 

 どうしたらいいか分からないまま答えるマチュに微笑を湛えたまま、シイコは手を横に出し、ちょいちょいと動かす。それに気づいたらしいアキトは何も言わずにシイコに身を寄せた。シイコがアキトの肩を抱く。

 

(え…なんか距離ちかっ)

「俺も不本意だけれどね」

(……あれ、声に出ちゃってた?)

「不本意だなんて…ちょっと寂しい」

「ッドクセ………」

 

 じっとりとした目をしたアキトの側頭部の髪をかき分けるようにして、シイコの手が彼の頭を這う。その様子に、なんだか妙な雰囲気に包まれる有限公司の面々であったが…アンキーが満を辞して口を開いた。

 

「もしかして…その子が例の“使い魔”か」

「「使い魔?」」

 

 マチュとアキトの声が重なる。

 

「ええ。私のMAVよ」

「…まさか、アンタの口からそんな言葉が出るなんてね」

「自分でも驚いているわ。でも…あの人とは違うけれど、この子も私のMAVに違いないから」

「MAV…使い魔?」

 

 未だ疑問符が思考を埋め尽くしている様子のマチュを見かねて、アンキーが言う。

 

「彼女はシイコ・スガイ。連邦軍のスーパーユニカム、100機以上は墜としてきた撃墜王…“魔女”さ」

 

 ぎょっ、という擬音がこれほどまで合う表情はこの世に無いだろう。マチュは未だにアキトの頭に手を置いている彼女の頭からつま先までをゆっくり観察し…そんな風には見えないのに、と心の中で独りごちた。

 

「わかるぜマチュ。俺も最初はピンとこなかったもん」

「えっ、ああ…うん」

「でもね、シイコさんって実際MSの操縦技術すごいんだ。…本当に俺がMAVでもいいのかってくらい」

「褒めてもなにも出ないわよ、アキトくん」

「わーってますって…だからちょっと近いんですってばあ…!」

 

 私の目の前で…旧友が人妻とじゃれついてる!!

 マチュの心の中に、そんな言葉がこだました。

 

「おい…あれってさぁ」「な、なんかインモラルだよ!?」「二人とも落ち着けよ…」

 

「アンタ…なんだかおかしくなってないか?」

「え?私は正常よ?」

「……そんなにコイツ、いいのかい?」

 

 騒然とするカネバンの面々をよそに、アンキーが徐にアキトの前にヒールを鳴らして移動する。彼に影を落とすように立ち、顔を上から覗き込んだ。アキトは不満な顔のまま彼女を見上げている。

 

「お前、どこの生まれだい、()()()()

「…そんな渾名もついてるのか?」

「今アタシが決めた。ピッタリじゃないか?魔女の箒、ってあるだろう」

 

 不敵に笑うアンキーに眉を顰めた彼は、ゆっくりと口を開く。

 

「アキト・ミチナガ。18、ことしで19。高校は出てる」

「親御さんは?」

「両親は死んだ。母はソロモンで、父は()()殺された」

「誰に?」

「………………これ、あんたに言わなきゃダメか?」

 

 イライラした様子で、右目を突き出すようにアンキーを睨む。その赤い眼光はアンキーの目の奥を貫くようだった。だが、アンキーは怯まない。

 

「別に減るもんじゃないだろ?」

「はーあ……あんた嫌いだ。よくもマチュをこんな目に」

「これはあの子がすすんでやったことさ。…言いな」

「…………多分だが、俺を()()()()()()()()義父がやったんだと思う。俺の目の前で撃たれたんだ。んで、犯人の癖に知らん顔して、保護した俺の身体を弄って、スーパーソルジャーの完成〜!ってなわけでしょ。たぶん」

「……へえ。強化人間ねえ」

 

 おかげさまで目からビームだ。と、アキトはピースで目を強調するような仕草をした。…いまいち、言ってることがわからないマチュだった。そういえば、前になんだかそんな事を言っていたような気がするな、と心の中で考えていたマチュは、未だ睨み合うアンキーとアキトの様子をじっと観察していたが…二人の間に手が差し込まれた。

 

「私のMAV、あまりいじめないでもらえる?」

「…シイコ、やっぱりあんたイカれちまってるよ」

「………勘違いはしないで。言ったでしょう?あの人とは違うけど、彼も私のMAVだって。楽しいわよ、新鮮で」

「シイコ…………何しにここに来た」

 

 アンキーの睨み合う相手がシイコに変わった。言葉を吐きかけ合い、シイコは微笑を浮かべたまま答える。

 

「私は宣戦布告に来ただけ。赤いガンダムは私が倒すの」

「もう戦争は終わってるんだよ」

「…連邦が戦争に負けても、私は負けてない」

 

 表情を変えずアンキーに言い放つ彼女の言葉には、その姿からは到底想像できやしない重みと、気圧されるような迫力があった。アンキーが睨むように彼女を見つめ、沈黙し…それ以上、会話が交わされることはなかった。

 

ーーーーー

 

「マチュ…これは提案だ」

「なに」

 

 マチュの帰り道。その道を、アキトとシイコが共に歩いていた。マチュはシイコからその最中に聴いたことについてずっと考えていた。家庭があるのにクランバトルになんて、お母さんとは全然違う…などということを。

 

 そんな彼女の気分を知ってか知らずか、アキトは藪から棒に前屈みにマチュへ身体を乗り出す。そっけないマチュの声色にも怖気付くことなく続ける。

 

「この人はさっきも見た通り     イカれてる」

「え…そんなあ、わたし悲しい…」

「ちょっと一旦黙っててください!…えー、まあな?クランバトルっていうのはこういう奴もいるんだよ」

 

 言っている意味がわからない、という感じに首を傾げるマチュ。アキトは少し押し黙り、言葉を砕く。

 

「クランバトルはな…確かにたのしいMSバトルかもしれない。だが、こういう…“戦場に囚われてる方々”ってのも少なからずいるんだよ」

「それが?」

「…そういう人らはなあ、戦い方もまだ戦場仕込みさ。どういうことかわかる?」

 

 …マチュは考え、頭をぐるぐる回して…ひとつの答えに辿り着いた。

 

「……殺しにくる?

「正解だ。さすがは優等生ちゃん」

 

 ぱらぱらと、ひとりだけの拍手の音が辺りにこだました。

 

「俺が言いたいのは…お前がいつかそんなのに殺されちゃわないか心配ってことだ。それに…一応犯罪なんだぞ、クランバトルってのは」

「アキもやってるじゃん?」

「俺はそれしか選択肢がないんだよ。…だから未だに定職にもつけん」

 

 不服そうに目を逸らすアキトの頭に、シイコは何も言わずに手を伸ばした。アキトはそれを一瞥するも、仕方ないな、というような顔で受け入れた。マチュは…二人の間に、なんともいえない凄まじい関係性を感じていた。

 

「だからさ…もうやめようぜ、クランバトルなんて。お前にはまだ家族がいるし、環境にも恵まれてる…クラバやらなくても地球に行ける方法なんていっぱいあるぜ?」

 

しかし、マチュはムカっ腹が立っていた。()()()()()()()()()()()

 

「心配してくれるのは…嬉しいよ。アキがちゃんとした気持ちで言ってるのはわかる。…ジークアクスと赤いガンダム(わたしとシュウジ)なら()()()だよ」

「……………………そうかい」

 

 マチュの心の中では、この理論がまるで不変の法典のような、強固な免罪符のような位置にあった。アキトはそれを聴いて…苦虫を噛み潰したような顔をして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この…馬鹿野郎…ッ!!!!」

 

 マチュの頬を強かに張る。

 

「いっ…………なに、すんの!」

 

 乾いた音と、反射で出た声と、頬の痛みをコンマ数秒置いて実感したマチュは、痛みに少し涙が滲みつつも、湧き出してきた怒りを目の前の()()()()()にぶつけんとする。しかし、自らの頬を張ったアキトは、その振り切った手のまま…マチュの涙を指で拭う。

 

「え…?」

「………………………」

 

 悔しそうな、苦しそうな表情でそうされたものだから、マチュは当惑した。人の頬をぶった後の表情ではない。アキトはそのまま、マチュの耳元に頭を近づけ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュウジを殺す。」

「…!!!」

 

 マチュの脳に響いた衝撃のせいで、全く声が出なかった。出たのは意味を持たぬ吸気音だけ。恐ろしいほど低く、冷え切った声だった。それだけを言って、アキトは踵を返す。無言のまま、シイコもそれに続いた。

 

「なんなの……あの二人」

 

 マチュの目の先で、アキトとシイコは並び立って歩いている。シイコがなにやら言って手を差し出し…アキトはそれを一瞥もせず握った。二人の背中を見つめていると…マチュは幻視する。

 

 シイコの小指から伸びた糸が、アキトの小指にくくられ…そのまま全身を雁字搦めにしている幻視。…その糸は魂の糸なのだ、と、マチュは何故だか確信していた。

 

「あれが…………M()A()V()

 

 自分とシュウジとはあまりに違う。マチュは底冷えするような彼の声を脳裏に焼き付けたまま      とぼとぼと、帰路につくのだった。

 

ーーーーー

 

 時は進み     試合当日。

 

「…これ、新しく作ったんですか?」

「君の採寸データを元にな。君の()()に作ってくれと頼まれた」

「なんつうか、あの人………ヤバい人ですよね」

     腕は確かだろう」

 

 MS格納庫にて、自らの身体を見下ろす。俺は今、前に来ていたパイロットスーツではなく…シイコさんのと同じようなデザインの、()()()()のパイロットスーツを着用していた。シイコさんのとは違い、青と黒で彩られている。それにスカーフもつけて、本格的にお揃いになってしまった。モスクさんの言葉の前の間に、俺は彼との共感を感じた。

 

「さてアキト君。君の機体にも、彼女のゲルググと同じ()()をさせてもらったよ。機体関節にかかる負担も、摩擦によるエネルギーロスもある程度解決しているはずだ」

「“マグネットコーティング”でしたっけ?それは重畳。俺のイフリートも…たぶん関節にガタは来てますから」

「そうか。…もし良ければ、試合が終わった後の機体データも取らせてはくれないか。シイコ女史のゲルググからも取りはするが…サンプルは多い方がいい」

「いくらでもドーゾ」

 

 モスクさんは元々連邦軍の技術士官だったらしい。連邦軍が戦争に負けたから、民間の警備会社を間借りして技術試験…なるほど、クランバトルってそういうのの場にもなるのか。そんなことを考えていれば、もう向かわなければいけない時間だ。ヘルメットをがぽりとかぶって密閉し、機体のコクピットに飛び乗った。

 

「アキト君!…データは必ず持ち帰ってくれよ!」

 

 そう呼びかけるモスクさんに、俺は親指を立てて返した。デッキが地下に降りていく。地下通路を抜けて、エアロックから外に出て…シイコさんのゲルググが見えた。彼女は俺の機体に接触回線ワイヤーを伸ばす。それを受け入れれば、コクピット同士が繋がった。

 

「………いよいよですね」

「ええ。この時をずっと待っていた」

 

 彼女はいつもより声が明るい気がする。彼女の乗る機体…ゲルググは、あのガンダムのマスプロモデル。それに連邦軍のエースが乗るのだ…こんなに心強いことはない。

 

「ねえ、アキト君。ずっと聞けていないことがあったわね」

「なんですか?」

 

 無線越しのシイコさんは、なんでもないように言い放った。

 

「あの赤いガンダムのパイロット…シャアじゃないんでしょう?」

「…バレてたか」

「あなたの様子と、あの子…マチュちゃん?に言ってたのを、ね?」

 

 このことは言っていなかった。…シイコさんが聴いたら、ガンダムを墜とす気持ちを無くしてしまうと思っていた。でも、彼女は気付いていたのに、試合に出てきた?

 

「私はね、アキト君。あの赤いガンダムを墜としたいの。シャアを墜としたいのではなくてね」

「なんで?シャアがニュータイプだとするなら、それを否定するにはシャアを墜とさなきゃあ」

「もうニュータイプは否定しない。私は…否定でなく、得るために戦う」

「………望むもの両方をその手に、ですか」

 

 それ以降、彼女は無線を繋げたまま黙りこくっていた。…宇宙空間を泳ぎながら、俺は機体の左肩にカメラを向けた。

 

 いつの間にやら入っていた、彼女のゲルググと同じエンブレム。その周りの文字は…“Split all ends up they shan't crack”。嗚呼、自分はどうやら本当に、彼女に雁字搦めにされてしまったらしい。

 

『…後悔するなら逃げてしまえば?』

 

 脳裏に響く冷たい声。妖精さんは、俺とシイコさんの関係が面白くないらしい。まあ…あんなことしてしまったんだ、それもそうだろう。

 

「いいや、俺はあのガンダムを墜とす。できることならやりたくなかったが、シュウジも殺す。……………その為には彼女が必要だ。それに、君の力も」

『…身体さえ有れば、あの女の代わりも私ができるのに』

 

 不満そうなその声と共に、背中にぬくもりを感じた。この痛みの伴わぬ幻肢痛は、俺の心のよすがでもあった。

 

「妖精さん…………やろうか」

『ええ。()()()()()()()()。もちろんよ、()()MAV…!』

 

 その声と共に、脳裏に焼け付くような熱を感じ…網膜に文字が焼き付いた。

 

 

【EXAM-SYSTEM】

Switch the operation system from the pilot to EXAM SYSTEM. Please be careful becoming the high mobile mode.

 

 

「さあ…今回までは保ってくれよ、おれのイフリート!」

 

 

【To Be Continued…】




アキト:人妻と寝た男()。そのうちトゥ!トゥ!ヘアー!するかもしれない。自爆もするかもしれない。

シイコ:アキトを二人目のMAVにした。実際アキトのことが少し好みの部類である。

マチュ:自分とジークアクスと、シュウジにとても自信がある。

妖精さん:キレている。

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いかがでしたか?次回は戦闘描写が大部分になるかも。
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