初っ端からキャラ崩壊が凄まじいモノを書いてしまいました。
あらすじにも書きましたが、自己責任でお読み下さい。
この家に生まれて物心が付いたその日からずっと周囲の全てが私の玩具だった。
それは自身を生んだ親でも変わらない。
これからもずっとそうなのだと信じて疑わなかった。
あの日、彼女と出会う迄は…
本家に睨まれない程度の努力と、与えられた役目を熟して無難な日々を過ごす毎日。
分家の末席とは言え、他の貴族など目では無い。
だから相手が嫌がるだろう傷付くだろう言動をいくら実行しても誰一人として注意すらしないし出来ない。
【家名に傷が付かなければ、分を弁えない行動をしなければ、与えられた役目を果たせばお咎めはない】綱彌代家にとって、この程度の事では何も言って来ないのも熟知している。
予想通りの反応をする相手を更に煽って憤死寸前迄追い詰めたり、精神ギリギリの淵迄追い込んで解放してやった…と見せ掛けて止めを刺したりと、その時の気分で翻弄してまぁまぁ愉しい日々を営んでいた。
そんなある日、本家直々に招集命令が来た。
《流魂街出身の娘と結婚して子を成せ》
いきなり呼び出されたと思いきや、一族全員の前で相手の詳細な資料と共に勅命を言い渡された。
…今迄何も言って来なかったから、好きにしていいのだと思っていたのに
腹立たしさを抑え込み、両親の気遣わしげな視線も無視して自室へ戻った。
これ以上の干渉は御免だと、仕方なく資料に目を通した。
…名前は歌匡
…死神統学院の試験を無事合格して来月から入学
…と言う事は私も入学せねばならないのか
…面倒だが仕方あるまい
…そうだ、どうせ命令から逃れられないのならば、同じく逃げられないその娘に精々愉しませて貰おう
これから自分が振り回すだろう相手の表情を色々と想像してはほくそ笑んだ。
一族の根回しなど無くとも余裕で試験を合格し、標的と同じ組に入った。
特別優秀な人材が集められる一組は人数が少なく、直ぐに顔を覚えられるだろう。
しかし、結婚までこぎ着けるには、その中でも特に親しくならなければ意味が無い。
入学当日、早速標的である歌匡と接触しに掛かった。
そこで、本来ならば有り得ない事がこの身に起きた。
「…この世に一目惚れ等と言う戯けた事象など有り得ないと思っていたが…身を持って痛感した」
「あ、あの…?」
「私と結婚して下さい」
「はい?」
彼女を一目見たその瞬間、私は恋に落ちた。
その場に居合わせた京楽は後に語る。
「いやぁ、あの時の彼には本当に驚いたよ」
「後にも先にもあんな彼は見た事が無い」
「顔どころか耳も首も、何なら彼女の手を握った手だって真っ赤になって…あれが演技だったら大したモノだと思ってたけど…本気だったんだねぇ」
因みに浮竹はその時貧血で倒れて医務室に運ばれていた為、その場にいなかった。
出会った日から私は、歌匡の夢を叶えるべく持っている能力も権力も全て総動員して全面的に支え、尽くした。
例えば…
彼女の苦手分野を全力で網羅して、修得する為の指南書を自宅からも送らせて共に克服する為に励んだり。
大した実力も無い癖に、妬みは人一倍以上のくだらない連中を、再起不能もしくは自主退学する迄徹底的に叩き潰したり。
時には断腸の思いで、歌匡の純粋さ故に融通の利かない部分を窘めて、周囲との不要な衝突を減らす必要性や円滑な対人関係の有益さを説いたり。
と、本当に彼女の為にと誠心誠意尽くした。
歌匡の優秀さを知らしめる為に、自分の飛び級試験を断ろうとした事が彼女にバレて
「一緒に試験を受けたい」
と言われ、あっさり手の平を返して共に飛び級をした事もある。
歌匡の為に何が出来るかを考え、それを実現する日々は今迄以上に充実し、幸福を感じるものであった。
本家と十数回にも及ぶ交渉の末、結婚は歌匡が死神になる迄しない事、結婚式に呼ぶ花嫁側の招待客を全て私個人の資産から用立てる条件で選別する権利を承諾させた。
歌匡と仲の良い下民達をいずれ行う結婚式に呼ぶ為に、最低限の礼儀作法を身に着けさせるのを目的に、自身が所有する別荘地に全員連れて来させ、かつての家庭教師達に
「夢の実現の為に尽力し、花嫁修業にも勤しむ歌匡に恥をかかせぬよう、尚且つ、奴等の心身に深い傷を残さぬように加減して教育しろ」
と命じた。
綱彌代家とその関係者、死神統学院のお偉方だけの式よりも、気心の知れた旧知の者達を呼んだ式の方が、歌匡にとって良い思い出として記憶に残るだろうとの考えからである。
別荘地へ連れて来た下民達に事情を説明すれば、全員あっさりと受け入れた。
歌匡の人望が何れ程か、彼女を妻に出来る幸せを再確認しながら今後の大まかな計画を話した。
話すべき事を全て伝えて寮へ戻ろうとしたところ、ずっと私を凝視していた癖毛の浅黒い男がややふらつきながら近寄って来た。
その特徴的な容姿と足取りから、歌匡がよく話してくれた家族同然の大事な親友、東仙要だろうと当たりを付けた。
個人的に話したい事があると東仙が言って来たので、
「帰りが遅くなると歌匡が心配するから手短に」
と返答すれば開口一番、彼女の現状を尋ねてきた。
予想通りの質問に、
・とても充実した毎日を送っている。
・ただ、少々頑固なところがあって、時々素行の悪い輩と押し問答をして危険な目に遭いそうになる等、此方がハラハラさせられる事もある。
・卒業後に向けて花嫁修業を頑張っている。
・義母となる母との相性は悪く無いらしく、自宅へ連れて行けば自分そっちのけで楽しそうにお茶会を始めてしまい、少し面白くない。
…等、多少私情混じりではあるが、歌匡のありのままの日常を教えた。
予想よりもずっと大事にされていると理解した東仙は、明らかにホッとした表情をした。
変な勘繰りはこの場で完全に払拭すべきと確信し、東仙にしっかりと宣言した。
「始まりは本家からの命令だったが、今は感謝しているよ。彼女と会えた事は私の人生最大の幸福だ。今後、どんな事があろうとも彼女だけは…歌匡だけは絶対に護り通し、幸せにすると。その為なら幾らでも…寧ろ、喜んで全力を尽くすとね」
「…歌匡の夫となる人が貴方で良かった…貴方ならきっと彼女を幸せにしてくれる…歌匡を宜しくお願いします」
「無論…ではそろそろ帰るとするよ…おっと、此処での事は歌匡には秘密でね。驚かせたいから…ね」
「勿論です!ありがとうございました!」
…少なくともコレで東仙や此処に連れて来た連中は大丈夫だろう
…問題は歌匡に懸想している同郷のアイツだな
…歌匡は友人と信じて疑っていないが
…気に入らないが、歌匡の為と思ってそこそこの付き合いはしてきたが
…元々此方に良い感情を持っていないのは知っていたが
…最近は特に胡乱げな目を向けて来て鬱陶しい
…嫌な予感がヒシヒシとする
…このまま何事も無ければ良いが
この予感は寮へ帰宅して早々、しっかりと当たった。
歌匡は昨日今日と不在だった私が中々戻らない事を心配したらしく、玄関で待っていた。
「お帰りなさい、時灘さん」
「ただいま。明日からまた講義が始まるのだから、先に休んでいて良かったのに」
「そう言う訳にはいかないわ。それに最近、何だか忙しいみたいだし、ちゃんと休めているのか心配で…そうそう、昨夜はとても星が綺麗だったの。一緒に見たかったなぁ…」
「あぁ、それは確かに勿体無い事をしてしまったな。折角の歌匡からの逢瀬の誘いに応えられなかったのは」
「お、逢瀬って…もうっ…あら?」
歌匡の部屋へと送る最中(婚約者とは言え部屋は勿論別)、危惧していたあの男が神妙な顔で近付いて来た。
「どうしたの?」
「…すまないが、綱彌代と話がしたくてな。時間は取らせない」
「…構わないが、明日も早い。手短に頼むよ…じゃあ歌匡、お休み。また明日」
「えぇ、お休みなさい」
歌匡が部屋に入ったのを確認してから、人の居ない裏庭に向かった。
裏庭に着いて早々、男は詰め寄って来た。
どうやら何処かで本家の企みを知ったらしい。
かなり感情的になって問い質して来た。
私は仕方なく事の経緯等を掻い摘んで本音と共に話した。
本家からの命令で婚約し、歌匡が無事に死神となった後に結婚する事を。
本家の企みについては抵抗は愚か、発言権すら無い事を。
それでも歌匡への想いは本物である事を。
自身の全てをかけて歌匡を愛し、護り通す覚悟は疾うの昔に出来ている事を。
その為の準備、用意は着実に整いつつある事を。
包み隠さず曝け出したが、此処に来て過去にして来た戯れ事が仇となった。
かつて、玩具として弄んだ輩の中に男の知人がいたらしく、その者から私がどんな性根の持ち主なのかをしっかり聞いたと、今の私は信じるに値しないと迄言い放った。
…別に、この男にどう思われようと心底どうでもいい
…が、この事を歌匡が知ったらきっと悲しむだろう
…こんなくだらない事で歌匡を煩わせたくは無い
…さて、どうするか
これ以上の問答は不要とばかりに斬魄刀を抜いた男に、仕方なく此方も鞘ごと抜いて応戦する事にした。
歌匡と常に研鑽を積んでいるお陰で、男の攻撃は何ひとつ当たらない。
…このままいなし続けて奴の体力切れを待つ
…は、時間がかかり過ぎるから、さっさと気絶させて寮長か寮監を呼ぶのが妥当か
少し息切れを始めた男に最後の説得を試みたが、やはり届かず、寧ろ更に頑なに、更に激昂して斬り掛かって来た。
それを無力化すべく迎え撃とうとしたところで思わぬ事態が起きた。
恐らく、男の様子がおかしかったのが気になったのだろう歌匡が其処へ飛び込んで来たのだ。
「やめて!!」
「「なっ!?」」
男の刃は振り降ろされ、このままでは歌匡が斬られる。
男は既に目を閉じて、自身の行動の結末を悟った表情をしている。
…巫山戯るな!
…こんな事で歌匡に傷ひとつ負わせるものか!!
咄嗟に刀を捨てて歌匡を抱き込み、無理矢理身体を反転させて立ち位置を変えた。
グイッ!!
「きゃっ!?」
ザシュッ!
「ぐっ………」
背中に激痛が走ったが、それでも歌匡に負荷を掛けぬよう留意しながらその場に蹲った。
「っ、時灘さん!?しっかりして!!誰か、誰か!!」
私に回道を掛けながら必死で救援を呼ぶ歌匡。
血に塗れた刀を手に呆然とする男。
歌匡の叫びに何事かと集まって来た寮長と寮監、まだ起きていた生徒達。
傷の痛みで碌に話せない私の代わりに事の経緯を寮長に説明する歌匡。
問題を起こした現行犯として連行されて行く男には目もくれず、私の心配をする歌匡を何とか宥めながら医務室へと運ばれた。
…私とした事が、歌匡の気配に気付けなかったとは
…結局、歌匡を泣かせてしまった
…だが、あの男はもう終わりだな
…分家の末席とは言え綱彌代家の者を害したのだから
…さて、どうするか
手当てを受けている間も考えていたのは、歌匡の心を護る為の男の処罰についてだった。
学院で最もしてはならない私闘厳禁を破り、五大貴族の血筋の者を害した罪は重いとして、極刑が妥当だと四十六室満場一致の判決に、被害を受けた張本人、時灘が待ったをかけた。
「確かに奴のした事は許し難い所業。しかし、ただ死んで終わりは更に許し難いのです」
「私としては、残りの生を全て償いに費やさせたい」
「己の愚かさを生涯悔いて死んだ方が、より良い罰になると愚考します」
「どうか、ご一考頂けないでしょうか」
綱彌代家と四十六室の話し合い(駆け引き)の結果、時灘の案を採用する事とした。
よって、男の罰は蛆虫の巣・独房にて生涯苦役刑となった。
歌匡には、極刑を回避する代案はこれしか無かったと素直に話した。
歌匡は、友人が極刑を免れた事に驚いたが、時灘本人がそう望んだと知り、彼の命を奪わなかった事に感謝した。
判決が下り、男が蛆虫の巣に放り込まれて数日後、東仙が面会希望書を手に寮へと押し掛けて来た。
予想していた通り、男が何故そんな事になったのか話が聞きたいと流魂街の皆を代表してやって来たと言う。
本当は歌匡無しで話がしたかったが、あの場に居合わせた以上、それは無理だからと3人で情報を共有する事にした。
事の顛末を話し終えたところで、東仙は頭を抱えた。
「…何という事を…」
「…私ね、時灘さんの昔の事…私と会う前の事を彼から聞いた事があるの」
「え…」
「………」
…まぁ、あの男が何も言わない訳が無いな
…だが
「私がこの目で見た訳じゃないから…って、私は私の知っている時灘さんを信じているって答えてから、何だかずっと怖い顔をするようになって…それがずっと気になっていて…」
「歌匡…」
「…人の考えはそう簡単に変えられるものでは無いからな…私も説得したが全く聞く耳を持たなかった」
「…アイツの事は残念ですが、それでも極刑を退けて下さった事は感謝します」
「いや…それでも己の無力さを呪わざるを得ないよ」
聞きたい事を聞き終えた東仙は、責任を持って皆にも説明すると約束して帰って行った。
…一番の厄介者が消えてくれて良かった
…それにあの男のおかげで私の悪い印象は大分薄まった
…その事だけは感謝しなくもない
…奴には脱獄せぬよう監視もしっかり付いているし
…さて、この件はこれで終わりだ
…後は無事に卒業する迄、歌匡との学生生活を満喫するとしよう
私は誰も居ない自室で1人ほくそ笑んだ。
その後はこれと言って指したる問題も無く、全てが順調に進み、月日は流れて行った。
死神統学院を卒業する日が来た。
歌匡は首席での卒業だった。
努力を怠らず、研鑽を続ける歌匡に寄り添い続けた甲斐があった。
とても誇らしく思う。
共に見習い期間を終え、歌匡が念願の死神となり、護廷十三隊、七番隊の十八席に任命された。
私も同じ隊に入りたかったが、本家の根回しを回避仕切れず、四番隊への配属となった。
…余計な事を
…これでは歌匡に何かあった時、遅れを取るでは無いか
腹立たしい事この上無いが、下手にごねると歌匡に危害を加えられる可能性も出て来る為、渋々引き下がった。
死神となって一年、遂に歌匡を嫁に迎えた。
…出会って六年半、実に長かった
…しかし、じっくり時間をかけたおかげで私達の婚儀への祝福は予想以上のものになった
…歌匡にとって最高の一日になるよう、手を尽くした甲斐があったものだ
…一部予定の変更はあったが、全て想定の範囲内だったし
…何より、歌匡の喜びから来た嬉し泣きは、これ以上無い程美しいものだった
「…時灘さん?」
「…あぁ、起こしてしまったか歌匡」
「いえ…あ、ずるいわ時灘さん」
「ん?」
「こんな綺麗な…雲ひとつ無い夜空を独り占めなんて。起こしてくれないなんて意地悪だわ」
「…ふっ」
「時灘さん?」
「いや、済まなかった…とても良く眠っていたから起こすのも忍びなくってな」
「もう…」
深夜に一人、物思いに耽っていたところで歌匡が目を覚ました。
膨れっ面をする歌匡も愛らしい。
夜空が好きな歌匡の為に改築した夫婦の寝室でふたりきり、再び眠りにつくまで、何て事無い思い出話をぽつりぽつりと語り合いながら時に笑って空を眺め続けた。
…あぁ、私は本当に果報者だ
…最愛の人とこうして寄り添って行けるのだから
…次は誰を書こうかな