なんか周りが勝手に曇っていくんだが   作:エヴァンズ

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我らの光…

ロドス作戦記録

記録者:オペレーター モルフォ

報告先:ドクター(閲覧限定)

 

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本報告書は、オペレーター「スズラン」が戦場に立つ姿について記録したものである。彼女の能力や行動が作戦遂行にどのような影響を与えたかを、記録者である私、モルフォの主観を交えながら詳細に述べる。なお、本報告書の内容は一部個人的な解釈と感情を含むため、判断には十分留意されたい。

 

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第一章:光の降臨

それはまさしく奇跡だった。荒涼たる戦場に吹き荒れる砂嵐。その中心に、ただ一筋の光が降り立つ。

 

スズラン――彼女がその名で呼ばれるとき、戦場は異質な静寂に包まれる。それはただの沈黙ではない。まるで時間そのものが彼女の歩みによって縛られ、敵も味方も等しく彼女を注視せざるを得なくなる、そんな感覚だ。

 

その瞬間、私は思った。「戦場は果たしてこのような存在を受け入れるべき場所なのだろうか」と。

 

彼女が杖を掲げるや否や、戦場の空気が変わった。荒れ狂う砂塵は彼女の光の力に吸い込まれ、広がる治癒の波が味方全員を包み込む。その光景は、天から舞い降りた天使そのものだった。

 

だが、その天使の瞳は決して穏やかなものではなかった。そこには揺るぎない決意と、「守る」という強烈な意志が宿っていた。

 

 

 

第二章:無垢なる支配者

敵は彼女の存在に気づいた瞬間、何を思っただろうか?

戦うべきか、逃げるべきか――いや、そもそも彼女を敵と認識することができたのか。

 

彼女の力は、直接的な攻撃ではない。だがその影響力は、戦場全体を変貌させる。「範囲内全員の精神と肉体を癒す」という単純な能力。しかし、その効果は我々の想像を超える。味方たちは傷を癒され、立ち上がり、再び戦う力を得る。そして敵たちは――その光景に恐怖を覚えるのだ。

 

ある敵兵の目がスズランを見た瞬間、彼の顔は恐怖に歪んだ。その理由を私は知っている。スズランの周囲に広がる光の領域は、敵にとって「死」を意味するからだ。彼女の力で蘇る味方は、倒れることなく彼らに迫り続ける。

 

彼女は無垢だ。だが、その無垢さは戦場の理に反し、恐怖すら抱かせる。敵にとって、彼女は無慈悲な支配者に等しい。

 

 

第三章:天使の背後

 

だが、我々は忘れてはならない。彼女の背中には、私たち「ロドス」の仲間がいるということを。

 

彼女が振りまく光の中で、私たちは戦う。そしてその光があれば、私は誰よりも冷静に敵を狙撃できる。彼女の能力に支えられるという事実が、どれほど大きな安心感を与えるか。

 

しかし、私には彼女の背後に見えるものがある。天使の羽のごとき治癒の光。それは確かに美しい。だがその光の中に混じるのは、消えた命たちの影だ。

 

スズランは気づいていないのだろうか?いや、気づいているからこそ、その背中はあんなにも小さく見えるのかもしれない。彼女の存在が、どれほど戦場における奇跡かを知っているからこそ、その責任を一身に背負っているのだろう。

 

 

結論:我らの光は

スズランは戦場にとって異質な存在であり、希望そのものだ。彼女の力は味方を奮い立たせ、敵を恐怖に陥れる。しかし、彼女自身の背負うものを思えば、その希望がどれほど重いものであるかを理解することができる。

 

だが、だからこそ、私は彼女を支える存在でありたいと願うのだ。スズランがどれだけ無垢であろうと、その力は確実に戦場を変える。そして私は、その光の陰で彼女を守るべく銃を構える。

 

彼女が前に進む限り、私もまたこの銃を手放すことはないだろう。 《/b》

 

 

 

「なんだこの報告書は!?」

報告書を机に叩きつけるドクターの声が執務室に響き渡る。

 

「何か問題でもありますか?」

モルフォは自信満々な笑みを浮かべながら、背筋をピンと伸ばして立っている。その態度に、ドクターの怒りはさらにヒートアップした。

 

「問題しかないだろう!これを読んだ私の気持ちを考えたことはあるのか!?普通の作戦記録を頼んだはずだぞ!」

 

「ふむふむ、それはつまり、文面に芸術性を求めるドクターの期待を満たしきれなかったと…?」

「そうじゃない!」

 

ドクターが頭を抱えながら、報告書を開く。改めて「我らが光、その戦場に降臨せし時」というタイトルの時点で嫌な予感しかしていなかったが…中身は想像以上だった。

 

「まさか…お前が噂の『スズラン怪奇文』の元凶か!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、モルフォは胸に手を当て、少し大袈裟に首を振った。

「失敬な!『怪奇文』なんて呼ばないでください!これは『讃美歌』です!」

 

「公式の報告書で『讃美歌』を書くんじゃない!これ、アーミヤが読んだらどうするんだ!?」

 

モルフォは肩をすくめて笑う。

「きっと感激して涙を流すと思いますよ。感動のあまりスズラン本人に『貴女はロドスの光です…!!』って伝えるでしょうねぇ…」

 

「そんなわけあるか!スズランが読んだらどう反応するか、考えたことがあるのか?」

 

モルフォは少しだけ真剣な表情を浮かべると、遠くを見るような目をした。

「それは……純粋な感動に震え、『モルフォさん、どうしてそんなに素敵な文章を書けるんですか?』って聞かれる未来が見えますね。」

 

「ないない!絶対ない!」

 

ドクターが必死に否定している間にも、モルフォは「これは新しい文学の形ですから」と自信満々に話し続ける。その様子に、ドクターの頭痛は悪化の一途をたどっていた。

 

「いいか、アーミヤに報告書を確認させる前に、まず私が内容を確認しているから助かってるんだぞ!いや、それよりケルシーにこれが見られたらどうなるか…!」

 

「ケルシー先生ですか?」

モルフォは小首を傾げた。

「もちろん、彼女も文学に目がないでしょうし、きっと評価してくれるはずですよ。」

 

モルフォの言葉を聞いた瞬間、ドクターの脳裏には冷徹な目をしたケルシーが無言で報告書を叩きつける光景がよぎった。そして、ついには全身から疲労がにじみ出るような声を上げる。

 

「ケルシーにこれを読ませたら、私が真っ先に責められるでしょう!?」

「なるほど。つまり、ドクターは私の才能を独り占めしたいと。」

「そうじゃない!!」

 

モルフォのマイペースな態度に完全に振り回されるドクターだったが、その後、彼の報告書を一言一句書き直させるという厳しい罰を言い渡すこととなった。そして、モルフォがデスクに向かって不満を漏らしながら書き直しを始める背中を見つめつつ、ドクターは思うのだった。

 

(…スズランの出た作戦では報告書を絶対にモルフォには任せない)

 

「まあ、一応正式な報告書はここにありますよ。」

 

モルフォが気軽に言いながら懐から取り出した記録書。それを見た瞬間、ドクターは思わず目を丸くした。

 

「あるのか!?お前、ちゃんとした報告書も作ってたのか!?」

 

「ええ、もちろん。あちらが讃美歌で、こちらが正式な記録です。」

 

モルフォはにこやかに答えながら、正式な書式で記載された報告書をドクターに手渡す。その報告書には、作戦中の行動、状況の変化、各オペレーターの貢献度が簡潔かつ正確に記されており、完璧と言える内容だった。

 

ドクターはその書類に目を通し、改めて驚きを隠せない。

「……何だ、こっちは普通に優秀じゃないか!なんで最初からこれを出さなかったんだ!?」

 

モルフォは肩をすくめて、少し困ったように笑った。

「ドクター、味気ないだけの報告書って、読むの退屈じゃありませんか?だからまず讃美歌で感動を与え、そのあとでこちらの正式な報告書を読んでもらえば、作戦の全体像が鮮やかに伝わるかなと。」

 

「そんな二段構えのプレゼン方式なんて必要ない!」

 

ドクターが怒鳴ると、モルフォはちょっとした悪戯っ子のように笑った。

「いやいや、芸術的な味付けも組織の潤滑油になりますよ?作戦の成功率が2%くらい上がるかもしれません。」

 

「上がるわけがないだろうが!」

 

ドクターは頭を抱えながら、ため息をつく。

「もういい。これからは最初から正式な報告書だけを出せ。それ以外は禁止だ!」

 

モルフォは一瞬しゅんとした顔をしたが、すぐに口元を引き締めて敬礼のポーズを取った。

「了解しました、ドクター。…ただし、もしまた感動的な讃美歌が必要になったら、いつでも頼んでくださいね!」

 

「頼むか!」

 

その後、正式な報告書を提出したことで事なきを得たものの、モルフォがいつまた怪奇文…いや『讃美歌』を持ち出してくるかとドクターは内心不安を…いや絶対にまた書いてくる。そう確信して溜め息を吐いた。

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