「ふんふふ〜ん♪」
今日は当番の日!
シャーレで先生と2人きり、今の私の最大の楽しみ。
今日もロッカーに落書きされてたし、中の体操服は誰かに盗られてたし、廊下を歩いてたらゴミを投げつけられたけど、そんなことどうでも良くなるぐらい幸せな時間。
今は1秒でも早く先生の顔を見たいな〜!
「おい、あれ………」
「トリニティの『魔女』だ!!」
「魔女」。
今の私の蔑称。トリニティの中でも外でも、私は今そう呼ばれてる。
そして、私をそう呼んだのは…………。
「…………ゲヘナ」
大嫌いなゲヘナの生徒たちだった。
「ちょうどいい、ぶちのめすぞ!!」
「……………あはは、今は急いでるんだけどな〜」
ロールケーキも崩れちゃうかもしれないし。
本当だったら全員痛めつけてやりたい所だけど、今日はシャーレの当番の日なんだ。
だから………運が良かったね、あなたたち。
「倒すだけで、勘弁してあげるよ」
ゲヘナの子たちを倒すのにはそんなに時間はかからなかった。
まぁ、所詮は名前も知らない一般生徒だし。正直銃を使わないでも勝てるような相手。ちゃっちゃと倒しちゃって、シャーレまで向かった。
シャーレでの先生のお仕事のお手伝いが終わって、今は休憩室でティータイム。
私はシャーレに来るまでにあった出来事を先生に話した。
「ここに来るまでにさ、ゲヘナの連中に絡まれちゃって」
「………………」
「全員倒してきたから良いんだけどね。嫌になっちゃうよ………あんな角生やした連中、目に入れるだけで嫌なのに」
一刻も早く先生に会いたいって時に、あんな連中の相手なんてしたくない。ちょっと苛立ったから、先生に愚痴ってみた。
先生は「大変だったね」と言ってくれた。今、私がちゃんと話せる人はとても少ない。学校だとナギちゃんやセイアちゃんぐらいだし、その2人は基本的に忙しくてゆっくり雑談なんて出来ない。学校の外だと他の学校の生徒とは殆ど関わりがない。
だから、こうやってくつろぎながらお話が出来るのは先生だけ。とっても、とっても幸せな時間。
先生は私が買ってきたロールケーキをフォークで口に運んだ。
最近、私がよく行っているお店のロールケーキ。蕩けそうになる甘さが癖になる。先生にも食べて欲しいってずっと思ってたんだ。
「美味しい?」
「…………美味しいよ」
先生はニッコリと笑ってくれた。その笑顔を見るだけで、心の奥底でチビミカが喜びのダンスを踊る。
「へへっ、良かった☆ 最近ハマってるお店なの〜!」
「…………………」
でも、だからこそそんなロールケーキがぐちゃぐちゃになるかもしれなかったゲヘナの生徒たちとの交戦にちょっとした不快感を覚える。
「もう………ゲヘナって、どうしてあんな奴らばっかりなんだろ…………」
「……………………………」
「出来れば二度と見たくないな〜」
素直な私の気持ち。
もうゲヘナの生徒の顔は見たくない。
………さ、ここで暗いお話はおしまい。せっかくの2人きりの時間なんだから、楽しいお話をしないと。
「ところでさ先生、昨日のテレビ観た〜?」
昨日はキヴォトスの歌に自身のある人たちが出演した番組が放送されていた。
最近話題の音楽から、昔ながらの音楽まで色んな曲が歌われていて、楽しかったって思ってる。
先生って音楽好きなのかな? どんな音楽を聴くのかな?
私と同じ音楽が好きだったら嬉しいな♪
「…………ねぇ、ミカ」
すると、ちょっと角張った声で先生が私の名前を呼んだ。
「? どうしたの、先生?」
「ミカはどうしてゲヘナのことが嫌いなの?」
「え?」
先生?
どうして先生からそんなことを………?
先生は真っ直ぐに私の瞳を見つめていて、答えないって選択肢は無いって雰囲気が漂ってる。
…………………………。
「どうしてって………」
………………改めて聞かれると、どうしてだろう。
私がゲヘナが嫌い。ゲヘナが憎い。その感情は昔から変わっていない。
私だけじゃなくて、トリニティの生徒たちの大半がそうだ。私たちが生まれるずっと前から、トリニティとゲヘナは争ってきた。学校同士が仲が悪い、そういう関係。
……………だから、なのかな……?
でも、少し違うような…………。
……………。
………………………。
……………………具体的な理由が見つからない。ゲヘナの生徒たち……特に角が生えた連中は、昔から見ているだけで嫌だって思ってた。
黒くて、野蛮で、品がなくて………まるで気持ち悪い虫を見ているみたいな感覚だった。
「………何故か分かんないけど、嫌いなものは嫌い。昔からずっと、見ているだけでムカムカするの」
そう答えるしかなかった。
「………………………」
私の言葉を聞いて、先生は目だけを細めた。
………………私、何かまずいこと言った?
「先生………?」
急に不安感に襲われそうになる。
「ずっと黙ってたんだけどさ」
「え?」
「私、ミカのことが嫌いなんだよね」
「…………………?」
………………?
先生…………?
今、なんて言ったの………?
ミカのことがキライ………わたしのことがきらい………私のことが…………嫌い…………?
「………………!!?」
私が………嫌い……………!!?
えっ………!!?
先生……………? 何を…………!!?
「理由は………分からないな。見ていてムカムカするんだ。生理的に嫌い………ってことかな」
「え……先生…………?」
「エデン条約の時は『先生』として一生徒であるミカを守ったけど………正直、ずっと嫌な気分だった」
嫌な気分………?
先生が私といるのが嫌だった………?
………そんなはず、そんなはずないよ。あり得ないよ!!
だって、先生言ったよ……?
『私の大切なお姫様に何してるの!!』
言われた時は………凄く恥ずかしかったけど………。
本当に………本当に嬉しかったんだよ………?
もう誰も私の味方じゃないんだって諦めてた時に………先生が、先生だけは私の味方でいてくれるんだって分かって、本当に助けられたんだよ……?
「なん………嘘………だよね………?」
「嘘じゃないよ。現に今だって不快なんだ。私がゲヘナの生徒とも親しくしてるの、知ってるよね?ただでさえミカの顔を見て不愉快なのに、聞きたくもない愚痴まで聞かされて最悪の気分だよ」
「っ…………」
それは…………。
……………………………………。
私が………いけなかったの…………?
私が、先生の嫌なことしちゃったの………? 先生は私のために、色んなことをしてくれたのに………?
そんな先生に……私は………。
「それでも私はミカの前では『先生』であろうとしたのに、ミカは自分の嫌な気持ちを人にも押し付けようとした。どうして私だけ我慢しなきゃならないのかな。これって理不尽だよね」
「それはっ………」
私は………まだ悪い子だったの……?
先生が嫌がってるのも分からないぐらいの………どうしようもない……救えない子………?
「だから私も止めるよ、ミカに優しくするの」
え………………?
「もうミカの顔は見たくない。今度から来なくて良いよ」
来なくて良い…………?
来なくて良い……って…………シャーレに………? 当番に………?
「……………………………!!!!?」
顔を見たくないって…………!!?
もう私に会いたくないってこと………!!!?
なんで………?
なんで、なんで………!!?
どうしてっ、どうしてそうなるの!!?
なんでなのっ!!?
あっ……。
先生………。
私から離れて…………。
二度と………もう二度と会わない………?
…………っ!!?
これが最後………!!?
「ま、待ってっ!!」
行かないで………!!!
「ごめんなさい……!! 私……わたし……っ……!! 先生の気持ちも知らないで………自分勝手なことばかり言って………っ……!!」
嫌だっ……!!
先生ともう二度と会えないなんて………そんなの嫌だよぉ……!!
私……本当は辛いの………!!皆に陰口叩かれたり物盗まれたり………あんなことした罰だって受け入れないと耐えられないぐらい……っ……!
先生といる時だけはそんなことを忘れられてっ………先生がいるから、私は頑張れるのっ………!!!
それなのに……それなのに………っ………。
「信用出来ないよ、そんなの」
「っ…!!?」
「あの一件で学んだはずだよね。自分の感情を優先させてばかりじゃ、皆に迷惑だって。なのにこうして同じことをしてる。ミカには期待してないんだって、どうせ学ばないんだから」
「そ……それはっ……!!」
ごめんなさい…………!
「もううんざりなんだ、君みたいな我儘の相手は」
ごめんなさい………っ………!!
「ごめんなさい………もうしません………もうしませんから………!」
悪い所全部直すから……もう先生に怒られない生徒になるからぁ………。
来なくて良いなんて………言わないでよぉ………。
「いいよ、今更謝らなくても。諦めてるから」
諦めてるなんて……そんな………そんなこと……………。
「い………いや…………」
先生が………。
「さよなら、ミカ。もう君の顔は見たくない」
先生が………………………。
「お願い………待って………待ってよ…………」
遠くに………。
もう会えない所に…………。
『魔女がハッピーエンドを迎えるお話なんて、この世界のどこにもないもの。』
「いやっ………いやぁぁぁっ!! 行かないでっ!! 先生ぇぇっ!!」
「………………………」
「私を1人にしないでっ……!! 行かないでよぉぉっ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」
先生…………先生ぇぇっ…………!!
私を置いていかないでよぉっ…………!!!!