石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 今回はタイトルの通り、幕間な感じが強めです。

 感想いつもありがとうございます。大変励みになっています。
 感想返してませんが、どう返信すれば良いのか悩んでいるだけなので、ちゃんと読んでます。ありがとうございます。
 初めの頃はどうやって返してたんでしょうか……?


第10話 人類最強の戦士VS常識外れの錬金術師

 石化王国より本土へ帰還したその日、人類最強の戦士――獅子王司が復活した。

 

 ―――旧石化王国から持ってきた石化装置こと賢者の石。

 それを使った石化&復活により、司の身体を蝕んでいた病魔(敗血症)の排除と細胞の修復により、獅子王司はコールドスリープから目を覚ました。

 

 復活したばかりだというのに冷静沈着な司を、千空の『月に行く』という爆弾発言で動揺させながらも、司は昔とは考えられないような朗らかな笑みを浮かべて、再び科学王国の仲間となった。

 

 戦化粧として罅を再現した彼は今、開けた場所にいる。周りには2人を見る野次馬が囃し立てていた。

 

「さぁー!! 張った張った!! 人類最強の戦士獅子王司と常識外れの錬金術師ボロス・フラメルの一騎討ちの始まりだぜ!!!」

「ヒュー!! こんなの司が勝つに決まってんだろ!!! 俺は司に賭けるぜ!!!」

「う〜ん……どっちにするか悩むんだよ。どっちも勝ってほしいんだよ」

「シシシ、うちはやっぱり兄さん一筋や!!」

 

 龍水が主催を務める賭博に、未成年は参加禁止だ。

 なのでスイカと未来は推測だけだ。でも綿菓子を互いに賭けてる。1部の大人達(陽やマグマ)のギラついた視線とは雲泥の差だ。

 

 ウォーミングアップをするボロス側に人が集まる。それと同時に、司の方にも人が集まる。

 

 ボロス側にはゲン、クロム、羽京、大樹、杠など。

 司側には千空、コハク、陽、龍水、マグマ、ニッキーなど。

 

 反対方向に千空とコハクの姿を認めたゲンとクロムが、ダダダッとボロス側から司側に移動し、2人のもとに駆け寄る。

 

「マジかよ! 千空はボロスに賭けなかったのかよ!!!?」

「まぁな。ボロスには悪いが俺はこっち側だ」

「ハッ、私も司側だ」

「俺は千空ちゃんがこっち選ぶと思ってボロスちゃんに賭けただけなんだけどね〜。残念。そもそも試合のルールで、錬金術が封じられてるボロスちゃんがどれくらい強いなんて、あんまり分からないしね」

 

 主なルールは石神村の御前試合と一緒だ。

 それに加えて、ボロスには錬金術の使用が禁止されており、唯一許されてるのは武器の変形のみ。

 一方で司の方は素手という制限がある。これは単に武器を持てば殺しかねないという理由からだ。

 

 皆の好奇の視線を真っ直ぐに受け止めているボロスが、その手に持つ武器は水銀。

 

 その水銀が緑の発光を纏って、長さ6尺(約1.8 m)の一振りの棒となる。

 

「「――それでは、ボロス様と司様の試合を始めます!! 両者、始め!!!」」

 

 主審のジャスパーと副審のフランソワによる戦闘開始の合図。

 

 だが、司、ボロス共に動かない。

 

「(うん、何をしてくるか分からない相手だ。攻撃するよりまず、出方を窺った方がいい)」

「(司の戦い方が分からない今、闇雲に攻撃を仕掛けても意味は無い。ひとまず、機を窺おう)」

 

 ――獅子王司。

 現代並びに石の世界(ストーンワールド)において、最強の高校生

 恐るべきは素手でライオンを打ち破ったその筋力。

 ボウガンすら容易く見極めるその動体視力。

 

 やすやすと御せる人物ではない。

 

 対して、司の前に立つ人物はボロス・フラメル。

 中世から生きる不老の錬金術師にして、伝説の錬金術師ニコラ・フラメルの弟子。この石の世界(ストーンワールド)において、未知を操る錬金術師

 誇るは錬金術を使った科学――そして戦闘。

 石化王国にて、キリサメ相手に互角以上の戦いを繰り広げた男。その底は計り知れない。

 

「どうした? 来ないのか? まさか現代最強がビビってるのかな?」

 

 水銀製の六尺棒を携え、ボロスは司を煽る。

 

「安い挑発文句だね。うん。でも乗ってあげようか」

 

 瞬間、地を蹴る司。

 その速度はボロスを一瞬瞠目させる。

 

 彼我の距離を数秒足らずで詰めた司は、一瞬呼吸を止める。

 

「(ひとまず全力で……)――ハァアア!!!!」

 

 司の全力の回し蹴りが、ボロスに直撃した。

 

 咄嗟に防御に回した六尺棒と共に吹き飛ぶ中、ボロスは視線だけは司から離さない。

 

「(これが現代最強の男の力か!! 素手でこれなら、剣を持てば昔なら大国No.1の騎士になれてたな!!!)」

 

 生まれた時代間違えてるだろ、と内心毒吐いたボロスは、空中で一回転すると、危なげなく地面に着地した。

 裕に3秒は滞空していただろう。着地地点も大幅にズレている。

 

 ボロスはくるりと手中の六尺棒を回すと、再び腰を落として司の出方を待つ。

 一方、司は振り抜いた右足に視線を落としていた。

 

「(奇妙な手応えがあった)」

 

 グニュッと潰れた感覚。端から見ている分には硬く見えるし、今も高い剛性を持ってるように見える。少なくとも、柔らかいだなんて言葉で言い表せるような見た目をしてない。

 

「(ボロスの錬金術か、あるいは科学か)」

 

 厄介だ、と司は眉を顰めた。

 もし錬金術なら、始めからこの流れを予測していたと考えられる。脚撃がぶつかる前に、緑の発光は見られなかったからだ。

 錬金術の発動は必ず毎度行わなければならない以上、ボロスは水銀を六尺棒に変形させた時点で、この場面を読んでいた事になる。

 この想定が合っていた場合、ボロスは何手先も読んでいる可能性が高い。

 一方科学であるなら、それはそれで拙い。司の知る科学に、ぶつかった瞬間に衝撃を逃がすものなど無いからだ。

 つまり、未知の科学を使われると対応が後手に回る。

 

 とはいえ、最悪は錬金術と科学を同時に使ってくる場合だ。

 司は無論、両方使ってくるだろうなと結論づけた。

 

 なお答えとしては、ダイラタンシー流体アモルファス金属の中間に近い。

 ダイラタンシー流体は小麦粉と水を混ぜたものが有名だろう。外部からの力で液体が固体のように硬くなる現象だ。

 一方でアモルファス金属は非晶質(アモルファス)の性質を持った金属だ。ガラスや液晶などがアモルファスと呼ばれる性質を持ち、これらの原子や分子は規則正しく配列せず、不規則に並んでいる。よって結晶構造を持たない。

 そしてアモルファス金属はその名の通りアモルファスの性質を持った金属であり、規則的な結晶構造を持たないため、強さやしなやかさが優れている。

 

 ボロスが仕上げた六尺棒は、不規則な結晶構造を持つため、強い衝撃が加わると容易く構造がズレ、それが伝播することで受けた衝撃を全体に分散する。

 そもそもの水銀の固体の性質が展性と延性に富んでいるため、イメージとしては半分液体の棒を持っていると言った方が近いだろうか。

 無論、錬金術でなければ造れない代物だ。

 

「ボロス。その及び腰で勝てると思ってるのかい?」

 

 機を窺うボロスに、今度は司が挑発する。

 

「仕方ねーな」

 

 ダッと駆け出すボロスは、六尺棒を左腰に構えて司に襲いかかる。

 

「ハッ!!」

 

 顔面目がけて振るわれた六尺棒を最低限の動作で回避。続けて振るわれた左回転蹴りを受け止め、司はボロスの胸へと拳を振るう。

 

「ぐっ……!!」

「(後ろに跳んで衝撃を減らしたか!)」 

 

 ズザザ、と後退するボロス。

 寸前に後ろに跳んだとはいえ、受けたダメージは大きい。

 

「(これ、一撃でもまともにくらったら終わるな)」

「(流石、中世から生きる錬金術師といったところか。そう簡単には倒せそうにないね)」

 

 実は司とボロスの間には認識の齟齬があった。

 

 ボロスは司の事をチャンピオンとして捉え、自身はそれに挑むチャレンジャーだと考えている。

 だが司も同じだった。ボロスをチャレンジャーとして捉えるのではなく、自身をチャレンジャーだと認識していた。

 

 それぞれが、自分を王者に挑む挑戦者だと考えている。

 だから、両者どちらも、互いの一挙手一投足を細部まで観察している。

 そこに、王者としての余裕はない。

 

 その空気は観衆にも伝わっていた。

 

「意外だ。ボロスがあまりにも司と渡り合えている」

 

 コハクの口から、思わずといった様子で溢れた。

 コハクはボロスの力量を把握している。一目見た時から自身を超える強さを持っていた事に加えて、キリサメとの戦いも少しとはいえ視界に収めていた。

 だからボロスの力量はここにいる誰よりも詳しいといえる。

 

「恐らく、どちらも互いに全力を出してないんじゃないかしら?」

 

 コハクの呟きを拾ったキリサメが、今も激しい戦闘を繰り返す2人を見ながら答える。

 

「そもそも、だ」

 

 更に、戦闘なんてからっきしの千空の声が混ざった。

 

「ボロスは武器を持たない方が強いだろ。武器を持っちまえば錬金術が使えない。使うためには一瞬でも武器から手を離す必要がある」

「そうね。私と戦った時も、彼は基本素手で戦っていたわ」

「ボロスが勝つには必ず錬金術を挟まなきゃなんねぇ。だがそれを司が許すかどうか。この試合は始めから、ボロスに不利なんだよ」

「ならなんでボロスは素手で戦わねぇんだ?」

 

 クロムが純粋な疑問を投げかけた。

 それに対して、答えたのはコハク。

 

「普通、素手と長物の武器なら間合いは長物の方が広い。間合いの外からの攻撃は安全であるし、攻撃されても避けやすい。ボロスは司と距離を少し取ることであんなに捌けてるんだ。……ハッ、まぁボロス自身の戦闘能力の高さも伺い知れるがな」

「短剣使いのコハクと槍使いの金狼みたいな構図になってる訳か……」

「そうだ。使い慣れてる槍を扱うのは尤もだが、私のように超近距離格闘に心得があるものは、得てしてあれくらいの間合いの敵の処理も心得ておかねばならない。無論司は心得ているだろうから、あれ程度の間合いならボロスを歯牙にもかけないという訳だ」

「確かに! たとえコハクが素手でも槍を持った金狼に負けるとは思えねぇ……!!! 流石ゴリラだぜ!!!」

 

 直後、クロムの頭にたんこぶが生成されたのは言わずもがな、直前のコハクの言葉を引き継ぐようにキリサメが告げた。

 

「そうね。ボロスは司を斃さないといけないのに対し、司はボロスの武器を取り上げてしまえば勝ちが決まる

「ああ。武器を使ってる時点で、素手だと弱い事を証明してるんだ」

 

 観客の会話なぞ捨て置いて、徐々にボルテージが上がる武舞台。

 振り抜く拳は風を切り、繰り出す脚撃は地面を砕く。

 

「(一撃でも貰ったらアウト……正直キツイぜ。凌ぎ続けるにも限界がある。()()()もその圧倒的な力に通じるかどうか――)」

「(やけに反射がいい。フェイントにも引っかかるけど、巻き返しが早い。ここまで錬金術を使ってこないのは、何かのブラフか何かかな……? 不確定事項が多すぎて決めきれないね。うん…――)」

 

 そして、2人の思考は1つに帰結する。

 

「「(――厄介だ)」」

 

 互いに互いをどう倒すかの思索。

 だから、それを作ったのは戦闘経験の多い司の方だった。

 

 長い長い近接格闘の末、両者に疲労が見えた頃、司の攻撃の手がほんの少し遅くなる。

 一瞬だ。その一瞬チラついた空隙。ボロスの優れた反射神経が命令を急かす。

 刹那の時間を縫うように、パン、と高い音が交じった。

 

 ――状況が動くと、観客の脳に電流のように流れる。

 

 錬金術発動のトリガーが引かれた。

 司は瞬時にバックステップし、ボロスから距離を取る――それを見越したボロスが前進――結果、彼我の距離は司が思ったよりも開かない。

 故に――

 

「(この変化は避けられない!!!)」

 

 一瞬で数メートルまで伸びた棒が、司の顎に炸裂する。

 

「うっ……!!!?」

 

 明らかな有効打に、観客がざわめいた。

 ボロスはその一瞬を予期していたかのように、数メートルまで伸ばした棒が棘付きメイスに変換される。

 そして司の顔面目がけて振り下ろした。

 

 ――このままでは負ける。

 

 そんな予感が司の脳を巡るも、しかし眼前に迫るメイスを前に口角を上げた。

 

()()()()()

 

 その呟きは、このシチュエーションを予期していたもの。

 

 ――司が行ったのは、かつて御前試合にて、クロムVSマグマの対決の際、ゲンが行った嘘。

 

 人は堕落を正当化する為に怪しい嘘にも飛び付く

 

 実際は少し異なるものだが、司はわざと隙を見せる事でボロスを誘った。積み重なった疲労により、決着を無意識に早めたかったボロスは、その罠に引っかかったのだ。

 

 ――眼前へと迫りくるメイスを司が掴んだ。そして驚異の握力と腕力でボロスごと持ち上げて、振り回す。

 

「(嘘だろ!!?)」

 

 たまらず吹き飛んだボロスは、地面に片手を突きながら着地。

 想定を超えるそのパワーに、額と背中に冷や汗が流れる。

 

 ボロスの武器は司に奪われた。

 よって、ボロスの勝利は絶望的。

 

 ――かと思われた。

 

 ボロスは勝ち気の笑みを浮かべて、司を見やる。

 

 ボロスの仕込みは3段階あった。

 1度目で六尺棒を延伸、時間差で棘付きメイスに変成。そして――液体変化からの固相変化

 両手を鳴らしてから武器を掴んでくるまで、全ての司の行動をボロスは予測した。

 

 その結果、そこには左腕を肘から指先まで水銀で覆われた司の姿があった。

 

「チェックだ、司」

「(外れる気配がない。固定されてる)……うん、でもまだ右腕は動くし脚もある。まだいけるよ」

「いいや、これで終わりだ」

 

 パン!!

 再び世界に産声を上げる錬金術。

 ボロスの足元から広がる錬成陣は司の足元まで一瞬で到達し、司の身体を這い上がる。

 

「そうか!!!」

 

 観客席から千空の声が飛ぶ。

 

「ボロスの意図は始めから司に水銀をかけることだったのか!!」

 

 千空の言う通り、決着は始めからどちらかを斃すかではなかった。

 ボロスの勝利条件は司に水銀を浴びせることだった。

 そして、錬金術は水銀無しでも発動することができる。

 

「本来なら不可能な筈の固相→液相→固相の状態変化(水銀を液体に戻して身体を覆い、固化させる)が、ボロスのスペシャル技で可能となる!!!」

 

 ボロスが許されているのは武器の変形のみ。

 そして水銀はボロスの錬金術によって想像を超える動きをする。

 

「クククッ、やるじゃねーかボロステメー。俺の科学に基づく予測より、ボロスの錬金術に基づく予測の方が優れてたって訳だ」

 

 広場の中央には、首から下を煌めく水銀で覆われた司がいた。それはまるで水銀でできた石像のように、司の動きを封じていた。

 

「(見た目は薄皮一枚の厚さ。これなら破れそう……にはないね)……うん、駄目だね。参った降参だ」

「そこまで!!! 本試合勝者はボロス・フラメル!!!」

 

 途端、観客側から怒声と嘆きと喜色に塗れた声が飛び交う。

 

 決着がつき、拘束を解かれた司はボロスへと片手を差し出した。

 

「いい勝負だった。ありがとう。最後まで俺は君に踊らされてたね」

「こちらこそありがとう。流石人類最強の男だ。拳を交えたことに感謝する。あれは一か八かの賭けが上手くいっただけさ」

 

 互いに握手を交わし、これにて試合は幕を下ろす。

 勝者敗者関係なく、その顔は晴れやかだった。

 

 

 

 晴れやかではないのは、司に全賭けした陽だけだった。

 

「チクショォオオオオオオ!!!!!!!!!」




 ちなみに、始めはボロスが負けるようにしてたんですが、書き進めていくにつれてボロスが勝つようになっちゃいました。
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