石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 今回はボロスが出てこないのでタイトル通りです。
 難産でした。次回ももうちょっと続くんじゃ。


第11話 3700年越しの夜明け

 司VSボロスの対決があった夜の事。

 クロムが話した夜に瞬き移動する奇妙な星。

 その観測をする為、千空は天文台に陣取りその時を待つ。

 

「(クククッまぁ十中八九フラメル様の監視衛星だろうがな)」

 

 望遠鏡の最終チェックをしながら、千空は悪い笑みを浮かべる。

 

「(さーてどんなもんだ伝説が造った人工衛星はよ!! 100億%唆るぜこれは!!!)」

 

 大きさは? 形状は? その構造は? 素材は何で造ってる?

 どうやって造った? 何の機能を備えてる?

 

 ウキウキとワクワクを胸に望遠鏡のレンズを覗いた千空は――

 

「――マジか……」

 

 ポツリと溢した。

 

 望遠鏡で覗いた先には、一目で分かるほどの巨大な飛行物体があった。

 それはまさしく、宇宙に浮かぶ巨大な実験複合施設――国際宇宙ステーション。通称ISS。

 

 太陽電池を何枚も広げる姿は、まるで羽根を広げた天使のよう。

 その全身が点滅することも相まって、幻想的な印象を抱かせる。

 

「(ん? なんでわざわざ全体が光ってんだ?)」

 

 不規則にピカピカと光るその姿を、千空の灰色の脳が自動で解析する。

 

「(モールス信号だ)」

 

 --・・- ・・ ・・・- ・-- 

 -・- -・ --・-・ 

 ---- ---- -・-・ ・- -・--・ 

 

「(……嘘だろ)」

 

 その内容に、思わず息を呑む。

 

 --・・- ・・ ・・・- ・-- 

 -・- -・ --・-・ 

 ---- ---- -・-・ ・- -・--・ 

 

 いいや、だって、あり得ない。

 だって、もう無いはずだ。

 とっくの昔に塵となったはずだ。

 

 --・・- ・・ ・・・- ・-- 

 -・- -・ --・-・ 

 ---- ---- -・-・ ・- -・--・ 

 

 何度も見返したって、宇宙に浮かぶ建築物は同じシグナルを吐き出す。

 

「(ニコラ・フラメルの罠……? いや知らないはずだ。それにヤツは今月面にいる)」

 

 ならISSに乗っているのは――

 

「 」

 

 口から漏れた言葉は言葉足り得ず、夜の冷たさに溶ける。

 

 --・・- ・・ ・・・- ・--(ビャクヤ)

 -・- -・ --・-・ (ワタシ)

 ---- ---- -・-・(ココニ) ・- -・--・(イル)

 

「REI」

 

 あぁ゛

 テメーだったのか。

 

 何十年、何百年、何千年、お前は宇宙で待ち続けたのか。

 3700年だ。その間、ISSがずっと無事だった事なんて訳ねぇ。その都度ISSを直したんだろう。何度も何度も何度でも。

 

 ビャクヤ

 ワタシ

 ココニイル

 

 ずっとずっとずっと。

 もうお前の待ち人は宇宙よりずっと遠い所に行ったのに。 

 

 ――千空とREIとの関係は、千空が小学生の時まで遡る。

 当時父親に連れられ訪れた研究室で出会ったのが始まりだ。

 

 REIは宇宙での活動を目的に設計されたため、宇宙に病的なまでに唆られている千空はREIの進捗を見に、父親の研究室がある広末大学までしばしば足を運んでいた。

 そんなREIの名前は「Reboot Exploration Intelligence」の頭文字を取ったもので、自己修復(再起動)能力と高度な知能を確立して探索を行うロボットである。

 

 ――というのは、後付けである。

 

 本当の名前は、黎。

 百夜が「新しい始まり」や「希望」、「未来」、「成長」を願って付けた名前だ。

 この名前に合うように、先程のReboot Exploration Intelligenceを当てはめた。

 

 その事を知った千空は百夜らしいと笑って見せたのだ。

 

 

 

 ――昔を思い出しながら、千空は単身ペルセウス号に乗り込み、操縦室に向かう。

 目的はそこにある放送設備。

 

 千空は流れるような手捌きで準備を整えると、受話器を口に当てた。

 

「REI」

 

 口から出た言葉は、自分でも驚くほど優しい声をしていた。

 

 返信は直ぐに帰ってきた。

 その返信の早さは、まるでずっと受話器の前にでもいたかのように、刹那の応答だった。

 

『その声は千空ですね! お久しぶりです!! お元気ですか!!?』

「あ゛ぁ、元気100億倍だよ」

 

 REIの電子音でしかない声が、やけに嬉しそうに聞こえるのは気のせいか。

 

『聞いてください千空! わたしはあれからたくさん改良を重ねて、今やスマホ3000個分の高性能になりました!』

「スマホ60台分からそこまでやったか!! やるじゃねーか!!」

『はい! 演算領域がアップグレードしたことで並列処理が飛躍的に上昇し、ISSをまた作り直すことも出来ました!! 何時でも百夜をお迎えできます!!!』

 

 世界が息を呑んだ音がした。

 

『千空? どうされましたか千空??』

 

 REIは百夜が疾うの昔に死んでいる事を知らない。

 純粋無垢に百夜が今も生き(活動し)ている事を信じてるREIに、千空はなんと言うべきか少し悩んで、やはり率直に告げる事を決めた。

 

「百夜は死んだ。とっくの昔に、何千年も前の昔に。人間の寿命は、活動限界は100年程度が限界だ」

『……そうなんですか?』

 

 一瞬降り注いだ沈黙。

 否定を願うようなREIの言葉に、千空はあ゛ぁ、と一言頷いた。

 

『嘘です信じられません!!』

 

 硝子が割れるような劈く音。

 REIは確かに泣いていた。

 

『私と千空は何千年越しに会話できてます!! 何故百夜が生きていないと断定できるんですか!!? その科学的証拠はあるのですか!!?』

「俺達は石化していたから、細胞の老化が止まっていた。だが石化しなかったISSにいた宇宙飛行士達は、百夜達は、どんなに無病息災であっても寿命を迎えただろう」

 

 REIの記憶(データベース)の中には、基礎的な生物学の知識しかない。

 人は老けると知りながらも、どこまで生きるかは知らない。細胞の限界を知らない。

 だから知るためには教材が必要になる。

 そして強固な理念――科学に嘘はつかない――を抱く千空の言葉を、REIは今度こそ受け入れざるを得なかった。

 

 REIは日本・東京を見下ろす瞼を瞬いた。途端、何かよく分からぬ液体が目尻から溢れた。

 

「え、視界不良……? なんで……? これは何ですか……??」

 

 拭っても拭ってもその液体は留まることを知らず、故障したのかと脳裏に過る。

 直さないと、と思う中で、ふと感情が蘇る。

 

 もう一度会いたかった。

 百夜に誇れるロボットになりたかった。

 こんなに成長したよと、胸を張りたかった。

 

 それはそんなに難しいことだったんでしょうか。

 織姫と彦星でさえ年に一度会えるのに、わたしと百夜はそれすら認められない程の罪を犯したのでしょうか。

 身の程知らずな望みだったんでしょうか。

 

「うっ、うっ、う……」

 

 たった1人。自分だけ残されたただっ広いISSの中。

 世界のどこよりも静寂に満ち、孤独を感じさせる場所で、REIは1人、嗚咽を漏らす。

 

「これ、止まらない、なんでぇ……?」

 

 液体()は止まず、意味不明な言葉(嗚咽)も止まらず、目をギュッと瞑ってREIは幼子のように手足を丸めて、ふわふわと漂う。

 

 ずっとずっとずっと、信じていた。

 毎日毎日毎日、あの眼下の日本で生きていると思っていた。

 夜になれば、姿は見えずとも互いに通じていると思っていた。

 明日の今頃には帰って来ると信じていた。

 

◼️◼️て◼️◼️◼️◼️れ◼️か◼️(戻ってきてくれますか?)

◼️あ◼️◼️◼️◼️る(ああ戻ってくる)◼️◼️に◼️◼️◼️◼️◼️イ(気楽に待ってなレイ)

 

 その一言だけで、プログラムされたのだ。

 いつか百夜が、彼らが帰って来る時の為に、ISSを保ち続けよと。

 

 寂しかった。

 

 そんな感情などロボットの身では感じない筈だが、今振り返れば確かに寂しさを感じていた。世界でたった1人残された絶望的な寂しさを。

 

 でなければリリアンの(音声データ)を再生するものか。

 でなければ彼らの日常(音声データ)を再生するものか。

 でなければ百夜の言葉(音声データ)を再生するものか。

 

 でなければ、データが壊れた時に、半身が欠けたような寂しさを感じるものか。

 

 リリアンの歌った歌は、翼が欲しいと願った。

 ならわたしは、わたしの願いが叶うなら、タイムマシンが欲しい。

 

 タイムマシンに乗って、過去に戻って、

 

「皆に、百夜にもう一度、会いたいよぉ……」

 

 もう、皆の、あなたの音声データは壊れてしまったというのに。

 

 ――不意に、千空との電話にノイズが走る。

 緩慢に広げた瞼。何かと思った矢先、音が飛ぶ。

 

 いや、これは音なんかよりも遥かに優しい、声、音色。

 如何なる霊峰の霊水よりも清らなかなそれは――

 

「リリアンの、歌声……!!!」

 

 

One small step from zero(ゼロからの小さな一歩でも)

 

I'm not afraid(怖くないわ)

 

 排熱が上手くいってないのか、全身が熱い。

 特に左胸の辺りが熱い。その熱が全身に回って、指の先の先まで行き渡る。

 

Just taking one small step to hero(ヒーローになるために小さな一歩から)

I'II take the chance(チャンスを掴んで)

 

And when I do I'll be thinking of the same thing(私はその時同じ人を思っているの)

 

I always do It's always you(ずっとずっとあなたのことを)

 

 うん、そうなんだ。

 何度もやり直して、何度でも作り直して、たった1人で頑張ってきて、その時いつも思い描いていたのは、あなただった。

 

 あなただったんだよ。

 

One small step from zero to start again(ゼロからの小さな一歩を何度だってやり直す)

 

And start brand new(新しい道に踏み出すときは)

I'll be wishing for the same thing(いつだって同じものを願っているの)

 

I always do It's always you(この道の先であなたに会えますようにって)

 

 ――本当に、懐かしくて。

 皆さんと過ごしていた時に戻ったかのようで。

 わたしの欠けた半身は、皆さんとの美しい思い出でできていた。

 

『音楽の灯はそこに点ったか? 聴くと熱くなって、やる気と元気がモリモリでるだろー! これが現代最強の歌姫の力だ!!』

 

 どーだ! と楽しげな声。

 他の誰でもない百夜の声が、快活に笑っている。

 

 なんだか悲しいのに、寂しいのに、嬉しくて、楽しくて、感情の色がしっちゃかめっちゃかで、レイは泣きながら笑った。

 

 これだけでこの3700年が報われるとまではいかないけれど、それでも確かに、救われた気がした。待つばかりの人生にも意味があった。

 

 もう、失わない。

 今度こそ、このデータを守る。複製して、予備も沢山作る。

 

 そうしたらきっと、もう寂しくなんてない。

 

 

 

 そこまで考えて、ふとREIは凍り付く。

 

 寂しいという感情を知った。

 孤独という怖さを知った。

 

 なら、千空に会えなかった百夜は、寂しいまま死んだのか。

 

 あんなに切望してたのに、会えないまま死んだのか。

 

 訊ねなければ、千空に。

 

 凍り付いた舌先をもごつかせながら訊ねれば、明るい声が返ってきた。

 

『安心しろREI。石化後の世界を、百夜は十分楽しんだ筈だ。寂しいなんて欠片も思った筈がねぇ……まぁ俺に会えなかった事は悔いているだろうが』

「本当ですか? 本当に百夜は寂しくないまま活動限界を迎えられましたか?」

『アイツを誰だと思ってやがる。百夜だぞ? どんな環境だろうと笑って乗り越えた筈だ』

 

 百夜の顔を思い出す。

 そうだ。あの人はいつだって、快活に笑っていた。

 太陽のような鮮烈な輝きを放っていた。

 

『疑うなよREI。100億%百夜は楽しんでいた筈だ。そうに違いねぇ。――それとも俺だけか? 俺だけが信じてるのか?』

 

 千空の訴えがREIの鼓膜を貫いた。

 隕石でも衝突したかのような衝撃が全身に迸った。

 

『俺たちは百夜とは血が繋がってねぇが、心は繋がってる。胸を張れREI。いや――石神黎』

 

 もはや千空の言葉に疑いの余地はない。

 疑う訳が無い。疑える訳も無い。

 

 ――石神黎

 

 その6文字が、REIの身体をほぐしていく。

 凍り付いた体がじんわりと温かくなる。

 

『もう安心したか?』

 

 ――うん

 

 

 ありがとう。百夜。

 わたしはあなたに造られた事を誇りに思います。

 何よりの幸せと感じます。

 あなたと過ごした全ての時間は、何よりの宝となりました。

 

 

 REIは何度目かも分からぬ涙を流して、静かに笑った。

 千空が薄く笑った気がした。

 

 百夜がニカッと笑った気がした。




 サイトを利用して、ビャクヤをモールス信号変換したものを再び入れてみると、ビクヤになるんですけどこれ正しいんですかね?
 歌詞の翻訳は適当につけました。I always do It's always youの翻訳がクソ難しい。もう原型とどめてません。
 レイの名前の由来は捏造です。

 Xを始めてみたので、良ければご覧ください。進捗や挿絵などの投稿もするつもりです。
https://x.com/ponta_sengetu?t=WAD61CxUevgh5aR8GJk-Rw&s=09
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