石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 Xでボツになった挿絵を投稿したいのに、投稿できないのはなんで?動画だから?
 Dr.STONEの連載開始は2017年なので、今回出てくるゼノボットは当時無かったものですが、気にしないでください。ちなみにゼノボットのゼノ(Xeno)はアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の事なのでDr.ゼノとは関係ありません。
 タグにtex変換ツールを追加したのに数式が表示されないのは何で?

 第4話 生命の錬金術師の本文中に、ゲノム編集技術のひとつであるiPB法の説明を追加しました。引用元がオオムギに関するゲノム編集だったので、追加しなきなゃ! と思って追加しました。詳しくは科学雑誌『化学と生物 Vol.63.No.3,2025』をお読みになってください。唆るぜこれは!


第12話 無能の錬金術師

 REIが落ち着いたのを見計らって、千空はずっと感じていた事を切り出した。

 

 百夜の話の途中、涙声が聞こえたこと。

 明らかに嗚咽と分かる声が聞こえたこと。

 

 それらを再現するためには、生体組織と感情が必要不可欠。生体組織×ロボットの組み合わせはゼノボット(Xenobot)というものが2020年時に既に存在しているが、感情すらも組み込んだものは存在しなかった。

 

 そもそも生体組織をどこから入手する。

 アミノ酸や核酸塩基などの生命関連因子までは隕石などに付着してるから可能性はあるが、細胞までは存在が確認されていない。強いて言うなら、細胞や組織が氷漬けにされ、かつ太陽などの恒星からの電磁波や放射線を受けないくらいの遠い場所から飛来してきたものを捕まえたというなら話は別だが。

 あとは地球に降り立ち、動物の細胞を入手して再び宇宙に戻ったくらいなものか。

 

 とまあ、3700年という長い年月でREIが生体組織と感情を獲得した可能性もゼロとは言わないが、それよりもあの存在が関わっている可能性の方が高い。

 

「REI、お前ニコラ・フラメルに会っただろ」

 

 じっと、千空は虚空を見つめる。その視線の先に、宇宙にいるREIの姿を思い浮かべる。

 

「何をされた? 何を話した?」

 

 矢継ぎ早に飛んだ千空の詰問に、REIが返したのは―――

 

『認証コードを確認』

「……!!?」

 

 無機質な音声だった。

 今までのREIの軽やかな声が一転、感情が抜け落ちたような事務的な声が受話器から飛んだ。

 驚愕する千空に追い討ちをかけるように、あの声が聞こえてきた。

 

『何かと思えばあの珍妙なロボットか』

 

 ひとつ唾を飲み込んだ千空は、努めて冷静に声を絞り出した。

 

「ニコラ・フラメル……!!」

『そういう貴様は石神千空で間違いないな』

 

 思わず肩が跳ねる。

 何故俺の名前を知っている? と千空の頭に疑念が渦巻く。

 

『奴は錬金術師として無能極まりなかったが、素晴らしい人材を見つけてくれた』

「……何の話だ?」

『知りたければ月へ来い。話はそれだけだ。ああ、ひとつ忘れていた。月には無能と貴様とアメリカの科学者を連れてこい』

 

 途端、音声が途切れた。

 

『千空? どうしました千空? 急に黙り込んでどうしたのですか?』

「……いや、何でもねぇ」

 

 胸の底から湧いた鬱憤をひとまず飲み込んで、千空はREIにまたなと告げて電話を切った。

 もはやここを離れても問題ない。だが、千空はその場に留まり腕を組む。意識は深い思考の海に潜っていた。

 

(どういう事だ? 何でニコラ・フラメルが俺の名前を知っている? それに何故ゼノの事を? 何を企んでやがる……?)

 

 そして何よりも―――

 

(REIに何をしやがった……?)

 

 胸中に渦巻く不可解と怒り。その怒りの原因は言うまでもなく、百夜が遺したREIに干渉したことだ。

 

 ニコラ・フラメルの言葉は、千空に黒い感情を植え付けたのだった。

 

 

 

【第12話 無能の錬金術師】

 

 

 

「―――行くぞ地球の裏、アメリカに……!!!」

 

 アメリカに向けての出航日。

 REIに関する情報を共有したのち、千空を始めとする科学王国の主力メンバーは本土を後にした。

 

 その船上にて、千空は自身を除いた六英傑+獅子王司を召集した。

 続々と集まってきた面々のうち、1番最後に集まったのはボロスだった。ボロスは自分が最後だと知ると、丁度いいと口を開く。

 

「皆に後で話すことがある」

「フゥン、少し気になるな」

 

 腕を組み、椅子にどっかり座った龍水がボロスを見やってから、ぐるりと周りを見渡す。

 そしてその視線が千空に定まる。

 

「さ〜て、先日俺は宇宙にREIがいる事を話した訳だが、何も全部語った訳じゃねぇ」

「宇宙に千空ちゃんのパパが造ったロボットが今もなお動いてた事でさえ衝撃の事実だったのに、まだあったの?」

「ああ゛。REIはニコラ・フラメルに干渉されていた。現代ではあり得ない進化を遂げていた事実に、ニコラ・フラメルとの会話を認識してなかった事から、何らかの干渉を受けている事は明らかだ」

 

 ニコラ・フラメルの言葉が飛び出た瞬間、その場にいる全員の身体が強張る。ボロス・フラメルは特にそれが顕著だった。

 

「どう干渉されてるかは不明。だがそれよりも奴は俺にひとつ要請してきた」

 

 そこで言葉を切った千空はチラリとボロスを見て、再び口を開く。

 

「俺とボロス、そして俺の科学の師匠Dr.Xを月に連れてこいと言った」

 

 千空のその発言に、いの一番に自分の考えを零したのは龍水だった。

 

「意味が分からん。ボロスは分かるが何故千空とXを招くのだ?」

「共通点は3人とも科学に通じた人間ってことだね。だけどそれだけにしては根拠が薄い」

 

 帽子のツバを摘んだ羽京が所感を述べた。その横に座るクロムが、おうよと話を続ける。

 

「4人で集まって科学話に花を咲かせたいんじゃねぇの?」

「それはクロムちゃんが見てみたいだけでしょ〜」

「おう!!」

「わ〜清々しい笑み!!」

 

 ペカーと輝く笑みを見せるクロムを傍目に、千空がボロスに水を向ける。

 意見を求められたボロスは組んでいた腕を解き、懐から何やら取り出して、皆が見えるようにそれらを机の上に置いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「賢者の石が……2つ?」

「あれ? 賢者の石って2個あったっけ?」

「私が後で話そうと思っていた事が、千空の話に繋がるかもしれない。だからまず、賢者の石について話そうと思う」

 

 何で賢者の石が2個あるのかと頭にクエスチョンマークを浮かべる彼らにボロスは口火を切る。

 

「私がこの数日取り組んでいたのは、賢者の石の解析と複製だ」

「ほう、てことはどっちかがオリジナルでどっちかがボロス作の賢者の石か」

 

 見た目も手触りも重量でさえも全て同一のそれは、どっちがオリジナルなのかは分からない。

 しかし大きく異なる点がある。

 

「私が創った賢者の石は未完成だ。具体的には石化光線が出せない」

「とどの詰まり失敗ってコト〜?」

「いや。何が原因で石化光線が出ないかは分かってる」

「ククッ焦らすなよボロス。早く言えその原因をよ」

「そうだそうだ!!」

 

 やいのやいのと詰められたボロスは、焦らすつもりは無かったと呟いてから、続きを語るべく口を開く。

 

「石化光線の大元は―――魂だ。それも人の魂」

 

 絶句する彼らに、ボロスは淡々と事実を述べる。

 

「私の賢者の石には人魂が入ってない。石化光線が出ないのはそのせいだ」

「―――ちょっと待ってくれないか?」

 

 現実逃避をするように、掠れた声を上げたのは司だった。

 

「魂の存在を否定するつもりはないし、ボロスの話も嘘だと決めつける訳では無いが、1つ確認したい。石化装置のエネルギー切れはつまり、何を意味する?」

「魂の解離……で間違いないと思う。……安心しろ司。魂を使い潰している訳じゃない。人の魂を無機物に留めてんだ。時間が経てばいずれ解離した筈。現状これしかオリジナルが無いのもその要因だろう」

「そうか……」

 

 ホッと一安心したのは司だけではなかったのは言うまでもない事だろう。

 

「話を戻そう。人の魂は凄まじいエネルギーをもつ。もし師匠の目的が私と千空とDr.Xの魂ならば、話の整合性は取れる。だが少し納得がいかん。賢者の石の素材にするには勿体無さ過ぎる」

「じゃー何だよニコラの目的はよ」

「それこそクロム、君がさっき言ってた通りだ」

「え? 科学話に花を咲かせるってやつ?」

 

 キョトンとした顔でクロムが自身の顔を指で差した。

 

「何か壮大な目的のために、集めているのかもしれないな。世界トップレベルの科学者、それも万に通じる科学者2人とこの世に2人しかいない錬金術師。このメンバーで何かをするつもりなのかもしれない」

「ククッ、だとしたら100億%唆るがな」

「ああルミヤーに楽しみだが、いかせん師匠の思惑が分からない」

「ともかく、最悪を想定して動くべきだ。ボロス、何か策でもあるのか?」

 

 鋭い眼差しで、龍水がボロスを見る。

 魂を抜かれないように、どうにかする術はあるのかとボロスへと投げかけた。

 

「師匠がどれ程魂の取り扱いに長けてるかは分からない。それを踏まえた上でひとつ策がある。ダイヤモンドで身を固める事だ」

「「「ダイヤモンド???」」」

 

 龍水と羽京とゲンの声がハモった。

 

「賢者の石にはダイヤモンドが使われていてな、このダイヤモンドが魂を賢者の石に引き留める(アンカー)と保護の役割を果たしている」

「だがそれにしても、ダイヤモンドで身を固めるのは些か無理がないか?」

「ひとまず頭と胴体が包まれていればオッケーだ。具体的な詳細は後々詰めていくし、千空はもちろんDr.Xの知識も借りたい」

「あ゛あ、なんぼでも貸してやるよ」

 

 ひとまず情報共有が終わり、懸念となった魂云々も一段落したことで、彼らは各自自分の仕事へと戻っていった。

 

 

 その同時刻、地球の裏側でも同じく彼らは顔を突き合わせていた。

 

「――んで、どうすんだよゼノ。相手の科学力がこちらを上回ってる可能性があるんだぜ」

「フッ、科学VS科学。ライトサイドの科学使いとガチ対決か。負けられないねぇこの戦いは!」

「(千空とかいう高校生のガキが日本(JAPAN)にいる事を知ってから、心なしかハッピーだなゼノの奴)……結局どうすんだよ」

「焦る必要はないDr.ブロディ。我々はこれから、サリンの製造に移る」

 

 ゼノのその発言に、ブロディが瞠目する。一方で長年の友で幼馴染であるスタンリーは当然の如く受け止めた。

 

 サリンは毒ガス兵器だ。第一次世界大戦で使われ、その後現代に至るまで、世界の歴史に度々登場している。

 例えば、2013年シリアの内戦で複数回使用されたり、1995年日本の地下鉄で行われた地下鉄駅構内毒物使用多数殺人事件(Tokyo Sarin Attack)などだ。特に後者に関して、日本人で知らない者はいないだろう。

 

「そんなもん造れるのかよ」

「ああ勿論。コーン用の有機リン系農薬製造プラントを少し弄ればいい。そこはDr.ブロディ、君の腕にかかっている」

「オーケー任せな」

 

 旧イラクのとある化学兵器複合施設は、表向き農薬や農業用化学品の製造プラントと称していた。だがその実態はサリン、VX、マスタードガスなどを造っていた訳だ。他にも北朝鮮は石化前の時代でも農薬や化学肥料の工場と称しているが、神経剤製造拠点の疑いが高い。

 

「さぁ、各自動いておくれ。戦争の準備だ」

 

 ――そもそもの始まりは、モールス信号による、“WHY”の連呼だった。

 ある程度の科学文明を取り戻し、重火器と銃弾の大量生産が軌道に乗ったゼノ達が、次に建築したのはパラボラアンテナだった。

 

 自身達が復活したように、どこかで誰かが復活しているのかもしれない。

 そうなれば、必ず他の復活者と連絡を取るはずだ。

 そして、電波を扱うという以上、そこには優秀な科学者が絡んでいる。

 科学による独裁を目指すゼノにとって、電波で交信してくる輩は基本的に抹消対象だ。生き残る道は傘下に降るのみ。

 

 だがいの一番にキャッチした電波はホワイマン――ニコラ・フラメルによる通信だった。

 

 前触れも無く急に現れた電波。

 

 何故"WHO"ではなく“WHY”なのか。

 しかも執拗に何度も何度も繰り返した。

 

 ゼノはたった2つのこの出来事から、相手が石化現象の元締めであると結論づけた。

 それと同時に、この地球のどこかで電波を使えるほど科学文明を発展させた科学者が存在することも確定した。

 

 悔やむべきは、短時間過ぎて石化現象を齎した元凶の居場所を逆探知できなかったことか。だがそれも、2年後には解決した。

 

『12800000 m 1 second』

 

 地球を包むと何度も繰り返し空から垂れ流して来たからだ。

 逆探知によって敵が月面にいる事が分かった時、驚かなかったと言えば嘘になる。

 だが、次の瞬間に傍聴した言葉が衝撃的過ぎて、ゼノはその時の記憶をあまり覚えていない。

 

 石化現象の元凶は、かの伝説の錬金術師ニコラ・フラメルその人だった。

 

 偽物か、本物か。

 ニコラ・フラメルのネームバリューをゼノは知っている。

 

 どうやって月に住んでいる?

 そもそもどうやって月に移動した?

 現代では月に誰もいなかったはず。

 まさか本当に、本物の――。

 

 その結論を下した時、ゼノは心の底から『エレガント』と思わざるを得なかった。

 もし自分が錬金術を使えていればと、夢想せずにはいられない。自分なら世界をより良くできたと確信する。

 

 科学を理解してない無知蒙昧どもを息を吸うように容易く滅ぼせる。錬金術を使えば凶器のない完全犯罪の成立だ。

 そして衆愚を導く事ができる。独裁者になれる。

 現代の科学力では到底実現不可能だった現象が、錬金術で実現可能となる。

 他でもない石化現象が、錬金術の有用性を示していた。

 

 興奮による心臓の高鳴りは、己が手塩に育てた弟子のような存在、石神千空の存在を知ってからより激しいものとなったが、しかし直ぐに収まる事になる。

 

 何故なら、ボロスという錬金術師の存在を知ったからだ。しかもニコラ・フラメルの弟子の可能性が高い。

 そいつが千空と行動を共にしているということは、ある意味最悪だ。

 

 科学とは、力だ。

 そして錬金術とは、無限の可能性だ。

 ならば今、あちらには無限の力がある。

 

 重火器などでは抵抗できない。

 もっと強力なものを造らなくては。

 

 できることなら、核兵器を造りたかった。

 だが高精度の爆縮レンズやナノ秒単位でのタイミング制御、耐熱・耐放射線素材など、足りないものが多すぎだ。そもそものウランやプルトニウムが無い。アメリカにもワイオミング州やニューメキシコ州などにウラン資源はあるが、核兵器1発に必要な濃縮ウランは約25キロ必要であり、そのためには数tの天然ウランが必要になる。超小型にしても、濃縮時間を加味すればまったくもって時間がない。

 

 千空らがアメリカに来る事は確定済みだ。

 向こうが船で来るのは予想できる。なら、到着時間は最短で1週間。猶予を持てば1ヶ月。

 その間に、サリンを完成させなければならない。

 万が一にも失敗すれば、僕らが世界を牛耳る事ができなくなる。

 

 ……千空はまさに光の科学者だ。

 たとえ相手が犯罪者であろうと、手を差し伸べてしまうだろう。そうなってしまえば、その優しさが彼の道を閉ざしかねない。

 かつての僕のように、単なる好奇心と純粋な興味で犯罪者の烙印を押されかねない。

 科学をろくに理解してない輩のせいで、人類の発展と進化、革命を妨げられるだろう。

 

 そんな事は赦されない。赦されていい筈がない。

 

 ブダペスト宣言など知ったものか。

 文明が滅びた今、かつての法律倫理などは適用されない。

 

 科学者(僕ら)は今、真に自由なのだ。

 

 故に、僕は科学をもって地球を制す。

 僕の科学で世界を独裁する。

 

 もしくは、協力して――2人が組めばより確実になる。ボロスも含めれば、もはや絶対だ。

 だが千空がそれを受け入れる未来は決して来ないだろう。

 

 そうなってしまえばもう、殺すしか無い。

 

 せめて、闇を知る前に死んでくれ。

 それが僕の願いであり、君にしてあげられる最後の授業だ。

 

 

 

 

 さぁ、実にエレガントな――新時代初の日米戦争を始めようじゃないか。

 




 科学と科学的知識の利用に関する世界宣言(ブダペスト宣言)(1999年7月1日採択)
1. 知識のための科学;進歩のための知識 (Science for knowledge; knowledge for progress)
2. 平和のための科学 (Science for peace)
3. 開発のための科学 (Science for development)
4. 社会における科学と社会のための科学 (Science in society and science for society)
 この宣言は、科学と社会との関係を見直し、科学が一部の人々利益だけでなく、人類全体の幸福のために活用されるべきという国際的な共通認識を形成した。
 特に今日のようにAI、ゲノム編集や気候変動、感染症などの問題が複雑化する中で、この宣言の理念は重要視されている。

 一応補足ですが、ゼノ達は月からの放送はキャッチしてますが、千空らの声はキャッチできてません。日本からアメリカまで電波が届かないんだ。
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