でも今回も8000文字あるよ!
オレンジバーになってしまい悲しい。一体何が悪かったんだ……。何気に初めてだぜオレンジバー。
何かアドバイスがあれば、ぜひメッセージ機能を使って送ってください。反映するかは別として、ちゃんと考えます。
甲板での出来事は見えずとも、音は聞こえていた。
甲板に着弾する銃弾の鈍い音。
何かが爆発した音。
そしてボロスが残したサリンの一言。
最後に静寂。
「……なぁ、サリンって何だよ? 何でこんなに静かなんだよ……」
「ボロスは負けちゃったんだよ?」
青褪めたクロムが、震えるスイカが最悪の事態を想像する。
そして、何があったのか悟った千空と龍水は同時に指示を飛ばした。
「サリンは船内にまで侵入してくる!! 急いで船を捨てるぞ!!! 窓から逃げろ!!!」
「バトルチームは盾を持って皆の護衛を!! 二人一組あるいは三人で行動しろ!!」
途端に騒がしくなる船内。
サリンの一言で現代組は青褪め、冷汗を流しながら船内の窓から海へと飛び込んでいく。
次々と海へと飛び込んでいく中、千空と龍水はラボカーへと走る。
「どうする千空!? 我々にサリンの解毒薬など無いぞ!!」
「クククッ、科学で何とかすんだよ。その為にラボカーが必要だ」
そんな2人の背中を見つめる男が1人。司だ。
「(うん、ひとまず甲板の状況を知る必要があるね。もし甲板に敵がいたら殺されるかもしれない)」
チラリと氷月に視線を向ければ、コクリと無言の首肯が返ってきた。
2人揃って息を吸い、肺に酸素を留め、一気に甲板へと飛び出した。
「(軍人が1人。サリンを吸って倒れてるようだね。他に敵影は無し)」
司が状況を把握する中、氷月がボロスを背負い海へと飛び降りた。それを認めた司も、泡を拭いて痙攣しているシャーロットを横抱きにし、海へと飛び降りる。
「ボロスの様子は?」
「額を撃ち抜かれてますね。どうやら敵には凄腕のスナイパーがいるようです」
「まずいな」
「ええ。詰み寸前です」
これからどう動くかと思案する中、船の後方からラボカーが飛び出し、着水。
そのラボカーから、千空の声がスピーカーで響いてきた。
『サリンは水で分解される! 海に潜りながら陸を目指せ!』
龍水に運転を任せ、千空はラボカーの中をごちゃごちゃと何かを探す。
「(何かある筈だ、何か役に立つものが……!!!)」
一瞬、視界の端に何かが映る。
瞬間、千空の脳裏に地下鉄サリン事件に関する情報が蘇る。
『――サリンは熱や水で容易に分解し、フッ化水素とメチルホスホン酸イソプロピルに変化し、さらに後者はメチルホスホン酸とイソプロピルアルコールに分解する』
『塩基性条件下で加水分解が加速されるのを利用して、サリンの除染には塩基性水溶液が用いられる』
「(思い出せ、必ず俺の海馬に眠ってる……!!)」
『地下鉄サリン事件での応急処置に使われたアトロピンは植物の――』
「ッ、チョウセンアサガオだ!!!」
チョウセンアサガオからとれるアトロピンは応急処置に使われた。
神経伝達を妨げる作用を持つアトロピンは毒であるが、化学兵器のサリンに対しては拮抗薬となったのだ。
「チョウセンアサガオだと!!? それは酔い止め薬じゃ無かったのか!!?」
「他にも使い道があんだよ!!
サリンは神経伝達物質のアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、神経の興奮や筋肉の緊張状態を持続させて死に至らしめる!!
一方で、アトロピンはアセチルコリンの受容体に、かわりに結合することで、筋肉の緊張などを妨げる!! このアトロピンの作用は毒だがよ、サリンの作用に対しては時間稼ぎになんだよ!!!」
「そうか!! 詳しくは分からんが希望はあるんだな!!?」
「ある!!! これから俺達は毒を以て毒を制すんだよ!!!」
科学的根拠に基づき断言した千空は、ソッコーでアトロピンの抽出に入る。
だがその作業を、外から聞こえてきた銃声によって妨げられた。
「妙な真似すんじゃねぇよ。お前らが攻撃しない限り、こちらも当てるつもりはない。分かったら全員、両手を頭の後ろに組んで地に伏せろ」
明らかに敵の声だ。
「どうする?」
「クソ、とりま従うしかねぇ……!」
ラボカーから龍水と共におり、足で海水を掻き分けながら浜辺に上がり両手を頭の後ろで組んで地に伏せる。
抵抗したのだろう、マグマとモズの腕が撃ち抜かれて血が出ていた。
一部の人間は怯えながら、また一部の人間は敵意を滲ませながら、全員が浜辺に伏せて両手を頭の後ろで組んだ。
「シャーロット! 大丈夫かシャーロット!!!?」
軍人の1人が、司の側に置かれたシャーロットに気付いて駆け寄る。その瞬間、司は無意識に力を込める。
「(制圧して人質に……。いや、彼女が死んだら拙いな。ここは治療を受けさせてあげよう)」
解毒薬らしき物を注射されるシャーロットを傍目に、司は敵のリーダーが誰かを伺う。
「(あの男だな)」
本能とでも言うべきか、司の戦闘本能が誰が軍人のリーダーか察知してみせた。
「(ゼノから聞いた石神千空の特徴に該当するのは……)」
その敵のリーダーらしき金髪の男が煙草を食みながら歩を進め、千空の前で立ち止まる。
「お前だな。石神千空ってのは」
「あー、大正解。100億万点やるよ」
伏せたまま、千空は片腕を挙げてひらひらと振る。
「初めましてだ石神千空。俺はスタンリー・スナイダー。軍人だ。そして俺達には2つの指令が、我らがリーダーDr.ゼノより下された」
ゼノが造った銃を片手に、その男――スタンリー・スナイダーは千空へと歩を進める。
「敵の
千空の前で立ち止まったスタンリーは膝をつき、銃口を千空の後頭部に軽く押し当てた。
「錬金術師は殺した。あとはお前だけだ。石神千空」
――カチャリと、撃鉄が静かに音を立てる。
死を目前にして、千空は酷く冷静だった。
うなじに死神の吐息を感じながらも、千空は口の端を吊り上げ、勝ち気の笑みを浮かべた。
「その割には随分とまぁ、お優しいじゃねえか」
「……言ってみろ」
「まず、海上で効果は薄いサリンを使った事。船を捨てた俺達を何時でも撃てるのに撃たなかった事。腕だけを撃った事。――つまりテメーらは殺戮が目的じゃなく、交渉が目的だ」
「そうだな」
「そして俺を撃たない理由は、俺しか復活薬のレシピを知らない可能性を考慮してるからだ」
「ハッ、やっぱり頭キレるなお前。だがお前を撃たない理由はあともう一つある」
銃口を千空の頭から外し、スタンリーは疑問符を浮かべる千空の腕を掴んで立たせる。
「もう半分の理由は、単に俺がお前を撃つつもりはないということだ」
「は? いや何でだよ」
千空は知る由もない。
スタンリー・スナイダーは幼馴染のゼノ・ヒューストン・ウィングフィールドの事を憂いている。
2人が幼かった頃、ゼノはいつも目をキラキラさせて科学を、世界を、宇宙を見ていた。
だがいつからか、ゼノの瞳から輝きは消えた。
降り積もったのだろう。クソな大人達への不満が。
1番の始まりはゼノが
そして少年院で何を体験したのかは想像しか出来ない。きっと劣悪な環境だったのだろう。大人が子供を搾取するような出来事が日常だったのかもしれない。1ヶ月にも満たない短い服役――もしかしたらゼノの能力に目をつけた大人による薄汚い取引があったのかも――だったが、出てきたゼノは昏い目をしていた。
これを契機に、ゼノは科学を悪に転用することも考えていた。
ドローンを造れば『爆弾を持たせれば、特攻ができる』と呟いて。
ゲノム編集を知れば『未知のウイルスを蔓延できる』と囁いて。
かつて宇宙と世界に憧れを抱いていた少年の姿はどこにもなくなった。
だがある日のこと。ゼノの瞳に輝きがあった。
聞けば日本にエレガントな少年がいると語ってくれた。かつての己の生き写しのように、科学と世界と宇宙に憧れを持つ少年がいると。
ゼノがその少年、石神千空とメールでやり取りしてる間は、ゼノの目は輝いていた。
それは3700年後の今でも変わらない。日本に石化から復活して生きている事を知ったゼノは目をキラキラと輝かせていた。
ゼノは確かに言った。
敵の科学リーダーを消せと。石神千空を殺せと。
だがスタンリーは、それだけはダメだと思った。
石神千空だけは殺してはいけないと思った。
だって殺したら、もう2度とゼノの目に光が宿らない。
たとえ独裁者になったとしても、そんな気がしたのだ。
それは幼馴染のスタンリーにとって、耐えられない事だった。
だからこそ、ゼノの命令に背いて千空の頭から銃口を外したのだ。
「だが殺さないのはお前だけだ。お前以外の人員は殺しても構わないと思っている」
「……」
「さぁ選べ石神千空。ここで全員死ぬまで抵抗するか、誰も死なずに俺達アメリカの科学王国のメンバーになるか。……あと石化復活薬のレシピも頂くぜ。ここで誰が死のうと、石化復活薬のレシピさえ分かれば人員の補充なんて幾らでもできるかんな」
もし千空がゼノのようだったら、きっと容赦無く仲間を切り捨てただろう。
だがゼノ曰く、千空は光の科学者。仲間を見捨てることはできやしない。
そう睨んだ通り、千空は苦虫を噛み潰したような顔で降伏を宣言し、石化復活薬のレシピを伝えた。
「よし、仕事は終わりだ。撤収すんぞ」
ゼノのいるアメリカ科学王国本部に戻るため、軍人達がテキパキと元日本科学王国の人間達を縄で繋いでいく。
武器は押収され、腕と腹を何重にも巻かれて繋がれていく。
「うわぁぁああんん!!! ボロスみたいに殺されちゃうんだ僕たち!!!」
「殺されねーよ銀狼。俺達は捕虜みたいなもんだ。抵抗しない限り銃口は向けられない」
「ホホー、ラボカーちゃんも連れてかれるのね。ここで壊されなかったのはひとまず安心じゃわい」
「(フゥン、認めよう。この場は我々の敗北だ。だが今は雌伏の時)」
「(反旗を翻す時は、ボロスちゃんが復活した時だね)」
一部は未来を憂いながら、あるいは知略を巡らせながら繋がれていく時、コハクが司と氷河の異常に気付いた。
「どうしたのだ2人とも? 妙に呼吸が荒いぞ」
「うん、これはもしかして……」
「ええ、サリンの中毒症状が出ているようですね」
加えて、筋肉の震えと唾液の増加。
サリンは皮膚からも吸収され、少量であっても中毒を引き起こす。
今回の場合、触れたとしても直ぐに海に飛び込んだ事で症状が後から出てきたのだ。
「サリン中毒か!! おいスタンリー、薬をくれ!!」
「無いね」
「はぁ!? まさかあの1本しか持ってなかったのかよ!!?」
「元々あれは千空お前だけに使うつもりだった。だがお前はピンピンしてたかんな、シャーロットに使わせてもらった」
司と氷河が死んでも構わないのだろう、スタンリーは淡々とした口調で千空に返す。
「なら本部に行けば作れるんだな!!?」
「それはゼノに聞いてくれ」
「っ、俺に時間をくれ。ソッコーで薬を作る」
「自由にするとでも?」
「科学に誓って、薬以外何も作らない。それじゃダメか?」
強い眼差しだ。ギラギラ輝くような千空の赤い瞳をじっと見つめ、そしてスタンリーは頷いた。
「良いぜ。必要ならお前のお仲間も使って構わない」
許可が出た途端、千空は怒涛の勢いで指示を出し始めた。
サリンの症状は時間と共に深刻化するのだ。声が荒ぶるのも無理はない。
千空の指示を受けたコハクがラボカーに司と氷河を突っ込み、助手としてクロムがラボカーに入り込む。
「(ソックリじゃん。でも真反対だね)」
千空は誰かを救うために、眩しい光を放つ。
ゼノは誰かを殺すために、目映い闇を放つ。
ゼノが彼を光の科学者と呼んだ一端が分かった気がした。
「歓迎しよう。これが我々の住む城だ」
サクラメント地区に建設された鉄の城。
開けた場所に建てられたその建物は、日本組の度肝を抜いた。
カセキなんて興奮し過ぎて服ごと縄を破いて銃を突きつけられてしまった。
そんな騒ぎがありながらも、千空は他のメンバーと別れてゼノがいるという応接室に通された。
部屋に集ったのは千空、スタンリー、ゼノ。そして担ぎ込まれたボロス。
ゼノにとって千空が生きている事は予想だにしなかったのだろう。一瞬驚愕に目を見開いて、それでほんの少し微笑んだ。
それだけで、スタンリーは自身の判断が間違っていなかったことを確信する。
「やぁ。改めて初めまして。Dr.千空」
「あぁ。初めましてだ。Dr.ゼノ」
勝者として不遜な笑みを浮かべるゼノ。
敗者としても勝ち気の笑みを浮かべる千空。
「おっと、これでは握手はできそうにもないね。スタン、彼の縄を解いてやってくれ」
「いいのかよ、んなことして」
「構わないよ。スタン、君が側にいる限り千空は抵抗しない。凄腕の軍人相手に無意味に抵抗する程、彼は愚かじゃないからね」
「へいへい」
腰から取り出したナイフで千空の縄を断ち切り、自由になった千空は腕を揉んでからゼノへと手を差し出した。
「そしてこの男が君たちの錬金術師、ボロスで間違い無いかな?」
「あぁ。俺達のジョーカー、ボロス・フラメル様だ」
道中、スタンリーがボロスの生死を確かめた。
頭部は銃弾によって貫かれており、心臓も鼓動を止めている。
誰がどう見ても死んでいるように見えた。
「完全に死んでんぜ」
「スタンがそう言うならそうなのだろう。ふむ……」
とはいえ、未知である錬金術師の肉体には科学的好奇心が唆られた。
ゼノは上裸に脱がしたボロスの肉体に手を触れる。
「(死斑が薄い上に押したら直ぐに消えるということは、死後1時間程度。顎の硬直はまだ始まったばかりだね。なら、死んでから1時間で確定かな。うん、スタンの報告時間と概ね一致するね……)……ん?」
不意にゼノは鉄片が食い込んでる肩に顔を近付け、保護爪で破片を取り除く。
そして露わになった傷口をじっくりと見つめた。
「……おぉ、実にエレガントだ!! 見ろスタン!」
「なんだ?」
「細胞の増殖が始まっている! 傷口が癒える、つまり細胞のサイクル――」
「オーケー分かった。纏めると?」
「ボロスは並外れた治癒能力、いや再生能力を持っている!!」
じわりじわりと、鉄片を取り除いた傷口が塞がっていく。
「出血に対して傷口が小さく少ないと思えば、こんなカラクリがあったとは!!」
「死んでんのに妙だな」
「おそらくだが、脊髄反射による再生だと考えられる。切り離したトカゲの尻尾が蠢くように、この肉体はまだ脳が死んだことに気付いてない」
「つまりそのうち確実に死ぬと?」
「間違いないね」
実にエレガントだと再三と呟いたゼノに、傍観していた千空が声を掛ける。
「気は済んだか?」
「解剖しても構わないかい?」
「それは勘弁してくれ。一緒にクラフトした仲なんだ。丁重に弔いたい」
「ふ、そうだね」
始めから断られることは目に見えていたのか、ゼノの顔に落胆は無い。
「おお、そうだ。サリンの
「あぁ。おありがてぇ」
「でも一体どうやってサリンの進行を止めたんだい? 君たちは僕たちがサリンを使ってくると読んでいたのかい?」
「船酔い対策としてチョウセンアサガオを積んでてな、そっからアトロピンを抽出した」
「おぉ、実にエレガントだ千空!! まさか毒で毒を制すなんて!!!」
千空の科学的手段でサリンの進行を防いだ事を知り、ゼノの目が輝いた。
それを認めて、今まで空気に徹していたスタンリーが口を開いた。
「んで、これからどうすんよ」
「月に行く……前に、3700年前に文明を崩壊させた石化光線の発生地に向かう」
「ふーん。そうか」
「ああ。そのためにも千空、君の協力が必要不可欠だ。覚えているだろう? あの時どの方角から石化光線がやってきたか」
「ククッ、たりめーだろ」
「おお、では互いに知見を持ち寄ろうではないか。新世界ツートップの科学者2人で、石化光線の源に躙り寄る!!」
「あ゛ぁ、唆るぜ。これは」
そして始まったゼノと千空の科学談。
話についていけそうにないと早々に諦めたスタンリーは、ボロスを担いで応接室を出る。
向かう先は、捕虜がいる大広間だ。
扉を開いて足を踏み入れた途端、捕虜の1人から流暢な英語で話しかけられた。
「あの、私達は一体どうなるんですか?」
若い女だ。貝を2つ、頭に角のように着けている。
「別に殺す訳じゃない。そのうち各々仕事を振られるだろう」
「仕事? ……わっ!?」
その女に、ボロスの死体を投げ渡し、スタンリーは煙草を咥える。
「そいつは返すぜ。埋めるなり焼くなりなんなりしな」
「フゥン、それはありがたいが、美女に対するその仕打ちは看過できんな!!」
ボロスの死体を無理矢理受け取らされた北東西南はよろめき、龍水に支えられる。
「うぇ〜んボロスちゃぁあああん!!!!」
「うぉおおおおボロスぅううううう!!!!!!」
ボロスを半ば強引にゲンが受け取り、大袈裟に泣き始めた。
それにつられるように、大樹が慟哭する。
「死なないって、言ったじゃないかぁああああ!!!!!」
ボロボロと大粒の涙を流し、動かないボロスを抱きしめる。
「ボロスお前はこんなところで、死んでいいわけ……死んでいいわけないだろぉおおお!!!! ――っ、そうだ心臓マッサージ!!!!」
ボロスの額に空いた穴が見えていない訳が無いだろう。
もはや誰がどう見ても死んでるのに、それでも大樹は諦めきれずにボロスの左胸を強く押す。
「戻ってこいボロス!!! お前が必要なんだ!!!!」
何度も何度もボロスの左胸を押し、効果があるのかどうかすら分からない心臓マッサージを続ける大樹。
死後1時間近く経ってるのだ。通常であれば、もはや蘇生される可能性はゼロに等しい。
「ボロスお前は人類の! 文明の!! 希望の光なんだ!!! 頼む戻ってこい!!!」
だがそれでも大樹は諦めない。
だってボロスは常識で測れない存在だ。死後1時間経っても蘇生できるかもしれない。
可能性はゼロじゃない。
ゼロでないならワンチャン目指して頑張るだけだ。
そう、頑張るだけなら、大樹の得意分野だ。
「聞こえてるかボロス!!!? 俺は諦めないぞ!! 何度でも何度でも、何千回何万回だろうと続けてみせる!!!!」
その慟哭が波紋を広げるように周りに伝播し、杠が膝を折る。
彼女だけじゃない。スイカが泣いて、羽京が俯き、クロムが強く拳を握りしめた。
「悪いが一旦外に出てもらっていいか?」
「……扉の外で待ってやんよ。お前ら、外に出ろ」
龍水がスタンリーにそう頼み、承諾したスタンリーは軍人と共に大広間から出ていった。
それを認めて、龍水は控えめに指を鳴らす。
「ハッハー!! 良くやった大樹!! 素晴らしい演技だ!!!」
小声で叫ぶという器用さを発揮しながら、龍水は大樹を褒め称える。一方、褒め称えられた大樹は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「どういう事だ?」
「ボロスちゃんは死んでないってこと」
「なに!? そうだったのか!!?」
「まぁ、大樹ちゃんのあれで俺もてっきり、本当に死んじゃったかと思いかけたけどね」
ゲンの泣きは演技だが、大樹は本当にボロスが死んだと錯覚していた。だがそのおかげで軍人達を退け、こうして仲間だけの空間を作ることができた。
「聞け!! これからボロスを埋葬する。奴はこんなもので死にはしない。いつか復活する時を待つんだ!! 違うか!!?」
「それまで俺らは従順に彼らに従うってこと〜」
ボロスの生を信じて疑わない2人に、皆の心に希望の火が宿る。
「覚えてるよね〜みんな。人類最強の司ちゃんが治める帝国が千空ちゃん達科学王国に敗れたわけ」
ゲンのその言葉に、大樹と杠がハッとする。
千空の死を偽装して、2人は司帝国にスパイとして潜入し、工作活動に勤しみ、最終的には司帝国のほとんどのメンバーを寝返らせた。
今回も一緒だ。
ボロスの死を偽装し、アメリカ科学王国のメンバーとなり、その時を待つ。
「良いか!!
突き上げられた龍水の拳。
呼応するように、日本科学王国の拳があがる。
それは静かな、日本科学王国の鬨の声だった。
ボロスの葬式は慎ましく行われた。
その死体は棺桶に入れられ、ゼノの城から少し遠い場所に埋められた。
いつか来たる彼の復活を信じて、ボロスの埋葬を皆が見守る。
土を掘り、棺桶に入ったボロスに一言皆が告げていく。
『信じてる』
かける言葉は違えど、根本は全て共通している。
それはボロスに対する無類の信頼。全幅の希望。
蓋を閉め、スコップで土を掬い、棺桶が入った穴に入れる。
平らになった地面に、墓石代わりの鉄板が刺された。
ボロスは眠る。
その耳に奇妙なイヤリングを携えて。
ちなみにサリンを選んだ理由はいくつかあります。
知名度があること。
ゼノなら農薬工場を改造して作れること。
原作にも出てたチョウセンアサガオを使って応急処置薬を千空が作れること。
解毒薬のオキサムがタバコを原料として作れること。その他材料も比較的簡単に手に入れられること。
毒に耐性を持つボロスでも効果があること。
他の有機リン系神経剤と比較してサリンしかない特徴を持つこと。
これらのような理由がありました。なお実際に処方する量をどうするのかは考えてません。まぁ船酔いした銀狼にチョウセンアサガオから抽出したスコポラミン(毒)を処方してたしイケるやろ、と思った次第です。
またまたちなみに、アトロピンだけではサリンの解毒はできません。症状を抑えるだけです。地下鉄サリン事件においても、一部の患者にアトロピンが緊急投与されました。根本から解決するにはオキサムが必要になります。また、脂肪組織に蓄積するので自然で排出を待つのは現実的ではありません。
アトロピンと地下鉄サリン事件の関係性を詳しく知りたい方は『Newton2024年6月号』をご覧下さい。
前書きにも書きましたが、今研究が忙しいので投稿遅れると思います。
でも高評価・感想送ってくれたら早く出るかも。