スタンリー・シュナイダーじゃなかった。
スタンリー・スナイダーだった。本当にすみません。今までの話で該当する部分は直しました。
南緯3度7分西経60度1分
この座標が、千空とゼノが結論づけた3700年前、文明を滅ぼした石化光線が放たれた発生源―――アマゾン川上流。
そこに向け、探査隊が組まれた。
七海龍水を船長とし、搭乗員は石神千空とゼノ。そしてスタンリーを隊長とする特殊部隊のメンバー。加えて、料理人としてフランソワ。
だが1人足りない。
欲しいのは地理学者。3700年前でもアマゾンは全貌が明らかとなっていないのだ。石化後の今なら尚更、どうなっているのか予想がつかない。今までの行脚とは訳が違う。
北極星のような道導として、ゼノ達は地理学者を求めた。
そして幸運にも、ゼノには心当たりがあった。
名も、チェルシー・チャイルド。
僅か10代にして、論文を幾つも書き上げ、著名な科学論文誌に取り上げられた。また、その中でも論文誌の表紙を飾ったものもある。
更に、彼女の得意分野はフィールドワーク。その足で情報を集めて精査する。ゆえに、博識な知識も相まって、彼女の頭の中には地球が丸ごと入っている。
そんな彼女が、ゼノ達も参加していた有識者会議に呼ばれていたのだ。
「我々が後続の復活者のために『北に向かえ』と、この看板を立てておいた。だが合流してないとなると、残念ながら彼女は未だ石に囚われているだろう」
ゼノ達が復活を成し遂げたピナクルズ国立公園に到着し、ゼノは看板を軽く叩きながら皆に説明した。
「おそらくこの近辺に彼女の石像がある。皆、手分けして探してくれ」
―――予想に反し、彼女の石像は5日経っても見つからなかった。
捜索範囲を拡大し、草の根を掻き分けるように探しても、チェルシー・チャイルドの石像は姿も形も見当たらなかった。
千空の幼馴染である大木大樹、彼の実にエレガントな無限の体力でも、見つけ出す事は叶わなかった。
そうなれば、前提が間違っている。
チェルシー・チャイルドは石化からの復活を成し遂げている。
「……少し厄介だね。移動したとなるとその痕跡を辿らないといけない。監視カメラが無い以上、捜索は困難を極めるだろう」
彼女の生死は疑ってない。有名な地理学者で、フィールドワーカーだ。自分で食料や飲料を確保していることだろう。
「ハッ、なら上から探せばいいだろう」
「そうだね。飛行機で探してみよう」
人類最後の宇宙飛行士達の子孫のひとり、コハク。
彼女の意見を聞くまでもなく、元よりそうするつもりだ。
一度サクラメントに戻り、作戦を修正する。
僕らが持つ飛行機と、日本科学王国組が持っていた気球を用いて、空からの捜索を開始する。
シャーロットは実にエレガントな飛行機操縦技術を持っているが、サリンの回復がまだだ。
「なら俺がやろう!!」
誰をパイロットに置くかと考えあぐねた僕を見かねて、七海財閥の御曹司――七海龍水が声をあげた。
日本科学王国組の監視役としてあまり軍人を使いたくなかった僕としては渡りに船の提案。僕は龍水をパイロットとし、その搭乗員に軍人の1人を置き、気球の方に羽京とコハクを搭乗させることにした。
さて、彼ら彼女らがチェルシー・チャイルドの捜索中、僕と千空はやる事がある。
船の製造に関しては、彼らの母船を使えば良いだろと思う輩もいるだろうが、それはエレガントな選択ではない。
サリンは木造船の内部まで浸透する。木材に貯留したサリンが再び気化した場合、サリンによる中毒症状が起こる。
よって、我々は新たに船を造らねばならない。
どのみち、石化光線の発生地に行くためにも造らねばならないものだ。
だが中途半端に手抜きする訳にもいかない。
反乱の意思を持たせないためにも、一目見ただけで敵わないと思わせなくてはいけない。いうなれば、ペリー遠征の再現だ。
つまり、我々は戦艦を造る。
とはいえ、現代の科学を搭載した戦艦は流石に造れない。木造をベースに、武装を施していく形になる。
Dr.ブロディにペルセウス号を参照させて図面を引かせ、カセキと共に鉄を鍛える。
石化復活薬により復活を果たしたアメリカ軍の軍人に加え、日本科学王国のパワーチーム。彼ら彼女らが一丸となり、戦艦の造船が進んでいく。
このペースならば、10ヶ月後には竣工するだろう。
チェルシー探索チームも、ようやくその成果をあげた。
戦艦製造を初めてからおよそ2か月後、チェルシーを発見したと連絡が入った。
「――うわぁあ!!! 人だよね!!? 人が沢山いる!!! やばー!!」
「誰だ???」
気球から降りてきたのは巨大なカボチャ人間だった。
有識者会議で出会った人物ではない。
当初は未知の原住民かと思うような格好も、服装をしかとすれば、ホモ・サピエンスへと進化を遂げた。
「――やばっ、変態過ぎ!! めっちゃありがとー!!!」
「やぁ。Dr.チェルシー。君の知識を借りたい」
「あっゼノじゃーん!!! この都市ってゼノが創ったのー!!? さいこーじゃーん!!!」
一気に文明レベルが上がり、有頂天となっているDr.チェルシーを落ち着かせるべく肩を叩く。
「それで、返事を聞いてもいいかな?」
「もちろんだよー! お礼に何でも手伝ってあげるー!!!」
了承は取った。
しかし船が完成していないため、出港はまだまだ先だ。
だから彼女にはまた別の働きをしてもらう。
「南緯3度7分西経60度1分はアマゾン川のどこか分かるかい?」
「マナウスじゃんねそこ! 1週間のサバイバルツアーしたよー!!」
「なるほど。そこが石化光線の爆心地か」
「え? そうなの?」
事情を知らない彼女のために、今までのあらましを軽く説明すれば彼女は再び気分が高揚し始めた。
あまりにも叫んで落ち着きようがなく、僕は彼女が何か麻薬でもやっていたかと思った程だ。
「どうだい? 我々アメリカ科学王国と共に世界を導かないか?」
「やだー、興味なーい、それ何が面白いのー?」
我々の配下に勧誘したが、良い返事は得られなかった。
だが問答無用で彼女はアメリカ科学王国の民だ。そこに拒否権はない。
協力しないなら、無理矢理でも協力させるだけ。
幸いにも、彼女は僕の問いに正直に答えてくれている。現状、武力で脅す必要は無いだろう。
「おおそうだ。ゴムが欲しいのだが、どこにゴムの木があるか分かるかい?」
「んー…………ここ!!!」
地図を示したそこに、Dr.チェルシーを筆頭にして探索隊を組む事にした。
僕がゴムを求めるのは、何も今後の科学の発展のためだけじゃない。
サリンに侵されたペルセウス号に乗り込むためだ。
千空曰く、石化装置は賢者の石。
錬金術師ボロスがそれを解析した文書がペルセウス号にあるという。
それを回収するためには
彼女達素材回収組みがどれくらいで帰ってくるかは分からない。それまでに化学防護服の下準備をしておこう。
手を動かして集中しなければ、この心の躍動は抑えきれそうにないからね。
「――これが石化装置、いや賢者の石の作成方法か!!!」
千空と一緒に、ペルセウス号から回収した文書に目を通す。
何度も何度も上から下へと読み込んで、満足感と共に椅子の背凭れに背中を預ける。
「今の科学では、たとえ3700年前の科学の全盛期であったとしても、賢者の石を作ることは不可能だね」
「まぁ薄々感じていたがな」
読んでみたところ、製造には錬金術が必要不可欠だ。
まさに賢者の石は、錬金術師しか創れない奇跡の石。
実にエレガントだ。
「魂の収容とエネルギーの運用はともかく、ヒッグス場のコントールか」
「こんなちっぽけなモンに似合わねぇ程高性能でビビりまくるわな」
分からない事が分かった。
我々の科学ではお手上げだ。碌な解析装置が無い以上、推測でしか分からない。
「それにしても奇妙だな。ヒッグス場のコントールが要を握るのは分かるが、ただ単にヒッグス場からの抵抗を増やしたところで石化は起こらない筈だ」
「……抵抗を増やしてんのは、細胞の保存のためか?」
「そうだね。質量が重ければ時間の流れは遅くなる」
実際に、東京スカイツリーの高度450メートルの展望台と1階では時計の進み方が約10のマイナス11乗%だけ違う。
「無限に質量が重ければ時間の流れは、はたから見れば止まって見えるだろう。きっと3700年経っても老化が進まなかったのはそのせいだ」
「なら、石化は自身の重みに耐えるために原子の位相をズラしてる訳だ。じゃねーとブラックホールが誕生して地球滅亡するわ」
「それだけじゃないね。きっと過剰な重力を別次元に逃がしてるだろう」
「あ゛ぁ、同意見だ」
数学的に言えば三葉結び目の賢者の石を手に取り、転がす。
千空も机の上に置いたもう一つの賢者の石を手に取り、しげしげと見つめた。
「ひとまず、解体するしか無いね。詳細な内部構造を知りたい」
「クククッ科学キッズ大好物の分解作業だ。だがこの2つしかない以上、俺らがやる訳にはいかねーな」
「エレガントな技術者が必要だ。それこそ細工、あるいは精密機器を生業とする凄腕の技術者が」
Dr.ブロディは無理だ。あの無骨な手で綺麗に解体できるとは思えない。彼は大型機械専門の技術者だからしょうがないが。
「俺らなら、カセキだな」
「彼しかいないか……。だが船の製造に関わっている以上、無駄な仕事を増やしたくない。条件に一致する人間を探し出そう」
現状復活させた人間は小隊3つ分。つまり90名。
しかしその中から我々の求める人材は見つからなかった。
であれば、新たに復活させなければならない。
幸いにも、高級時計のロデックスの本社がそう遠くない場所にある。そこの技術者トップを起こせばいい。
Dr.チェルシーに地図を描かせ、数人を送り込む。
その結果、ロデックス社CEOが断言した凄腕職人ジョエルを手に入れる事ができた。
「――っ、21世紀の、俺らの知ってる科学じゃねぇな」
「あぁ。御伽噺にしか存在しない賢者の石だ。錬金術という未知の技術で造られた代物であるが……ジョエル、君にこの賢者の石を綺麗に解体することはできるかい?」
「……集中さしてくれ。一言でも話しかけた奴は殺す」
「素晴らしい返事だ。その机の上に賢者の石に関するデータを纏めてある。好きに見てくれて構わないよ」
「……」
ジョエルは既に賢者の石に没頭していた。
僕の声は届いていなかったようだが、寧ろ好都合。それ程までに全神経を解体に割いているとみえる。
なら僕がすべき事は、この場から離れて彼を1人にしてあげる事。
時計技師のジョエルは、どうやら僕が思うよりエレガントだったようだ。
まさか3日と経たずに賢者の石の電源部分まで解体できるとは思わなんだ。
「黒ずんだダイヤモンドが出てきたぜ」
「ふむ。一応聞くが、外して付け直してみたかい?」
「ああ。だが再起動はできなかったな。資料の通りなら、魂が抜けてる」
「そうか。やはり使えるようにするには魂が必要不可欠か……。ありがとうジョエル、仕事に戻って構わないよ」
千空曰く、賢者の石には細胞修復機能がある。
もし賢者の石が使えれば、医者代わりのDr.STONEとして使えたが、使えないようであれば仕方ない。残念だが諦めるしかないね。もはや錬金術師なんて地球には存在しないのだから。
――日本科学王国がアメリカ科学王国に降伏を宣言してから10ヶ月後、その男は暗闇の中で目を覚ます。
キリがよかったのでここまで。
東京スカイツリーの展望台と1階での時計の進み方の違いは、メモから引っ張ってきたので引用元が不明です。でも多分Newtonなんじゃないかな。
ちょっとした裏話。
①シャーロットがもし皆と同じ軍服を着ていた場合、サリンの解毒薬が間に合わず死んでいたと思います。サリンは皮膚からも吸収されるので、軍服を通り抜けたサリンを吸収してしまうからです。しかし彼女はラバースーツ(密閉性が高い)のような服を着ていたため、皮膚からの吸収が露出している部分からしかありませんでした。
……でもラバースーツってゴムから作るんですよね。原作だと当時はゴムが無かったので、おそらく石油から作ったと思います。
②当たり前の事ですが、ゼノ達が率先して復活させているのはアメリカ軍人です。