石化光線速度の数式の導出はchatGPTにやってもらいました。
石化光線の発生地に何があるのか。
それをBlenderで挿絵を作って投稿したいので、投稿がたぶん今より更に遅れます。
でもパソコンのスペック上難しそうなら諦めます。
来たる革命の日。
戦火は日本科学王国の心に点っていた。
具体的にどうやるかは知らない。どうすればいいのかも分からない。
だがボロスが知らぬ間に築き上げていた信頼が、皆の心に熱い火を灯していた。
だからこそ、壇上に立つ千空の一手一足を逃さない。話す声を全身で聞く。
何か起こるとすれば、必ず我らがリーダー千空が行動するからだ。
――つつがなく終わった出港式。
壇上に立つ千空がゼノと向き合う。
瞬間、ピリッと目に見えぬ電流が迸るのを皆は感じた。
ここが、正念場だと。
予定にない出来事だったのだろう。千空と向き合うゼノの片眉がピクリと跳ね上がる。
「なんだい?」
「Dr.ゼノ。日本科学王国とアメリカ科学王国の、仲良しこよしのオママゴトは今日で終わりだ」
「……どういう意味かな?」
「クククッ、分かってんだろ? 元々俺たちはテメーら科学王国の『科学で独裁!』に1 mmも賛成してねぇんだ」
「裏切るつもりか千空!!」
キラキラと煌めいていたゼノの瞳が、黒く染まっていく。
「ハナからそのつもりだった。でも安心しろ。仕事はちゃんとやってた。疑われちゃ水の泡だからな」
「……分かっているのか千空。君たちに武力は無い。どう足掻いても我々には勝てない。もう一度! あの惨状を繰り返すつもりかい!!? 今度は死人がボロス1人で済む話じゃなくなるぞ!!」
黒く染まった瞳が、暗い決意を抱き始める。
それに呼応して、スタンリーを始めとする軍人達が銃を抜き始めた。
「ボケたかゼノ。勝算が無きゃこんな事する訳ないだろ」
「君達にあるのは肉体に依存する純粋な武力のみ。他に何があるというんだい?」
「あと1つ訂正しておくぜ。俺らのジョーカー、錬金術師ボロスは生きている」
その言葉に絶句するゼノと、その側にいたスタンリー。
そんな事はあり得ないと脳が否定する。額が撃ち抜かれているのを確認し、心臓が鼓動を止めているのも確認した。
あの状態からどう足掻いても、生き返ることは現代の科学をもってしても不可能だ。
そんな思考が巡る中、口の端を上げた千空が決定的な言葉を放った。
「10000 m 1second」
「まさか……!!!」
どうやって賢者の石を起動させたのか不明だが、ゼノは一瞬でその思考を棄却し、懐に手を入れた。
そして取り出したのは石化復活液。
この復活液はこの事態を想定して持っていた訳では無い。何か有望な人が居た場合に、直ぐに復活させられるように念の為持っていたものだ。
その可能性を鑑みていたがために、ゼノは賢者の石が起動する前に取り出す事ができた。
瞬間、ゼノの脳裏に描かれる石化光線速度の数式。
$${v(R) = 0.0998 ・ R^{0.775}}$$
「(半径10000 mなら光線速度は時速125 km、つまり秒速34.7 m!! ならば起動してから復活液を真上に投げ上げたら石化は免れない!! 逆に言えば今すぐ投げれば石化してから復活できる!!)」
カチッ
ゼノが真上に投げた復活液を見ていなかった訳でも無いのに、千空は勝ち気の笑みを崩さない。
「またな、ゼノ」
千空の胸元から迸る滅びの光。
瞬間、ゼノとスタンリーの思考が加速する。
「(何故笑ってる? 別の手があるのか!!? クッ、だが石化復活液を投げてしまった時点で僕はここから動けない――)」
「(石化してしまえばあらゆる肉体的損傷は治癒される――なら誰を攻撃しても無意味……詰みだねこれは)」
――千空を中心に放たれた石化光線を浴び、直後投げ上げた石化復活液が石となったゼノの腕に落ちる。
次々と周りの人間が石化していく中、ゼノだけは石化光線を切り抜けた。
「ハァ……ギリギリだったけど、まずは賢者の石を頂こうか」
『流石だ。Dr.ゼノ』
「……!!? まさかその声は……!!!」
千空から聞こえてきた千空ではない声。
その声の正体を悟ると共に、もう一度滅びの奏が鼓膜を揺らす。
カチッ
再び放たれた石化光線。
もはやこれを凌ぐ道は無い。
千空へと伸ばした指先から石化する己の指を見て、ゼノは思う。
「(とどのつまり、僕らの敗因は錬金術師を見余っていたことか……実にエレガントだよ。Dr.ボロス)」
それを最後に、ゼノは沈黙する。
――千空の懐から放たれた石化光線速度は半径10 kmに存在するALDH2遺伝子正常型の人間を全て石化させる。
それは味方をも石化させる攻撃であった。
しかし動く影が1つあった。
ゲンだ。
「……あれ?」
誰かが『石化光線だ!』と言うから体を丸めていたのに、ゲンはギュッと瞑っていた瞼を開く事ができることに驚いて、そして恐ろしい程の静寂に包まれているのに気付く。
立ち上がり、辺りを見渡せば全員石化していた。敵であるアメリカ科学王国はもちろん、コハクもスイカも龍水も司も。
「(宝島で最後に残った千空ちゃんも、こんな気持ちだったのかな……)」
1人だ。
大樹も杠も羽京も、顔見知りのアメリカ人でさえも、誰も彼も石化して、無機質な静寂が横たわっている。
1人だ。
いいや、1人じゃない。
『生き残りはいるか?』
「ボロスちゃん!!?」
『ゲンか』
どこからともなく聞こえてきたボロスの声。その声に安堵を覚えながら聞こえてきた方向に視線をやれば、そこには賢者の石が浮かんでいた。
それがフワフワとゲンに近付き、ゲンの眼前に漂う。
その姿を目の当たりにして、ゲンの脳内はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
なんでその姿になってるの?
なんで話せてるの?
なんで浮いてるの?
とか色々浮かんだものの、ゲンはその全てを飲み込んで安堵の笑みを浮かべた。
「ビッッックリした〜。急に皆固まってくんだもん。なんで俺だけ石化しなかったのボロスちゃん? あと復活おめでとー」
『ああ、石化対象を人間かつALDH2遺伝子の正常型に絞ったからな。酒が飲めない人間しか石化から免れない』
「なるほどね~」
ウンウンと頷いたゲンは、にこやかな笑みを浮かべて1人と1個に視線を回す。
「ともかく! これで俺らの勝ちだねぇ〜!!!」
『ああ。今度こそ、私達の勝利だ』
動くものは、たったの1人。
それ以外に動くものはなし。
つまり、これにて日本科学王国の革命は成功した。
その勝利を味わうように、ゲンは大きく大きく伸びをした。
その後、ゲンはゼノの城からエタノールと硝酸を瓶ごと持ってきて、両者を混ぜて復活液を作り千空にパシャリとかけた。
「クククッ、俺らの勝ちか。まぁ分かってたけどな」
『千空を起こせば後は問題無いな。私は自分の肉体に戻るとしよう。ゲン、ついてきてくれ』
「おう。後は任せろ」
離れていくボロスとゲンを見送り、千空は仲間の石像達に復活液をかけまくる。そして復活した仲間を使ってどんどん仲間を石化から解き放っていく。
復活した誰もが喜びに声を上げ、日本科学王国の勝利を祝う。
「ハッハー! 敵が全員石化している以上、無血革命は成功した!! よくやったボロス!!! ……で、そのボロスはどこにいるんだ?」
元気よく指をバシーンと鳴らした龍水は、辺りにボロスの姿が無いことに首を傾げる。
「今ゲンと一緒にゼノの城に行ってるみたいなんだよ!」
「ふむ、そうか」
スイカにボロスの行方を教わった龍水は辺りを見渡して、自分はここにいなくても大丈夫と判断し、服の裾を翻した。
「俺も城に行ってくる!」
「行ってらっしゃいなんだよ〜!」
「――どうしたんだその姿は!!?」
ボロスの姿を目の当たりにして、龍水は驚きに目を見開いた。
『いやぁ、ちょっと問題が発生したというか……戻れなかった』
「どうすんのよこれ?」
腕があれば頭を掻いてそうなボロスの声に、肉体に戻れない事に関する危機感は感じられない。
『思いの外ダイヤの束縛力が強かったようだ』
「不自由は無いのか?」
『移動に不自由は無いが、錬金術が使えないのがネックだな』
「それはマズくないか?」
『まだ手はある。コハクにダイヤを壊してもらおう』
「それはもっとマズくないか!!?」
「あ、ちょっともう行くの!?」
即断即決とばかりに、フワフワ浮かびながらボロスはコハクがいるであろう出港式の会場まで向かう。
その後をボロスの石像を担いだゲンと龍水がついていく。
途中道具を取りに寄り道をし、最終的には千空の側にいたコハクの元へと着いた。
『コハク、少し頼みがある』
「どうしたんだその姿!!?」
『あ〜……ちょっとハマって抜け出せなくなってな』
「説明面倒くさくなってない!!?」
『間違ってないだろう?』
「そうだけど!」
かくかくしかじかと、ついでにボロスが賢者の石となった経緯も含めながら話すこと数分。事情を理解したコハクが道具を手にした。
『私の予測が正しければ、ダイヤが壊れれば速やかに私の魂は肉体に戻るだろう。魂と肉体の結び付きは強いからな』
「でもボロスちゃん。ダイヤってそもそも壊せるの?」
『劈開面――割れやすい方向がある。そこを狙えばダイヤは真っ二つに別れる』
「了解したぞボロス!!」
カァンッ、と1発。
ダイヤ電池に該当する箇所を、コハクが振るったノミは寸分違わず貫いた。
「これでボロスの魂は賢者の石から解放されたんだよな?」
「た〜ぶんね」
「なら復活液をかけてみよう」
龍水が石化復活液をパシャリとかけ、触れた場所からサァァアアと解除されていく石化。
全身が完全に石化から解除されたボロスは、むくりと横たえていた体を起こした。
「うん、予想通りだったね」
「いや〜良かったよ。もう一生ボロスちゃんがあのままになっちゃうかと」
「ははっ、最悪師匠に頼んでみるつもりだったから大丈夫だったさ」
「ともかく! ボロス貴様のおかげで革命は成った!! 礼を言う!!」
「いや、元はと言えば私のせいだからな。あの時しくじらなければお前達に無駄な時間を過ごさせる事は無かった」
それに返すように、龍水の口が開く前にゲンが両手を叩いた。
「はいはいそこまで! 日本科学王国のハッピーエンド、結論はこれだけで十分でしょ?」
「はっ、そうだな」
「ああ」
「クククッ、そんでもって俺らのジョーカー、ボロス様がこうして復活した以上、もうゼノ達に抗う力はねーよ」
という訳で。
そう前置きした千空は、誰かに制止される前にできたてホヤホヤの石化復活液を石化したゼノにぶっかけた。
「少しは躊躇おうよ!」
「そんなもん時間の無駄だ」
石化から瞬く間に復活を果たしたゼノは、千空を見て、その隣にボロスの姿を確認して、最後にスタンリーの石像を認めて、諦観したように腰に手を当て空を見上げた。
「やはり我々の負けか……。君達が我々に負けたあの日、千空に反逆しないことを誓えさせればよかったな」
「おおかた武力で従えられると思ったんだろ」
「ああ。君達の錬金術師が死んだ以上、残されたのは科学という力だけ。十分に銃で対抗できた」
思えば、ゼノは千空の事を下に見ていた。
どんな科学を築こうが、僕の科学の方が優れていると無意識に慢心していた。
これも敗因の1つだろう。
「さーて、ゼノ。交渉の時間だ。俺らが差し出すのはスタンリー・スナイダーの石化解除。代わりに要求するのは、同盟だ」
「いいのかい? 僕らが反逆しないとは限らないよ?」
「素粒子の世界までに手をブチ込んで、思うがままに操る錬金術を修めたボロスがここに。地球で1人しかいない錬金術師を相手に……NASAのトップ科学者が、唆らねぇ訳ないよなぁ?」
「……ハハッ、なるほど。同盟を呑めば、ボロスが錬金術の何たるかを教えてくれるのか。いや、それどころか科学文明の復活も早まる上に、敵対すれば我々よりも優れた科学で制圧すると」
考えれば考える程、錬金術師という存在がいかにエレガントであるかを思い知らされる。
今はギリギリ科学文明が拮抗しているが、ボロスが復活した今後は、我々アメリカ科学王国を簡単にかつ遥かに追い越していくだろう。
もはやアメリカ科学王国に逆転の道はない。
配下に収めるのではなく、こうして対等の同盟を交渉してくれるだけ温情か。
「良いだろう。同盟を組む」
「ハッハー!! これで真のハッピーエンドというものだ!!!」
「うるせぇ」
――出港式の会場は、日米科学王国同盟成立の会場へと変わり、石化から復活した人達が握手を交わすゼノと千空を、拍手の嵐で包んだのだった。
前回で、『変異型のALDH2*2*2遺伝子は、日本人の約10%が持つと言われている。一方で、アメリカ人はほぼ0%だ』という文章を入れました。しかし交通網などの発達により外国に移住しやすくなり、そこで子を成すなど一概に地理や国籍の分類で酒が飲めるかどうかは言えなくなってきています。
日本科学王国組では、石神村の人達は全員ロシアやアメリカの血が入っていると考えられるので、日本に住んでいるとはいえ、全員石化していました。
ゲンしか残れなかったのも、これが要因です。
ちょっとした小話。
ゲンは原作にて、お酒よりコーラを好むシーンがありました。お酒が飲めないのか、あるいは手先の感覚にズレが生じるから飲まないのか、真偽はともかく、この小説ではゲンはお酒が飲めないとしています。
この設定を活用すべく、ゲン以外復活者無しの状態にして、原作のスイカのようにゲンが1人で石化復活液を作り上げる話にシフトしようかと思いましたが、どう考えてもボロス(あるいは千空)が地球を包み込む必要が無いので、この展開はボツになりました。