タイトルの挿絵を更にブラッシュアップしようと思ったけど、多分パソコン動かなくなっちゃうな……あれでも結構ギリギリだったし。
日米科学王国同盟が成されたからといって、ワイワイ祝う訳では無い。そういう祝いは他の者達が行うとして、日米両国のリーダーとカセキ。そしてボロスを含めた計4名は港の外れまで来ていた。
この沖に、ペルセウス号が沈んでいる。
サリンに侵されたペルセウス号をいつまでも取っておく必要は無く、安全性も鑑みて海の中へと沈められた。
ボロスはそのサルベージをすべく、ここを訪れたのだ。
「――そう、直せるのね。よかったわい。ワシの、ワシらの仲間がもう一度海を走れるのね」
カセキは大人だ。だからペルセウス号を沈めるのに異論は無かった。だが感情は違う。我が子にも等しい存在を、殺すような真似を許せる筈がなかった。
「ありがとね、ボロス」
カセキは地面に手をついて、大粒の涙を流す。
その涙を見て見ぬ振りをして、ボロスはカセキの前に立つ。
「礼は不要だ。仲間だからな」
そう言って、ボロスは水銀を地面に溢した後、パン、と軽く手を合わせて地面に手をついた。
これから始まるであろう錬金術に、ゼノの瞳が否が応でも輝く。
「おおっ、これが噂に聞く錬成陣……!!」
変化は直ぐに起きた。
ボロスが手をついた地面がトロリと溶けるように、水銀へと変わっていく。
そして加速度的に、地面が次々と水銀へと変成していき、海面へと迫っていく。
「ここら一帯を水銀に置換する」
「原子変換だと……!!? 大型粒子加速器も使わず、それどころかこれほどの量の水銀へ核融合するなんて………!!!!!」
ゼノの瞳はもう、キラッキラだ。
「これは生物も非生物も関係なく水銀の材料にしてるのか!!?」
「ああ。一応生物のみ除いて水銀化する事はできるが、複雑な錬金構築式を組まなくてはならないから、今回はやってない。そしてこれから課す条件が『木材と鉄を水銀化するな』という唯一のものだ」
ボロスはもう一度両手を合わせて、水銀の海に手を浸けた。
途端、水銀の海が一際大きな緑色の錬成光を放つ。
「………ふむ」
ゼノは緑に光る水銀に手頃な石の端を浸け、水銀となって雫となるのを確認し、次にハンマーを取ってきて頭を浸けて、水銀化しないことに面白いと声をあげた。
「つまり全身を木材ないし鉄で包めば、この水銀の海を泳げるということか?」
「そうだ」
「木材……細胞壁を対象にしてんのか?」
「いや、木材は木材だ。木材は目で見えるだろ? 私が、もっと言えば人類が『木材』と認識するものを対象にしている」
「AIを使った画像・動画処理染みた事も組み込んでるってことか?」
「そうだな。後からこの条件を取り付けたのも、
そうこうしてる間に沈んでいるペルセウス号まで水銀化が進んだのだろう。程なくして水銀の浸食は停止した。
「次に、ペルセウス号をこちらまで持ってくる」
水銀が蠢き、沈んでいたペルセウス号が水銀の海から顔を出す。そしてゆっくりと岸まで運ばれ、ペルセウス号の傷ついた船体が皆の前に晒された。
「ひとまず船体の修理は私がやるとして、動植物はどうする?」
「あ゛ー、新しく補充するしかねぇか」
「了解。山羊の死体の処理とプランターの調整もしておく」
「ワシ、今仕事無いんじゃが手伝っても構わんかの?」
「もちろんだ。カセキがいれば3日でペルセウス号を元に戻せるな! ……ということで、出発は3日後で構わないか?」
「問題ないよ」
ゼノの許可も出たので、ボロスは大量の水銀の一部を水に戻し、そしてペルセウス号に乗り込んだ。
――3700年前の石化光線発生地に向かうのはペルセウス号ではなく、アメリカ科学王国と共に製造したアキレス号。不死身の英雄の名を借りた軍艦で向かう。
これは単に、アキレス号が既に空母としての役割も持っているからである。ゼノ達が保持している戦闘機も、道中偵察の役割としても必要になるだろうから持っていきたい。そんな理由で船はアキレス号が選ばれた。
そして、航海路も変更された。
元々の航路は、南米大陸の最南端にあるホーン岬を迂回し、ブラジルまで向かうつもりだった。
しかしパナマ運河を通過することで、航行日数を大幅にカットする事ができる。
3700年たった今、パナマ運河は間違いなく塞がっているだろうが、そこはボロスが破壊するらしい。
アキレス号は太平洋を順調に進み、件のパナマ運河へと辿り着いた。
戦闘機で偵察に出た龍水とコハクからの無線で、やはりパナマ運河は塞がっていたそうだ。
「んで、どうすんよ?」
「無論、ここから破壊する」
ボロスがどう破壊するかは、トップシークレットと言われて話してくれなかった。ただ千空とは話し合っていたため、どうやら千空はボロスがこれから何をするか知っているらしい。
「作るのはレールガンだ」
「レールガン……!!?」
「ああ。レールガンはその原理上錬金術と相性が良くてな」
話している間にも、ボロスが扱う水銀が蠢き、巨大な砲塔を形作る。
「レールガンってなんだ?」
クロムの問いに、笑みを浮かべた千空が口を開く。
「銃と違って火薬を使わずに電気の力で、弾丸を高速で発射する装置のことだ。レールと呼ばれる2本の導体の間を電流が流れることで発生する磁力によって、弾丸を加速・発射する」
千空の言葉を継ぐように、今度はゼノがクロムと向き直った。
「レールガンの開発は世界各国で進められていた。無論、我々アメリカも積極的に研究開発を行なっていた。――だが大きな問題があり、アメリカ海軍は開発に難航していたと聞いてるよ」
「問題って?」
「エロージョンっつってな、砲身の摩耗だ。瞬間的に大電流を流し、音速の7倍の速さで弾丸を射出すっから、電流による加熱が生じて砲身内部が激しく削れちまうんだ」
「千空の言う通りだ。かつて僕も造ってみたがね、砲身の摩耗を防ぐにはどうしても威力を限りなく抑えなければならなかった」
交互にクロムに答えるゼノと千空を見て、チェルシーは『めちゃ仲良しじゃん!!!』と叫んだ。
それと同時に、砲塔から放たれていた錬成光が止む。
「錬成完了だ。では、引き金を引くぞ」
引き金と言っても物理的なトリガーがある訳ではなく、ボロスの意思1つでレールガンが起動する訳だが。
ともかく、アキレス号の進行方向へと向けられた砲塔が、凄まじい音を奏でたかと思えば数百メートル先から、地面を揺らすような着弾の音と煙が舞った。
「(なるほど、そういうことか。僕らにこれを披露することで、科学的圧力をかけるためか)」
ボロス1人で、いや錬金術を使うことで現代では到達しえなかった科学を行使できると、千空は暗にそう伝えたのだ。
事前に情報として知らせる訳ではなく、こうして体験させることで反感の意思を削ぐために。
「百聞は一見にしかず、という訳か」
日本の慣用句を引用して1人ごちたゼノ達を乗せたアキレス号は、レールガンによって引き起こされた荒波を乗り越え、パナマ運河を通過する。
そして海から南米の大河を遡り――ついに、南米大陸の西部、アラシャにまで辿り着いた。
アラシャから爆心地マナウスへ向かうには、並大抵の装備では死ぬ。装備だけでなく、知恵も無ければ生きては帰れない。
そのため、マナウスに向けて発つ前に、龍水の操縦する偵察機に乗ったコハクが上空から地形をある程度紙に起こす。
2人が空に飛んで、連絡が来たのは数分後。
ジリリとなった受話器を千空が手に取った。
「どうした? 何か見つけたか?」
『ああ!! 私の目が確かであれば、あれは建造物だ!!』
聞こえてきたコハクの興奮混じりの声に、否が応にもこちらの好奇心を引き立てられる。
『龍水曰く、ピラミッドと呼ばれる建物に似た形をしてるらしい!! 写真も撮ったから後で見せよう!!』
「ピラミッドだと……?」
「ピラミッドなんてマナウスに無かった気がするんだよなぁー。あったらわたし行ってたし」
チェルシーが顎に指を当てて首を傾けた。
「クククッ何かあるのは間違いねーな。唆るぜ、これは」
帰ってきた龍水とコハクからカメラを受け取り、ワクワクと現像してみたところ……。
「駄目だこりゃ。ボケてやがる」
当たり前と言えば当たり前か。
高速で動く偵察機で、ダゲレオタイプのカメラで撮ったのだ。ブレまくるに決まっている。
「すまないな、安全上低空飛行できる高度ギリギリで撮ったのだが」
「いや、1 mmも気にしねーよ。この場所が分かっただけでお釣りが出るわ」
ピラミッドの場所は分かった。そこで気球を使って向かうかという意見も出たが、近くの木々が邪魔をして降りるスペースが無いことから、結局陸路を行く事になった。
メンバーは、千空、ゼノ、チェルシー、スタンリー、司、大樹、そしてボロス。
他のメンバーは、アラシャにて待機かつレアメタルシティの建設だ。
十分な装備と気炎を湛えた千空ら一行は、背後に仲間の声援を浴びながらマナウスへと旅立った。
あの日、地球上の人類が石化してから3700年と少し。
人類が創り出した建築物はその殆どが塵へと帰り、自然が覇権を握っていた。
だからこそ、それは異質な存在だった。
「これが⋯⋯」
緑あふれる森の中、浅い川を上りながら見えた先、異星の文明が残した遺物のような、銀色に煌めくピラミッドがそこにあった。
エキゾチックなピラミッドに圧倒されて、誰もがその場で立ち尽くす。
震える声は、畏怖か興奮か。
「Dr.チェルシー、このピラミッドは3700年前もあったか?」
「あるわけないじゃんそんなの!! あったら私来てるし!!!」
「……ならばやはり、このピラミッドは賢者の石、ひいてはニコラ・フラメルと繋がっている」
ピラミッドと言えば、皆の頭の中には有名なエジプトの王を思い出す。
「クフ王もかつては錬金術師だった」
ボロスはウロウロと辺りを彷徨った後、腕を組んでそう言った。
「クフ王は黄金の錬金術師として名を馳せていたし、黄金に取り憑かれていたとも言える。クフ王のピラミッドは黄金比を有し、黄金に囲まれて埋葬された。しかしクフ王は元素変換にだけ長けていた訳ではなく、生物学、特に合成生物学にも精通していた。かのスフィンクスは錬金術で生み出した人工生物。ライオンと人間を掛け合わせたクフ王は、生み出したスフィンクスを息子のカフラー王に授け、カフラー王の死後はカフラーのピラミッドの門番として君臨したそうだ」
「でも実際は石でしょあれ?」
「人間も石化したら鉱物と変わらない。もしスフィンクスに石化復活液をかけたら、果たしてどうなっていたことか」
「クククッ、随分と面白い仮説じゃねーか」
「まぁ、話はここまでにしてそろそろ中に入ろうか。さて、鬼が出るか蛇が出るか。ルミヤーに楽しみだ」
先頭はボロスとスタンリーが、最後尾は司が警戒し縦1列となってピラミッドの中を進む。
ピラミッドの中は、ツルツルと艶のある石が敷き詰められ、廊下は少し急な角度で坂をつくり、かつて存在した電車と同じような幅を有していた。
ライトはチェルシーと大樹が持ち、あちこちと照らしている。
「妙だな……」
「ああ。野生動物が一匹もいねぇどころか、痕跡すらねぇ」
ゼノと千空が二言三言会話を交わし、再び沈黙が降りる。
ピラミッドに入ってから数分、特に何も起こらず、一行は突き当たりまで辿り着いた。
その突き当たりの壁には石扉があった。それを押してみても引いてみても、うんともすんとも言わない。
「くっ……固いな。鍵でもかかっているのか?」
「俺に任せろ!!」
無限体力の大樹が押してみても微塵も動かず、司の全力の蹴りを受けても、石扉はかけることなく侵入を拒んできた。
「なんか模様が彫ってあるな」
よくよく見てみれば、その表面には細かな凹凸があった。
ボロスがそれを見れるように大樹とチェルシーがそばに寄ってライトで照らす。
「ああ、錬成陣だこれは」
「ほぅ、錬金術師以外は通さないという事か。エレガントな防衛システムだな」
パンッと両手を合わせたボロスは、石扉に両手を当てて刻まれた錬成陣を起動する。
途端、ゴゴゴと重低音を響かせながら石扉が開いた。
「何だここは?」
「礼拝堂か?」
扉が開いた先は、いくつかの長椅子と柱があり、天井のステンドグラスからは太陽光が仄かに差し込んでいた。
だが何よりも目を引くのは、壇上に浮かぶ緑の巨石。
禍々しい色をしたそれを、皆が扇形のように囲む。
ボロスが触ってみて、特に何も起こらない事を確認したゼノと千空がボロスに続いて巨石に手を伸ばし、触れる。
途端、巨石が一際強く輝き、ゼノと千空は己の失態を悟った。
――悍ましくも美しい敵意が、溢れ出す。
「まずい逃げ」
ろ。
ボロスが最後の言葉を放つ前に、巨石から放たれた石化光線が一瞬にして礼拝堂を包みこんだ。
溢れ出した緑の光は、ピラミッド全てを飲み込み、それでも満足できずにマナウスを喰らい、南米を嚥下し、遂には地球全てを貪り――
――そして、世界中の人間は全て石になった
レールガンについて
日本では、防衛装備庁がレールガンの開発を進めており、2023年には世界初の洋上での発射実験に成功しています。
以下読み飛ばし可
少々飽きてきました。
Blenderで挿絵を作っていたんですが、私が思っていたよりパソコンのスペックが低かったようで、想像の1割程度しか作れませんでした。光の差し込み具合とか本当は色々もっと凝りたかったし、装飾もバンバン作りたかったのですが……。
なお礼拝堂に意味はありません。手に任せてたら勝手に礼拝堂になりました。
スフィンクスについて
本文には入れられなかったので、こちらにちょっと詳しく書いときます。ライオンと人間を掛け合わせたところで、頭は人間胴体はライオンと、完璧に分かれる訳ではありません。なのでライオンの身体に人間の頭を継ぎ合わせた、てのが正解だと思います。ただしそれでは生きられる筈もないですし、ライオンと人間の頭を切り落とした時点で、両者は死亡している筈です。……普通に考えれば。
では、ここで石化させたライオンと人間を継ぎ合わせたらどうでしょうか? 石化されて破壊されても継ぎ合わせれば復活できることは龍水が証明しています。加えて、雀も人間も同じ石化復活液で石化が解かれることも分かっています。
なので設定としての正解としては、石化させたライオンと人間を用意し、継ぎ合わせてから復活させ、再び石化。こうすることで首にある継ぎ目を失くすことができます。
その後再び石化から解いたところ、生命活動が見られなかったため、再三の石化をさせて単なるモニュメントとして展示し、その後カフラー王のピラミッドの門番として使われた、という事になります。
……さて、クフ王はどうやって石化させたのでしょうか。