石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 今回、久し振りに化学系の用語などが頻出します。解説もわたしがつけていますが、鵜呑みにせず話半分で聞いてください。私もそんなに詳しくありません。今回の半分くらいは化学の話です。
 詳しく知りたい方はググって下さい。私も詳しく説明はできないので。知識的にもストーリー的にも。

 no man's world……良い曲ですね。色々想像してしまいます。
 この曲を聴きながら今話を書いていました。


第19話 ひとりぼっちのアストロノート

 巨石に手を伸ばした時、ボロスの警告が俺の耳を劈いた。

 

「逃げ」

 

 視界の端に映っていたボロスの全身が一瞬緑色に光り、何か錬金術を発動しようとして、間に合わず石化光線に巻き込まれた。

 間髪入れずに、俺の視界も闇に閉ざされる。

 

 石化させられた。

 

 その事実を認識するのと同時に、脳は勝手にカウントを始める。

 思考とは別にカウントを。脳を別々に使え。極限まで頭を使え。

 

 1……2……3……

 

 迂闊、だったと思う。

 そもそもの入口の扉が錬金術師以外を通さない仕組みとなっていたのに、ボロスが触れて何も起こらなかったから油断した。俺達が触っても大丈夫だと過信した。

 

 15……16……17……

 

 皆は無事か?

 一瞬で視界が緑に染まったことから、おそらく俺達は全滅、悪けりゃブラジルも石化されちまってる。

 

 だが最悪は、地球丸ごと石化させられた場合だ。

 

 誰も助けに来れねぇ。アメリカのメンバーも、日本に残した仲間達も。

 地平線から時速32000 kmで飛来してくる石化光線を、誰が正確に潜り抜けられる?

 

 30……31……32……

 

 絶対必要なのは正確なカウントとコントロール。

 石化光線は半径がデカいほど粒子のように散らばり、それが人体に当たった箇所から石化が始まる。

 つまり猶予をもって石化復活液を投げ上げ、石化光線が人体を通り抜けてから落ちてこなければならない。

 

 今のところ、成せる人間は居ないだろう。

 俺とゼノでさえ、地球規模の石化光線を免れるためには運が絡む。石化復活液を大量に投げ上げて、それでなお100億%切り抜けられるなんて思っちゃいねぇ。

 

 人類滅亡。

 

 この四文字が頭を過ぎる。3700年前のXデーの再来だ。

 

 ………クククッ、どうしようも無くて笑えてくるぜ。

 

 57……58……59……石化から1分経過。

 

 ひとまず、アラシャが無事だとして、こっちに救援が来るとしたら遅くても1週間。

 ブラジルが全滅し、アメリカが生き残っていたとしたら、こっちに来るとしても……準備期間を顧みて3ヶ月ってとこか。

 最後に日本が生き残っていたとして、何年かかる?

 地球の裏までいける船は無ぇ。俺らとアメリカからの定時連絡がなけれゃ石化したと判断してくれるだろうが、助けに来れるか? 今の石神村にはパワーチームがとんと足りてねぇ。

 

 13……14……15……

 

 船の設計から始まり、木材と鉄の加工を、龍水やカセキ、ボロスの手助け無しで完成させられるか?

 はっ……現実味がねーな、これは。

 

 となると、残るのはただ1つ。

 

 宇宙からの助けを待つ。

 黎なら俺らの置かれた状況を理解してくれている筈だ。

 

 アイツならやってくれる。3700年以上もISSを維持してきたんだ。何年、何十年経っても諦めずに俺らを助けようとするだろう。

 

 頼むぜ黎。

 

 人類復活の希望はテメー1人だけだ。

 

 

 

【第18話 ひとりぼっちのアストロノート】

 

 

 

 ISSの窓から差し込む緑の光。

 それを認めた途端、わたしは慌てて窓に駆け寄り、齧りつくようにその光景を見ていた。

 3700年前に、南米で発生した石化光線。あれがまた同じ場所で発生していた。

 

「千空……!!」

 

 そして3700年前同様に、地球全てを包み込んで消えた。

 

「無事ですか千空っ……!!」

 

 自分の声だとは思えない程の金切り声をあげて、わたしは通信設備のスイッチをオンにする。

 

「応答してください……!!! 誰かいませんか!!?」

 

 返ってきたのは、無情な砂嵐の音のみ。

 それから10分待っても、30分待っても、1時間待っても、誰も答えてはくれなかった。

 

「応答してください……誰か……」

 

 千空。

 そう呟いた声がひとりぼっちのISSに消えていく。

 千空、あなたは今どこにいるの?

 

 否が応でも、3700年前の百夜達を思い出す。

 人類を救うべくあの手この手と考えて、一緒に頭を捻って、そして地球に帰還した彼らを送り出した。

 

 それからの3700年、待つだけの人生。その時は知らなかった凍てつくような孤独感を、千空が溶かしてくれた。

 

 今の千空はきっと、石化している。

 

「今度はわたしの番です!! ええ、そうです!! わたしが全人類を救って見せます!!!!」

 

 とはいえ、わたしの今の身体は宇宙空間で動くのに適した身体をしています。具体的には軽くしています。いくら人間染みた見た目をしていても、この身体では地球の重力には耐えられても激しい運動や摩耗には耐えられないでしょう。

 

 まずはボディーの強度を上げます。

 肌の素材はそのままに、骨格の代わりに使っていたチタン化合物の補強材として、カーボンナノチューブを使い疲労や損傷耐性、導電性などを底上げします。

 

 カーボンナノチューブは小さいのに関わらず、その強度は鋼鉄にも匹敵するほど。地球での行動には十分過ぎるほどでしょう。

 

 次に地球と太陽のラグランジュ地点2に置いてきた彗星くんから材料を確保。そしてISSの実験設備で合成!!

 

 でも1番の問題は燃料をどうするかです。

 地球に戻ってしまえば、太陽光による発電は不安定となってしまいます。特に雨季や冬になってしまえば、わたしは動けなくなってしまうでしょう。そうなってしまえば千空達を助ける事ができません。

 

 太陽光発電に変わる発電方法を思索しなければなりません。

 風力発電? そんな不安定なものは使えません。

 火力発電? 燃料を供給し続けなければなりません。

 水力発電? 一度設置してしまえば動かせません。

 

 そう、わたしは動き続けるので、発電所を造ってもそこから送電線などで送らなければなりません。

 一応、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が、5.3マイル(約8.6km)離れた場所へ30秒間レーザー照射を行い、800W以上の電力を電送することに成功していますが、20%しか受け取れない電力効率の面と、数十個の太陽電池を作製しないといけないのでボツです。

 

 となると、天候に左右されず、安定して電気を生み出す発電システムをわたしの中に作るのがベストになります。

 

 ………やるしかないですね。

 わたし史上最高傑作になるでしょう。

 

 小型核融合炉を造ります!!!

 目指せ! 太陽を我が手の中に!!

 

 必要なのは、数百万度にもなるプラズマを安定して制御することと、それを冷却しながら、安全に閉じ込める仕組み。

 さらに、燃料供給の方法、中性子などの放射線への防護等々……やる事が多いです!!

 

 核融合炉にはいくつか種類がありますが、小型化しやすくプラズマを安定させやすいトカマク型を選択します。

 

 わたしの設計図をISSのパソコン上に表示させ、小型核融合炉がどれくらいの大きさと出力を持てば活動が可能か計算させます。計算するのはわたしですけどね。

 

 その結果は、Errorの一文字。

 

 やはりどうしてもプラズマを安定する事ができません。1番の原因はプラズマを閉じ込める容器の素材です。

 登録されている化合物のライブラリーを網羅して計算しても、数百万度にもなるプラズマを安全に保持できる化合物がありません。あってもこの宇宙では手に入れることは現実的ではありません。

 

 あと重大な問題がありました。

 小型化して体内に内蔵するとしても、体重がものすっっっごく重くなります。少なくとも数tはいってしまいます。

 

 むむ……仕方ありません。

 計画を変更しなくてはいけません。

 ひとまず、太陽電池で行きます。

 プラスして蓄電池をたくさん作ります。これで予備電源を確保します。

 

 太陽光パネルをどうやってわたしの体内に搭載しようかと思いましたが、外付けで構いませんね。

 ISSの太陽光パネルは無機材料で造っているので硬くて曲げることはできませんが、これを有機材料で造れば解決できます。幸いなことに有機物は以前見つけた彗星の中に取り残されていたので、これから回収して合成します。

 

「それにしても、変なものですね。こんなのが地球にもあるのでしょうか?」

 

 氷を掘削し、えいやとレーザーで断ち切り、ISSの側に置いておきます。そこから細かく切断して、せっせと焼却。欲しいのは炭素ですからね。ガンガン燃やしていきます。もちろん燃やした時に出る煙はキャッチして、成分を抽出するために液体クロマトグラフィーかガスクロマトグラフィーにかけときます。成分分析も大事ですからね。

 

「わぁあ……!!!! 金属がこんなに……!!!!」

 

 この有機物の中に、たくさんの金属ナノ粒子が入っていました!!

 鉄はもちろんのこと、亜鉛、鉛、銅、マンガン。更にリチウムやプラチナ、パラジウム、ロジウムなどなど!!

 触媒になる金属がいっぱいでウハウハですよこれは!!!

 リチウムも有機リチウム試薬や電池にも使えるので大変ありがたいです!!!

 

 必要な炭素や触媒を大量にゲットしたので、水素や窒素、ハロゲンと反応させていきます。

 この有機合成で活きるのが先程言った有機リチウム試薬です!

 

 有機合成化学において、有機金属化合物、今回でいう有機リチウム試薬やマグネシウムを使ったGrignard(グリニャール)試薬などはとても反応性が高いので主役級の活躍を誇っています。

 しかしその高い反応性は諸刃の剣でもあります。有機リチウム試薬は空気や水分にとても敏感で、ときには自然発火も引き起こし、人命を奪ったこともあります。更に合成においては、水や空気を徹底的に除去した反応環境、温度管理、高純度の有機溶媒が必要です。

 

 では問題です。ここはどこでしょうか?

 はい、宇宙空間ですね。空気(酸素)も水もありません。

 つまり、ここ宇宙空間では有機リチウム試薬の合成において、徹底した脱気・脱水操作は必要ないということです。一応アルゴン雰囲気下にしますが……。

 とはいえ、宇宙空間における化学反応、特に溶液を使った反応では、溶液内の対流が起こらないので少々理論的には行きません。

 

 で す が !

 

 メカノケミカルがあります!!!

 メカノケミカルは実験操作がシンプルかつ、溶液を使いません。ミルと呼ばれる容器の中に硬い金属玉と粉末試料を入れ、グラインディング(撹拌)して反応を進めます。特に固体メカノケミカル条件ですと、有機溶媒に溶けない難溶性、不溶性の基質や反応剤を合成反応に使えます。

 よって、有機リチウム試薬の合成に一般的に必要な溶媒すらも不要となるのです!!! (本当は液体添加剤として、ちょっとだけジエチルエーテルを使いますけど)

 

 材料は合成したので、半導体の作製に移ります。

 半導体はいまや無くては欠かせない存在。ISSも、わたしの中にも、沢山の半導体が動いています。

 

 この半導体の作製を溶液系で行います。

 さっき言ってた事と矛盾していると思われそうですが、宇宙空間における溶液系の化学反応は、別の面で地球でやる反応よりメリットがあるのです!!!

 それが半導体の作製です!!

 

 ISSで使用される半導体は皆さんご存知のシリコンではありますが、わたしの半導体は炭化ケイ素を主に使っています。

 

 炭化ケイ素はダイヤモンドに匹敵するほど硬く、腐食しにくい合成物質の1つで、大気圧では決して融解しない特性をもちます。そして2700℃に達すると、液体になることなく固体から気体へと昇華するのです。

 

 更に更に!!

 

 エネルギー粒子からなる宇宙線は、ほとんどの電子機器を劣化させます。しかし炭化ケイ素製のものはシリコン製と比べると宇宙線への耐性が60%も高いのです!!

 つまり、炭化ケイ素が地上で頑丈なだけではなく、宇宙空間――放射線や宇宙塵、 激しい温度変化、無重力状態などの過酷な状況にも耐えられるのです!!

 

 凄い素材ですよね!!! ご褒美に酸素をあげちゃいます!!

 

 一方でシリコンを用いている機器では通常、金属電極が半導体の上に積層されていますが、高温になりすぎると金属が半導体内にしみ込み、 好ましくない合金に変化、材料の機械的・電気的特性が変わってしまうんです。

 とはいえ、ISSは地球の磁場によってある程度守られていますし、長年の信頼と実績があるのでラジハード化シリコン半導体(放射線耐性強化)が使われています。

 

 さて、話を戻します。

 地球上では、半導体などの材料を作る物理的プロセスが重力による制約を受けます。しかし重力の影響がない環境、宇宙空間での材料製造は、その制約を受けません。

 

 重力が無ければ浮力も発生しないので、全体の濃度が均一に保たれます。

 そして熱対流も無いので、純度が高く欠陥が少ない材料が作れます。

 

 なので宇宙空間における半導体作製はむしろ地球よりも遥かにアドバンテージがあるのです!!

 

 ――ということで作製した炭化ケイ素型の半導体を搭載したペロブスカイト型の太陽光パネルを作製しました。

 そしてこれに日本の折り紙の技術を使えば、折り畳んで嵩を少なくする事ができまます。

 

「動作確認をしましょう」

 

 背中に着けたので見た目が人間ぽく無くなりましたが、広げればなんか空でも飛べそうな気がします。

 一度ISSの外に出て太陽光パネルを広げ、パタパタ動かしてみますが、特に問題は見当たりませんね。充電もしっかりできています。

 

 ペロブスカイト型太陽電池は従来のものと比べて、軽量・薄型・変換効率の面で優れているんですが、紫外線や湿気などで劣化しやすいんです。なので、発電部分のペロブスカイト層を特殊な液体素材で100〜200 nmの厚さで保護します。これで構造が崩れにくくなり、製品の寿命が2倍の20〜30年になります。

 

 さて、並列して行なっていた帰還ポットの作製が終わり、必要になりそうなものは詰め込んでいきます。

 特に1番大事な復活液。これは必ず持っていかなくてはなりません。千空に作り方を教わっていて良かったです。

 

「10リットルもあれば十分ですよね!」

 

 また別に行なっていた帰還シミュレーションを終わらせるべく、わたしの演算領域の殆どを使って計算します。

 以前気象データが必要となった時にデータは保存済みですし、解析もしてあります。更に気象情報を集めるアルゴリズムも構築済みです。

 現代において、気象予測の方法で最も高精度とされる欧州中期予報センター(ECMWF) が使用している数値解析法で予測しています。そしてこのデータを学習したことで、誤差が小さく正確性にも優れた予測が達成できました。

 

 このわたしの予測とシミュレーションを掛け合わせます。

 

 ランディング・サイト(着陸地点)はブラジルの近く、大西洋の赤道直下です。

 以前同様、自身のいるISSを変数として計算します。

 

 ………計算完了!!

 まぁ実際突入する際の大気圏密度によるブレはどうしようもできませんが。

 

 さて、次にするべき事はわたしが不在の間、ISSの高度維持をするためのプログラミングです。

 以前彗星マホちゃんを取りに行くときに行ったプログラミングと同じように、定期的に高度をチェックしてもらい、地球に墜落しないように高度を維持してもらいます。それと燃料の節約です。

 たくさん燃料を作っておいたので、節約しなくても何事も無ければ10年くらいは持つでしょう。

 

 そうこうしているうちに地球が太陽を5周しました。

 

「千空達が石化してから5年ですか……」

 

 まぁ誤差でしょう。5年なんてあっという間です。

 

 さぁ、出発の時です!!!

 

 待ってて下さい千空!!

 今から助けに行きます!!!

 

 

 千空達地球上の人間が石化してから、およそ5年。

 REIはISSから地球へと出発した。




 有機リチウム試薬とメカノケミカル
 化学 Vol.80 No.6(2025)
 液体添加剤としてジエチルエーテルを使う手法はLiquid-Assisted-Grinding : LAGと呼ばれています。
 学部2年生の時、CH3-Mg-Brで二酸化炭素(CO2)と反応させると酢酸(CH3COOH)が出来ると知って、感動しました。めちゃくちゃ安定な二酸化炭素を使えるなんて……!!! すごいっ!

 メカノケミカル 現代化学2023年1月号、6月号
 ウッドワード・ホフマン則では説明できない立体選択制が発現したりする。また、Birch(バーチ)還元もたったの1分で反応終了し、従来の20〜150倍の速さで反応が進んだ。

 気象予報予測AI
 現代化学2024年1月号

 レーザーを使用した電力供給
 引用元https://gigazine.net/news/20250727-darpa-power-beaming/(引用日2025年9月26日)

 炭化ケイ素製半導体
 日経サイエンス2024年3月号

 ペロブスカイト型太陽電池
 Canonが開発した液体素材の名前は軽く調べましたが分かりませんでした。日経新聞 2024.6.18
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