石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 科学用語もいくつかでてきますが、原作に則り詳しく説明することはしません。気になったら調べてみてください。


第2話 現代に生きる錬金術師

「さぁ行くぞ!! 俺たちは正体不明の錬金術師のとこに殴り込みをかける!!! 任せたコハク!!!」

「ハ! もちろんだ!! 首を長くして待っているといい!!!」

 

 天候――快晴。

 風向き――良好。

 つまり絶好の飛行日和。

 

 グライダーの手摺を掴み、コハクはトントンと調子を確かめるように爪先で地面を叩く。

 そして、1歩、2歩と足を進め、断崖絶壁から瀑布目がけて飛び出した。

 

 普通の人間ならそこで落ちる。

 だが科学の翼を生やした人間なら、翔べる。

 鷹のように自由に。

 白鳥のように優雅に。

 

「(ふぉおおおおおおお!!!!!!)」

 

 風を切る感覚。

 生身で空を舞う感覚。

 地上では体験する事のできない経験を、コハクは体全体で享受する。

 

「(やはりこれは何度やっても楽しい!!!)」

 

 だが次第に目的地が近づくにつれ、興奮は止み、冷静さが取り戻される。

 

「(……武器の類は無し)」

 

 コハクの視力で武器らしきものは見当たらない。その孤島にあるのはこじんまりした家と、気休め程度に生えている枯木だけだ。そもそも小さ過ぎる島故か、置きたくとも置けなかったのかもしれない。

 

 抜群のコントロールで着地したコハクは、ハンググライダーをそのままに家の前まで来た。

 この先に千空が求める錬金術師なる者がいるかと思えば、武者震いに似た興奮が全身を駆け巡った。

 

「頼もう!! どなたかおられるか!!? 私はボロスという者に会いに来た!!!」

 

 ノックをして数秒、家の中から誰かの気配が動く。そしてその気配はドア1枚隔ててコハクの前に立った。

 

「(いる!! この向こうにボロスが!!!)」

 

 敵か、味方か。否が応にも筋肉が硬直する。

 キィ、と軋む音と共にドアが開いた。

 

「やぁ。お客さんが来るなんて初めてだ。最高(Le meilleurr)に歓迎しよう」

「(こいつが錬金術師、ボロス……強い!!)」

 

 コハクの本能が目の前の男を強者と認めている。

 強さ的には司未満だが、コハクよりかは強い。

 いざとなったら力付くで連れてこようと思っていたが、どうやらこの策は使えそうにない。

 

 ボロスに促されて屋内に入ったコハクの目と鼻に入ったのは、無数の科学用具と薬品の香り。

 出された椅子に座ったコハクに、ボロスから液体が入ったカップを渡された。

 

「(ガラスのコップだ……)」

「ん? 毒とか入ってないよ。それともコーヒーを知らないのかな?」

「あいや、混入を疑っていた訳では無いのだが。そうか、この黒い液体はこーひーと言うのか。焦げてるような見た目によらずいい香りだ」

 

 鼻を擽るコーヒーの香り。いつまでも嗅いでいたくなるようなそんな魅惑のある匂いがした。

 

「……苦い」

 

 だが匂いは良くても味は駄目だった。ンベっと舌を出したコハクにボロスは朗らかと笑いながら砂糖とミルクを勧めた。

 

「それぞれ適量いれるといい。マイルドな味わいになる。かくいう私も苦いのは苦手でね、いつも沢山入れてるんだ。コーヒーの香りは好きなんだけどね」

「……おおっ、これならいけそうだ」

 

 カップ1杯のコーヒーを飲み終えたところで、ボロスから声が飛んだ。

 

「んで、一体何が目的で私に会いに来たのかな?」

「我々科学王国の仲間になってもらいたい!!!」

「ふむ、科学王国ねぇ」

 

 椅子に座ったボロスは背中を丸め、両肘を腿につけて両手を合わせる。

 

「司の証言から君が錬金術師とか言う存在であることは知っている!!」

「コハク。君は錬金術師が何かを知っているのかい?」

「ああ!! 千空から教えてもらった!!」

「千空?」

 

 ピクリとボロスの片眉が跳ねた。

 

「千空は司に殺されたんじゃなかったのか?」

「あぁ、私もそう思っていたが、生きていたのだ」

 

 ここにゲンが入れば食い付いた!! と判断して千空に関する情報をペラペラ話していただろう。千空がどれだけ有能なのかを虚実交えて話しながら。

 だがここにいるのはコハクでゲンではない。そのことが逆に効果的だった。

 

「千空は()の身代わりになって首をやられた。私もあれは死んだと思った。けどその後ばったり出会ってな。その時私も司によって木と地面の間に挟まってたところを助けてもらったのだ」

「……そうか」

「(……なんとなく良い感触を感じてるが、いけてるのか?)」

 

 コハクが話したのは、千空が友達の身代わりとなって死んだこと。ゲンが知り得ない2人の馴れ初めだ。

 これこそが、ボロスの腰を上げる言葉となった。

 

「科学王国に入ることはひとまず置いといて、その千空っていう人物に興味がある。私が会いたいと願っていた人物だ」

「ハッ! なら早速会いに行こうじゃないか!! 千空も君の事を待っているぞ!!!」

 

 交渉成立。

 椅子から立ち上がったボロスはコハクと共に家の外に出た。

 

「ここからどうやって戻るんだ? 実は私、はじめからボロスに頼るつもりで来てたのだが」

「それは構わないが。……ほぅ、ハンググライダーで来たのか。なるほど、紙と竹を主に使うことで重量を減らしているのか。鉄も必要最低限。それに羽のこの強度。何か混ぜてるな」

 

 あちこちハンググライダーを叩いたり撫でたりするボロスに、コハクは嬉しそうに胸を張った。

 

「これも我々科学王国のリーダー、千空が提案してくれたのだ!!!」

「ハハッ、ホンット、最ッ高(Le meilleurr)じゃねぇか。千空」

 

 預かり知らぬとこで千空の株が上がったところで、ボロスは島の縁に立った。

 

「見せてあげよう。これが現代を生きる錬金術師の技だ」

 

 パァンッ、と高らかな合掌。

 そして両手を水面に着けた。

 

「(緑色の光!!?)」

 

 淡い緑色の発光が見られた瞬間、両手が触れたところから見る見るうちに凍っていく。

 加速度的に侵食する氷は、ものの数秒でコハクがいた崖まで凍らせた。それはまるで氷でできた橋のようだった。

 

「おおおおおおお!!!!」

 

 そして何故かボロスが倒れた。

 

「おおおおおおお!!?!?!??」

 

 

「――悪いね。背負ってもらっちゃって」

「ハッ、微塵も構わん」

「そう言ってくれて助かるよ。さっきの錬金術は媒体を使わずに大規模に発動したから、体力をゴッソリ持ってかれたんだ」

「ほう、錬金術は体力を使うのか」

「媒体の水銀を使わない場合はね」

 

 急に倒れたボロスを引き摺るように背負い、凍った水面を歩いていくコハク。

 崖までの暇潰しと言わんばかりに、コハクから様々な質問が飛んでくる。

 

「錬金術って何なのだ?」

「千空から聞いたんじゃ……あぁそっか。認識が違うかもしれないからね。錬金術は大きな括りで言うと科学と一緒だ。科学は全ての人間が使えるものだが、錬金術は素質がある者にしか使えない。いわば再現性が無いんだ」

「な、なるほど?」

 

「他に錬金術仲間はいるのか?」

「いや。遥か昔に錬金術師は他にも居たが、実際に会った事があるのは私の師匠ともう1人だけだ。それ以降は会ったこともなければ噂すら聞いたこともない。それに師匠とその1人はとうの昔に死んでいる。今や錬金術師は私だけだと思うよ」

 

「千空が鉛を金に変えられると言ってたが本当か?」

「あぁ、できるね。原子核と電子の数をそれぞれ調整するだけだ。例えば……原子番号80の水銀の同位体を用意して原子核崩壊させれば原子番号79の金が得られる」

「???」

 

「普段何してるのだ?」

「石化前も石化後も、魂や記憶、精神に関する研究をしてるよ」

「?????」

 

 そうこうしてるうちに、崖の下まで着いた。

 歩けるまで体力が回復したボロスが前に出てポケットから試薬瓶を取り出す。そしてその試薬瓶の蓋を開けてその中身を凍った水面に解き放つ。

 

「水銀だよ」

 

 水銀――常温常圧で液体である唯一の金属。錬金術3大元素の1つを代表する物質が、ガラス瓶から解き放たれた。そして、溢した水銀の全てが水面を舐めると同時に、ボロスは両手を合わせた。

 

 途端、水銀が生き物のように蠢き、数多の錬金記号と数式を内包する錬成陣を形成する。

 淡く輝く緑の光を放つ、錬成陣が。

 

「乗って」

 

 興奮冷めやまぬコハクと共に錬成陣の中心に立つ。そして間もなく。一瞬足元が揺れたかと思えば、どんどん視点が高くなる。

 これはそう、現代で多くの建築物に備えられたエレベーターだ。足元の氷が成長して、2人を上に押し上げている。

 

「――初めましてだね」

「あ゛ぁ、初めましてだ。会いたかったぜ錬金術師ボロス」

「君が千空、石神千空で合ってるかな?」

「あぁ。科学使いの千空だ」

 

 

 かくして、錬金術師(Alchemist)科学者(Scientist)が合間見合った。

 

 

 

【第2話 現代に生きる錬金術師】

 

 

 

「互いに聞きたいことはあるが、まず頼みたい事がある」

「何だ?」

「賢者の石……持ってるか?」

「それが辰砂の事ではなく錬金術としての意味なら、残念ながら持ってないね。研究はしてるが、今のとこできてない」

「何が足らねぇ?」

「足らないものは実体の無いものだ。用意することはできない」

「……クソッ」

 

 想定していたとはいえ、落胆は隠せない。

 千空はグッと拳を握りしめた。

 

「何かあったのか? よければ手を貸そう」

「司を治してぇ。できるか?」

「……私は医術を学んだ訳では無いが、なんであれ診なければ分からない」

「おしっ、ソッコー戻るぞ!!」

 

 司帝国の本拠地までの道ながら、スチームゴリラ号では千空とボロスが向かい合っていた。陣形はゲンとコハクが車の前方を歩き、後方にクロムと羽京、そして運転手にカセキ。荷台部分に千空とボロスが座っている。

 

「千空、君に色々聞きたい事がある。だがずっと話していては疲れるだろう。コーヒーでも片手にどうだ?」

「コーヒーあるのか。自分で作ったのか?」

「ああ。コーヒーの主成分であるクロロゲン酸を合成するために、葡萄から抽出したカフェ酸とキナ酸をエステル結合させた。んでもって尿酸からキサンチンにしてメチル化させてカフェインを合成した。もちろんコーヒーと言えば黒色だからな、そこもちゃんと成分を合成した」

「あ゛ー、錬金術は便利だな。特に合成で100億%助かるだろ」

「ああ。もちろん。触媒も溶媒も時間も必要ない。熱力学的支配も速度論的支配も関係ない。素材を用意して、錬成、はい終わり! だからね。しかも収率100%で必ず理論値が取れる。もし錬金術が無ければ砂糖も合成出来なかったし、黒色(メラノイジン)も再現できなかったわ」

 

 ボロスは腰に結んである袋からコーヒーが入った大きめの試薬瓶を5本取り出し、両手を合わせて瓶を掴んだ。この程度の液体の温度を上げるくらいなら体力もあまり消費しないようだ。

 

「ああ゛……これが錬金術か。緑に光るところがファンタジーに片足突っ込んでるな。色変えられるのか?」

「いや、この錬成光は誰であろうと変えられない。はい、温め終わったよ」

「いただくぜ。ハハッ、錬金術師が作ったコーヒーとか、100億%唆るぜ」

 

 薫りを楽しみ、一口。

 思わず千空の口から漏れたのは、嗚咽に似た小さな溜息だった。

 

「(懐かしいぜこの味。クククッ……いやまぁ、そんなに飲んでなかったがな。眠気覚ましにはモンスター派だ俺は)……3700年振りのコーヒーだ。まともな飲み物なんてコーラ以来だわ」

 

 その言葉に、コハクを除いた他の4人にもコーヒーと砂糖、ミルクを分けていたボロスが振り返る。

 

「コーラ!? コーラがあるのか!!? それは是非とも飲んでみたいね!!」

「ああ゛コーヒーの礼に溺れる程飲ませてやるよ」

 

 試薬瓶から口を離し、さて、と口火を切ったのはボロスだった。

 

「千空。司から聞いたが、君は3700年以上も秒数をカウントして、今の暦を把握していたとは本当か?」

「マジだ。いつ石化から復活してもいいように、現在の暦は必要だった。春に解けなきゃ終わりだったからな」

 

 なんてこともないように放たれたその一言に、ボロスは絶句した。数秒は固まっていただろう。驚愕による硬直は次第に解け、ボロスは天を仰ぐように顔を上に向けた。

 

「ははっ、こんな人間が存在するなんて……実に最高(Le meilleurr)だ!!」

「お褒めに預かり光栄(こーえい)です。んじゃあ俺からも1つ。奈良に向かった理由は何だ?」

「あぁ、それはね。水銀を採るためさ。奈良にある大和水銀鉱山で辰砂を採取し、水銀を抽出した。水銀は錬金術の媒体でね、無いと困るんだ」

「なるほどな。あの島にいた理由は?」

「あそこなら敵が来ないからね」

 

 不意に、ボロスが纏う雰囲気が変わる。

 

「……錬金術は異端だ。同じ錬金術師であったジョン・ディー博士はキリスト教の異端審問にかけられ処刑された」

「は? いやちょっと待て。ボロス、お前今何歳だ?」

 

 異端審問という言葉は今日日聞かないもの。

 それこそ中世の時代だ。もしその時代から生きているなら、目の前の人物は少なくとも500歳を越えている。ニシオンデンザメのように老化による代謝能力が変わらないのかもしれない。

 

「1400年に生まれたから、石化中も含めると4339歳になるな」

「オッホー、儂より長生きじゃんね」

「1400年って室町時代から生きてんのかよ。何で死んでねぇんだ?」

「偉大なる我が師匠、ニコラ・フラメルが手がけた賢者の石によって私の肉体は不老になり、18歳で時計の針は永遠に固定された」

「「ニコラ・フラメル!!!」」

 

 今まで蚊帳の外にいたゲンと羽京が同時に叫んだ。

 

「知ってるよ俺もその名前だけは!! 映画で良く出る名前だし、ハリー・ポッターにも出てくるよ!!!」

「まさかその人物の弟子だったなんて……驚き過ぎて声も出ないや」

 

 ボロスから何気なく放たれた言葉で空気は固まった。

 

「……話を戻すけど、私の目の前でジョン博士は処刑されたんだ。だからこそ、私は嫌いだ。錬金術を認めず異端扱いする――

 

 ――科学者(お前たち)をな!!!!!」

 

 いつの間にか千空の首に添えられた水銀。

 それは刃物のように固形を保ち、鋭かった。

 

 一触即発の事態。

 戦闘態勢を取ったコハクと羽京に視線で制し、千空はボロスの青い瞳を見る。

 

「千空。お前は錬金術をどう思う?」

「(千空ちゃん、言葉気をつけるんだよ!!)」

「……羨ましい。ただそんだけだ。欲し過ぎだろ錬金術。それがあれば何でも作れるぜ。俺が思うのはそんだけだ。科学に誓ってな」

 

 1秒、2秒、3秒と過ぎ、10秒経った後に首元に添えられた水銀は元の液体に戻り、試薬瓶に収まった。

 

「(瞳孔脈拍共に異常は無かった)……うん。そうか。やはり私の見立ては正しかった。良いだろう。科学王国の国民になり、司を救う事に全力を尽くす。我が師匠と亡き友、そして錬金術に誓おう」

「しゃあああああ!!!! 錬金術師ゲットォオオオ!!!」

 

 

 

【錬金術師ボロスを手に入れた!!!】

 

 

 

「思ったけどよ、じゃあなんでボロスは今堂々と錬金術使ってんだ?」

「何の科学も無い今の世界を現代人は生きられない。例に漏れず私も……いや、単に錬金術使わないと不便極まりなかったからな。それに、今は人が少ない。何かあったら核兵器でも造って滅ぼせば良いと思っていた」

「(考えバイヤー過ぎるでしょボロスちゃん)」

「(クククッ、古代から生きてるせいで倫理がバグってやがる)」

「使わなくとも、核兵器を持ってるだけで誰も私を殺せない。意見ができなくなる」

「核の抑止力だな(……ボロスが第2の司にならなきゃいいが……。嘘かホントか、核兵器を造れるなんて今の科学力じゃどうにもなんねーぜ)」

 

 千空一行は司帝国への道をゆく。

 その心に一抹の不安を抱きながら。




 ボロスは名前の通り日本人じゃありません。最高(Le meilleurr)(ルミヤー)の通りフランス人です。でも日本にいた理由は日本の治安が世界で一番優れているから。
 加えて、日本は宗教に寛容で変な偏見も無いことから、もし自分が錬金術師だとバレても直ぐに殺される事は無いだろう、と考えていたからです。逆に言うと1番行きたくないのがアメリカ。2度と行きたくないのが中国。
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