石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 誤字報告ありがとうございます!

 今回の話、賛否両論あるかもしれません。
 それも含めて、感想等頂ければ幸いです。


第21話 決断の錬金術師

「ずっとこうして寝るのが夢だったんだよ」

 

 そう言ってはにかむスイカに、コハクは胸が締め付けられる思いがした。

 

 向かい合って寝支度を整えた2人。元々スイカしか住まなかったために空間は狭い。どうしても2人の体はどこかしら当たってしまう。

 だがそれが嫌な筈はない。寧ろ喜ばしい事だ。

 

 6年と半年孤独でいたスイカにとっても。

 6年と半年孤独でさせてしまったコハクにとっても。

 

「えへへ……」

 

 スイカの願望で、いつの日かと同じように、コハクの腕の中にスイカは潜り込む。

 

 コハクにとっては一瞬でスイカが大人になったようなもの。

 可愛く美しく育った(かんばせ)に、かつてのいじらしい面影が重なる。

 

「よく頑張ったな、スイカ。私はとても鼻が高いぞ」

「うん!」

「千空もスイカの事を手放しに褒めるに違いない。いや、褒めなかったら私が殴ってやる」

「そんなことしたら千空が可哀想だよ」

 

 当たり障りのない会話。

 それがとても幸せな事で、美しいものだと初めて気付く。

 

「スイカはどうやって1人で石化を解いたのだ?」

「千空の家族が空の向こう、宇宙からやってきて、解いてくれたんだよ」

「千空の家族? もしかして大分前に千空が言ってたレイのことか?」

「うん。石神黎。スイカの科学のお師匠(ししょー)様なんだよ」

「そうか……」

 

 この時コハクの胸中に渦巻いたのは、嫉妬か。それとも安堵か。

 スイカを導く役割を取られたから嫉妬したのか。逆にスイカの側にいてくれてありがとうと感謝したのか。半々の感情がコハクの心の中で渦を巻いた。

 

「教えてくれるか? そのお師匠様のことを」

 

 スイカの頭を撫でながら問いかければ、スイカはふたつ返事で承諾した。

 

 

 ――スイカにとってレイは、コハクのような存在だったのろう。

 自身を守り、教え、諭して導く。

 コハクが石になってるから、レイにコハクを重ねたのかもしれない。

 

 語る口調は弾むようで、師に対する敬愛を含んでいた。

 たった半年の関係であっても、スイカはレイを尊敬していたし、レイもスイカを気に入っていたのだろう。

 

 だが柔らかな言葉に湿り気が交じる。

 

 スイカを助けるために己を挺した。

 

 親愛なる師を喪った心痛は想像を絶するだろう。

 この日からスイカは、世界でたった1人の人間になった。

 

「それからずっと、復活液の硝酸を作るために頑張ったんだよ」

 

 レイから教わったのは知識だけ。

 実際にどう砕くのか、混ぜるのか、溶かすのか。詳細な条件は試行錯誤のトライ&エラー。

 

「何度も何度も失敗しちゃったんだよ」

 

 糞を使った合成法に切り替えて、それでもトライ&エラー。試行錯誤の果てに生成した硝石だって、一度は雨で流され無くなった。

 硝石は水に溶けやすいと知って、硝酸畑には屋根をつけた。

 そこからまたもう一度。

 

 その果てにコハクを復活させる事ができた。

 

「でも作れたのは1人分だけだったから、コハクにしたんだよ!」

「ふふっ、そうか。ありがたい事だ。めっぽう嬉しいぞ」

 

 頼ってくれることに嬉しさを感じて、コハクは顔を綻ばせた。

 

 明日からは2人で作業だ。

 一緒に頑張ろうと額を合わせて、2人は眠りに就いた。

 

 

 ――その日から、時間は飛ぶように過ぎた。2人で石化復活液を作る日々は、スイカにとってはあっという間だった。

 月に2本のペースで作製した復活液を、復活優先度が高い人からかけていく。料理人としてフランソワ、科学仲間のクロム、凄腕職人のカセキ。

 全員が全員、スイカの姿を見て、スイカの努力を褒め讃えるのと同時に過ぎ去った時間に胸を痛ませる。

 

 クロムとカセキが揃ってからは、スイカの科学クラフトは飛躍した。細かな細工はカセキの手によって製作され、失敗は起こらない。クロムと一緒にフランソワから教養を学び、算数と科学についても知識を得た。

 

 そして、コハク復活から2ヶ月と半分。

 いつも通りの日々が顔を覗かせる。

 

 スイカの朝は早い。日が昇るか昇らないかの時間帯に起きて活動を開始する。隣で寝息を立てるコハクも一緒だ。スイカの起床の気配を感じて、コハクももそりと起き出した。

 

「おはようなんだよ!」

「おはようスイカ」

 

 寝て起きたら誰かがいる喜び。スイカはその感情を今一度噛み締めて、もう一度伸びをした。

 

 太陽が昇りかけた黎明。窓の外に動く影を見た。

 人型のそれにスイカはまた幻覚かと思ったが、コハクの叫びがそれを否定する。

 

「千空だ!」

 

 一瞬、思考が止まる。

 

「この私が間違える筈は無い!!! 千空がそこにいるぞ!!!」

「わわっ!!!?」

 

 言い終わるや否やコハクはスイカを抱き抱えて窓の外に飛び降りた。

 

「クククッ。テメーのゴリラ振りは変わんねぇな」

 

 はっと視線を前に向ける。

 太陽を背にして立つその姿を認めて視界が滲む。

 太陽に似た煌めく瞳が、スイカを射抜く。

 

 たぶん千空は自分がスイカだとは分からない。

 だから改めて自己紹介しようとして、口を開くよりも千空の声が飛んだ。

 

「……そうか。……あ゛ぁ、そうか」

 

 何かを確信したような声色。

 手が届く距離まで近づいて、千空の掌がスイカの頭に乗せられた。

 

「よく頑張ったなスイカ。お役に立つじゃねーか」

「っあ!!」

 

 我慢できたのはそこまでだった。

 スイカはもう大人なのに、泣いちゃ駄目なのに、千空の声を聴いて体温を感じて、涙を抑える事はできなかった。

 コハクと一緒に千空に抱き着いて、わんわん泣いた。

 

「たった7年か。早かったな」

 

 そんな千空の澄んだ顔が一変したのはすぐの事。

 コハクの腕力によって抱きしめられた千空は鶏が絞められたような悲鳴をあげて、コハクを突き飛ばした。

 

「テメー殺す気か!!?」

「はっ! この程度で音をあげる千空貴様の方が貧弱なのだ!!!」

「ゴリラの基準を押し付けんじゃねぇ!!!」

 

 瞬時にして千空の頭にたんこぶができ、それにスイカが笑っている頃、その騒ぎを聞きつけて起き出したクロムとカセキ、そして朝の仕込みをしていたフランソワが集まってきた。

 

「おい復活してたんかよ!!」

「ほほー!! これで皆の復活も早まっちゃうんじゃないの!!?」

「おはようございます千空様。朝食はお召し上がりになられますか? まだでしたらぜひお召し上がりください」

 

 クロムの肘打ちを脇腹に喰らい、呻く千空を気にもせずに喜ぶカセキ。そしてプロらしい振る舞いでフランソワは一礼して朝食の仕込みに戻っていった。

 

 そこに、別の声が飛んできた。

 

「随分と騒がしいな」

 

 久し振りと手を振るのは、ボロスだった。

 

「ボロスも復活してたのか!!?」

「んだよこれじゃあ皆の復活も秒読みじゃねーか!!!」

「ああ。というか、一緒にピラミッドに向かった仲間は全員復活させた。司とチェルシー、大樹は肉を狩りに行って、ゼノとスタンリーもそろそろ戻ってくる頃合いじゃないか?」

「そうだったのか!!」

「ボロスたちはどうやって復活したの?」

 

 スイカの疑問を、ボロスは当然な質問だなと頷いた。

 

「錬金術を使ってな。まぁ詳しくは皆を復活させてからにしよう。他にも伝えなくてはならない情報もあるしな」

 

 そこで言葉を切ったボロスは、大きくなったスイカに目を向けた。

 

「スイカ。君が望むなら身体の成長を巻き戻せる。今は無理だが、この件が解決したら時間を取れる。どうだ?」

 

 スイカの失われた年月は、更に言えば石化現象に伴う全ての事柄はボロスの師匠が起こした事件。

 その被害者であるスイカに、弟子としてやれることはこれだけだった。

 

「ううん。別に良いんだよ。何だか視力も良くなったし、コハクと同じ目線になれたから、嬉しいんだよ」

「そうか……そうか。そのままで良いなら、私から言う事はない。……ああ、いや1つあったな。すまなかった」

「謝らなくていいんだよ」

 

 頭をぶんぶん横に振るスイカに、ボロスは申し訳無さそうな顔をして、徐にスイカの頭に手を乗せた。

 そしてそのままゆっくりと手を前後に動かした。

 

「よく頑張ったな。スイカ。君が行ってきた事は誰にでもできる事じゃない」

 

 そう言いながら、ボロスはスイカの頭を撫でる。

 

「誇れ。スイカはルミヤーに素晴らしい偉業を成し遂げた」

「えへへ」

 

 照れ臭そうに目を細めるスイカは、ふと目を見開いた。

 

「あっ、そうだレイを直して欲しいんだよ!!!」

 

 再開の衝撃で忘れかけていたスイカは、昔とは比べものにならないくらいの機敏さで、レイを保管してる石像収容所に案内した。

 

「なるほど……これは」

「直せるんだよ?」

 

 錬成陣を展開してレイの状態を調べたボロスは、はっきりとした口調で告げる。

 

「うん、問題無い」

「良かったんだよ〜!!!」

「(とは言え、師匠の手が入ってる生体ロボット。……危険だな)」

 

 わいわいと騒ぐ背後の声を無視して、ボロスはじっくりと心の奥底を覗き込むように、レイの姿を視る。

 

「(魂? ……いやあり得ない話じゃない。自我の芽生えは魂の成長とイコールだ。魂を保持しててもおかしくない)」

 

 レイの魂を観察しながら、破損した部品を修復し、壊れた結晶構造を整えていく。

 

「(ん? この構造と回路は……)」

 

 人間で言えば心臓付近に、ボロスは見覚えのある回路を見つけた。

 

「少し……離れてろ」

「どうしてだ?」

「いいから」

「ボロスがそう言ってんだ。とっとと距離取るぞ」

 

 ある程度距離を取ったのを確認したボロスは、何があっても良いように、水銀を垂らして錬成陣を構築し、一方で水銀を飲んで何時でも錬金術を発動できるようにしてから、レイを完全に修復し、再起動させた。

 

「……システムチェック」

 

 ゆっくりと。そして静かに、レイが目覚めていく。

 最後に状態の確認を終えてオールグリーンとなって、レイの目が開いた。

 目の前で片膝を突くボロスを認識したのだろう。直後、目に見えてレイの目の色が変わった。夜空のような瞳から、翡翠のような緑の瞳に。

 

「人類以外のDNAを確認。対象を錬金術師として捕捉」

「やっぱりか!!!」

 

 予想通り剣呑な雰囲気を纏ったレイに対して、ボロスは元々展開していた錬成陣を発動。

 

「(いや! ここはあえて受けてみせる!!!)」

 

 だがボロスは何を思ったか、地面に展開していた錬金術の発動をやめ、自身に対して錬金術を発動した。

 間髪入れず、レイの身体の中からカチッと音がした。

 

「今の音は……!」

「間違いねぇ石化光線だ!!!」

 

 その音は距離を取っていた千空達にも聴こえた。

 しかし石化光線は放たれなかった。少なくとも千空達の視界には何も映らなかった。

 

「ボロスが……石化した!? 何故ボロスだけが!!?」

「石化光線は石化対象にのみ可視光線として認識できる。おおかた、ボロスが持つ他種族のDNAに絞って放ったんだろ」

「あわわわ!!! はやく復活液をかけないといけないんだよ!!!」

「俺が取ってきてやるよ!!!」

「慌てんな。ボロスがどうやって石化を解いたのか気になるだろ? その答えが分かる」

 

 余裕綽々の千空の姿に、コハクとスイカ達は落ち着きを取り戻す。

 一方で、石化したボロスに近付くレイは、その石像を壊すつもりか拳を握り、振り上げた。

 振り下ろされれば破壊は免れないその一撃を、宙空で止めたのは誰でもないボロス本人。

 ボロスは既に石化を解いていた。

 

「実験は成功だな」

 

 そのままレイに抱き着くように動いて、両手を合わせた。

 目的はレイの中にある賢者の石の破壊。

 緑の発光が終わる頃には、レイの瞳は元の色に戻った。

 

「……あれ? わたしは今どうなって……?」

「記憶は無しか。情報は引き出せそうにないな」

 

 混乱してるレイは周りを見渡して、千空を見つけて顔を綻ばせる。そして見覚えのある石化した人間と、見覚えの無い人間を見つけた。

 その見覚えの無い人間が、レイの前に立った。

 

「あなたは誰ですか?」

 

 レイの言葉に傷ついていないと言えば嘘になる。けれどもスイカは湧き出した言葉を飲み込んで、レイの手を取った。

 

「スイカだよ」

「スイカ? わたしの知ってるスイカはもっと小さかった筈ですが」

「あ゛ぁー、黎。人間には成長期ってのがあってな、成長期に入ると人間は大きくなるんだ」

 

 千空に人間についてまた教えて貰ったレイは、そうですかとスイカを見て口元を弛めた。

 

「スイカ。よく頑張りましたね」

「うん!!」

 

 そんな感動の再会は余所でやってろと言わんばかりに、千空はボロスを呼び止めた。

 

「レイを診たんだろ? 何があった?」

「明らかに師匠の手が入ってる。賢者の石があることを前提に体内機構を創り上げた感じだ。さっきは賢者の石の光線放射回路だけを破壊した。錬金術で直さない限り、レイは二度と石化光線は放てない」

「そうか」

「残りの皆を復活させ次第、公開議論をしよう」

「ああ」

 

 こうして、早朝に起きた騒動はひとまず丸く収まった。

 

 

 

【第21話 決断の錬金術師】

 

 

 

 千空とゼノ、そしてレイが急造された壇上に置かれた席に座り、ボロスがマイクを片手に中心に立った。

 

「あー、起きて早速で申し訳ないが、緊急会議を始める」

 

 事の始まりは、ピラミッドだった。

 そう語り始めたボロスに、全員の視線が集まる。

 

「内部には錬金術を鍵とした空間があり、そこには宙に浮かぶ緑の大きな立方体、一辺あたり3 mの石があった。私がそれに触れても問題無かったが、千空とゼノが触れたところ石化光線が放たれた」

 

 そこで、地球再石化をさせてしまったことで千空とゼノは2人揃って立ち上がり、頭を下げた。

 もちろん、元凶はニコラ・フラメルなので2人を非難する人はいなかった。

 

「石化は限界まで思考を回すことでエネルギーを消費し、石化維持の為のリソースを削ることで解除される。だがこれでは再び3700年の時を待たねばならない。そんな事があればまた、これまで築いた文明がリセットされる」

 

 そこで私が考えたのは、とボロスは続けた。

 

「エネルギーを消費するだけなら思考だけで無くても良い。私はあの瞬間、咄嗟に私自身に錬金術をかけた。簡単な生化学だ。人間のエネルギー源であるアデノシン三リン酸、つまりATPの分解を促進させた」

 

 ボロスの説明に被すように、千空とゼノが協力して背後にある黒板にATPの生産と消費のサイクルの図解を書いた。

 

「だが咄嗟ということもあり、ATPの分解強度を設定する前に石化してしまい、私自身どれくらいの時間で石化が解除できるか不明だった……だが、その後石化する機会があってな。そこで千空から聞いていた2兆ジュールを越えたら硝酸だけで石化解除されるという情報から、倍の4兆ジュールを3秒で消費するように設定したところ、石化から3秒で硝酸すらも使うこと無く石化から復活することができた」

「おや? あの後もう1回石化したのかい?」

「ご尤もな質問だゼノ。この件は百夜が生み出したロボット、レイが関係している」

 

 皆の視線がレイに移ったところで、レイが立ち上がり、自身の説明を始めた。百夜によって造られたこと。ISSで活動していたこと。今回の件で地球に戻って来たこと。

 そして地球に降りてからスイカと行動し、再起不能になるまでの出来事を語った。

 

 レイの活躍とスイカの偉業に舌を巻き、称賛する皆のざわめきが一段落したあと、ボロスは本題に入ると口火を切った。

 

「レイ。君は元々その身体じゃなかったんだよな?」

「はい。修復不可能な程の劣化及び損傷により、直すのではなく新しくボディーを作る事にしました」

「再起動するのにどれくらいかかった?」

「100年程度です」

「そこか」

 

 重々しく息を吐いたボロスは、レイに気遣うような視線を送って、再び口を開いた。

 

「レイ。君には私の師匠であるニコラ・フラメルの手が入っている」

「?」

「自認は無いだろう。だが確実だ。君の身体が賢者の石を要としている以上、必ず師匠の手が入っている」

「そう……なんですか」

「ああ。さっきも君は私を捕らえようと石化光線を出した」

 

 そう言われても分からないとばかりに首を傾けるレイだったが、証人の千空、コハク、スイカの証言によって受け入れざるを得なかった。

 

「わたしはこの後どうなるんですか? 廃棄処分ですか?」

「そんな訳ないだろう」

「ですが危険です! 今すぐにでも廃棄しないとまた誰かを石化させてしまうかもしれません!!!」

「安心しろ。賢者の石の機能は止めてある。少なくとも石化光線はもう出さない。それに」

 

 不意にボロスは視線を千空とゼノに送り、その視線を受け取った千空とゼノは立ち上がった。

 

「これから月に行こうってんだぞ。ロケットを造るのにゴリッゴリの専門家の知識が必要なんだ。テメーを廃棄にだなんてさせるわけねーだろ」

「勿論だ。レイはこの地球上でたった1つの現代を上回ったロボット。その計算能力や思考能力は替えが利かない」

 

 皆も異論は無いね? と問いかけたゼノに誰も声をあげる人はいない。

 

「レイ。君は既に科学王国の国民だ。君のこれからの活躍を期待している」

 

 皆がレイを見てる。期待している。

 その熱意に応えるように、レイは大きく胸を張った。

 

「お任せください!!!」

 

 ――大きな議題は終わり、議題内容は今後の予定に移る。

 これから地球を駆けずり回って石化した人々を叩き起こし、街を築いてロケットを製作する。

 

 地球を飛び出して月に行く。

 その目標までの道筋が、はっきりと見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――夜遅く、コソコソと集まったのは千空とゼノ。そしてボロス。

 科学王国の頭脳ないし、人類において最も知能が高いとされる3人が密会を開いていた。

 

「すまないね。こんな遅い時間に」

「構いやしないよ」

「皆には伝えられないこと何かがあるんだろ? 薄々勘づいてたわそんなもん」

 

 早く話せとばかりに、千空が顎をしゃくってボロスに促した。

 

「私が石化を解いてから、1番初めにした事は君達を復活させる事じゃない。あの巨石の解析だった」

 

 机の上のランタンの炎がチラチラと踊る。

 炎に照らされたボロスの顔は、いつにも増して真剣だった。

 

「何が分かった?」

「年代測定した結果、現代に造られた事が分かった」

「なるほど。つまりボロステメーがこの前出した、ダイヤモンド牢獄の魂の捕縛は、ほぼ無限に続くってことか」

「いやそういう訳では無い」

 

 違うのかよ、と千空は思わずツッコんだ。

 

「巨石の内部はダイヤモンドの層状構造。その層を少しずつ剥がしながら魂の観測を続けた結果、300枚程度剥がした時点で魂が乖離した」

「ほぅ。興味深いね。残りの層は?」

「735枚だったが、これはおそらく関係ない。ダイヤモンドの中心にある魂が乖離しづらいように何百何千も層状にしたんだと考えられる」

「ふむ。つまり巨石の中にあった魂はある程度外部に滲み出ていたが、剥がした層がそこまでに到達したことにより、一気に乖離したということか」

「ああ」

「それで、何が1番重要なんだ?」

 

 トンと机をついた千空がボロスに問いかけた。

 

「核兵器が必要になる可能性がある」

「はぁ?」

「ボロス君は説明が下手だね。話にまとまりが無い」

「うっ、すまない。まともに人と話したのが司に復活液をかけられてからなんだ」

「それにしたって限度があんだろ」

 

 千空とゼノに厳しい視線を向けられたボロスは、申し訳無さそうに項を掻いた。

 

「私は愚かな人間が嫌いだ。何も学ばず愚行を繰り返す人間が反吐が出るほど嫌いだ。目の前の現実を認めず異端扱いする科学者が殺したいほど嫌いだ。だから人と会話どころか交流すらしてこなかった訳だが」

「久し振りに聞いたなそのセリフ」

「私のこの価値観は、ニコラ・フラメルの下にいた時から形成され、長年の歴史を見て完成された。だから師匠も同じような価値観を持っている」

「成る程。だから世界中の人間を石化したのか」

「かもしれない。そこで、私の肉体はゲノム編集により人類の限界を越えた性能を持っているし、真の賢者の石由来の再生能力と不老を併せ持っている。錬金学的に、私の肉体は世界で1つしかない超貴重な素材だ。色んな使い道ができるだろう」

 

 ここで息を整えたボロスは、ゆっくりと確かめるように口を開いた。

 

「その可能性の1つとして、もし師匠が私の肉体を乗っ取ったなら、私の誇る異次元の身体能力に師匠の万全足る錬金術が掛け合わされる」

「司の肉体に俺ら3人の頭脳が搭載され、どんな状況でも科学を展開できる感じか……」

「実に最悪な想定だね」

 

 心臓を貫かれても、額を撃ち抜かれても息を吹き返したボロスの肉体。単純な科学兵器では到底太刀打ち出来ない。

 

「だから私に……核兵器を、核弾頭を造らせてくれ」

「いや……でも放射能ならボロスのDNAをほぼ破壊できるか」

「それしか方法が無いのなら、僕の意見としては製造してくれて構わないね」

 

 ボロスが敵に回った場合、対処可能なのは核兵器によるゲノム破壊。

 それしか無いからこそ、かつて封印した核兵器製造を解放するしかない。

 科学王国の長として、千空は苦々しい顔をして許可を出した。

 

「ありがとう。もちろん分かってる。決戦は月面だ。なら使用される場所も宇宙。間違っても地球に有害レベルの放射能は降り注がないし、何があっても私が防ぐ」

「核兵器製造だなんて、誰にも言えねーな」

「なら、これからは僕がロケットのエンジン担当。千空が本体担当、ボロスが核弾頭担当、ということで間違いないかい?」

「ああ。表向きは千空とゼノの補佐になるだろう。それに私は加えて、魂保護のダイヤモンドを試作する。今回の件でアイデアが湧いたから、月に向かうまでには完成できる」

「おお! 実に頼もしい言葉だ」

「明日から忙しくなるぜ」

 

 ――こうして、真夜中に開かれた秘密の集会は、誰にも知らされること無く幕が下りた。




 次回から話をドンドン飛ばしていくと思います。
 また、12月から修論を書くので、投稿が遅れると思います。

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