石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 今回はちょっと長め〜。少年漫画よろしく戦闘描写あります。
 飛ばせるところはドンドン飛ばしていきます。
 本当はこの回に挿絵を投稿したかったんですが、Blender重すぎてパソコン動きませんでした。なので泣く泣く諦めました。

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 ボケ〜って見てたら載ってて驚きました!!!!


第7話 信じる錬金術師

「はっはー!! 出航だ!! ストーンワールドの外洋へ!! 世界へ……!!!」

 

 本土居残り組の声援を受け、海へと走り出した科学船ペルセウスが目指すのは、『宝島』。

 その島は地球最後の宇宙飛行士達が着地した土地であり、数多の希少鉱石が宝箱――宇宙船ソユーズに眠っている。

 そして良くも悪くも、宝島は無人島でない事が発覚した。

 

「ククク、辿り着いたぞ百夜。鬼が出るか蛇が出るか。唆るぜこれは……!!」

 

 嵐という自然のカモフラージュを使って宝島に到着した一行は、船に残る待機組と偵察隊に分かれることになった。

 

 偵察隊に抜擢されたのは5人の少数精鋭。

 

 天才科学使いの千空。

 優れた記憶力をもつソユーズ。

 交渉担当のゲン。

 護衛+視力のコハク。

 

 そして――

 

 ――万能の錬金術師ボロス。

 

「――船の方で何か光ったような気もしたが気のせいか」

「電波悪!! ソユーズちゃんとちょい高いとっからかけてみるから、3人は先に行ってて〜」

「おう」

 

 ペルセウスと連絡が取れるか試したところ、全く出る気配が無く、電波のせいかと離れたゲンとソユーズに背中を向けて歩くこと数分、突如としてコハクが走り出した。

 

「お、何か見つけたのかコハク?」

「あぁ何か見つけたのだ手がかりを!!!」

 

 ほら見ろと指差された先を見れば、何やら太陽光を反射してるものがあった。

 間もなく到着して確かめてみれば、それは海岸でしか取れない筈の貝殻だった。つまりこれが意図してるのは、誰かが貝を拾ってここで捨てたこと。

 

「ククッ、やるじゃねぇかコハク!!」

「だがこの先をどうやって追う??」

「欠片も問題ねぇ、科学の力で犯人を追跡する!!」

 

 科学捜査のスタートだ!!!

 

 そう啖呵を切ったのも束の間、酷く慌てた様子で合流したゲンとソユーズからとんでもない事態が起きていることを知った。

 

 ――ペルセウスの乗組員全員が石化していた

 

「ひとまず先に進もう。敵の情報が石化武器を持ってることしか分からなんだ。味方勢力と合流して色々と情報を貰った方が良い」

「あ゛ぁ、その通りだ。だからまず、コイツを探す」

 

 千空とゲンによる科学捜査。

 そしてコハクの視力による人物特定。

 

 アマリリスと名乗った現地の住人により、今の宝島がどんな状況に置かれているかを全て把握できた。

 

「どーしたボロス。ずっと前から黙り込んでるが」

「いや……もしかすると石化装置は複数あるかもしれない上に、ホワイマンの正体はDr.Xじゃないと考えていてね」

「ええええ!? どうゆうこと!!?」

 

 ラボを奪還し、海からしか入れない秘密の横穴から、アマリリスの集落の者しか知らない『サファイヤの洞窟』に拠点を構えた後、考え込んでいたボロスは千空に促され口を開いた。

 

「元々私達はDr.Xが石化武器を開発したと予想していた。だがアメリカから遠く離れた宝島にあるということは、何者かが宝島に持ち込んだ事になる。しかしDr.Xが石化を解いた後、わざわざここまで来て石化武器を置いていく意味が無い。更に来たとしたら、科学のかの字すら無いのはDr.Xが掲げる科学で衆愚を導き支配するに反する。そして、アマリリスの話を聞く限り石化武器を使った統治が何世代も前から根付いていることを加味すると、Dr.Xがホワイマンではなくなる上に時系列が合わなくなる」

「では誰が石化武器を持ち込んだのだ?」

「それがまっっったく分からんのだ!! ずっと考えてるんだが、石化武器そのものが自らの意思で此処に来なければおかしいんだ。でもそれってあり得ないだろ?」

「何かの拍子で海に石化武器が落ちて、それがここに辿り着いたらどう?」

「ゲン、それ自分で言ってて可能性あると思うか? 石化武器が落ちて、流れて、地球で唯一人が住んでるこの島に漂着するんだぞ?」

「だよね〜。普通、後生大事にしまっておくよね〜」

「あとは空ルートがあるわけだが、ISSから宝島へのピンポイント投下だとすると、まあまあ可能性はあるんだが、今や国際宇宙ステーションは無いからな。とまぁ、こんな感じで分かんないのだ」

 

 どうしようもないな! とあっけらかんに笑うボロスの傍らで、化粧品道具一式を調合し終えた千空が手を叩いた。

 

「考察はさておき、ビューティーコハク、大変身タイムだ!! 可愛いは科学!!!」

 

 

 

【第7話 信じる錬金術師】

 

 

 

「俺たちは今からドローンを作る訳だが、ドローンを作るのにネックなのが2つある。1つはモーター。もう1つは姿勢制御だ」

 

 モーター自体の製作は簡単だ。適当なコの字型の鉄にコイルを何千周も巻くだけ。巻けば巻くほど力は強くなり、これで作ったプロペラは推進力が高くなる。

 

「今の科学で造れる姿勢制御の方法なんて、ジャイロ効果を使ったものしか思いつかないんだが。他に方法あるのか千空?」

「いや、それで合ってる。そのためにベアリングが必要だ。ボロス頼めるか?」

「任せろ。真球度が高いものを量産すれば良いんだろ?」

「ああ!!」

 

 ドローン開発に向け各々手を動かし始めた頃、コハク達スパイチームは科学の鍵を見つけた。

 科学王国の勝利の一手となるその鍵――宇宙船ソユーズが頭首の住む大木の根に絡み付かれる形で安置されていたのだ。

 となると、直ぐにでも千空達科学チームに連絡したいところであるが、連絡手段が無い。

 

「(どうする……? 一か八か叫んで報せる訳にはいくまいし……!!)」

『あ゛ー、聞こえてっかコハク。この後そっちにちーと面白いもんが行くぞ。科学のネズミだ……!!』

 

 それはモーターで作られたミニ四駆。

 電池搭載型で独立式のそれは、ネズミの姿を借りてコハク達の元へと到着した。

 

『何かあった時はそのネズミ発射して〜。要はSOS信号ね〜』

「(ありがたい!! これを使って千空達に教える事ができる!! 仲間なら言葉が通じなくとも心で通じる!! 信じてるぞみんな……!!)」

 

 文字を習ってないコハクが選んだのは、絵を使った文字。つまりは絵文字だ。古代人が壁に描いた絵のように、コハクは自らの血で絵を描いてプラチナの存在を教えた。

 

「――『プラチナがあった』!!」

 

 解読が成功するや否や、ボロスは受話器を手に取りコハクへと告げる。

 

「今晩、ソユーズを開封しに行く。新たに布を届けっからそれをプラチナがある場所付近の木の天辺にでも結んでおいてくれ」

「何をするつもりだボロス。迂闊な真似をすっとバレるぞ」

 

 千空から咎められるものの、ボロスは気にせず錬成陣を展開して目的のものを錬成しようとする。

 

「あのミニ四駆は鋭い者が見ればネズミじゃないことがバレる。だからバレる前にソッコーでソユーズの中身を頂く。私の錬金術なら無音でソユーズを分解できるからな」

「あ゛ぁ、なるほどな。んで、何作ってんだ?」

「ルミノール試薬だ」

「あ、科学捜査でよく聞くルミノール反応ってやつね!!」

 

 出来上がったルミノール試薬を適当に破った布に染み込ませ、ネズミ二四駆に搭載し、スイカへと手渡した。

 

「なるほどな! ボロスは暗視スコープで夜闇に紛れて潜入し、可視光に入らないブラックライトを使ってソユーズに近づくのか!!」

「ああ」

 

 ルミノール反応は化学発光(ケミカルルミネッセンス)といい、化学反応により生じたエネルギーが光として放出する現象である。

 ルミノール溶液と酸化剤を混ぜた溶液を混合すると、青色の発光を示すが、発光が終わってからでも、紫外線を照射すれば再び発光が見られる。

 

 これを用いる利点は2つ。

 1つは紫外線を照射するだけで発光すること。

 もう1つは、紫外線そのものは人の目に映らないこと。

 

 これにより、通常のライトを使った場合よりも敵に見つかる可能性が下がる。更に、暗視スコープを使うことで暗闇でも視界を確保する事ができる。

 

「あとはコハクが上手く結んでくれることを祈ろう。いや、やってくれていることを信じてるぞ!!」

「あ゛ぁ、やってくれるさアイツらなら100億%!!! 話は変わるが、コイル巻くのにマンパワーがいる。計画変更だ。ボロス、プラチナを錬成してくれ。復活液を作ってガンガン味方を叩き起こしていく!!」

 

 この流れに乗るべく、プラチナを錬成。更に硝酸生成装置一式を殆ど錬金術で作り出したボロスは、念には念を入れて、完成品である復活液――硝酸:96%アルコール=30:70を大量錬成し、フラスコの中に溜めていく。

 

「まず欲しいのは神腕職人カセキ!! 次点で風読みの天才龍水!!」

 

 カセキはドローン作製の要として。

 龍水はドローン操縦の要として。

 

 乗組員達の石像は海に捨てられた事が監視していたソユーズによって報告されている。

 龍水はどこかに連れ去られたようだが、その使い道はゲンによって暴かれていた。

 

『絵踏よ絵踏。侵入者を炙り出すために使われるのよ。壊せるなら仲間じゃないよね〜ってこと』

 

 石像が壊されることは想定済み。だから既に先手を打ってある。名もバラバラ脱出計画。

 コハクによって丁寧に壊された龍水の石像は、記憶力チートのソユーズの手であれよあれよと言う間に完成。

 錬金術(チート)で作った復活液の記念すべき一本目は、千空の『さぁ起きて働け!!』の声と共に龍水に注がれる。

 順調に石化が解除された龍水は、パチリと瞬きをして高らかに叫んだ。

 

「はっはー‼︎ 感謝するぞ貴様ら。おかげで俺は! 人類初の2回目復活者というトロフィーを手に入れたぞ!!!」

 

 更にトントン拍子で話は進む。

 酸素ボンベはボロスによって数秒足らずで完成。

 カセキと大樹を起こし、ペルセウス乗船員を全て回収した。

 食糧問題があるため全員は起こせないが、主要なメンバーは全て復活を果たした。

 六英傑の残り+杠の計4名が追加され、総勢11人。

 

 その頃には日は沈み、空には三日月が浮かんでいた。

 

 深夜2時の時間帯に、真っ黒の服に着替えたボロスは石化王国に忍び込む。

 

「(警備の数は……およそ20か)」

 

 木に登って闇に身を隠すボロスは、松明の明かりで警備の数を把握。

 まず最初に行わなければいけないのが唯一の出入り口を塞ぐように立つ2人の門番。

 

「(……誘い出さなきゃダメか。風向きは……ふむ。ちょうどあそこは風下になるな)」

 

 誘い出すのは簡単だ。風上で火をつければ良い。

 少し離れたところに火を付け、即時退却。その間、火の煙が門番のところまで漂っていく。

 

「(クククッ、そうだよな。直ぐに消せないといけないよな)」

 

 大事なのは、1人か2人で直ぐに消せる程度の火を起こしておくこと。火事に発展しそうな大きな炎は騒ぎを呼び、潜入どころではなくなってしまう。

 ボロスはうまく門番を出入り口の橋から遠ざけ、その隙に内部へと侵入することに成功した。

 

「(さぁ〜て。大抵偉いやつは1番高い所に住んでんだ。あそこまで登ってみるか)」

 

 暗視スコープを装着したボロスは、暗闇に潜む豹のように足音を消して目標まで距離を詰める。

 まるで猿のように身軽に木を登ったボロスは、カチリとブラックライトを光らせた。

 

「(あるかな………ビンゴ!! ナイスだコハク!!! 一発で当たりを引くなんてついてるぜ!!)」

 

 紫外線を受けてボワッと光る布。

 ソユーズの想定しうる形状と重さを鑑みてこの木の真下にあると断定したボロスは、スルスルと枝を伝ってそこまで降りてきた。

 

「(見つけたぜソユーズ。そしてありがとう、地球最後の宇宙飛行士達!!)」

 

 ここまでくればほぼ終盤だ。

 ボロスは両手を合わせてからソユーズに触れた。

 

 長い年月により劣化した外殻が砂となり、その下にあったコンクリートを塵に変え、ソユーズの中身が月光の下に晒される。

 

「(……あるのは瓶1つだけか)」

 

 手に持ってみればずっしりとした重みを感じる。月光に透かしてみれば、キラキラと光る金属の粒が大量に入っていた。

 移動中割れないように瓶のガラスの表面をダイヤモンドコーティングし、ついでに栓が抜けても漏れないように瓶の首をキュッと絞り、ボロスは胸ポケットにしまう。

 

「(おし、後はバレないように元通りにするだけ)」

 

 ――それは不可避の現象。

 ボロスの意思一つで変えられない錬金術の欠点

 

「そこにいるのは誰だ!!?」

 

 錬金術を使用する際に必ず放出される緑の発光。

 その光は夜の闇を切り裂くには十分だった。

 

 そしてもう一つの誤算は、ボロスには知る由もないが昨夜に侵入者がいたこと。その侵入を受けて警備体制が重くなっていた。

 

「(やべっ!! 見つかったか!!?)」

 

 直ぐ様木の陰に入るも、松明を持った誰かが近づいてくる気配がある。

 

「いるのは分かっているぞ!!」

「(……待てよこの声、宰相イバラの側近キリサメだ。てことは石化武器を持ってる!!!)」

 

 ボロスの思考が、バレずに撤退から、多少危険を冒してもここで石化武器を奪うにシフトする。

 

「5 m 1 second」

「(……!? 何の合図だ!?)」

 

 石化武器にも欠点がある

 それは必ず起動ワードを口にしなければならないこと。

 

 五感を研ぎ澄ませていたボロスがそれを聴き逃す筈もなく、ボロスは何をするつもりだと木の陰から顔を覗かせた。

 

「(!? 投擲物!! 手榴弾の類か!!?)」

 

 本来なら、それを手榴弾だとは思わないが、Dr.Xなら造りかねない事が頭の中に残っていたボロスは、両手を合わせるや否や水銀を三角錐形に固めて暫定手榴弾に投擲。刹那、土壁()を錬成。

 投降した水銀は見事に的中し、軌道を大きくずらした。また、土壁を錬成すると同時に大きく距離を取っていたボロスは、石化光線に巻き込まれること無くその場を凌ぐ。

 

「(この光は……!! まさか石化武器の正体って!!! ……いやそれよりも重要な情報が手に入った。石化武器を使うためには範囲設定と何秒後に発動するかを入力する必要があること。そして紐付きということは、再利用可能であり、術者(キリサメ)も石化する可能性があること!!)」

「(避けた!! 何者だ!? 奇妙な術を使う!! 妖術使い? でも見た。敵が何かする時は必ず両手を合わせなければならない!! そして必ず発光する!!!)」

 

「「(なら、接近戦に持ち込む!!! 石化武器(妖術)を使わせない!!!)」」

 

 奇しくもボロスとキリサメは同じ事を考え、同時に距離を詰めて拳を交える。

 ここでのアドバンテージはボロスにある。

 

「(知ってるぜキリサメ!! 私は既にお前の戦闘力をコハクを通じて測定済みだ!!)」

「(この男……強い!! 攻撃が尽く止められる、躱される……!!)」

 

 全身に走る衝撃。響く打撃音。

 ミシッ、とガードしたキリサメの腕が嫌な音を立てる。

 

「(そして速い! 拳が重い! そう何度も受けられない!! 長く闘ってはいられない!!)」

「(お前の攻撃方法は、フィギュアスケートと舞の動きを取り込んだ一種の古武術に近い。肉体性能的に男性に劣る女性(キリサメ)が男と対等に渡り合うために、遠心力を求めたんだな!!)」

 

 フィギュアスケートを思わせるような高速の回転。そして次の動きに流麗に繋げる舞の足捌き。

 捌ききれなかったキリサメの脚撃が、ボロスの右肩に直撃。その威力の高さに、ボロスの姿勢が傾く。

 

「(だがその威力は馬鹿にならない程高い!! あの時岩を蹴り砕いたのも納得の威力だ。まともに受けては、筋肉が痺れて感覚が鈍る。つまり短期決戦が迫られる!!)」

 

 再び、ボロスとキリサメの思考が一致する。

 

「「(狙いは腕ッ!! 石化武器(妖術)を使うに必要な腕を潰す!!)」」

 

 ――打、打、打、打打打打打打打!!!

 ――撃、撃、撃、撃撃撃撃撃撃撃!!!

 

 最低でも数十発に渡る打撃と脚撃の応酬。

 ボロスはその間も、脳を回転させていた。

 

「(妙だな。何故声をあげて仲間を呼ばない? それどころか……)シッ……!!」

 

 ボロスの右ストレートがキリサメのボディを打ち抜く。

 

「っ……!!」

「(痛みによる苦悶の声も押し潰している)」

 

 ボロスとしてはありがたいが、普通に考えればおかしい。だが応援を呼ばないという異常(おかしさ)は必ずキリサメにとっての利点に繋がっている。

 

「(……そうか、石化武器による石化は、お前らにとって極秘事項なんだな!!!)」

 

 その奇妙さを暴いたとて、ボロスにできることは何もない。石化武器を封印するためにボロスが敵勢力を呼ぶのは、あまりにもリスクが大き過ぎる。

 

 無言の応酬の末――キリサメの左回転蹴りを右足裏で止めたボロスは――パン!

 両手を叩く。

 

「(妖術が来る!!)」

「(逃さねぇよ!!)」

 

 刹那に身を翻し、俊敏な動きで距離を取るキリサメをボロスは追いかける――が、距離が縮まらない。

 

「(速い!! スピードはあっちの方が上か!! ……っ、なら錬成変更!!)」

 

 もう一度掌を合わせたボロスは、水銀を手に取り状態を球形に固定。そしてそれをキリサメへと投げた。

 

「(ッ悪寒!!)」

「(今のを避けるかよ普通!!!!?)」

 

 本能とでも言うべきか、キリサメは振り返る事無く飛び退いて、ボロスの水銀を躱した。

 だがこれで両者の差は急激に縮まった。

 

「(捕らえた……!!!)」

 

 己に迫る光る掌に、キリサメが返したカードは、

 

「0.5 m 1 second!!!」

「チッ!!」

 

 石化武器の振り回し。

 触れてはいけないもの(錬金術)には、触れてはいけないもの(石化武器)を当てればいい。単純明快にして効果的な一手だ。

 ボロスは咄嗟に仰け反った勢いを利用してバク転し、石化光線を回避する。

 

「(こいつ相当キレるな!!)」

「(光っている時の掌は拙いでしょう。なら、取るべき手段は――)」

 

 キリサメは石化武器をまるでモーニングスターのように身体周辺で高速に振り回す。ビュンビュンとなる風切り音が、石化武器の入力音を隠す。

 これでは迂闊に近付けない。

 

「(なら、近づかなければいい!!)」

 

 今度は中距離戦。

 キリサメはいつでも石化武器を発動できる。それと同時に、ボロスもいつでも錬金術を発動できる。

 

 だがしかし、キリサメが中距離戦を選んだのは悪手であった。

 キリサメのもつ石化武器は石化という強力な一手しか選べないのに対し、ボロスの錬金術師は多種多様の手を選ぶ事ができる。

 

 キリサメの敗因は、近距離戦を捨てた事だった。

 

「(あまり時間をかけてられん!! これでケリを着ける!!!)」

 

 パンッ!!!

 

 両手を合わせて、ボロスが取り出したのは水銀。

 そしてまたもや球形に固定して、上へと投げた。

 

「(上に!? どうして!!? 罠!!?)」

 

 キリサメの視線は自ずと上に投げられた水銀に向かう。

 その間、視界の隅でボロスがどう動くかも把握。

 

 何も、していない。 

 

「(この距離じゃ当たらないわ!! 一体何の為に!!? まさか炸裂するの!!?)」

 

 キリサメの人生を捧げて極めた投擲力が、あの(水銀)の軌道では自身に当たらないと告げている。

 だが侵入者は妖術使い。必ず秘策があるに違いない。

 

 ――パァン!! 

 

 キリサメの予想通り球が音を立てて破裂、内部から細かい何かが飛び出してきたのを捉える。

 しかしその細かい何かは、キリサメに当たる軌道を描かない。この軌道ではキリサメの上空を通過する。

 

「(……はッ、拙い!! 目を離した!!!)」

「(流石に音には反応しちまうだろ? そして、これは避けられない!!!)」

 

 いつの間にかキリサメの足元に転がっていた水銀の球。それが急に液体に戻り、キリサメの足に触れる。

 

 パチパチッ……!!

 

 細い何かから発生した異音――空気が弾ける音を聞いた瞬間、キリサメの体感時間が引き伸ばされた。

 

「(あの青白い煌めきは……神の怒り――)うぅああああ!!!!??」

 

 上で細かく散らした水銀から放たれた細い雷が、キリサメの足元にある水銀に向かって落ちる。

 原理は簡単だ。上に溜めた電荷を下に用意した受け皿(水銀)に流しただけ。もちろん威力は大分削ってある。

 

「さぁて、頂くぜ……石化武器」

「(倒れるわけには……!! 私には平和を守る使命が――)」

 

 今にも倒れそうなキリサメに一歩近づいた途端、背筋を走る違和感。脳裏に過る警告音

 

「(葉音……?)――上かッ!!!」

「――ミラクルパワー!!!」

 

 ドカァン!!

 

 耳を劈く轟音と共に上から降ってきたのは大柄な男。エジプトの神アヌビスを彷彿とさせる被り物を被った男が、その巨体に見合った棍棒を振り下ろしてきた。

 これにはたまらず、距離を取らざるを得なかった。

 

「(チッ、増援か!! あともう少しだったのに……!!!)」

「あ゛〜? お前どこの集落のもんだ? 顔を見せやがれ」

 

 時間を掛けすぎた。

 ボロスは躙り寄ってくるキリサメと大男――オオアラシを傍目に、思考を回す。

 

「(もはやこの騒ぎは中枢全域に伝わってる事だろう。さて、どう動くべきか……)」

「このオオアラシ様の言葉が聴こえねぇのかよぉおお!!!!」

 

 キリサメと比べれば欠伸が出る程遅い。

 ボロスは淡々と両手を合わせ、振り下ろされる棍棒を掌で待ち構える。そして触れた側から分解し、棍棒を半ばから塵と化した。

 

「おおおおお!!!!?!? 俺様のお気に入りを何すんだてめぇええええ!!!!」

「黙ってろ」

「がふっ!!? (何だ……視界が揺れる…………!! 立ってられねぇ……)」

 

 ボロスは顎に強烈な蹴りを叩き込み、オオアラシは脳震盪を起こしてたたらを踏む。そして耐え切れず地面に倒れたオオアラシの両腕と両足を、ボロスは水銀で固定した。

 

「(プラン変更だ。一か八か、ここで掛けるしかねぇ) さて、お前らに通告する。コイツの命が欲しけりゃ石化武器を渡せ」

「くっ……!! 人質とは卑怯な!!」

「「「オオアラシ様……!!!」」」

 

 ボロスは指だけを合わせ、何時でも錬金術が使えるように準備しながら、倒れたオオアラシの背中に腰を下ろした――背後から、声が届いた。

 

「ん〜、じゃあ俺からも、この娘の命が欲しけりゃ投降しな。仲間だろ? 君の」

「モズ……!!」

「すまないボロス、ヘマをした」

 

 コハクの首に刃物を突きつけ、モズはゆっくりと振り向いたボロスへと宣告する。

 

「……悪いが、私は合理主義でね。その女がどうなろうと知ったことで――」

 

 ザシュ!!!

 コハクの髪の毛が宙を舞う。

 儚く散った髪の毛が、コハクの行く末を暗示していた。

 

「駆け引きは無駄だよ。ボロス……と言ったかな。君の目的はキリサメの持ってる道具らしいけど、それならキリサメを殺せば済む話だったのに殺さなかった。真に合理的なら君の妖術で全てを壊し、目的物を手に入れるだけでいい」

「…………」

「できないんだろ? 今もこうして問答してる間に逃げてしまえば良いのに、逃げない。コハクちゃんが俺に殺されちゃうからだ。だから――俺の勝ちだ

 

 そうしている間にも、敵は大勢集まってきた。もはや中枢にいる敵は全員集まってきているだろう。加えて、野次馬根性を発揮した一部の後宮の人間も。

 

「戦士なら、ここで死んじゃうのも本望よネ〜」

「イバラ……!!」

 

 挽回の手はあるにはある。

 

 落雷、火事、凍結、沼地化、電磁砲――などなど。

 

 だがそれは威力調整を間違えれば100%人を殺してしまう。

 そもそも、錬金術の発光を見た瞬間にコハクは喉を貫かれて死ぬだろう。

 

 ボロスには、もう打つ手が無かった。少なくとも今の段階では何も思いつかなかった。

 

「ボロス!! 私の事は気にするな!! お前さえ生きてここを脱出してくれれば未来に繋げられる!! 私が死んでも代えはいる!!! だから私の事は見捨てろ!!! 見捨てるんだ……っ!!!

 

 だから――そんな顔をしないでくれっ…………」

 

「へぇ〜そんなこと言うと気になるじゃん。フードを脱いで見せてよ」

 

 もはや言う通りにするしかない。

 ボロスは顔を覆っていたフードを外し、両手でマフラーを巻き付けるようにして外して放った。

 マフラーは風に飛ばされ、夜の闇へと溶けるように消えていく。まるでボロスの行く末を暗示するように。

 

「いい顔するじゃん」

 

 三日月に照らされたボロスの顔は、後悔、無力感、懺悔をごちゃ混ぜにしたような、形容し難い顔色をしていた。

 そして、その全てを呑み込むようにボロスは息を吸い込み、ゆるゆると吐いた。

 まるで、人生最期の呼吸を味わうかのように。

 

「コハク」

「っ、何だ?」

 

 今宵の月に相応しい程、ボロスはあまりに晴れやかに笑った。  

 春の陽気に包まれて思わず微睡むような声色で。

 

後は頼んだ(信じてる)

 

 ちょっと散歩にでも行ってくる、と言わんばかりの言葉の軽さで、ボロスは自分を助けるのを諦めた。

 

 科学王国の勝利を握るコハク、銀狼、アマリリス、そして千空――皆の顔がボロスの脳裏に過る。

 コハクのみならず、銀狼とアマリリスに信頼と言う名の呪いを残したボロスはそして。

 

「それが遺言だね」

「――――!!!!!」

 

 声無き絶叫は誰のものか。

 共に伸ばした手は決して届かず、見えているのに届かないもどかしさは空に浮かぶ月に手を伸ばすかのようで。

 

 冷たい殺意は容赦なく――ボロスの心臓を貫いた。




 でも仕方ない。ボロスいたら石化王国崩壊RTAが始まっちゃうからネ。しょうがないのヨ。

 ちなみにこの騒動の裏で銀狼は頭首が石像ということを知りました。コハクは目を付けられていたモズと戦闘になり、モズが銀狼のところに行かないように防衛していました。敗れましたが。
 あと言わずもがな、モズはコハクを殺すつもりはありませんでしたが、そんなこと知る由もないボロスは真に受けちゃいました。
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