石世界の錬金術師   作:ポンタ ponta

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 ただいま日本。

 今回から原作の流れから大きく逸れると思います。
 全然作品とは関係ありませんが、Blenderで石化装置(三葉結び目)を作りたいんですが、三葉結び目の作り方知ってる人がいればハーメルンのメッセージで教えて頂きたいです。今後の挿絵に使いたいので、よろしくお願いします。


第9話 月面の錬金術師

「クククッ、伝説の錬金術師VS科学王国―――唆るぜ、これは」

 

 敵は現代の科学を越えた未知の科学を操る。その強大さは単純な指標では表すことができない。

 けれども、千空の顔の下には興奮を抑えきれない笑みが浮かんでいた。

 

 未知の科学?

 現代を凌ぐ錬金術?

 

(クククッ、100億%唆らなきゃおかしいぜこれは)

 

 震える手は好奇心による気の高ぶり。

 ドクドクと巡る血の音は、千空を急かすように鼓動する。

 

(こんなにも興奮が止まねぇのは、いつ振りだ……)

 

 興奮を抑えるようにグッと握った拳。その拳の先には未知の科学で創られた賢者の石と、ボロスという錬金術師がいる。

 

 どちらも、蓬莱の枝と等しい程に貴重な存在。

 

 その両方を抑えている千空は今、人生最高の気分だった。

 

 

 そうして、どこかご機嫌な千空は、数百年振りに目覚めた復活者松風による賢者の石の出処の証言と、用意したパラボラアンテナと地球の自転を使って放送の逆探知をした結果――――突き止めた

 

「ニコラ・フラメルは――月面にいる」

 

 夜空を照らす月に手を向け、握り込んだ千空が皆にそう告げた。

 

「ありうるのか……そんなことが……!!?」

「一体どうやって月に……!!?」

「だがそんな場所では私たちには手も足も出ないじゃあないか……!!」

 

 騒然と騒ぐ皆に背を向け、月を見詰める千空。

 その隣で無言で腕を組み、同じく月を見上げるボロス。

 2人の神妙な面持ちに気づいたゲンは冷や汗と共に目を泳がせ始めた。 

 

「待って待って待って! いやもうそれ悪い予感する。たぶ〜〜〜んぜったい当たるやつよコレ。この原始のストーンワールドで――」

「「俺ら(私達)は月に行く‼︎‼︎」」

 

 千空とボロス、2つの口から同時に放たれた言葉に、皆が一瞬静まり返った。

 

「もぉ〜う何作るとか言い出しても驚かないつもりだったのに、石の世界(ストーンワールド)にガチで月ね……」

「おおお月様なんてどうやってなんだよ……⁉︎」

「ククク、科学王国毎度おなじみじゃねぇか。地道〜に一歩一歩だ」

「おなじみじゃあないよ、これまでとまるで違うじゃないか! 無謀さの次元がさ‼︎」

 

 宇宙へ飛び立つことは現代であっても至難の業だった。多くの国々と科学の天才達が協力し、その結果宇宙へ行けるのだ。更には運さえ絡む難易度マックスの挑戦。

 ニッキーが愚痴を吐き出すのも無理はなかった。

 

「ハ! だが敵が月にいると分かった今、再び殺られる日を天命と待つほど私たちは無欲でもあるまい……⁉︎」

「はっはー! 俺たちは新世界で空の星までも欲しがろうと言うわけだ‼︎」

「……ヤベェー、科学マジでヤベェー……!!」

 

 だがそれでも諦めない。

 科学王国の住民達は、自分たちなら、科学ならできると信じている。ニッキーも、無謀とは言ったが無理だとは言ってない。  

 誰もが信じてるのだ。時間はかかっても、いつか必ず宇宙に行けることを。

 

「世界中から素材かき集めんぞ‼︎ 新世界月旅行プロジェクトスタートだ‼︎」

 

 

 

【第9話 月面の錬金術師】

 

 

 

「大きな問題が2つある」

 

 六英傑だけが集った操縦室。口火を切ったのはボロスだった。

 

「まず1つは、ニコラ・フラメルは我々の動向を把握していること」

「どういう事だ!?」

「あ゛〜確かにそうじゃなきゃおかしいな」

「フゥン、あり得るな」

「なるほどね」

「待って待って、どういうこと?」

 

 クエスチョンマークを頭に浮かべるクロムとゲンに、ボロスが向き直る。

 

「あの放送内容を思い出してみろ。師匠は12800000 m、1secondって言ってただろ。あれは我々が石化装置を持ってる事を知ってなきゃおかしいんだ。電波をキャッチする受話器とスピーカーを持ってるのはアメリカを除いて私達だけなのだから」

「確かに!!」

「……んん???」

 

 クロムだけまだ完全に理解できていない様子。それを見かねた千空がボロスの説明を噛み砕いて説明する。

 

「フラメルは電波に乗せて石化の起動ワードを口にしていたんだ。電波は電波をキャッチする受け皿が無いと意味が無ぇ。だから電波に起動ワードを乗せたところで、キャッチできなきゃ無意味だ。あの宝島に受け皿は無いのは分かってんだろ? なら、フラメルは受け皿を持ってる俺達が賢者の石を持っている事を知った上で電波に乗せて流したと考えられる」

「!! そういうことか!!!」

「そう。つまり月面から私達は監視ないし、それに準ずる事をされている」

 

 どこまで詳細に知られているかは不明だ。位置だけなのか、この会話すら聞かれているのか。

 

「この賢者の石に、位置情報を発するような仕掛けが施されていないのは、電波を発していない時点で明白。なら、師匠はどうやって我々が賢者の石を保持していることを把握したのか」

「こう、月から観察してるとか?」

「おそらく、それが1番可能性がある」

「でも月面から地球上の出来事なんて見えるもんなの?」

 

 ゲンが訝しげに思うのも無理はない。

 地球と月間の距離は384400 km。仮に新幹線(時速200km)で行くと不眠不休でも約80日もかかってしまう。

 そんな遠い距離から物理的にどう覗くのか。

 

「現代において最高の光学望遠鏡はすばる望遠鏡。この口径は8.2 m。10 mにも満たないこの大きさで東京から富士山の山頂に置かれたテニスボールを見分ける事ができる。望遠鏡は口径が大きくなればなる程より遠い物が見える。月面や宇宙にすばる望遠鏡を凌ぐ程の巨大な望遠鏡を建てれば、地球上で何が起こっているかは把握できるだろう」

「ああ゛、イバラが島を丸ごと石化光線で包んだんだ。その光は宇宙からくっきりと見えるだろうよ」

 

 石化光線は日差しの下でもはっきりと見える程強力な光線だ。

 そんな光線が島を包む程の大きさを持っていれば、科学文明が滅びた今の地球では、巨大な狼煙を上げているのと等しい。

 

「ならヤベーんじゃねえのか!!? 今こうしてる間にもフラメルから監視されてるんだろ!!? いつ石化光線を浴びせられるか分かんねぇぞ!!!」

「ああ。クロムの懸念も尤もだ。そこで、1つ提案がある」

 

 一度言葉を切ったボロスは、左耳に着けているインカムをトントンと叩いた。

 

「私が師匠にコンタクトを取るかどうかだ。今もこのインカムからは規則的に12800000 m、1secondが聞こえる。地球を包めとあえて何度も放送してるのは、師匠が地球上におらず、月にいることを私に気付かせるためか。これをそう捉えて、私がこちらから連絡を取れば、師匠の思惑を少しは暴く事ができるだろう」

「……なるほどね〜」

「うん、難しい問題だね」

「迷うこたぁ無ぇだろ。ソッコーで聞け」

「「「もう準備してる!!?」」」

 

 あっという間に電話の準備を整え、受話器をボロスに差し出す千空にツッコミが入った。

 

「クククッ、思えば俺しかフラメルにコンタクトしてなかったからな、ボロスなら変わるかもしれねぇ。可能性があんならやってみんのが1番だろ」

「そ、それはそうだけど……」

 

 千空から受話器を受け取ったボロスは、1つ息を吐いて口を開いた。その姿を、皆が固唾を飲んで見守っている。

 

「師匠、聞こえていますか? 私はボロス・フラメル。師匠と話をしたい」

 

 場に満ちる痛い程の静寂。

 アテが外れたかと肩を下ろした瞬間、ノイズが走った。

 

『ハハハ、ようやく見つけたぞボロス』

 

 スピーカーから飛び出した声は威厳に満ちて、声だけで凄まじいプレッシャーが放たれていた。

 

「「「(これが伝説の錬金術師ニコラ・フラメル……!!!)」」」

 

 皆の心が同じ事を呟く中、フラメルのプレッシャーに圧されたクロムがたたらを踏んだ。

 

「お久しぶりです。このまま何千年振りにもなる会話を楽しみたいところですが、聞きたいことがあります。何故、石化光線で地球を覆ったのですか?」

『お前からの質問に答える気は無い。知りたければ来るが良い。もう私の居場所は知っているのだろう? そうすれば全ての疑問に答えてやる』

「分かりました」

『1つアドバイスをくれてやろう。アメリカに行け。そこに復活者がいる』

 

 通話はそこで途絶えた。インカムからのメッセージも無くなったようだ。ボロスはインカムを外して机に置いた。

 悠久の時を越えた感動の師弟の再会だというのに、実に薄情である。

 ゲンはそう思いながら口を開いた。

 

「結局、アメリカに行けしか分からなかったね〜。アメリカの復活者はやっぱり千空ちゃんのお師匠様かな?」

「いや、それとフラメルがボロスを探していた事も分かった。フゥン……気になるな。もしすると、地球を石化光線で覆ったのもボロスを見つけるためかもしれん。荒唐無稽な話だがな」

 

 そう言って肩を竦めた龍水の隣で、クロムが何やら呟いている。うんうん唸りながら呟くもので、クロムに水が向けられるのも至極当然の事だった。

 

「どうしたクロム。何か気付いたか?」

「宇宙に望遠鏡建てたらよ、光るのか?」

「いや、普通は光らないぞ。フラメルが建てたのなら光るかもしれないが」

 

 千空の答えにもう一度考え込んだクロムは、ポツポツと語り出した。

 

「……俺がガキの頃によ、毎日同じ時間に光る星があったんだ」

「ふーん。それで?」

「でも毎回光る位置が変わるから、何でと思って光る位置を記してた時があったんだよな。今思えばあれは文字だったかもしれない」

「!!? ニコラ・フラメルからのメッセージか!!!? んで、それをどこにやったんだ!!?」

「忘れた!!!」

「「「何やってんだお前!!!!」」」

 

 唾を飛ばす勢いでツッコまれたクロムは、仕方ねーだろと声をあげた。

 

「ガキの頃の話って言ったろ!!! どこにやったかなんて覚えてねーわ!!!」

 

 必死に自身の弁明をするクロムに、苦笑いしながらゲンが口を開く。

 

「まぁ、クロムちゃんの証言が本当なら、今夜も見えるかもね」

「おうよ!」

「―――さて、一段落着いたところで次の問題に移ろう」

 

 パチンッと軽く両手を叩いたボロスに、そういやもう1個あったなと皆の視線がボロスへと向く。

 

「アメリカに行くことはもはや決定事項だが……どうする? 事前に向こう(Dr.X)に連絡をしてから向かうか? それとも密かに上陸するか?」

「俺からは何も言わん。千空、弟子の貴様が決めることだからな」

「…………」

 

 深く考え込む千空。

 腕を組み、片手を顔に当てる千空の頭の中では、連絡した場合としなかった場合の様々な想定が渦巻いている。

 

「……事前に連絡した方が無難だな。密航者として攻撃でもされたら最悪だからな」

「おし、では連絡するという方向で話を進めるとして、甲板に出よう。コハクの視力に望遠鏡でクロムのいう光る星が見えるかもしれない」

「そうだね。光る星が見えるかどうか楽しみだ」

 

 期待に胸を膨らませ、皆がみな目をキラキラと輝かせている中、クロムだけが何故か焦燥しきった表情をしていた。

 

「どしたのクロムちゃん? そんな酷い顔して」

 

 ゲンに指摘されたクロムはキュッと唇を結び、そして意を決して頭を下げた。

 

「すまん!! もう時間過ぎてる!!!」

 

 直後、皆がズッコケたのは言う必要も無いだろう。

 

 

 

 

 ゲンが見てた。千空が観てた。

 夜の海に揺蕩うペルセウス号。そのマストの上に浮かぶボロスの姿を――。

 

「(あれ? ボロスちゃんあんなとこ(見張り台)で何してるの? ……まぁいいや)」

 

 穏やかな波は眠気を誘う音を奏で、ゆらりゆらりと揺れる船は揺り籠のよう。

 ふわぁ……と欠伸をしたゲンは、気にせず通り過ぎようとして、はたと足を止めた。

 

 声が聴こえた。千空とボロスの声だ。

 こんな夜中に一体何をしてるのか。気になったゲンは踵を返してマストに向かった。

 

「……」

「……………」

「………」

 

 声は不明瞭でまともには聞こえない。

 もっと近付こうと見張り台に続く縄に手をかけ、数段登った。

 

「……私だけで向かった方がいい」

「ボロスの言い分も分かるがよ。ちぃーとばかし判断が早急じゃねぇか?」

 

 聞こえてきた内容に、ピタリと体が止まる。

 

「(えっえ?? どゆこと???)」

 

 ゲンの混乱を知らず、2人の会話は続く。

 

「いや。私が先に月に行き、その間に千空達はアメリカに行く。それがベストなんじゃないか?」

「……」

 

 眉間に皺を寄せて考える千空を置いて、ボロスはとん、と体重を感じさせない身軽さで見張り台の手摺に飛び乗った。

 

「(危ないよーボロスちゃん)」

 

 何だか声をかけるタイミングを見失ったゲンは、心の中で呼びかけた。テレパシー機能など搭載してないボロスにゲンの注意など聞こえる筈が無く、ボロスは無造作に月へと腕を伸ばした。

 

「私なら、今直ぐにでも、月へと行ける」

 

 ―――あり得ない光景を目の当たりにした。

 

「この様にな」

 

 宙空に足を踏み出したボロス。

 突如緑の発光に包まれたボロスは、重力の鎖から解き放たれたように、空へと浮かび上がった。

 

「(マジッ……ク? 釣り糸……ガラス板……いやどれもあり得ない)」

 

 ゲンのマジシャンとしての直感が、その現象を本物だと告げていた。

 

「「あ」」

「あ?」

 

 空に浮かぶボロスと目が合って、間抜けな声が出た。千空も気付いたのだろう、見張り台からひょこりと顔が覗く。

 真夜中でも元気ピンピンな白菜頭から『何してんだオメー』という副音声が聞こえた気がして、ゲンは苦笑いをしながら項を掻いた。

 

「―――いやいやいやいやいやいや!!!!!」

「何だ急に壊れたレコードみてぇに騒ぎ出して。今何時だと思ってんだゲン」

 

 見張り台に乗り込んだゲンは、先程の光景がフラッシュバックしてボロスへと詰め寄った。

 

「どゆこと!!? さっきのどゆことなの!!!? あれマジックじゃないよね!!? 逆にマジックだったらマジシャン(浅霧ゲン)の名折れなんだけど!!!!?」

最高(ルミヤー)に面白いブレーンワールド仮説だよ」

「いや『皆さんご存知の! あの有名な!!』みたいに言われても知らないんだけど?」

「ククッなるほどな。重力を別次元に逃がしたのか」

「それ科学の話? 魔法とかじゃなくて?」

「あ゛ぁ、科学の真面目な話だ」

 

 ボロスが見せた空中浮遊。それ自体は千空も見てなかったらしいが、原理は知っていたらしい。

 

超ひも理論って聞いたことあるか? 閉じた紐だとか開いた紐だとかそういうやつだ」

「あー……名前だけは」

「超ひも理論に基づく、ブレーンワールド仮説っつうもんがあってな。これによると重力は別の次元に移動してんだ」

 

 超ひも理論によると、この世界は9次元空間である。

 重力は自然界のほかの三つの力(電磁気力、強い力、弱い力)に比べて桁違いに小さい。

 強い力の強さを1とすると、四つの力の強さの比率は、

 強い力:電磁気力:弱い力:重力=1:10^-2:10^-10:10^-38

くらいになる。たとえば電磁気力とくらべると、重力は10^36(=1兆×1兆×1兆)倍も弱い。指先に着いた水滴が重力に逆らって指先に着いたままであったり、ピンが磁石に吸い寄せられ、ぶら下がるなんて現象を体験をした方も多いだろう。

 

 それはつまり、重力を伝える粒子、重力子が他の次元(余剰次元)に逃げていると考えられる。

 

「―――つうのを、ボロスは錬金術で実現してたんだ」

「そういう事だ」

「…………」

 

 ゲンは絶句していた。

 現代の科学は次元の壁に手が届く程に進歩していた事に感銘を受けた。

 

「(バイヤー過ぎでしょ……!! なんなのその理論……!! いや詳しくは分からないし、チンプンカンプンだけどさ、人類ってそこまで来てたのか……!!!!)」

 

 ゲンのそのだんまりをどう受けとったのか、千空は親指で隣に立つボロスを差した。

 

「だから直ぐにでも月に行けるってボロスは言うけどよ、俺は反対だ。今後、科学独裁国家との戦争が待ち受けてるかもしれねぇんだ。貴重な科学戦力を手放したくねぇ」

「千空達なら問題無いだろ。それより1秒でも早く月に行って師匠の蛮行を止めるほうが大事だ」

「相手はNASAの天才科学者だぞ? 戦力は多いに越したことはねぇ」

「…………」

 

 ゲンは分かる。メンタリストだから。

 かつて師匠を語った時の千空と同じ目をボロスがしていたから、ボロスの目の奥に浮かぶその感情を、ゲンは掬い取れる。

 

「師匠に会いに行きたいんでしょ、ボロスちゃんは。蛮行を止めるっていう建前は半分ホントで半分ウソ。俺には分かっちゃうのよ」

「…………」

「千空ちゃんもそうでしょ。なんやかんや言いつつ、科学の師匠に会うのが楽しみなんでしょ」

「…………」

「だって2人とも、同じ目をしてるもん」

 

 目は口程までに物を言う。

 

 狂暴的なまでに制御された理性の奥。

 理性の猛獣と評されそうな2人であっても、師匠を語る時の目の奥には、隠し切れない程の憧憬が有った。

 ただ、ゲンで無ければ分からない程に巧妙に隠されていたが。

 

「……そうだ。私は、師匠に会いたい……!!」

 

 今にも泣きそうな程に震える声がボロスからした事が、衝撃的でありながらもどこか予想できていた。

 

「返しきれない恩があって、もう会えないと思いながらも探し続けたんだ……!! 何年も、何十年も、何百年も……!!!」

 

 ニコラ・フラメルは歴史上死んでいるが、その棺桶の中は空っぽで、死体すら入ってなかった事が墓荒らしによって発見された。

 その事をボロスが知らなかった筈が無い。

 なら悟った筈だ。ニコラ・フラメルは死を偽装して生きていると。

 

「どこかで生きてると思いながら、フランス中を探し回り、地下墓所(カタコンペ)の中も探したが見つからず、外にいるのかと思いフランスを出た。もし生きているなら、もう一度だけでも会いたいと思い旅を続けて数百年。時の権力者(エリザベス1世)に近付いたり、秘境を訪れてみたりしたが結局見つからず、文明はリセットされ、3700年の時が流れた……」

 

 会話の途中で千空とゲンに背中を向けたボロスは、項垂れた様子で見張り台の手摺をグッと掴む。

 

「もう居場所は分かってるんだ!! 私の目の先に師匠は居る!! 会いに行ける!!」

 

 悠久の時を越え、ボロスは念願を果たせる時が来たのだ。

 

「自分でも分かってるんだ。今後の事を考えればアメリカに行って、千空の師匠を仲間にした方が良いって。そのために私の力が必要になる可能性が高い事も頭では分かってるんだ」

 

 一日千秋の想いなんて言葉では足りないだろう。

 たった1人の人間を探すために地球上を旅をして、何百年もの時間を費やしたのだ。あの日石化光線が降り注がなければ、きっと何千年も探していただろう。

 

 生半可な言葉ではボロスの心を変えられない。

 ゲンはどうしようかと頭を捻らせていると、千空がおもむろにボロスの隣に立った。

 

「3700年前、地球上の人間は全て石化した。宇宙にいた俺の親父は石化を免れた」

「……そうだな」

 

 千空が言いたい事を察したのだろう。ボロスは神妙に頷いた。

 

 疾うの昔に千空の父親、石神百夜はその生涯に幕を下ろした。

 ロボットのように合理的で、冷静沈着な千空だって感情はある。

 石神村で父親の墓石を前に涙を流したのはその証拠。

 

「……Dr.Xを仲間にするまで、地球に残るよ」

「ククッ、やっぱ情に訴えるのが1番だな」

「はいはい」

 

 あえて自身の思惑を口に出す事で、千空は周りを取り巻く神妙な雰囲気を取り払った。

 そして揃って月を見上げる。

 

 2人にとって合縁奇縁を織り成す宇宙を。

 

「(師匠、まだ会いに行く訳にはいかないようです。だから待っててください。成長した私を、そこから見ていてください)」

「(百夜、こっからだ。こっから月まで行ってやる。だから待ってろ。テメーの次の宇宙飛行士は、俺だ)」




 レイの存在を仄めかすことを書いてますが、実際登場させるかは悩んでいます。登場させずに、番外編みたいな感じで書くかもしれません。

 ブレーンワールド仮説によると、閉じたひもである重力子はブレーンからはなれ、高次元方向に動くことができる。これが、ブレーン内の私たちにとって、重力がほかの力よりも極端に弱い理由であると考えることができる。ただし、この考えは万有引力の法則と矛盾する部分があり、それを解消するために、それぞれの空間次元の大きさや形をうまく調節するモデルが考えられています。(2023年6月号Newtonより引用)

 すばる望遠鏡
 搭載された「超広視野焦点カメラ(HSC)」を使い、重力レンズ効果を利用したダークマター地図が作成されてきた。しかし、HSCの観測データの多くには大量のノイズ(観測データに混じる不要な情報)が含まれ、地図がぼやけてしまうという課題がある。(2025年3月号Newtonより引用)

 以下読み飛ばし可
 今後の展開を考えると、科学である錬金術が魔法染みたものになってしまうんですよね。例えばとある理論がありまして、それは未完成ながらも正しい可能性があります。ただ、その理論をどうやって証明するか、どうやって実装するかが不明なんですよ。
 原作で言うならヒッグス場のコントロールによる石化現象が該当するんですが、この理論は原作で簡潔に述べられていますが、その現象を引き起こすのにあの石化装置がどんな原理で動いているのか分からないんです。当たり前ですけど。
 今後の展開上、今回のように未完成(仮説)の理論であったり、机上の空論でしか無いものを当たり前のように使う可能性が著しく高いです。でも許して下さい。Boichi様だってreboot:百夜の後書きで、現実的に考えて無理であっても、カッコイイストーリーを作りましょう、みたいな事を言ってたんで。
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