騎士王転生の天之河光輝、異世界に降り立つ。(元 天之河光輝成り代わり物) 作:ゼロさん
〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟
「煩い!(ヤケクソ)死ねぇオラァ!」
〝ン゛ッ゛ホ゛オ゛ォ゛♡〟
「うわぁん…(後悔)あー…ハジメ。多分こいつ……竜人族だね。」
〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれを抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟
「うるっさいんだよぉ!!!ピーピー騒ぐなぁ(泣)!!!」ゲシィ
〝オ゛ウ゛ッ゛♡〟
「……なぜ、こんなところに?」(目逸らし)
ハジメが『友達がいきなりドラゴンと戦っていたらドラゴンの尻を執拗に責め始めた』事に呆れている間に、ユエが黒竜に質問をする。ユエにとっても竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている。
「ハッハァ!!!(泣)」トントン
〝いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど…ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~!〟
直接体の内側に衝撃が伝わり、悲鳴を上げて身悶える黒竜。出会った当初の死神もかくやという偉容はまるで夢幻だったとでも言うように微塵も見受けられなかった。
「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか……俺も気になるな。本来なら、このまま尻から(光輝が)ぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐けよ殺すぞ。(光輝が)」
ハジメとしても、伝説の竜人族の行動にしては余りに不自然なので、本来敵であるなら容赦はしないのだが、(光輝が)少し猶予して話を促す。(光輝が)片手で*1杭をぐりぐりする。
〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!〟
光輝の*2所業に、周囲の者達が完全にドン引きしていたがハジメは気にしない。このままでは話が出来なさそうなので、「ぐりぐりは止めてやれ」と制止させるハジメ。しかし、光輝の片手は杭に添えられたままだ。黒竜は、ぐりぐりが止まりホッとしたように息を吐く。そして、若干急ぎ気味に事情を話し始めた。その声音に艶があるような気がするのは気のせいだろうか。
〝妾は、操られておったのじゃおっふ♡。お主等を襲ったのもォ゛♡本意ではない。仮初の主ィ゛ッ゛、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟
「オイ光輝。ぐりぐりじゃなくてズポズポなら良いって訳じゃねぇ止まれ。」
黒竜の視線がウィルに向けられる。ウィルは、一瞬ビクッと体を震わせるが気丈に黒竜を睨み返した。ハジメと光輝の戦いを見て、何か吹っ切れたのかもしれない。
「どういうことだ?」
〝う、うむ、順番に話す。妾は……〟
黒竜の話を要約するとこうだ。
この黒竜は、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。
竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石に、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、議論の末、遂に調査の決定がなされたそうだ。
目の前の黒竜は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態になって。
と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。
当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。そう、例の諺の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。
では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……
〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟
一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げる黒竜。しかし、ハジメは冷めた目でツッコミを入れる。
「それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」
全員の目が、何となくバカを見る目になる。黒竜は視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。
その後、ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そして、ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。
で、気がつけばハジメにフルボッコにされており、このままでは死ぬと思いパニックを起した。それがあの魔力爆発だ。
そして、洗脳された脳に強固に染み付いた命令に従って最後の特攻を仕掛けたところ、光輝の一撃を脳天にくらって意識が飛び、次に、尻に名状し難い衝撃と刺激が走って一気に意識が覚醒したのである。正気に戻れた原因が、脳天への一撃か尻への一撃かはわからない。
「……ふざけるな」
事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。
「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!殺すべきだ!」
〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟
どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へハジメの後ろで怒声を上げる。
「煩ぁい!」
ドゴォ!
「へぶっ」
「いきなりっ!横からっ!安全な所で!強い奴の背中に!隠れて!」
「へぶっ!ブフッ!ゴフッ!ゴペッ!ガフゥ!ご…ごめんなs」
「好き勝手言ってるんじゃなァァァい!!!!!」
「ゴバァァァ!?」
「ふぅ…ふうっ…ハァハァ…っふはぁ…」*3
「」*4
「せ…先生は天之河君はこんな風にいきなり暴力振る生徒じゃなかったと思うんですけど…?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あー因みにだけどさっきのは……きっと、嘘じゃない」
「というと?」
食ってかかるウィルを寝かせた後、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。
「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
ユエは、ほんの少し黒竜から目を逸らして遠くを見る目をした。きっと、三百年前の出来事を思い出しているのだろう。孤高の王女として祭り上げられた彼女の周りは、結果の出た今から思えば、嘘が溢れていたのだろう。もっとも身近な者達ですら彼女の言う〝嘘つき〟だったのだから。その事実から目を逸らし続けた結果が〝裏切り〟だった。それ故に、〝人生の勉強〟というには些か痛すぎる経験を経た今では、彼女の目は〝嘘つき〟に敏感だ。初対面でハジメに身を預けられたのも、それしか方法がないというのも確かにあったが、ハジメ自身が一切の誤魔化しをしなかったというのが、今にして思えば大きな理由だったのだろう。
〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟
竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうな声音の黒竜。
「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟
どうやら、この黒竜はユエと同等以上に生きているらしい。しかも、口振りからして世界情勢にも全く疎いというわけではないようだ。今回の様に、時々正体を隠して世情の調査をしているのかもしれない。その黒竜にして吸血姫の生存は驚いたようだ。周囲の、ウィルや愛子達も驚愕の目でユエを見ている。
「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」
ユエが、薄らと頬を染めながら両手で何かを抱きしめるような仕草をする。ユエにとって竜人族とは、正しく見本のような存在だったのだろう。話す言葉の端々に敬意が含まれている気がする。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもしれない。
ユエの周囲に、何となく幸せオーラがほわほわと漂っている気がする。皆、突然の惚気に当てられて、女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。
「そういや光輝、コレ冒険者共の持ち物で良いんだろうか?」
「さぁ?まぁ其処の肉塊*5に投げとけば良いんじゃない?」
「そうか。」と言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。
今回は短め